おとなの事情(イタリア映画・2016年) |
<シネ・リーブル梅田>
2017年4月15日鑑賞
2017年4月21日記
3つの家族と1人の男が参加した夕食会で、「私たち本当に親友かしら?」との問題提起の中、「互いに信用できるなら、スマホを見せ合わない?」というスマホゲームの提案が・・・。
ホントは拒否したいが、拒否すれば何かヤマしいことが、と疑われるのがオチ。しかして、楽しいはずの夕食会はドロ沼地獄に・・・。
『キサラギ』(07年)と並ぶワンシチュエーション・ドラマの大傑作。もっとも、地元のイタリアでは大ヒットしたが、おしゃべり好きなイタリア人が鉄砲の弾のように次々と繰り出す怒濤の会話劇が、日本人にどこまで受け入れられるかは微妙かも・・・?
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監督:パオロ・ジェノヴェーゼ
ペッペ(臨時教師)/ジュゼッペ・バッティストン
カルロッタ(レレの妻)/アンナ・フォッリエッタ
ロッコ(整形外科医、エヴァの夫)/マルコ・ジャリーニ
コジモ(タクシー運転手、ビアンカの夫)/エドアルド・レオ
レレ(法律事務所勤務、カルロッタの夫)/ヴァレリオ・マスタンドレア
エヴァ(心理カウンセラー、ロッコの妻)/カシア・スムトゥニアク
ビアンカ(動物病院の女医、コジモの妻)/アルバ・ロルヴァケル
ソフィア(エヴァとロッコの17歳の娘)/ベネデッタ・ポルカローリ
2016年・イタリア映画・96分
配給/アンプラグド
<地元のイタリアで大ヒット!そのテーマは?>
イタリア映画の本作は、イタリアのアカデミー賞に当たる第60回ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞と脚本賞のW受賞を果たし、地元のイタリアで大ヒット!監督は『赤いアモーレ』(04年)や『神様の思し召し』(15年)等で有名なパオロ・ジェノヴェーゼだが、私は今回見るのがはじめてだ。
チラシに躍る本作のテーマは、「隠し事が満載のスマートフォン、愛する人に見せられますか?“夫婦の愛”が試される96分間」だが、さてそのココロは?また、本作が赤裸々に描き出す、スマホの中に隠された各自の人生とパートナーとの絆(の危うさ)とは・・・?
<こんなゲームはいかが・・・?>
私は今でもスマホは持たずガラケーで済ませているが、若者にとってはもちろん、多くの大人にとっても、今やスマホは必需品!
本作は、ある満月の晩に、ロッコ(マルコ・ジャリーニ)、エヴァ(カシア・スムトゥニアク)夫妻が友人たちを招待した楽しい食事会が舞台。お月様を観賞したり、互いの近況報告等で楽しい会話が弾む中、ふとエヴァが「私たち本当に親友かしら?お互いが信用できるなら携帯電話を見せ合わない?」と提案したところからゲームが始まり、本作の本格的なストーリーが展開していくことになる。そのゲームは、各自のスマホをテーブルの上に置き、そこにかかってきた電話やメールの内容をすべてさらけ出そうというものだ。
そんなゲームが成り立つのは、食事会に集まっている7人の男女が互いに信頼している者同士で、秘密など全くないという前提(錯覚?)があるから。つまり、これは互いの「信頼度確認ゲーム」なのだが、スマホの着信やメールを本人の代わりに妻や親友がチェックするというルールの下でいざゲームが始まると・・・。
<ゲームの参加者は?そのキャラは?>
そんな危険なゲームの参加者は、まず今夜の食事会の招待者であるロッコとエヴァ夫婦。ロッコは整形外科医だが、優秀な医者であるエヴァの父から信用されていない。心理カウンセラーのエヴァは自分に自信がなく、愛に飢えている。次に、夫婦で参加しているのは、実は愛人がおり、夜になると秘密の写真が送られてくるレレ(ヴァレリオ・マスタンドレア)と、子供が二人いるが、夫レレとの関係がギクシャクしているレレの妻カルロッタ(アンナ・フォッリエッタ)。そして、流行りものが好きなため仕事が長く続かない、モテ男で秘密がいっぱいのコジモ(エドアルド・レオ)と、元カレからセックスのことで相談を受けているコジモの新妻ビアンカ(アルバ・ロルヴァケル)。さらに、婚約者を連れてくるはずだったのに突然キャンセルされたため、自分一人だけで参加したのが、臨時教師のペッペ(ジュゼッペ・バッティストン)だ。もっとも、本作冒頭には、ロッコとエヴァ夫妻の一人娘ソフィア(ベネデッタ・ポルカローリ)が母親と大きく対立している様子が描かれると共に、ゲームの真っ最中にソフィアから父親の携帯にかかってきた電話がそれなりの感動を呼ぶ構成になっているので、それにも注目!
日本では、このように何組かの夫婦が一つの家に集まって楽しく夕食会を開くケースは少ないが、そんな機会があればやってみてはいかが・・・?
<物語は二転、三転、四転、五転!こりゃ面白い!>
『ワイルドシングス』(99年)は、二人の可愛いハイスクールの女の子を主役とし、ストーリーが二転、三転、四転、五転しながら犯人に迫っていく、メチャ面白い映画だった(『シネマルーム1』3項参照)。また、『キサラギ』(07年)は、『十二人の怒れる男』(57年)に対抗できるワンシチュエーション・ドラマの傑作だった(『シネマルーム13』61項参照)。そして『アフタースクール』(07年)も、大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人という三人の個性派俳優たちの競演(騙し合い?)と絶妙な演技力が際立つ、二転、三転、四転、五転する面白い映画だった(『シネマルーム19』213項参照)。
『キサラギ』は、グラビアアイドルだった如月ミキの一周忌追悼会に出席した5人の男たちが織りなす怒濤の推理劇で構成されたワンシチュエーション・ドラマで、彼らの推理が二転、三転、そして四転、五転していくストーリーは予想以上の出来だった。しかして、本作は『キサラギ』のような怒濤の推理ドラマではないものの、次々と参加者のスマホにかかってくる電話やメールは怪しげなものばかり。夜10時になると毎晩愛人からスマホに秘密の写真が送られてくることになっているレレは、自分のスマホがたまたまペッペのスマホと同じ機種であったため、皆の目をかすめてテーブル上のスマホを交換してくれと依頼。怪しげな写真が送られてきても、独身男のペッペなら皆も納得するだろうというレレの算段(お願い)だが、さあペッペはどうするの?そんな「インチキ」から始まったスマホゲームは次々と混乱を呼び、この夫婦もあの夫婦も、ののしり合いを始めることになるので、それに注目!
さらに、一人だけで参加したペッペは途中から襲う「レレの悲劇」を片目で見ながら、スマホを交換したことを告げられずに苦悩することに・・・。今ドキ、一人や二人は同性愛の男がいてもおかしくないが、こんな形でその秘密が暴露されることになると・・・。
中国四大美女の一人である徐静蕾が主演した『我愛你(ウォ・アイ・ニー)』(03年)は、タイトルとは全然異質のすさまじい夫婦ゲンカの様が面白かった(『シネマルーム17』345項参照)が、スマホゲームから始まった本作に見る3組の夫婦のケンカぶりも相当なもの。心の底からそれを楽しむことはできないが、そこに見る何とも言えない人間模様をじっくりと味わいたい。
<地獄の展開にビックリ!その結末は?>
日本人は夫婦そろってのパーティも、そんなパーティでの気の利いた会話も苦手な人が多いが、本作を見ていると、イタリア人は基本的にはおしゃべりだし、ウエットに富んだ会話ができる人が多いことがよくわかる。もっとも、本作は面白い会話劇を狙って脚本を書いたのだから、その会話が面白いのは当然だが、それにしても面白い会話の連続には驚かされる。もっとも、もともとおしゃべり好きなイタリア人が鉄砲弾のように次々と繰り出す怒濤の会話劇を、日本人がどこまで受け入れられるかは少し微妙かも・・・?
本作は96分と決して長くはないが、セリフ量はメチャ多いので、正直言ってそれについていくのはかなりしんどい。さらに、現実には2時間程度の食事中に、これほど多くの電話やメールが入ってくることはないはずだが、本作の脚本では、まるでこの時を狙っているかのように次々と各自の秘密を暴露する電話とメールが入ってくるので、その一本一本の電話やメールの内容と衝撃度に注目!そして、そのスリリングな展開から、参加者全員が次第にドロ沼状態に陥っていくサマをしっかり検証したい。エヴァが提案したスマホゲームに乗ったばかりに参加者それぞれが持つ「重大な秘密」が暴露され、夫婦げんかと友人不信に陥っていく3組の夫婦と1人の男は、今まさに地獄の状態。そんな展開の中、本作の結末は一体どうなるの?最後にはそんな興味が広がっていくので、それはあなた自身の目でしっかりと。
ちなみに、「おとなの事情」というタイトルは、本物のドロ沼状態や何の希望もない結末のイメージではなく、少し余裕とユーモアの心を持った表現だが、本作の結末は私にはちょっと甘いなと思えてしまう。しかして、あなたは本作の結末をどう見る?
2017(平成29)年4月21日記