コロニア(ドイツ、ルクセンブルク、フランス・2015年) |
<シネ・リーブル梅田>
2016年9月22日鑑賞
2016年9月27日記
「コロニア」って一体ナニ?それは脱出不能、生還率0.01%の残党ナチスの極秘要塞。なぜ、そんなものがチリに?アジェンデ人民連合政府を1973年9月の軍事クーデターで倒したピノチェト政権とコロニアとの関係は?
そんな「驚愕の史実に基づく緊迫の脱出劇」を、『ハリー・ポッター』シリーズの子役から大きく成長(成熟?)したエマ・ワトソンが大熱演!
脱出劇の多少の粗さや甘さは無視し、歴史的な問題点をしっかり直視したい。
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監督:フロリアン・ガレンベルガー
レナ(ダニエルの恋人、ドイツ人キャビンアテンダント)/エマ・ワトソン
ダニエル(レナの恋人、フォトグラファー)/ダニエル・ブリュール
パウル・シェーファー(コロニアの教皇)/ミカエル・ニクヴィスト
ギゼラ(コロニアの女性部屋の責任者)/リチェンダ・ケアリー
ウルセル(ギゼラの娘、コロニアの看護師)/ヴィッキー・クリープス
ドロ(コロニアの中の若い女性)/ジャンヌ・ウェルナー
2015年・ドイツ、ルクセンブルク、フランス映画・110分
配給/REGENTS、日活
<「コロニア」って一体ナニ?>
1970年の民主的な選挙で、チリにアジェンデ人民連合政権が誕生!当時、学生運動の真っ只中にいた私はそんなニュースに大興奮したものだが、私が司法試験の勉強に没頭し合格し、司法修習生2年目となった1973年9月、そのアジェンデ政権は軍事クーデターによって崩壊し、新たにピノチェト軍事政権が誕生した。
本作はそんな軍事クーデターを契機として「コロニア」に収容されてしまったドイツ人のフォトグラファー、ダニエル(ダニエル・ブリュール)を、その恋人でキャビンアテンダントのレナ(エマ・ワトソン)が救い出す物語らしいが、そもそもコロニアって一体ナニ?
<「コロニア・ディグニダ」の実態は?>
チラシには「一度でも足を踏み入れたら、脱出不能」「そこは、残党ナチスの巣窟 極秘要塞」「必ず、私が、救い出す。」「生還率0.01%!<驚愕の史実>に基づく、緊迫の脱出劇」という見出しが躍っている。また、解説を読むと「コロニア・ディグニダ」は実在した拷問施設らしい。つまりこれは、南米に根を張ったナチスの残党パウル・シェーファー(ミカエル・ニクヴィスト)が1961年に設立した慈善団体。「コロニア・ディグニダ」は首都サンティアゴから遠く離れた大自然の中でパブテストと反共主義を掲げるドイツ系移民コミュニティの慈善団体として設立され、300人ほどのチリ人やドイツ人がドイツ・バイエルンの農民服を身にまとい、自給自足の共同生活を送っていたらしい。
しかし、それはあくまで表の顔で、その実態は「教皇」と崇拝されたシェーファーは少年への性的虐待を続け、“しつけ”と称した住民たちへの殴打や拷問は日常茶飯事だったらしい。そればかりか、そこにつくられたナチス式拷問センターはピノチェト政権下での反乱分子の拷問施設として使われていたらしい。
本作は冒頭「史実にもとづく物語」と表示され、1973年9月当時のデモや集会で「アジェンデ政権を守れ」と訴える民衆の姿とそれを支援するダニエルたちの姿が映し出されるので興味津々。さあ、これから「コロニア・ディグニダ」をめぐって、いかなる展開が・・・?
<1973年9月、サンティアゴで軍事クーデター発生!>
キネマ旬報10月上旬号は計263分の超大作『チリの闘い 第1部・第2部・第3部』(75年)を紹介し、3人の映画評論家が星5つ、4つ、5つをつけていた。ところが、奇しくもそれと同時期に公開される本作については、3人の映画評論家はそれぞれ3点、3点、2点と評価が低い。映画冒頭の緊迫した状況を観ている限り、本作はかなりの力作!
そう思っていると、スクリーン上は『ハリー・ポッター』シリーズで有名になったエマ・ワトソン演ずる美しいキャビンアテンダントのレナがチリの首都であるサンティアゴへのフライト到着直後に、集会でカッコよく闘っているダニエルに飛びつき愛を交わすシーンになっていく。あれれ、エマ・ワトソンって子役じゃなかったの?女優の成長は早いものだ。ダニエルの部屋に入るや否やレナは、部屋のチェックに続いてダニエルへの女のにおいがしないかどうかの「身体チェック」を経て、そのままベッドへ!何と大胆な・・・。
2人が愛を交わすこんなシークエンスが一種のご愛嬌だったことは、「軍事クーデターが発生した!アジェンデ大統領派は反乱分子として次々逮捕されている。早く部屋を出て逃げろ!」と告げる一本の電話の後の展開を観ればよくわかる。2人はアベックを装い、警察の目を誤魔化しながらうまく逃げていたが、ダニエルがカメラのシャッターを切っていたところを見とがめられて逮捕されてしまうことに。その直後の尋問風景やダニエルがコロニアに送り込まれるシークエンスも相当な迫力と真実味があるから、その後の展開も興味津々!なぜ、3人の映画評論家の採点は低いの・・・?
<潜入したヒロインの活躍ぶりに注目!>
コロニアに収容されてしまったダニエルをどうやって救い出すの?レナがアジェンデ大統領派の活動家たちにそれを聞くと、彼らは「革命のための闘い」と「個人を救出するための闘い」は別モノだという理屈で、事実上ダニエルの救出断念宣言を・・・。そこで、レナは信者を装ってコロニア内に入り込み、ダニエルを捜し出したうえで共に脱出するという壮大な計画を一人で立て、敢然とそれを実行に移したからすごい。つまり、本作ではそれまでのストーリー展開はすべて導入部にすぎず、レナが一人でコロニア内に潜入した後のストーリーがメインになるわけだ。
有刺鉄線や探照灯などで囲まれ要塞化されたコロニア内に信者を装って訪れたレナを導き入れたのは、女性部屋の責任者のギゼラ(リチェンダ・ケアリー)。また、そんなレナの潜入目的を疑い深い目で観察しながら次々といじわる質問を投げかけたうえ、身体の中の売春婦の部分を追いだすと称して「ブラウスを脱げ」と命じる教皇シェーファー。そこらあたりのやりとりをはじめとして、その後のコロニア内でのストーリー展開を見ていると、教皇の胡散臭さが少しずつ目立ってくる。
他方、「仲間の名前を吐け」と拷問され、ほとんど死にかけたはずのダニエルが、頭がヘンになった男を装ってコロニアの中でしっかり生き延びていたから、それにもビックリ。もっとも、コロニア内では男と女と子供は明確に区分されて生活していたから、そんなダニエルとレナがコロニアの中で再会できる可能性はほとんどゼロ?生還率0.01%の要塞ではきっとそうだと思うのだが、メインストーリーの前半ではレナの利発さと強靭さが目立ち、後半ではダニエルの圧倒的な行動力が目立つのに対し、全体を通してシェーファー教皇のバカさ加減が顕著になってくるから、アレレ・・・。こりゃ、ちょっと作りすぎでは・・・?
<脱出成功までのプロセスは?その見せどころは?>
本作にはコロニア内で生活している若い女性として、最初にレナと親しく話しをするドロ(ジャンヌ・ウェルナー)と後にギゼラの娘であることが判明する看護師のウルセル(ヴィッキー・クリープス)の2人が登場し、レナに対して様々な「情報提供」をしてくれることになる。しかし、とりわけドロはストーリー形成上の便宜上だけの登場人物になっているし、ウルセルも意外な「出生の秘密」を見せるものの、一緒に脱出を成功させた後は「お役御免」とばかりに切り捨てられてしまうから、少しかわいそうだ。
他方、ハリウッド映画の名作『大脱走』(63年)で観た地下トンネルは捕虜たちの血と汗の結晶で掘り進めたものだったが、本作のレナとダニエルたちの「大脱走」に使われた地下トンネルとは?プロダクションノートによると、これは首都ベルリンにある広大な歴史的遺構である高射砲塔だそうだが、これをダニエルとレナが偶然発見するシーンはあまりに都合よくできすぎている。さらに、トンネル内をダニエルがあれだけ自由に歩きまわるのはどう考えてもヘン。地上に見るシェーファー教皇の警戒ぶりを見れば、トンネル内はもっと厳重に警戒していなければおかしいのでは?
その他本作では、脱出成功までの手に汗を握るプロセスが見せどころのはずだが、残念ながらその迫力はいささか不十分。脱出に向けてのダニエルとレナの決意の強さは認めるものの、これほどうまくいった脱出劇を見ていると、「生還率0.01%!」という事実も怪しくなってくるほどだ。
<脱出成功!ところがその後も意外な展開が!>
何とか「コロニア」からの脱出を成功させ、サンティアゴにあるドイツ大使館まで逃げ込めばもう安心。あとは2人してドイツ行きの飛行機に乗り込むだけだ。ところが、ここで何とドイツ行きのフライトは一週間後しかムリと言われたからアレレ・・・。そこで、レナがキャビンアテンダントの特権(?)を使って長期休暇をとっていた時の機長に頼み込むと、うまい具合にすぐ彼の便に乗せてくれることになったから、ヤレヤレ。
そう思っていると、そこからはドイツ人はあまり観たくないシーンの連続になるから、それに注目!まず驚くべきは、「コロニア・ディグニダ」のシェーファー教皇が1973年9月のクーデターでアジェンデ政権を打倒したピノチェト軍事政権と結びつき、明確な協力関係を結んでいたことだ。すると、「コロニア・ディグニダ」を脱出したレナとダニエルの口から「コロニア・ディグニダ」の秘密が漏れて困るのは、シェーファー教皇もピノチェト政権も同じ。そこまでは誰でもわかるのだが、シェーファー教皇は何とさらに、ドイツ大使館とも結託していたとは一体ナニ。ドイツはホントにそんな外交をやり、そんな外交官をチリに置いていたの?本来のクライマックスが終わった後も本作ではそんな想定外の展開が続き、レナとダニエルの危機状態が続いていくので、それに注目!
何とか危機一髪で2人を機内に収容した機長に対して、シェーファー教皇の圧力を受けた管制塔からは「離陸許可を取り消す」との命令が出されたから、2人は万事休す・・・?そう思わざるをえなかったが、さて本作のラストはいかなることに・・・?
2016(平成28)年9月27日記