ロング・トレイル!(アメリカ・2015年) |
<シネ・リーブル梅田>
2016年8月20日鑑賞
2016年8月23日記
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監督:ケン・クワピス
原作:『A Walk in the woods』
ビル・ブライソン(紀行作家)/ロバート・レッドフォード
スティーヴン・カッツ(ビルの旧友)/ニック・ノルティ
キャサリン・ブライソン(ビルの妻)/エマ・トンプソン
メアリー(アパラチアン・トレイルで出会う女性)/クリステン・シャール
ジェニー(モーテルの女主人)/メアリー・スティーンバージェン
2015年・アメリカ映画・104分
配給/ツイン
◆アメリカには、「アパラチアン・トレイル」というロングトレイルがあるらしい。この他にも、「パシフィック・クレスト・トレイル」があることを、私は、『わたしに会うまでの1600キロ』(14年)(『シネマルーム36』197頁参照)ではじめて知ったが、アメリカの三大トレイルとは、アパラチアン・トレイルとパシフィック・クレスト・トレイルともう一つコンチネンタル・ディヴァイド・トレイルだそうだ。本作は、そのアパラチアン・トレイルを初老の男(爺さん?)2人が踏破しようとする物語だ。
冒頭、イギリスから故郷のアメリカに戻り、セミリタイアして妻や息子夫婦、孫たちと新しい生活を送っている紀行作家のビル・ブライソン(ロバート・レッドフォード)が、突如アパラチアン・トレイルへの挑戦を思いつくところから物語がスタートする。しかし、アパラチアン・トレイルに挑む動機が『わたしに会うまでの1600キロ』と比べると弱いところが、本作のそもそもの難点。去る7月7日に観た『ラサへの歩き方 祈りの2400km(冈仁波齐)』も過酷な巡礼の旅を描く映画だったが、これは長年の夢をやっと実現したものだったから、説得力があった。
本作では、一人で行くことを心配する妻のために同行する男を募集したところ、酒飲みで破天荒、そして右足に爆弾を抱えた太っちょ男の旧友スティーヴン・カッツ(ニック・ノルティ)が同行することになったが、これも不自然。だって一日目のスティーヴンの歩き方を見れば、まず1週間も歩けば彼のアパラチアン・トレイルへの挑戦はあえなく失敗。そう思うのが当然だからだ。
◆アパラチアン・トレイルに挑戦し完遂するのには半年も1年もかかるそうだから、その間にいろいろな人たちと出会い、友情を深めることになるのは当然。旅の醍醐味の一つは、そんな「人との出会い」にある。ところが本作では、旅の最初に出てくるおしゃべり女のメアリー(クリステン・シャール)が全然魅力のない実にケッタイな女で、ビルやスティーヴンならずとも全然共感できない。なぜ、こんな女を最初に登場させたの?また、スティーヴンが、この年になってなお女好きなのは結構だが、「太った女が大好き」と公言するスティーヴンの前に、ある日登場してくる太っちょ女もかなり変。しかもこの女は亭主持ちで、スティーヴンはその亭主から銃を持って追われるというハプニング(バカ話)まで。ビルの方も、あるモーテルの女主人・ジェニー(メアリー・スティーンバージェン)といい雰囲気になりかけたが、さて40年間一度も浮気をしたことがないとスティーヴンに言っていたビルの方は…。
◆山の天気は急変するから、要注意。それはよく聞く言葉だが、アパラチアン・トレイルに挑戦した2人には、昼間は快晴だったのに夜は雪に襲われるシーンが登場する。2人はこれをどのようにして乗り切るの?さらに、山の中は爽快な空気ばかりではなく、蚊や蜘蛛、虫など様々な危険が同居しているのは当然。『レヴェナント蘇えりし者』(15年)で見た熊は怖かったし、ディカプリオと熊との死闘は迫力満点だったが、アパラチアン・トレイルの旅に熊が登場する危険は・・・?そう思っていると、案の定、ある夜ガサガサ音がして目を覚ましたビルが灯りを外に向けてみるとなんと、そこには2頭の熊が。そこで慌てたビルは熊対処法のマニュアル本を読み、こちらの身体を大きく見せることによって相手を撃退する方法を選んだが、その結末は・・・?
本作はビル・ブライソンの原作に基づくものだが、そこにはほんとにこんな体験が書かれていたの?それとも、これは映画向けのつくり話?もしそうだとしたら、おふざけが過ぎるのでは・・・?
◆『ラサへの歩き方 祈りの2400km』に見た「五体投地」による巡礼の旅は信仰に基づくものだから、もともとズルをする人はいない。しかし、アパラチアン・トレイルはあくまで任意のものだから、ひょっとすると自慢話をするために挑戦して、本当はズルをする人もいるのでは・・・?つまり、無理して山の中を重いリュックを背負って歩かなくても、ヒッチハイクで車に乗るバイパスを選べば、すぐ次の目的地まで・・・。あるいは、レンタカーを借りて走り、次の目的地で車を返せば・・・。そもそも、スティーヴンの歩き方を見ていると、一ヶ月も二ヶ月も歩き続けることが不可能なことはわかりきっているから、そんなストーリー展開も当然と思いながら見ていると・・・。
◆本作はビル・ブライソンの『A Walk in the Woods』に基づくものだが、この旅行記は著者が現実にアパラチアン・トレイルの3500kmを踏破したうえで書いたもの。アパラチアン・トレイルについては、バックパッカーで作家の加藤則芳氏が書いた『メインの森をめざして アパラチアン・トレイル3500キロを歩く』があるそうだが、当然彼も現実にそれを踏破した上で書いている。他方、『ラサへの歩き方 祈りの2400km』はドキュメンタリーではない劇映画だが、出演者は全員ホンモノの村人たちで、彼らは現実にラサへの巡礼の旅に出かけており、張楊(チャン・ヤン)監督もそれに随行しながら撮影した「ホンモノ」だ。
それに対して、ロバート・レッドフォートは若い時から今日までハリウッドを代表するハンサムな名優だが、いかんせん、アパラチアン・トレイルを踏破したものではないことは明らかだ。『わたしに会うまでの1600キロ』は女優のリース・ウィザースプーンが、『奇跡の2000マイル』(13年)(『シネマルーム36』未掲載)は女優のミア・ワシコウスカが苦労して1600キロないし2000キロを歩いているしんどさが感じられたが、さて本作に見るロバート・レッドフォードのしんどさは?名優ロバート・レッドフォードが演じているにもかかわらず、「人生とは・・・」と語る台詞に説得力がないのは、きっとそのせいだろう。
2016(平成28)年8月23日記