ヘリオス 赤い諜報戦(赤道HELIOS)(中国・2015年) |
<シネ・リーブル梅田>
2016年2月1日鑑賞
2016年2月4日記
日本が安保法制の是非を議論している間に(?)、韓国で開発された超小型核兵器“DC-8”を犯罪組織「ヘリオス」が強奪!それが現実に行使されたら・・・?
香港、中国、韓国のメンバーで香港に設置された特別テロ対策本部は、何とかDC-8を取り戻すことができたが、さてその保管は?香港の雨傘運動、台湾の総統選挙、中台間の「92年合意」を踏まえた(?)、DC-8の処理をめぐる中国と香港、そして韓国の協議(対立?)に注目!
一貫して日本はカヤの外だが、ラストの舞台はなぜか京都の鞍馬山に。しかして、本作の真の主役は誰?尻切れトンボ的結末は、次回作への布石かも・・・?
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監督・脚本:リョン・ロクマン、サニー・ルク
肇志仁(シウ教授)(香港の物理学教授)/張學友(ジャッキー・チュン)
李彦明(リー隊長)(香港の特別テロ対策本部)/張家輝(ニック・チョン)
范家明(ファン警部)(香港の特別テロ対策本部)/余文樂(ショーン・ユー)
崔民浩(チェ理事官)(韓国の国際情報院の理事官)/池珍熙(チ・ジニ)
朴宇哲(パク・オチョル)(韓国のチェ理事官の護衛)/崔始源(チェ・シウォン)
韓国国防部長官(女性)/金海淑(キム・ヘスク)
尹喜善(チェ理事官の妻)/李泰蘭(イ・テラン)
宋鞍(ソン・アン部長)(中華人民共和国の政府の役人)/王學圻(ワン・シュエチー)
袁暁文(ユアン)/馮文娟(フォン・ユェンチャン)
金焘年(キム)(犯罪組織「ヘリオス」の「使者」)/張震(チャン・チェン)
張怡君(チャン)(キムのボディーガードの女性)/文咏珊(ジャニス・マン)
ソフィア(ソン・アン部長の秘書)/顧美華珊(ジョセフィーヌ・クー)
2015年・中国映画・118分
配給/彩プロ
<安保法制を巡る議論の絶好の教材に!>
ある日、中国の東北地方で飛行機の墜落事故が発生!それ自体は時々あること(?)だが、その機内には韓国が開発した超小型核兵器“DC-8”が積み込まれていたうえ、それが「ヘリオス」という名の謎の犯罪組織に奪われてしまったから、さあ大変!
そして今、「ヘリオス」が香港でそのDC-8を武器密輸組織に売却するという情報が入ったから、香港警察は李彦明(リー隊長)(張家輝(ニック・チョン))を中心とした特別テロ対策本部を設置し、その取引現場を急襲するべく作戦を練っていた。他方、韓国は国家の威信をかけてDC-8を取り戻すべく、DC-8の開発を担当した国際情報院の理事官・崔民浩(チェ理事官)(池珍熙(チ・ジニ))と、その護衛・朴宇哲(パク・オチョル)(崔始源(チェ・シウォン))を香港に送り込むことに。
そんな物騒な映画の脚本を書き、監督したのは『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』(12年)で監督デビューを飾り、香港のアカデミー賞である香港電影金像奨の作品賞、監督賞他9部門を受賞した、リョン・ロクマン、サニー・ルクのコンビ。本作は2015年4月に中国で公開されるや、2億元(約40億円)の興行収入をあげる大ヒットを記録したらしい。昨年の状況を考えると、日本では安保法制について国会で議論することすらタブー視され、「平和安全法」は一部大手マスコミでは「戦争法」などと呼ばれているが、映画の上とはいえ、こんな現実があることを考えれば、やはり安保法制の議論と現実に対応できる新しい立法は不可欠だ。そんな視点で考えると、本作は安保法制を巡る議論の絶好の教材だ。
<対策本部には中国も!日本は?台湾は?国連は?>
DC-8を密売する取引場所が香港だから、香港に対策本部が設置され、香港警察のリー隊長が責任者になったのは当然。また、DC-8を奪われた当事者国である韓国のチェ理事官とパク・オチョルが対策本部に入ったのも当然。しかし、なぜそこに中国(中華人民共和国)の政府の役人である宋鞍(ソン・アン部長)(王學圻(ワン・シュエチー))が入っているの?
また、対策本部には核のスペシャリストが不可欠であるため、肇志仁(シウ教授)(張學友(ジャッキー・チュン))が招致されたのもうなずけるが、DC-8の威力が彼の言うとおりの強大さなら、近隣国としてその影響を受ける日本や台湾も対策本部に入る必要があるのでは?さらに、いくら小型とはいえ、いやしくも核兵器が謎の犯罪組織に奪われたという重大案件であれば、国際刑事警察機構(インターポール)や国際連合が動いても当然なのでは?
本作は中国映画だから何事も中国主導になる傾向が強いのは仕方ないが、リョン・ロクマン監督とサニー・ルク監督は香港人なのだから、もっと香港の立場を主張するとともに、日本や台湾の参加、さらには国連の参加をアピールしてもよかったのでは・・・?
<取り戻したDC-8は当然韓国に?いやいや・・・>
DC-8の取引現場を急襲した香港警察は、ヘリオスの 金焘年(キム)(張震(チャン・チェン))と張怡君(チャン)(文咏珊(ジャニス・マン))は取り逃がしたものの、無事DC-8を取り戻すことができたから、とりあえずは大成功!そうなれば、当然DC-8は韓国に持ち帰らせるのが筋だが、そこでソン・アン部長が「香港は中国の一部なのだから中国の法律に従ってもらう。中国の許可なく持ち出すことは許さない」と「横やり」を入れてくるので、それに注目!
香港では、2014年9月に学生たちを中心として中国に抗議して行われた雨傘運動(オキュパイ・セントラル=中環を占拠せよ)が中国(本土)から大きな圧力を受け、その後「民主派」の力が大きく減退したことは周知のとおりだ。さらに、去る1月16日に実施された台湾の総選挙では民進党の蔡英文が、国民党の馬英九に圧勝したものの、「1つの中国」をめぐる議論の取り扱いや、「92年合意」の取り扱いが今後の重要な焦点になっている。そんな昨今の現実があるだけに、スクリーン上でソン・アン部長がしゃべるセリフは、いかにも中華民族の復興を最大のスローガンとして掲げる現在の習近平体制を具現するかのような威圧感があり、私ですら少し不愉快だが、それをリー隊長たち香港人はどう受け止め、どう対応していくの?
他方、韓国の朴槿恵大統領はずっと「反日、親中」の姿勢を続けていたが、昨年12月28日に行われた日韓外相会談における慰安婦問題についての「日韓合意」以降は、少し日本に好意的になった感じ(?)がある。それを中国がどう見ているのかはわからないが、気分が良くないことは確かだろう。しかして、韓国の国防部長官(金海淑(キム・ヘスク))から直接の激励を受けたチェ理事官とパク・オチョルは国家の威信をかけて香港の対策本部に入っているのだから、犯人たちからDC-8を取り戻すことができれば、何が何でもそれを韓国に持ち帰るのが任務のはず。しかるに、対策本部におけるソン・アン部長の発言力の大きさによって、結局DC-8は香港の某所の奥深くに保管されることになったからアレレ・・・。ホントにそれでいいの・・・?
<中国映画では、美女に二物を・・・>
「天は二物を与えず」というのが常識。したがって、日本の女子レスリングや女子柔道は結構強いものの、某選手も某選手もたしかに強いが、美女とは言えない。アスリートで美女といえば、テニスの伊達公子や水泳の寺川綾くらい・・・?しかし、本作を見れば、美女と格闘能力の両立が際立っている。DC-8の取引現場を香港警察から急襲された時、ヘリオスの取引相手の西洋人たちは次々と撃ち倒されたり、脱出に失敗したが、キムとそのボディーガードだという美女のチャンは、やたら強いのでそれに注目!
他方、『そこまで言って委員会』の常連である某センセイは、知的レベルは相当高いようだがお世辞にも美女とはいえない。また、某大学の某教授もアベノミクスを批判する経済理論はしっかりしているようだが、お顔の方はどうも・・・。日本で、美女と知的レベルの高さが両立しているのは、小谷真生子キャスターなどごく一部だけ?しかし、特別テロ対策本部に参加している袁暁文(ユアン)(馮文娟(フォン・ユェンチャン))は、美女であるうえその知的レベルは相当高そうだ。さらに、かなり年配のソン・アン部長が秘書として常に同行させている若い美女がソフィア(顧美華珊(ジョセフィーヌ・クー))だが、こちらもその知的レベルは相当高そうだ。
このように中国映画の本作では、美女に戦闘能力や高い知性という二物を・・・。
<主役級が次々と死亡。本当の主役は誰だ?>
『007』シリーズでは、第5作の邦題が『007は二度死ぬ』(67年)とされた。しかし、人間は一度死んだら終わりだから、「二度死ぬ」ことはあり得ない。従って、映画では「主役は死なない」が大原則で、ほとんどの映画はそれを守っている。
本作前半の舞台は香港。そして、香港に設置された「特別テロ対策本部」は香港、韓国、中国の担当者で構成されていたから、国際的と言えば聞こえ良いが、その分内部矛盾や内部対立も多い。他方、DC-8を奪ったヘリオスの使者として動いているキムとチャンは神出鬼没だから、本作の舞台も冒頭の中国東北地方での飛行機の墜落事故以降は、韓国、香港に移り、中盤以降はさらにマカオ、上海そして何と日本へと移っていくから、その広がりはすごい。本作のチラシには、1月28日に観たクエンティン・タランティーノ監督の『ヘイトフル・エイト』(15年)と同じように、8人の主要な登場人物が写っているが、さて、その主役は誰?
本作導入部から中盤にかけての主役は特別テロ対策本部の中軸を担い、香港警察を指揮しているリー隊長で、韓国のチェ・理事官やパク・オチョル、そして、悪役のキムとチャンらが準主役と誰もが思うはず。しかし、韓国のチェ理事官とパク・オチョルは、中国のソン・アン部長に逆らう(?)シウ教授の手助けもあって再び手にしたDC-8を韓国に持ち帰る任務の途中で、キムとチャンに襲われて二人とも絶命してしまうからアレレ(もっとも、これにはラストに少し裏があるので、それにご注意)・・・。
そんな展開の中、「内通者がいる」と直感したリー隊長が、「こいつが内通者だ!」と見込んだ某人物(このネタバレは厳禁!)の家を訪れたが、何とそこでリー隊長も某人物(このネタバレも厳禁!)に襲われて絶命してしまうからアレレ・・・。他方、美女と類い希なる格闘能力の両者を併せもつチャンは、ある時リー隊長に捕らえられ、尋問され拷問を受けるから、そのまま舞台から消えてしまうのかと思われたが、こちらは見事に復活するので、それにも注目。
このように、韓国のチェ理事官とパク・オチョル、そして香港のテロ対策本部のリー隊長など本作の主役級の人物が次々と死んでいくストーリーにビックリ!しかして、そこから浮上してくる本作のホントの主役とは?
<尻切れトンボ的結末は、ひょっとして次回作への布石?>
2015年の日本での観光客は約2000万人となったが、そのうちの約500万人が中国人。昨年は「爆買い」が「トリプルスター」と並んで2015年度のユーキャン新語・流行語大賞に選ばれた。中国からの観光客の増大は大歓迎だが、特別テロ対策本部のリーダーだった(香港人の)リー隊長亡き後、(中国大陸人の)ソン・アン部長がそれに代わる責任者として、日本の京都の鞍馬山に乗り込んでくるのはいかがなもの・・・。
ヘリオス関連の捜査が日本の鞍馬山で必要なら、日本の警察がそれに対応するのが当然で、もし中国政府の要人が責任者となっている香港の特別テロ対策本部が日本で捜査することになれば、それは外交問題にも発展する大問題だ。本作がそれをどこまで意識しているかはわからないが、それまでの香港、マカオなどいかにもアジア的な混沌とした舞台とは一変した京都の鞍馬山には、一体誰が、何をするために来ているの?
私は一度だけ鞍馬山のケーブルカーである鞍馬山鋼索鉄道に乗ったことがあるが、本作ラストの舞台となるのは、ケーブルカーの山門駅とケーブルカーの中。周辺一帯を警備隊で固めたうえ、ソン・アン部長がケーブルカーの中に座っているある人物と出会うことになるのだが、さてそれは誰?そして、そこから一体どんな展開に?
そう思っていると、アレレ・・・。映画は突然「ジ・エンド」となったから、ビックリ。この尻切れトンボ的結末はひょっとして次回作への布石?
2016(平成28)年2月5日記