COP CAR コップ・カー(アメリカ・2015年) |
<シネ・リーブル梅田>
2016年4月29日鑑賞
2016年5月6日記
新鋭監督ジョン・ワッツの面白い原案と脚本に、ケヴィン・ベーコンが即反応し、主演と製作総指揮を!
2人の悪ガキにパトカーを盗まれた悪徳保安官はたちまち真っ青に!一体どうやってこの悪ガキを追跡するの?また、パトカーの中には一体ナニが・・・?
いくら悪ガキでも子供は所詮子供!そう思えるほどユーモラスなところもあるから、その分大人たちの必死さもユーモラスに。こりゃ面白い!そんな88分のワンイシュー映画に注目!
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監督・原案・製作:ジョン・ワッツ
脚本:ジョン・ワッツ、クリストファー・フォード
製作総指揮:ケヴィン・ベーコン
ミッチ・クレッツァー(悪徳保安官)/ケヴィン・ベーコン
トラヴィス(家出した少年)/ジェームズ・フリードソン=ジャクソン
ハリソン(家出した少年)/ヘイズ・ウェルフォード
ベヴ(暴走するパトカーを目撃した中年女性)/カムリン・マンハイム
トランクの中の男/シェー・ウィガム
2015年・アメリカ映画・88分
配給/コピアポア・フィルム
<ケヴィン・ベーコンがなぜ主演兼製作総指揮を?>
本作は一度予告編を観ただけで、ケヴィン・ベーコンの名前と顔が強く印象に残るとともに、彼が主演と製作総指揮を兼ねた『ワイルドシングス』(98年)(『シネマルーム1』3頁参照)を思い出した。ケヴィン・ベーコンは、『フットルース』(84年)、『ミスティック・リバー』(03年)(『シネマルーム4』251頁参照)、『スーパー!』(10年)やテレビドラマシリーズ『ザ・フォロイング』(13~15年)など、あらゆるジャンルの作品に出演し、その活動の豊富さからハリウッド俳優のほとんどが共演者だと話題になるほど有名な、1958年生まれの個性派ハリウッドスターだ。
彼の出演作で最も有名なものは、多分メリル・ストリープと共演し、ゴールデングローブ賞助演男優賞にノミネートされた『激流』(94年)だろうが、私にはストーリーが二転三転のみならず四転五転していくメチャ面白い映画『ワイルドシングス』の印象が強烈だった。本作のパンフレットには彼の出演作品の一覧表があるが、彼が主演と製作総指揮を兼ねたのは、その『ワイルドシングス』だけだ。しかして、彼はなぜ本作で再び主演と製作総指揮を務めたの?そこらあたりに、わずか88分という小品ながら2015年のサンダンス映画祭で大きな話題となり、私が鑑賞した日の映画館でもかなりの数の観客を集めていたことのヒントがあるはずだ。
<新星ジョン・ワッツ監督と2人の悪ガキに注目>
パンフレットやネット情報によると、本作の原案、監督、製作、脚本を務めたジョン・ワッツは、ホラーの帝王イーライ・ロスがその才能を認めるとともに、「アメコミ」で有名な「マーベル」が2017年に発表する『スパイダーマン』の監督に抜擢したことで一気に知名度を上げたらしい。本作はそんなジョン・ワッツ監督の長編第2作で、その脚本は友人の脚本家クリストファー・フォードと共に2週間で完成させたそうだ。
本作の原案になったのは、ジョン・ワッツ監督が子供の頃にいつも見ていたある夢。それは、友達と母親の車に乗り、街中をドライブするというものだが、ジョン・ワッツ監督がある時、「この車がもしパトカーだったら?」と思いつき、そのアイデアをクリストファー・フォードに話したところ、「誰のパトカーだ?」と聞いてきた瞬間、2人はこれで一本の脚本が書けると思ったらしい。そのプロットは、家出をした2人の少年が放置されていたパトカーを見つけたところ、その車にはキーがかけられていなかったため、「悪乗り」が進む中、大変な事件に巻き込まれるというものだ。なるほど、なるほど・・・。
本作冒頭、クソ、ビッチ、アスホール、ファック等ありとあらゆる汚い言葉を吐きながら、家出してきた2人の少年トラヴィス(ジェームズ・フリードソン=ジャクソン)とハリソン(ヘイズ・ウェルフォード)の姿が映し出される。そんな中2人が、あるところに乗り捨てられた(?)1台のパトカーを発見し、触りまくっていると、何とドアが開いたからビックリ!本作ではまずは、そんな新星ジョン・ワッツ監督とそんな2人の悪ガキたちに注目!
<大切なのは人の縁!>
そんなワンイシュー映画で本当に面白い映画がつくれるの?素人の私はそう思ってしまうが、そんな脚本に興味を示したのがケヴィン・ベーコン。脚本には悪徳保安官ミッチ・クレッツァーの人物像やバックストーリーはほとんど書かれていなかったが、脚本を読んだケヴィン・ベーコンはジョン・ワッツ監督に口ひげをつけた自分の写真を送り、「この男には絶対、口ひげが必要だと思う」と伝えたらしい。つまり、彼はすぐに悪徳保安官の身体的特徴をつかみ取り、彼の姿勢から歩き方まで、自らの考えをジョン・ワッツ監督に披露したわけだ。パンフレットの中で、ケヴィン・ベーコンはクレッツァーという男について次のように語っている。「彼の肉体は、保安官になった当初はおそらくタフだったはずだ。だがやがて体は衰え始める。口ひげに関しては、西部開拓時代の名残のようなものだ。その時代にしばしば見かける中年の男たちはみなカウボーイのような雰囲気を湛えている(それはもしかしたら退職した保安官かもしれないが)。」
当時ほとんど無名のジョン・ワッツ監督とクリストファー・フォードにとって、ハリウッドの有名スターであるケヴィン・ベーコンからそんな写真が送られ、同時に「是非演じてみたい」とまで言われれば、それに乗っかるのは当然。そのうえ、ケヴィン・ベーコンが製作総指揮まで兼ねると言うのだから、まさに渡りに船だ。まさに大切なのは人の縁。あらためてそんな実感を!
<突出した悪徳保安官に注目!>
警察官は正義の味方というのは日本人の勝手な思い込みで、日本でも悪徳警察官が登場する映画は多い。そして、アメリカにはそれ以上に個性的かつ突出した悪徳警察官(保安官)(?)がいることは、『ダーティハリー』(71年)や『L.A.コンフィデンシャル』(97年)、『トレーニングデイ』(01年)(『シネマルーム1』14頁参照)等を見れば明らかだ。
本作では悪ガキの登場に続いて、ケヴィン・ベーコン扮するミッチ・クレッツァー保安官が、停めたパトカーのトランクの中から死体を運び出して、穴に埋める風景が映し出される。それがやっと終わり、パトカーに戻ってくると、何とパトカーがなくなっていたからクレッツァーはパニック状態に。もっとも、その後ある町まで走りに走ったうえ、(ドアがロックされている)車をうまく盗む姿を見ていると、その悪徳保安官ぶりに唖然。さらにその後、警察無線を使って通信司令部に連絡をとり、自分のパトカーの所在を聞き出すテクニックや、無線の周波数をうまく変更させて、盗まれた自分のパトカーの無線(だけ)に連絡するテクニックはさすがだ。
『ダーティーハリー』の悪徳警察官(?)ハリー・キャラハンにはクリント・イーストウッドがよく似合っていたが、ここまで悪ぶりを徹底した悪徳保安官ミッチ・クレッツァーにはケヴィン・ベーコンがよく似合う!本作では2人の悪ガキぶりに続いて、この悪徳保安官の突出した悪徳ぶりに注目!
<悪ガキでも純真?そして、所詮子供?>
2人の悪ガキにとっては、パトカーを自由に乗り回せるだけでも楽しいのに、パトカーにはサイレンもあれば、その中には銃や防弾チョッキもあったから、それらで遊ぶのは十分楽しいもの。そのはしゃぎぶりを見ていると、いくら悪ガキとはいえ、子供はやはり純真で、国の宝物。そんな風にも思えてくるが、それは部外者だからこそ言えること。
本作中盤では、無線を活用しながら必死に悪ガキたちを捜し出し、パトカーを返すよう説得するクレッツァーの姿が描かれるが、クレッツァーの行動はどうしても悪ガキたちの純真さ(?)と対比されるため、クレッツァーが必死になればなるほど逆にそのズルさや滑稽さが浮かび上がってくる。しかし、再三の無線による連絡がやっと通じると、いくら悪ガキでも事態の深刻さは理解できたらしい。現在場所を聞かれ、地名や道路名まではわからないまでも「水車のあるところ」と答えると、さすがクレッツァーはその場所が特定できたらしい。「パトカーさえ返してくれれば、お咎めなしだ」と甘い声で悪ガキたちを説得し、やっとのことでクレッツァーは(盗んだ他人の車で)自分のパトカーにたどり着くことができそうだが、その前に悪ガキたちには思いもよらないある大変な事態が・・・。
<トランク内にもう一人の男が!それが後半のヒネリに>
本作最大のポイントは、パトカーを盗まれた(?)保安官クレッツァーと、盗んだ(?)パトカーで遊び回っている2人の悪ガキとの「攻防戦」だが、それだけでは少し単純すぎる。そこで、ジョン・ワッツ監督と脚本家のクリストファー・フォードの脚本では、第1に盗んだパトカーで堂々と公道を走っている悪ガキを目撃した中年女性ベヴ(カムリン・マンハイム)を登場させ、その女性に「ある役割」を担わせている。そして第2に、トランクの中には死体が一体ではなく、実はもう一人生き残りの男(シェー・ウィガム)がトランクの中に残されていたことが大きなポイントで、これが本作後半の物語の大きなヒネリになっている。
悪ガキたちは、クレッツァーとの無線連絡によってパトカーの場所を教えた後にトランクの中にこの男がいることを発見したから、悪ガキにとってはクレッツァーとの交渉以前にこの男との交渉が当面の問題になったのは仕方ない。当初自分の置かれた状況がわからなかったトランクの中の男は、自分が話している相手がクレッツァーではなく、2人の純真な(?)子供だとわかると、「命乞い」だけだった当初の姿勢から大きく転換していくことに・・・。さらに、悪ガキたちが撃てないオンボロ銃だとばかり思っていた銃が、この男の手にかかれば立派に弾が飛び出すことがわかると、一気に力関係が逆転したのも仕方ない。そして、そんな攻防戦を展開しているこの場所に、今にもクレッツァーが戻ってくることがわかると、さあこの男はいかなる行動を?
<迫真のクライマックスにも、どことなくユーモアが>
紀元1600年の「関ヶ原の戦い」は真田昌幸の抵抗によって徳川秀忠の大軍の到着が間に合わなかったうえ、布陣から言えば石田三成率いる大阪方の勝ちだったそうだが、徳川家康が計算したとおりの浮田秀家の裏切りによって関東方が勝利を収めた。「三国志」でも、軍師・諸葛孔明の軍略の冴えによって、劉備玄徳率いる弱小国・蜀も何とか魏・呉に対抗して国を維持することができていた。それと同じように(?)、本作のクライマックスに向けては、停止しているパトカーへのクレッツァーの到着を予測し、それを一発で仕留めるべく策略を練る男の姿に注目。2人の悪ガキたちはパトカーの後部に閉じ込められたままだが、男はこの悪ガキたちに対してどんな説明をし、どんな芝居をやれと指示しているの?
他方、クレッツァーの方もこれまで相当な悪徳ぶりを発揮してきた保安官だから、当然用心深い。また、パトカーのトランクの中にはもう一人の男がいることを知っているから、あの悪ガキたちがその男をどのように「処理」しているのかに注意しながらパトカーに近づいたのは当然。そんな2人の「大人」たちの「男の勝負」に注目だが、本作では悪ガキたちが乗っているパトカーを発見した例のおばさんも、わざわざ自分の車を停めて駆け寄ってくるからそれにも注目!このいかにも「大阪のおばちゃん」的なおせっかいもユーモラスなら、クレッツァーの到着を撃ち損じないように待ち構える男の動静もどことなくユーモラスなので、それを味わいながらクライマックスの展開に注目したい。
しかして、さあアイデア勝負の88分のワンイシュー映画のクライマックスは如何に?原案から脚本、主役となるハリウッドスターの登場まですべて順調に進んだ本作のロケ地は、コロラド・スプリングズにあるジョン・ワッツ監督の故郷だから、撮影もスムーズにすんだらしい。パトカーが疾走する姿は広大なアメリカの土地によく似合う。そんな目で、クライマックス終了後のエンディングもしっかりと楽しみたい。
2016(平成28)年5月6日記