インフェルノ(アメリカ映画・2016年) |
<TOHOシネマズ西宮OS>
2016年10月29日鑑賞
2016年11月4日記
『ダ・ヴィンチ・コード』(06年)や『天使と悪魔』(09年)に続く人気シリーズ第3作のタイトル『インフェルノ』とは、ダンテの『神曲・地獄篇』の意味。
ボッティチェリの「地獄の見取り図」やヨーロッパに広がった黒死病(ペスト)の恐怖に勝るとも劣らない「ウィルスによる人類半減計画」とは一体ナニ・・・?トム・ハンクス扮するラングドン教授は冒頭から苦悩続きだが、美人の相棒の協力よろしきを得てさまざまな謎解きも、ウィルスの拡散の防止の実行も着々と・・・。そう思っていると、ラストにはあっと驚くどんでん返しが・・・。
フィレンツェ、ヴェネツィア、イスタンブールの観光旅行を兼ねて楽しむことができれば、あなたは相当な人生の達人だ。
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監督・製作:ロン・ハワード
原作・製作総指揮:ダン・ブラウン『インフェルノ』上・中・下(角川文庫刊)
ロバート・ラングドン(ハーヴァード大学教授、宗教象徴学者)/トム・ハンクス
シエナ・ブルックス(ロバートを治療した女医)/フェリシティ・ジョーンズ
ハリー・シムズ(危機統轄機構の総監)/イルファン・カーン
ヴァエンサ(危機統轄機構の現地隊員の女性)/アナ・ウラル
クリストフ・ブシャール(WHO(世界保健機関)の監視・対応支援(SRS)チームの隊長)/オマール・シー
エリザベス・シンスキー(WHO(世界保健機関)の事務局長の女性)/シセ・バベット・クヌッセン
バートランド・ゾブリスト(大富豪の生化学者)/ベン・フォスター
イニャツィオ・ブゾーニ(ドゥオーモ付属美術館の館長)/カエサル・セレモニーニ
2016年・アメリカ映画・121分
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
<シリーズ第3作がテレビ放映と共に大公開!>
ロン・ハワードが監督し、トム・ハンクスがロバート・ラングドン役で主演した『ダ・ヴィンチ・コード』(06年)は大ヒットしたが、これはロバート・ラングドンを主人公にしたダン・ブラウンの原作を映画化したもの(『シネマルーム11』26頁参照)。ダン・ブラウンの原作は『天使と悪魔』『ダ・ヴィンチ・コード』『ロスト・シンボル』『インフェルノ』の4作が順次シリーズ化されているが、それを映画化した映画の方は『ダ・ヴィンチ・コード』『天使と悪魔』(09年)(『シネマルーム23』10頁参照)そして本作の順番となる。つまり『ロスト・シンボル』が省略され『インフェルノ』が先に映画化されたわけだ。
『ダ・ヴィンチ・コード』も『天使と悪魔』も世界的ブームを引き起こし、ロバード・ラングドン役は先日もクリント・イーストウッド監督の『ハドソン川の奇跡』(16年)で主演したトム・ハンクスの最高の当たり役になっていたから、本作も公開前から大ヒットを予想。したがって、テレビではその大ヒットを補強するかのように、連日『ダ・ヴィンチ・コード』と『天使と悪魔』が放映されたため、私は劇場での本作の鑑賞に合わせて、その両作ともテレビで鑑賞することに。
<複雑で難解!第1作は?第2作は?>
ロン・ハワード監督とトム・ハンクスがタッグを組んでダン・ブラウンの原作を映画化した本シリーズは大ヒットしているが、実はその内容は極めて難しい。「最後の審判」こそ誰でもよく知っているが、『ダ・ヴィンチ・コード』にはシオン修道会やテンプル騎士団が登場し、さらに実在のローマ・カトリック教会の組織である「オプス・デイ」の指令で暗殺を続けている修道僧やその背後にある導師の存在も重要なポイントになるから、物語は複雑で難しい。
また、バチカンの神父が幼児への性的虐待事件を引き起こしていたことは『スポットライト 世紀のスクープ』(15年)でも注目された(『シネマルーム38』48頁参照)が、『天使と悪魔』ではそのバチカンが舞台になっているうえ「イルミナティ」という聞き慣れない啓蒙主義的な友愛結社かカルト集団かよくわからない組織が問題の根源になっていたから、こちらも複雑で難解だった。
それと同じようにシリーズ第3作となる本作では、ダンテの「地獄篇」とそれを元にボッティチェリが描いた「地獄の見取り図」の理解が不可欠になる。そもそも「インフェルノ」というタイトルそのものが「地獄篇」のことだが、キリスト教やダンテの「新曲」に縁の薄い多くの日本人はそんなことすら知らないはずだ。したがって、テレビ放映と共に大公開された本作の鑑賞については、過去2作をあらためて確認することをおすすめしたい。
<人口過剰問題への処方箋は?>
日本では『中央公論』2013年12月号、2014年6月号および7月号に発表されたいわゆる「増田レポート」が衝撃を与え、2014年8月中公新書で増田寛也編著『地方消滅』が緊急出版された。そのサブタイトルは「東京一極集中が招く人口急減」で、帯には「896の市町村が消える前に何をすべきか」と書かれている。このように、日本では人口減少による国力の低下が長期的に大問題になっている。ところが全世界的(地球的)規模で見ると、逆に人口過剰が大問題らしい。つまり、21世紀の世界は人口爆発の危機に晒されているわけだ。ちなみに、WHO(世界保健機関)の調査によると、2015年現在約73億人という世界の人口は今後も毎日25万人を越えるペースで増え続けるそうだ。
18世紀のイギリスの産業革命の時代に『資本論』を書いたカール・マルクスならぬトマス・ロバート・マルサスは、その「人口論」の中でこのままではやがて増えていく人間の数に食料の供給が追いつかなくなると警鐘を鳴らした。これは「新マルサス主義」として現代にも引き継がれているが、本作ではアメリカの有名な生化学者にして大富豪のバートランド・ゾブリスト(ベン・フォスター)は人口爆発による人類破滅の方程式を唱え、メディアを通じて、それを解消するには大災害が起き、人口を激減させるしかないと主張しているそうだから怖い。もっとも、それを口で言うだけなら実害は少ないが、遺伝子工学のスペシャリストであるゾブリストは、信奉するダンテの長編叙事詩『神曲・地獄篇』や、それを主題にしたボッティチェリの絵画「地獄の見取り図」に導かれるように、全世界の人類の半数を死滅させるウィルスを開発し、それを拡散させるという恐るべきテロ計画を立案し、それを実行に移していた。このまま事態が推移すれば、かつてヨーロッパを中心に猛威を振るった黒死病(ペスト)と同じような人類の大惨事に・・・。病院のベッドの上でうなされていたラングドンの脳裏には、そんな地獄絵が何度も錯綜していたが、それは一体なぜ・・・?
<病室で目覚めると?そしてアクションへ。>
ラングドンが目覚めるとそこは病室で、ラングドンのそばには美しい女医シエナ・ブルックス(フェリシティ・ジョーンズ)が立っていた。猛烈な頭痛に襲われながらラングドンは記憶をたどっていったが、そこで思い浮かぶのは断片的な地獄絵のようなものばかりで一向に要領を得ない。しかも窓のカーテンを開けてもらうと、そこは自分の専門領域上よく知っているイタリアのフィレンツェのまちだったからビックリ。ハーヴァード大学の宗教象徴学の教授をしている自分が、今なぜ頭部に重傷を負ってフィレンツェの病院の中にいるの?
そう考える間もなく、断片的な記憶の続きのように、病室には銃を手にした女が乱入してきたから大変。シエナの手早い反応と献身的な協力のおかげでラングドンはやっとシエナのアパート内に逃げ延びたが、この事態は一体ナニ?
<導入部では2つの示唆が!そして本筋へ!>
『ダ・ヴィンチ・コード』は150分、『天使と悪魔』は138分だったのに対し、本作は121分と短い。それは本作ではストーリー展開のスピードを早めたためだ。本作の導入部では重要な2つの示唆がなされるのでそれに注目!その1つは、ラングドンがシエナのパソコンで、ドゥオーモ付属美術館の館長である友人のイニャツィオ・ブゾーニ(カエサル・セレモニーニ)からラングドン宛てに届いていた「われわれが盗んだ物は隠した。『天国の25』」という謎のメールを発見すること。自分の命を助けてくれたシエナが着替えを捜してくれている間に、勝手にシエナのパソコンを借用するというのは大学教授としていかがなもの?と思われるが、ここではあえてラングドンのお行儀の悪さは無視しておこう。
もう1つは、ラングドンの服に入っていた小さなカプセル「バイオチューブ」の中のポインターが壁に映し出した「地獄の見取り図」から、原画にはないアルファベットがちりばめられているのを発見すること。これによって博識なラングドンは、ゾブリストが開発したウィルスの在りかを示すヒントがその中にあることに気づいたが、ウィルスが放たれる予告時間まで、すでに24時間を切っていることがわかったから、さあ大変。ところで、ラングドンはなぜ服の中にチューブを持っていたの?また、病院までラングドンを殺すために追ってきたのは一体誰?
そんな謎を残しながら本作の導入部は手短かに終え、ストーリーは直ちに本筋に入っていくことになる。ちなみに、シエナが出してきた着替えはパジャマではなくレッキとしたスーツの上下、Yシャツ、靴だったが、なぜ独身女性の部屋にそんな男物一式の服があったの?
<WHOは知ってるが、危機統轄機構は?>
本作にはWHO(世界保健機関)と危機統轄機構という2つの組織が登場する。2004年の鳥インフルエンザ問題、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)問題等で、今やWHOは誰でも知っている組織になったが、危機統轄機構とは?これは依頼人のあらゆる野心や欲求を実現するために、世界規模でどんな仕事でも遂行する組織で、その総監はハリー・シムズ(イルファン・カーン)。彼は豪華クルーザーの中にオフィスを構えているそうだが、その一事だけでも何となくこの組織はヤバそうだ。そう見込んだとおり、ハリーはゾブリストから秘密の仕事を請け負っているうえ、導入部でラングドンの殺害を狙って追跡を続けていた女ヴァエンサ(アナ・ウラル)はハリーが派遣した統轄機構の現地隊員であることが明らかにされるので、やっぱり・・・。
他方、WHOは人類の保健・健康問題に地球規模で取り組む専門機関で、その事務局長の女性エリザベス・シンスキー(シセ・バベット・クヌッセン)はラングドンの旧友らしい。本作後半からクライマックスにかけてその存在感を増していくので、誰もが最初から注目する美女のシエナだけでなく、途中から登場する中年おばさん(?)のエリザベスにも注目!また、もう一人ラングドンを追跡している男クリストフ・ブシャール(オマール・シー)もWHOの対応支援(SRS)チームの隊長で、監視と追跡のプロ中のプロらしいが、この男はラングドンの味方?それとも敵・・・?
<舞台はフィレンツェ、ヴェネツィア、イスタンブールへ>
本作導入部はフィレンツェを舞台に始まるが、フィレンツェにはバディア・フィオレンティーナ教会、ピッティ宮殿、ヴァザーリの回廊、ロマーナの門、ボーボリ庭園、サン・ジョヴァンニ洗礼堂等々の世界遺産がたくさんある。また、ヴェッキオ宮殿の五百人広間の両壁を飾るはずだったのがミケランジェロの「カッシーナの戦い」とダ・ヴィンチの「アンギアーリの戦い」らしいが、それを巡る「謎」が今でもあるらしい。残念ながら私はイタリアにもフィレンツェにも行ったことがないので、これらを観光したことはないし、もちろんラングドンほどの知識もないが、観光したことのある人には本作はこたえられないはずだ。本作のパンフレットはそれらを舞台としてラングドンとシエナが駆けめぐるストーリーについて詳しく説明しているので、本作の観光ガイドとしてそれらを活用すればなお一層本作への興味が深まるはずだ。
ちなみに、10月15日に観た『ジェイソン・ボーン』(16年)では舞台がアテネ、ベルリン、ロンドン、ラスベガスと移動したが、フィレンツェでウィルスの入ったカプセル発見に失敗したラングドンとシエナは、その後ヴェネツィア、イスタンブールと移動していくのでそれに注目!観客はそれらの舞台でもすばらしい景色とすばらしい建築物を堪能できるはずだ。もっとも、当の本人たちは時間との勝負でウィルスの入ったカプセル発見に全力を注いでいるから、それどころではないだろうが・・・。
<カプセルを捜せ!ウィルス拡散を防止せよ!>
10月29日に観た『手紙は憶えている』(15年)は、自分たちの家族をアウシュヴィッツで殺害し、今はアメリカ市民になっている男「ルディ・コランダーを探し出せ!そして殺せ!」がテーマだった。それと同じように本作中盤のテーマは、人類の半数を死滅させる恐るべき「ウィルスの入ったカプセルを探し出せ!そして、その拡散を防止せよ!」ということになる。
それをFBIやCIAのスパイがやったのでは完全な「スパイ映画」になってしまうが、それを宗教象徴学に造詣の深いハーヴァード大学教授のラングドンがやるところが本シリーズの見どころだ。前2作ではラングドンの動きは知的かつスピーディーだったが、本作ではラングドンは冒頭から頭部に重傷を負い、記憶障害に悩まされていたから、頭と身体は大丈夫?そんな心配もあったが、当初はシエナの協力よろしきを得て、中盤からは前2作と同じように傷の悩みも忘れてしまったかのような動きを見せるので、多少アレレと思う面も・・・。
それはともかく、ドゥオーモ付属美術館にあったダンテのデスマスクを盗んだり(一時借用?)、ヴェッキオ宮殿の天井裏でくり広げた逃走劇によって一面立派な絵画で覆われた天井をぶち抜いたり、といくつかの悪さ(?)をしながら少しずつ目標に近づいていくので、そんなスリルとサスペンスに満ちたストーリー展開に注目したい。
<あっと驚くどんでん返しに注目!>
『手紙は憶えている』はあっと驚くラストのどんでん返しが見事だったが、本作もそれと同じような「あっと驚くどんでん返し」がラストに登場するので、それに注目!ロン・ハワード監督は『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズはもちろん、古くは『遥かなる大地へ』(92年)、『アポロ13』(95年)、『身代金』(96年)、近時は『シンデレラマン』(05年)(『シネマルーム8』218頁参照)、『フロスト×ニクソン』(08年)(『シネマルーム22』22頁参照)、『ラッシュ/プライドと友情』(13年)(『シネマルーム32』184頁参照)等をヒットさせ、『ビューティフルマインド』(01年)(『シネマルーム2』40頁参照)ではアカデミー賞監督賞・作品賞を受賞している大ヒットメーカーだ。したがって、彼の作品はすべて押さえるべきツボをきちんと押さえて、一流のエンタメ作品を完成させている。美男美女がヒロイン、ヒーローとして共に活躍する映画は、始めから終わりまでそのまま進むのが大原則だが、さて本作では・・・?
前述したように、本作では中盤から登場してくるWHOの事務局長の中年おばさん・エリザベスの存在感が次第に大きくなっていくが、それと反比例するかのようにラングドンとシエナが最後の目標にたどりつく直前にシエナの正体が暴露されるので、それに注目!人は見かけによらないものだ。これではラングドンがまんまと騙されたのも無理はない。しかして、ラングドンとシエナの行動開始時に「残り24時間」と宣告されたカプセルの拡散開始まで、残された時間は今はホントにわずかしかない。『007』シリーズでは、ジェームズ・ボンドの大活躍によって危機一髪で人類が救われる残り時間が007秒に設定されることが多かった(?)が、さて本作では・・・?
2016(平成28)年11月4日記