野火(日本・2014年) |
<ビジュアルアーツ専門学校大阪試写室>
2015年6月16日鑑賞
2015年6月22日記
1951年に発表された大岡昇平の戦争文学『野火』を知っている人って、今ドキどれくらいいるの?
そんな原作に、30歳を過ぎてから固執してきた塚本晋也監督が「今しかない!」と考え、 監督、脚本、編集、撮影、製作の他、主演までも!
イモ、塩、猿から人肉食まで、現場主義(?)を徹底させた本作は、戦後70年記念作品で最も重苦しいけれども、こりゃ必見!
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監督・脚本・編集・撮影・製作:塚本晋也
原作:大岡昇平『野火』(新潮文庫刊)
田村一等兵/塚本晋也
安田/リリー・フランキー
伍長/中村達也
永松/森優作
2014年・日本映画・87分
配給/海獣シアター
<戦後70年記念作品(?)第2弾!これも原作に注目!>
去る6月7日に観た「戦後70年記念作品」の第1弾たる『おかあさんの木』(15年)の注目点の第1は、大川悦生の書いた原作だった。しかして、「戦後70年記念作品」第2弾(?)たる本作も第1の注目点も大岡昇平が書いた原作『野火』。
これは、大岡自身の第2次世界大戦末期のフィリピンでの戦争体験を基に書いた小説で、1951年に発表された「戦争文学」の代表作。私は中学生の時にこれを読んだが、インパール作戦の悲惨さを描いた高木俊朗の『イムパール』(49年)と同じように、とにかくしんどさ一杯の小説だった。その点、ドラマ性豊かな(?)五味川純平の『人間の條件』(56~58年)や竹山道雄の『ビルマの竪琴』(47~48年)とは大きく異なるものだ。
1959年に市川崑監督がこれを映画化していること、そこには私の友人である浜村淳さんも出演していたことを私は全く知らなかったが、とにかく本作を鑑賞するについては、まずはそんな大岡昇平の原作に注目!
<第2の注目点は「現場主義」(?)の徹底!>
『男たちの大和/YAMATO』(05年)(『シネマルーム9』24頁参照)は、戦闘シーン満載の「現場主義?」だったのに対し、『おかあさんの木』(15年)は、とことん「銃後の母」に徹する「戦争映画」にしたから、そこにはドンパチの戦闘シーンはごくわずかしか登場しなかった。
したがって、30歳をすぎて大岡昇平の原作を本格的に映画にしようと動き始めながら、なかなか実現できず、「今作らなければもうこの先作るチャンスはないかもしれない。また作るのは今しかない」と思って作った本作には、塚本監督自身が田村一等兵役で主演したのをはじめ、トコトン現場主義を徹底している。ストーリー自体は敗残兵としてレイテ島をさまよい歩く田村一等兵の姿を描くだけの単純なものだが、ストーリーのポイントはとにかく全編を通じて食うことへの欲求に満ち溢れていること。一本のイモがどれほど貴重なものか、塩をなめることが人間にとっていかに大切なことかが本作を観ればよくわかる。しかして、自分の血を吸った蛭まで食べるようになると、人肉食の欲求までも・・・?
本作の注目点の第2は、そんな現場主義の徹底だ。
<美しい映像比較、本作VS『六月の蛇』>
私が塚本晋也監督作品にはじめて注目したのは、第59回ベネチア国際映画祭で審査員特別大賞を受賞した『A SNAKE OF JUNE 六月の蛇』(02年)。同作は塚本晋也氏が製作、監督、脚本、撮影監督、美術監督、編集そして出演までした作品だが、そのテーマは「エロス」で、主演女優の黒沢あすかのエロチシズムが強烈な個性と魅力を放っていた。私のその総評は「個性的で、エッチで、すごく刺激的。少しマニアックだが、何を言いたいのかさっぱり分からないというほど捻っておらず、エロス、ストーカー、梅雨、蛇、ガンなどのイメージや狙いが十分に理解できる。そして画面がキレイ。私はこういう映画は大好きだ」だった(『シネマルーム3』359頁参照)。しかして、極限状態の敗残兵を主人公とした戦争映画である本作のほとんどは暗く重苦しい映像だが、ごく一部では映像が美しい。その「ごく一部」とは、鉄砲の弾丸に当たった人間の骨や肉がちぎれ、大量に血を流すシーン。
肺炎を患っていたため、部隊と病院を何度も行き来させられた挙げ句、原隊から離れ敗残兵になってしまった田村一等兵(塚本晋也)が頼ったのは、山中のイモ畑で出会った伍長(中村達也)率いる数名の部隊(?)だった。彼らが目指すのはパロンポンという集結地。そこへ行けば、本土に戻れるかもしれないという情報を頼りに、懸命の行軍(?)を続けているわけだが、途中のオルモック街道には米軍が展開していたため、その突破は難しかった。そんな中で見せつけられる、塚本監督特有の骨と肉が飛び散る美しい映像に注目!
<イモ、塩、煙草から猿へ!三角関係の行方は?>
本作前半では、唯一の食料品としてのイモが兵隊たちの人間ドラマの最大のポイントになるから、それに注目!他方、田村が無人の町にあった教会で恋人同士の若い現地人から入手した(?)塩も、その人間ドラマにおける「変化球」として大きな役割を果たすから、そこにも注目!
本作後半は、主役の田村に、田村とのくされ縁(?)が最後まで続く、煙草の葉を物々交換して生き長らえている要領の良い兵隊・安田(リリー・フランキー)と、なぜか足をケガしている安田の世話を続けている若い兵隊・永松(森優作)を加えた奇妙な「三角関係」がストーリー展開の軸となる。また、本作のクライマックスに向けては、伍長たちの部隊の兵隊の身体が飛び散った後の、「猿」が大きなテーマとして浮上するので、それに注目!
猿とは一体ナニ?それは当初、猿の「尻の肉」として永松が田村に提供したものだが、さてその実態は?そして、いよいよその猿の尻の肉(?)も尽きようとしている今、田村が持っていることが判明した一個の手榴弾をめぐってクライマックスで展開される、田村と安田そして永松の「三角関係」の行方は・・・?
<本作の製作費は?上映館は?興行収入は?>
2014年度の洋画最大のヒット作となった『アナと雪の女王』(13年)は、何と254億円もの興行収入を挙げた。他方、邦画では『永遠の0』(13年)、『テルマエ・ロマエⅡ』(14年)は別として、『STAND BY ME ドラえもん』(14年)、『るろうに剣心 京都大火編』(14年)、『るろうに剣心 伝説の最期編』(14年)、『ルパン3世VS名探偵コナン THE MOVIE』(13年)、『名探偵コナン 異次元の狙撃手(スナイパー)』(14年)等のアニメが上位のほとんどを占めた。
塚本作品では、『A SNAKE OF JUNE 六月の蛇』の興行収入は知らないが、『鉄男 THE BULLET MAN』(09年)は面白かった(『シネマルーム25』179頁参照)し、若者にも人気があるから、それなりの興行収入を上げたはず。しかして、本作の製作費は?また、まさか本作がシネコンで上映してもらえるはずがないから、その上映館は?そして今年は「戦後70年」の節目の年だが、予想されるその興行収入は?
私は本作を6月16日にビジュアルアーツ専門学校大阪試写室で鑑賞したが、本作は7月25日(土)に東京・渋谷ユーロスペース、立川シネマシティほか全国13館で同時上映、以降、順次全国公開されるらしい。若者には全然馴染みのない原作であるうえ、重苦しい映画だから、前述のアニメ作品のような大ヒットは望むべくもないが、戦後70年の今年はこんな映画こそ必見!
2015(平成27)年6月22日記