ハイ・ライズ(イギリス・2015年) |
<シネ・リーブル>
2016年8月13日鑑賞
2016年8月15日記
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監督:ベン・ウィートリー
原作:J・G・バラード『ハイ・ライズ』(創元SF文庫)
ロバート・ラング(医師、25階の住人)/トム・ヒドルストン
アンソニー・ロイヤル(建築家、最上階の住人)/ジェレミー・アイアンズ
シャーロット・メルヴィル(シングルマザー、26階の住人)/シエナ・ミラー
リチャード・ワイルダー(テレビ・プロデューサー、2階の住人)/ルーク・エヴァンス
ヘレン・ワイルダー(リチャードの妻)/エリザベス・モス
パンクボーン/ジェームズ・ピュアフォイ
アン・ロイヤル/キーリー・ホーズ
フェイ/ステイシー・マーティン
2015年・イギリス映画・119分
配給/トランスフォーマー
◆本作は、イギリス人のSF作家J・G・バラードの『ハイ・ライズ』を映画化したもの。1970年代前半に建築家アンソニー・ロイヤル(ジェレミー・アイアンズ)が設計した高層マンション「ハイライズ」群は、ロンドンにほど近い通勤圏にありながら、喧噪から切り離された、別世界。21世紀に入った今日、法的には高層建築物は高さが30mから60m、超高層建築物は60m以上、とされているが、1970年代前半のロンドンにおける高層マンションの階数は、せいぜい40階だ。しかし、アンソニーが住む最上階のペントハウスは広大な庭があり、妻はそこで乗馬を楽しんでいたから、その広さは相当なものだ。
そんな高層マンションがSF小説の舞台になっているのは、そこではフロア毎に階級が存在し、その階級対立がすごいため。かつてドイツ人のカール・マルクスはイギリスの資本主義における労働者と資本家を研究・分析することによって、『共産党宣言』や『資本論』を書き、「階級闘争」の本質を見抜いたが、なるほど、なるほど・・・。弁護士として30年以上都市問題をライフワークとして取り組んでいる私には、こりゃ必見!そう思い意気込んで鑑賞したが・・・。
◆本作のハンサムな主人公は、大学病院に勤務している医師ロバート・ラング(トム・ヒドルストン)。映画冒頭、学生たちに脳の切開手術を教えるシーンが登場するが、私はそれを見ただけで思わずゾー。これが本作のその後の「不気味さ」を象徴していることが、後によく分かった。
ロバートが入居した高層マンション「ハイライズ」の部屋は、25階にあった。その部屋の中に次々と段ボール箱が搬入されてくるシーンが登場するが、いつもスーツをパリッと着こなしているロバートには生活感がまるでないうえ、部屋全体の間取りを見せてくれないから、不動産や住宅事情に興味がある私には少し不満も。そんなロバートがベランダで素っ裸で寝ていると、突如上の階のベランダからグラスが落ちてきたところから、26階に息子と共に住んでいる妖艶で、魅力的なシングルマザー、シャーロット・メルヴィル(シエナ・ミラー)との間に交流が生まれ、少しづつ物語が展開していくことに・・・。
◆中盤のストーリー展開でわかるのは、このマンションの設計者で最上階に住むアンソニーが富裕層の代表で、2階に住むテレビ・プロデューサーのリチャード・ワイルダー(ルーク・エヴァンス)が庶民(貧乏人)の代表、そして、25階に入居したロバートは中流階級の代表らしいこと。予告編を見た時から、このマンションでは盛んにパーティーが行われていたが、パーティーの内容が富裕層と貧乏人で大きく違っているのは当然。しかして、ロバートはどんな立ち位置を?そんな風に興味深く見ていたが、いつの間にか乱交パーティーが始まるようになると、本作の作り方そのものがかなりケッタイであることがわかってくることに・・・。
マンションの中には、フィットネスクラブやプール、スーパーマーケット等があり、これは今では何の不思議もないが、1970年代では、ビックリするようなことだったはず。それはそれでわかるのだが、このマンションの住人は、なぜこんなにケッタイな奴ばかりなの・・・?
◆「マンションは管理で買え」、「マンションは民主主義の学校」。この2つは、私がマンションの管理組合の人たち向けの講演を行う時のキーセンテンスだが、本作を見ていると、この2つが極端にできていないことが問題の根幹であることがよくわかる。電気系統の故障による停電と、ゴミ捨て機能の喪失によるゴミ屋敷化。そこにみる、高層マンション「ハイライズ」の荒廃ぶりはひどいものだ。また、なぜこのマンション内に階級対立が生まれるのかはよくわからないが、区分所有者全員の参加による「マンション管理組合」が存在しない中、マンションの住人たちの階級対立のサマは、まさに「マンション内民主主義」の欠如を見せつけてくれる。
しかし、中盤から後半にかけて、延々とそんなものばかり見せつけられても、いい加減ウンザリ。「フランス革命」は第三階級の平民たちが立ち上がって王族と貴族を倒し、彼らをギロチンにかけて殺すことによって成就したが、リチャードたち貧乏人階級は最上階の富裕層アンソニーに対して一体何をしようとしているの?それが容易にわからないから、明確な問題意識を持てないままイライラ状態が最後まで・・・。
2016(平成28)年8月15日記