天使にショパンの歌声を(カナダ映画・2015年) |
<シネ・リーブル梅田>
2017年1月29日鑑賞
2017年1月31日記
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監督:レア・プール
マザー・オーギュスティーヌ(校長)/セリーヌ・ボニアー
アリス・シャンパーニュ/ライサンダー・メナード
シスター・リーズ/ディアーヌ・ラヴァリー
シスター・クロード/ヴァレリー・ブレイズ
シスター・オネジム/ピエレット・ロビタイユ
総長/マリー・ティフォ
トンプソン夫人/マリー=フランス・ランベール
マザー・マリー=ステファン/アンドレ・ラシャペル
スザンヌ・ゴーティエ/エリザベス・トレンブレイ=ギャニオン
司祭/ジルベール・スコット
2015年・カナダ映画・103分
配給/KADOKAWA
◆ショパンの「別れの曲」やリストの「愛の夢 第3番」に代表されるピアノ小曲は、誰でも一度は自分で弾いてみたいと憧れた名曲ばかり。カナダのケベック州にある修道院が経営する寄宿学校を舞台に、主人公の可憐な少女アリス・シャンパーニュ(ライサンダー・メナード)がそんな名曲を弾く姿を見ていると、心が洗われるような気がする。
私が大好きな陳凱歌(チェン・カイコー)監督の映画『北京ヴァイオリン』(02年)は少年が弾くヴァイオリンのすばらしさと父子の感動の物語がすばらしい中国映画だった(『シネマルーム3』18頁参照)。本作はそれには到底及ばないが、第18回ケベック映画賞を最多6部門受賞した佳作だ。日常生活の中で多少心が荒んでいる人は、たまにはこんな映画で心を洗ってみては・・・。
◆日本でもやっと議論が始まった憲法改正問題の中に、かねてより日本維新の会の橋下徹法律政策顧問が提唱してきた教育無償化法案(義務教育だけでなく、幼児教育、高校・大学等の教育についても、学生、保護者等の経済状況にかかわらず、授業料を負担させないものとする法案)が取り入れられようとしているが、これは安倍晋三首相と橋下徹氏との親密さが一つの要因だ。それはともかく、本作ではカナダのケベック州における1960年の選挙で、革新的な自由党が勝利したことによって始まった「静かなる革命」と呼ばれる教育の大改革を理解する必要がある。
カナダは英語文化圏の国だが、そこに1つだけフランス語文化圏の州がある。それが16世紀にフランス領となり、やがてイギリス領時代を経て自治権を獲得したケベック州だ。カトリック国では教会が大きな力を持ったが、その教会はカトリック教会の支配下におかれ、生活の細部にいたるまで影響力が強かった。日本では「政教分離」があたり前の憲法上の原則だが、ケベック州では1930年代から保守的なユニオン・ナショナル党の下でカトリック中心の権威主義的な社会構造ができ上がり、ずっと教会や修道会が学校を直接運営してきたらしい。そのため、「政教分離」という大改革が断行されたのは1960年以降というからビックリだ。
本作では、美しい音楽のお楽しみとは別に、そんなケベック州の寄宿学校における校長マザー・オーギュスティーヌ(セリーヌ・ボニアー)と修道院総長(マリー・ティフォ)との「対決」ぶりに注目!
◆思春期の多感な少女を監獄のような寄宿舎に閉じ込めた場合、さまざまな問題が出てくるのは仕方ない。そんなテーマの映画は多いが、本作でもオーギュスティーヌの姪のアリスが母親に連れられて転校してくる姿を見ていると、こりゃトラブル発生は必至。案の定、スクリーン上ではちょっと崩れた服装ぶりや、ピアノの技量はあるものの最初からバッハの楽曲をジャズ風に弾いてみせるアリスから想像したとおりのトラブルが続いていく。さらに、アリスと某男性との淡い恋模様の展開を見ていると・・・。
普通はそんなややこしいストーリーが進行し、アリスとアリスの面倒を見ると約束したオーギュスティーヌの対立が深まっていくものだが、本作は意外とそこらはサラリと・・・。そのため、本作は音楽的にはすばらしい映画になっているが、ストーリーの深みとしてはイマイチ・・・。
◆前述した『北京ヴァイオリン』でもリストの「愛の夢 第3番」等が演奏されていたが、やはりその手のピアノの小品よりは、交響曲や協奏曲の方が派手で迫力があるから、映画の盛り上がりとしてはその方がベター。『北京ヴァイオリン』ではチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(チャイコン)が素晴らしかったし、メラニー・ロランがヴァイオリニスト役で登場した『オーケストラ!』(09年)でも、映画最後の盛り上がりと父娘再会の感動を呼んだのはチャイコンだった(『シネマルーム24』210頁参照)。
どうも、オーギュスティーヌと総長との学校存続を巡る闘いではオーギュスティーヌは敗れたようだが、本作ラストはピアノコンクールにアリスがオーギュスィーヌが新たに設立した音楽学校を代表して登場するシーンになるのでそれに注目!しかして、そこでアリスが弾く勝負曲はショパンの「別れの曲」となる。それはそれでいいのだが、正直言ってこの曲では上手い下手の判定が難しいし、大きく感動することもないので、音楽映画のクライマックスを飾る曲としてはイマイチ・・・?
2017(平成29)年1月31日記