獣は月夜に夢を見る(デンマーク、フランス・2014年) |
<シネ・リーブル梅田>
2016年4月29日鑑賞
2016年5月2日記
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監督:ヨナス・アレクサンダー・アーンビー
マリー/ソニア・ズー
マリーの父/ラース・ミケルセン
マリーの母/ソニア・リクター
ダニエル/ヤーコブ・オフテブロ
2014年・デンマーク、フランス映画・85分
配給/クロックワークス
◆本作はデンマーク発のバンパイア映画で、第67回カンヌ国際映画祭批評家週間正式出品作品。そして、アテネ国際映画祭最優秀監督賞、デンマーク・アカデミー賞(ロベルト賞)最優秀美術賞、最優秀特殊メイク賞などに輝いたらしい。少しずつ自分が母親と同じ「ある病気」ではないかと疑っていくヒロインのマリーを演じるのは、新人女優のソニア・ズー。本作は鑑賞しようかどうしようか(つまり、時間の無駄にならないか)とかなり迷ったあげく、せめてヒロインの美人度だけでも確認しようと思い鑑賞することに。
スクリーンの中で、マリーは①両親の下で暮らす一人娘の顔、②魚の加工工場で勤勉に働く労働者の顔、そして③「病気」が次第に進行し、バンパイアに変身していく顔、の3つを演じ分けている。たしかに北欧特有の彫りの深い顔立ちだが、その魅力は「まずまず」といったところ・・・。
◆本作の舞台は北欧の閉ざされた村。その雰囲気は、音楽で言えばラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の世界がピッタリ・・・?映画冒頭から、車椅子に乗った母親(ソニア・リクター)の面倒を見る父親(ラース・ミケルセン)とマリーの日常生活が映し出されるが、この母親の病気が何なのかがわからないところが本作のミソ。もっとも、父親も往診に来る医師もそれはわかっているようで、知らないのはどうもマリーだけらしい。また、マリーも外で働く年齢に達したため魚の加工工場で仲間たちと共に働くことになったが、なぜか仲間たちの目が彼女に対して厳しいことが気がかりだ。
後になって、村人たちはマリーに対して「君はお母さんと同じ病気だ」「お前らは生きているべきじゃない」などとひどい言葉を投げかけるようになるが、それは一体なぜ?ただ一人だけ笑顔を交わしていた同僚のダニエル(ヤーコブ・オフテブロ)だけはマリーに対して親切だったが、それはダニエルだけはマリーの母親やマリーの秘密を知らなかったため・・・?
バンパイア映画の「純愛もの」はハリウッド発のバンパイア映画『トワイライト』シリーズが典型だし、「哀しさ」を強調したものは『ぼくのエリ 200歳の少女』(08年)や『モールス』(10年)(『シネマルーム27』174頁参照)等だったが、スウェーデン発のバンパイア映画が醸し出すのは強烈なミステリー性。さて、そのミステリー性とは・・・?
◆本作の原題は『WHEN ANIMALS DREAM』と単純。ところが、なぜか邦題は『獣は月夜に夢を見る』とされ、原題にはない「月夜」という言葉が付加されている。これは、日本では狼やバンパイアは月夜の晩に獣性に目覚めていくというイメージができているためだろう。しかし、本作では北欧特有の海を中心とした美しい風景はたくさん出てくるが、美しい月夜は全然出てこない。つまり、デンマーク発のバンパイア映画である本作は、決して「バンパイア」と月夜を結びつけていないわけだ。
しかして本作では、マリーの身体に起きてくる「異変」が焦点になる。その異変は胸の周りに生じた黒いあざだったが、その異変はどのように広がっていくの?あまりこれを露骨に見せてしまうと少女特有の美しさが台無しになってしまうから、マリーの美しさと異変による獣性への変化のバランスが大切。さて、本作ではそれをどのように見せてくれるのだろうか?
◆バンパイアは一定の周期で人間の血を飲まなければ生きていけない動物。私はそう理解しているが、本作を見ている限り、そこらあたりがよくわからなくなってくる。つまり、本作を見ている限り、マリーは村人や職場の仲間たちがマリーに対して攻撃してくるとそれに反撃するものの、自分から一定の周期で村人や職場の仲間たちを襲う様子は見られない。もっとも、これはまだマリーがバンパイアとして一人前になっていないからで、母親の方はもう既に「前科者」になっているのかも・・・?
そんなマリーだから、つまりマリーはまだバンパイアとして一人前になっていないから、本作ではマリーとダニエルの純愛劇が美しく映えてくることになる。マリーのバンパイア性を知りながら今は深くマリーを愛し始めたダニエルが導き出した結論は、2人で村から脱出すること。しかし、本作ラストでは、そんな決心をし、そんな行動に走った2人を村人や職場の仲間たちが許さず、これに攻撃を仕掛けてくる展開になってくるから、遂にそこでは冷たい戦争に。
本作ラストに見る、攻撃的バンパイアに変身したマリーの姿は一見の価値ありだが、さてその結末は・・・?これをハッピーエンドと見るのか、新たな試練の始まりと見るのかは、あなたの解釈次第だろう。
2016(平成28)年5月2日記