バケモノの子(日本・2015年) |
<TOHOシネマズ梅田>
2015年6月16日鑑賞
2015年6月23日記
2013年9月に引退宣言をした宮﨑駿監督に代わって、今後の日本アニメ界を背負うべき細田守監督が、一風変わったオリジナル脚本による親子の絆と家族の物語に挑戦!
前半から中盤にかけての、バケモノと人間との師弟関係のストーリーは単純だが、中盤以降はかなり複雑な展開に・・・。
そして、ホントのクライマックスはバケモノ同士の頂上対決ではなく、「人間のヤミ」をテーマとした、若者同士のすごい対決になるが、さてその世界観をあなたはどう見る?
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監督・脚本・原作:細田守
熊徹(九太の師匠。渋天街で一二を争う最強のバケモノ)/役所広司
九太(少年期)(偶然渋天街に迷いこんだ少年)/宮﨑あおい
九太(青年期)/染谷将太
楓(渋谷にある進学校に通う女子高生)/広瀬すず
猪王山(一郎彦と二郎丸の父親)/山路和弘
一郎彦(少年期)(猪王山の長男)/黒木華
一郎彦(青年期)/宮野真守
二郎丸(少年期)(猪王山の次男)/大野百花
二郎丸(青年期、九太の親友)/山口勝平
九太の父/長塚圭史
九太の母/麻生久美子
チコ(九太が渋谷の路地裏で出会った不思議な小動物)/諸星すみれ
宗師(渋天街に棲む10万を超えるバケモノを長年束ねてきた長老)/津川雅彦
百秋坊(豚顔のバケモノの僧侶で、熊徹の悪友)/リリー・フランキー
多々良(猿顔のバケモノで、熊徹の悪友)/大泉洋
2015年・日本映画・119分
配給/東宝
<細田守監督の壮大な世界観に注目!>
「バケモノの子」とは何とも物騒かつ下手をすると物議を醸しかねないタイトルだが、さてその意味は?私はついそう身構えたが、実はその言葉どおり本作は、角が生え、牙が生えているバケモノたちが住む「渋天街」と普通の人間たちが住む渋谷のまちを交錯させながら、孤独な少年・九太(宮﨑あおい)と、その師匠となる渋天街で一二を争う最強のバケモノでありながら粗暴な性格で品格のカケラもないため、誰も弟子にはなりたがらない孤独なバケモノ・熊徹(役所広司)が、実の親子にも負けない強い絆を築いていく姿を描いたもの。
アニメがあまり好きではない私は、細田守監督の『時をかける少女』(06年)(『シネマルーム12』398頁参照)は観たが、その後の『サマーウォーズ』(09年)も『おおかみこどもの雨と雪』(12年)も観ていない。しかし本作では、何よりも現代の家族のあり方、父子のあり方に疑問を抱く細田守監督の、そんな壮大な世界観に注目!
<一見、善玉VS悪玉の対決だが・・・>
本作冒頭、影絵のような仕掛けの中で、渋天街の誰もが強さ、品格ともに一流と認めるバケモノで数多くの弟子を持ち、一郎彦(黒木華)と次郎丸(大野百花)の父親である猪王山(山路和弘)と、孤独で一人の弟子もいない熊徹が紹介される。続いて、「引退して神様に転生する」と宣言した宗師(津川雅彦)の跡を継いで、新たな宗師となる一流のバケモノは猪王山?それとも熊徹?という問題提起がされるが、そりゃ猪王山に決まり!善玉VS悪玉論からは当然そうなるはずだが、どうも宗師はもっと深淵なところでモノを考えているらしいことが、ストーリー展開の中で少しずつわかってくるから、それに注目!
もっとも、孤独な熊徹にも、痩せた豚顔のバケモノで誰にでも優しく接する僧侶の百秋坊(リリー・フランキー)と、老けた猿顔のバケモノで頭の切れる口の悪い皮肉屋の多々良(大泉洋)という2人の友人がいた。9歳の時、ある事をきっかけに両親と離ればなれになってしまった少年・九太が「みんな嫌いだ!」と叫んで迷い込んできた渋天街で、まがりなりにも九太が熊徹の弟子になることができたのは、この百秋坊と多々良のおかげだ。誰が見ても師匠と弟子との信頼関係は全くない状況だったが、九太と熊徹ははぐれ者同士だけに、互いの本質は互いに最もよく理解しあえたらしい。したがって、本作を鑑賞するについては、猪王山=善玉、熊徹=悪玉という単純な二分論をとってはダメ。もっと深く人間とバケモノの本質に切り込んで、その力や能力、そしてその役割を探っていくことが不可欠だ。
<中盤からはかなり複雑な展開に・・・>
本作の前半は、バケモノの熊徹と人間の少年・九太との奇妙な師弟関係が構築されていく単純なストーリー構成だが、九太が成長して17歳となり、師匠に対してもデカイ口をきくようになる中盤以降は、話がかなり複雑になってくる。その第1は、ある日突然人間界に戻った九太が、進学校に通う女子高生・楓(広瀬すず)と出会うことによって「勉学の意欲」に目覚めると共に、互いに淡い恋心を抱くようになってくること。第2は、あれほど「みんな嫌いだ!」と叫んで大人たちの世界を拒否したにもかかわらず、17歳になって父親(長塚圭史)と再会すると、そこに父と息子の微妙な感情が生まれてくること。第3は、猪王山の2人の子供のうち、次郎丸の方は九太との親友関係をずっとキープしていたが、一見女と見間違うような美しさと強さをあわせ持った一郎彦の方は何となく微妙な雰囲気になってくること。最近はユニセックスが流行っているから、少年期の一郎彦の声を黒木華が、青年期の一郎彦の声を宮野真守がやるのは細田監督の自由だが、そこらあたりを見ても、一郎彦は少しヘン。しかして、クライマックスに向けて展開される一郎彦のあっと驚く「ヘンシン」とは・・・?
本作のクライマックスは、人間界における九太と一郎彦との「内なるヤミ」をめぐる対決になっていくが、さて、その世界観をあなたはどう見る・・・?
<宗師の跡目をめぐる頂上対決の勝敗は?>
近時の大晦日は、あまり見る気がしなくなったNHKの『紅白歌合戦』に代わって、格闘技やボクシングの対決(タイトルマッチ)が花盛りだが、本作のラストに向けても、宗師の跡目をめぐる熊徹と猪王山との対決がクライマックスとなる。この頂上対決の勝敗の予想は誰が見ても圧倒的に猪王山だったが、宗師はなぜここまで2人の対決をズルズルと引き延ばしたの?そんな深慮遠謀と、突然大コロシアムに現れた九太の激しい応援(?)によって、結果は大方の予想に反して、熊徹の勝ち。これにて無事宗師の跡目相続の儀式が終われば万々歳だったが、なぜかそこで一郎彦がムクれた(?)ことによって、前述したような本作の本当のクライマックスに向かうことになる。
大晦日のテレビで見るタイトルマッチ戦は勝敗の予想が全くつかないだけにその戦いはスリル満点だが、本作における熊徹と猪王山のとの頂上対決はある意味で予想がハッキリしている。そのうえ、その戦い方も割と単純だから、先日のテレビ放映で再確認した『ベン・ハー』(59年)完全版における「戦車対決」のような迫力は到底ムリ。その点では少し不満があるが、まあ、バケモノ界の頂上対決として、それなりに楽しみたい。
2015(平成27)年6月23日記