皆さま、ごきげんよう(フランス、ジョージア映画・2015年) |
<テアトル梅田>
2017年1月21日鑑賞
2017年1月25日記
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監督・脚本:オタール・イオセリアーニ
管理人/リュファス
人類学者/アミラン・アミラナシュヴィリ
警察署長/マチアス・ユング
男爵/エンリコ・ゲッツィ
ホームレス(アコーディオン弾きの侯爵)/ピエール・エテックス
ゴロツキ/トニー・ガトリフ
警察署長の運転手/ミレ・ステヴィク
家を建てる男/マチュー・アマルリック
妃殿下/マルティーヌ・マリニャック
2015年・フランス、ジョージア映画・121分
配給/ビターズ・エンド
◆昨年10月9日には「抵抗3部作」で有名な1926年生まれのポーランドの映画作家アンジェイ・ワイダ監督が90歳で亡くなったが、1934年にグルジア(現在のジョージア)で生まれたオタール・イオセリアーニ監督の最新作がコレ。『ここに幸あり』(06年)(『シネマルーム16』291頁参照)に続く『汽車はふたたび故郷へ』(10年)(『シネマルーム28』215頁参照)は、自分自身の人生を重ねた半自伝映画だったが、80歳を超えたオタール・イオセリアーニ監督も、もういつ死んでもいいという心境に至ったのか(?)、本作では近時の誰にでもわかりやすい邦画とは正反対の摩訶不思議な映画に挑戦!
さて、人間の本性をノンシャランと笑い飛ばしながらもその実態をトコトン描き出した、ごった煮のような、紙芝居のような本作の出来は?本作を観て特別感動する人はいないと思うものの、「なるほど、なるほど・・・」といつの時代も変わらない人間の営みに納得・・・?
◆1789年のフランス革命の理念やスローガンは「自由・平等・博愛」だったが、他方でフランス革命の象徴はギロチン・・・?フランス革命ではマリー・アントワネットが断頭台の露と消えたが、本作冒頭はどこの誰ともわからない一人の貴族が、編み物をする女たちが見学する中で、パイプをくわえたままギロチンにかけられる姿が描かれる。こりゃ一体ナニ?
そう思っていると次には、とある戦場で兵士たちが市民たちと撃ち合いをする風景や、略奪や強姦に走る兵士たちのシーンがスクリーン上でタップリと描かれる。こりゃ一体ナニ?そう思っていると更にスクリーン上は現代のパリとなり、そこではローラースケート強盗団の姉妹たちの犯行や警察署長(マチアス・ユング)一家の営み、そしてアパートの管理人(リュファス)や、骸骨集めが趣味の人類学者(アミラン・アミラナシュヴィリ)たちの営みやホームレス(ピエール・エテックス)たちのデモ行進の姿が次々と登場する。そんな本作は、まさにこりゃ一体ナニ・・・?
◆本作は全体を通した明確なストーリーがないうえ、日本人が大好きな「起承転結」の構成をなしていない。前述したとおり、スクリーン上にはごった煮のように、また紙芝居のように断片的な小話(?)が次々と登場してくるだけだ。
さらに本作は登場人物がやけに多いが、それでもよく見ると警察署長やアパートの管理人、人類学者らの他、ユニークな著名人もたくさん登場しているそうだから、それらの人物にも注目しながら紙芝居(?)全体の進行を見守りたい。
◆2016年10月22日に観た『みかんの丘』(13年)と『とうもろこしの島』(14年)はグルジア(現ジョージア)のザザ・ウルシャゼ監督、ギオルギ・オヴァシュヴィリ監督の作品で、チラシには「コーカサスの国グルジア(ジョージア)で起きた紛争を背景に、戦火が拡がる今日、人間として在るべき姿を示した傑作。人間と戦争の真実を描いた感動の2作品を一挙公開!」と記された映画だった。私はこの両作で「ジョージアvsアブハジア紛争」についてはじめて勉強したが、両作ともセリフはほとんどなく近時の邦画とは全く異質のつくり方だった。
本作もその両作と同じジョージア映画だが、本作はその両作の深刻さとは180度異なる、人生讃歌の映画になっている。ちなみに本作のパンフレットには、①みやこうせい氏(フォトアート,絵本翻訳など)の「エキプ随想/戯れと詩情の漲る人間讃歌」、②坂尻昌平氏(映画研究者)の「作品研究/イオセリアーニとともに,自由をわれらに!」、③小沼純一氏(評論家)の「音楽解説/主人公は音楽そのものかもしれない.」、④目黒条氏(作家,翻訳家)の「ストーリーよりも速く」、⑤河原晶子氏(映画評論家)の「グルジア,ジョージア,ゲオルギア―イオセリアーニの放浪」という5つのコラム(?)があるが、そのタイトルだけでも本作の特徴がわかろうというものだ。もちろん、それらを読めばさまざまな角度から本作の読み解き方(楽しみ方)がわかるので、是非それらを読んで同じジョージア映画の『みかんの丘』や『とうもろこしの島』の難しさや奥深さとは全く異質の、人生の楽しさや楽しみ方をしっかり勉強したい。
2017(平成29)年1月25日記