残酷ドラゴン 血斗竜門の宿(龍門客桟/Dragon Inn) (台湾映画・1967年) |
<シネ・ヌーヴォ>
2017年3月25日鑑賞
2017年3月30日記
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◆アジア映画界の巨匠と呼ばれ、武侠ブームと女性アクションの礎を作った1932年生まれの胡金銓(キン・フー)監督の2つの傑作を、シネ・ヌーヴォではじめて鑑賞。彼は中国・北京生まれだが、19歳の時に香港へ渡り、主に1960年代から70年代にかけて香港と台湾で活躍し、「香港の黒沢明」と呼ばれたらしい。
第3作目として1967年に台湾で製作した『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿(龍門客桟/Dragon Inn)』(67年)は香港映画興行収入の記録を打ち立てる大ヒットを記録し、その後『俠女』(71年)では第28回カンヌ国際映画祭で中華圏映画として初めて高等技術委員会グランプリを受賞したそうだ。
◆公式サイトによれば、本作のストーリーは次のとおりだ。
中国・明の時代。暴政を繰り返す宦官のツァオ・シャオチン(曹少欽)は、無実の罪で大臣を処刑し、彼の子供たちを流刑とした。だが、ツァオは子供たちからの復讐を恐れ、右腕のヒー・シャオタン(皮少棠)とマオ・ツォンシエン(毛宗憲)を荒野に佇む一軒宿「龍門客棧」に送った。二人が部下たちと待ち伏せする中、留守中の宿の主人ウー・ニン(呉寧)を訪ねてシャオ(蕭)という男が現れる。彼を追い出そうとする二人だったが、シャオの剣技に圧倒される。そんな張りつめた宿に現れたチュウ兄弟((朱驥=兄)、(朱輝=妹))、彼らこそ子供たちを助けるためにやってきた凄腕の剣客たちだった。暗殺を阻止されたことを知ったツァオは、とうとう自ら部下を引き連れて「龍門客棧」へ攻めに向かう。
◆中国の武侠映画の一大ムーブメントを引き起こしたとされるキン・フー監督の代表作を楽しく鑑賞したが、荒野に佇む一軒宿「龍門客桟」が舞台という本作を見ていると、私にはクエンティン・タランティーノ監督の『ヘイトフル・エイト』(16年)(『シネマルーム37』40頁参照)のテイストが思い出された。
もっとも、『ヘイトフル・エイト』はアメリカの南北戦争の直後、西部の町レッドロッグまでの中継地にあり、うまいコーヒーにシチュー、装飾品から武器まで何でも揃っている「ミニーの店」を舞台として一クセも二クセもある男女が繰り広げる密室劇だったが、本作は「龍門客桟」内の密室劇だけではなく、宿の外も広く使ったド派手なカンフー活劇なので、ある意味ではよけいに面白いのでそれを存分に楽しみたい。
◆本作に登場する最大の悪役はツァオだが、彼は宦官として権力の頂点に君臨して悪政の限りを尽くすだけでなく、武芸の達人でもあったからすごい。そのため、「龍門客桟」での攻防戦が、右腕であるヒーとマオだけでは太刀打ちできないことが分かると、後半以降は自ら「龍門客桟」に赴き、その武芸を見せるので、それに注目!
他方、本作導入部ですごい剣技を見せるのは、旅人のシャオ。シャオとチュウ兄弟とはもともと何の縁もゆかりもなかったが、「龍門客桟」で知り合った縁によって、「連合軍」を組むことに。ちなみに、弟の朱輝が女であったことは観客にはミエミエだが、ストーリー展開上は彼はあくまで男。そのため、本作前半の展開ではそこらあたりのドタバタ劇も楽しいので、それに注目!もっとも、本作の先に観た『侠女』でヤン役を演じた徐楓(シュー・フォン)はすごい美人だったが、本作でチュウ兄弟の弟(妹)役を演じたシャンカン・リンホーが女性としての魅力がイマイチだったのは少し残念・・・。
◆本作中盤では、「龍門客桟」に戻ってきたシャオの旧友、「龍門客桟」の宿主であるウー・ニンがかなりのカンフーの達人であることが明らかになる。その結果、「龍門客桟」で待ち伏せして、大臣の子供たちを亡き者にするべく、ツァオから「龍門客桟」に派遣されていたヒーとマオがシャオとウー・ニンそしてチュウ兄弟の「連合軍」に敗れてしまうと、遂にツァオは自ら将軍の子供を支援する「連合軍」を退治するため自ら「龍門客桟」に赴くことに。
◆本作終盤のクライマックスはシャオとウー・ニンにチュウ兄弟が加わった4人の「連合軍」とツァオとの死闘となる。手を変え品を変えて延々と続くその死闘は、本作が1967年の製作とは思えないほど面白い。1人の敵に4人の剣客が「総がかり」とはなんと卑怯な・・・。日本人的にはそう思ってしまうが、昔から集団戦法が得意な中国では全然そんな感覚はないらしい。ワイヤーロープの活用も新鮮だが、1対4の戦いぶりもユニークで面白いのでこのクライマックスに注目したい。
「龍門客桟」という原題の本作に「残酷ドラゴン」という邦題をつけたのはいかがなもの?私はそう思ってしまったが、キン・フー監督の大ヒット作をはじめて観ることができたことに感謝!
2017(平成29)年3月30日記