グレートウォール(中国、アメリカ映画・2017年) |
<TOHOシネマズ西宮OS>
2017年4月16日鑑賞
2017年4月28日記
ミサイル開発と核実験を繰り返す北朝鮮を巡る米中の駆け引きが目下の大きな焦点だが、近時大きく進んできた映画界における「米中の融合」は本作において頂点に!
なんと張藝謀(チャン・イーモウ)監督は、マット・デイモンを主役に起用し、万里の長城を舞台とした壮大な歴史劇(?)を!「イーモウ・ガール」としてチョー美人の司令官が登場するうえ、女性ばかりで構成された華やかな鶴軍も、見どころいっぱい。さらに本作では、中国伝説の怪物たる饕餮(とうてつ)の「造形」をポン・ジュノ監督の『グエムル 漢江の怪物』(06年)と、しっかり比較したい。
万里の長城の真の目的は?西洋人の傭兵が中国に入り込んだ目的は?美人司令官と傭兵とのキーワードとなる「信任(シンレン)」とは?
マンガチックとはいえ、チャン・イーモウ監督による3Dのハリウッド大作をしっかり楽しみたい。もっとも、興業的にはイマイチで、上映期間も短いようだから、少し心配・・・。
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監督:チャン・イーモウ
ウィリアム・ガリン(傭兵)/マット・デイモン
林梅(リン・メイ)(禁軍・鶴軍の女性司令官)/景甜(ジン・ティエン)
ペロ・トバール(傭兵、ウィリアムの相棒)/ペドロ・パスカル
バラード(禁軍に入り込んでいた西洋人)/ウィレム・デフォー
ワン(禁軍の軍師)/劉徳華(アンディ・ラウ)
彭勇(ポン・ヨン)(禁軍・熊軍の兵卒)/鹿晗(ルハン)
シャオ将軍/張涵予(チャン・ハンユー)
皇帝/ワン・ジュンカイ
皇帝の警備/チーニー・チェン
シェン(特使)/チェン・カイ
呉(ウー)(禁軍・虎軍の司令官)/彭于晏(エディ・ポン)
陳(チェン)(禁軍・鷲軍の司令官)/林更新(ケニー・リン)
鄧(ドン)(禁軍・鹿軍の司令官)/黄轩(ホアン・シュエン)
2017年・中国、アメリカ映画・103分
配給/東宝東和
<北朝鮮を巡る米中の思惑は?>
去る4月7日にアメリカのフロリダで行われたトランプ米大統領と習近平国家主席との「米中首脳会談」における夕食会は順調に進んでいたが、デザートの段階に至って、トランプ大統領の命令によってシリアの軍事基地に対して59発の巡航ミサイルが撃ち込まれたことが習主席に伝えられたらしい。面子を大切にする中国人にとって、これは大きな屈辱。その時、習主席は約10秒ほど黙り込んだらしいが、その時の彼の表情までは伝えられていない。さぞ苦りきった表情だっただろうと想像できるが、彼は翌日は笑顔でカメラの前に現れたそうだから、それはある意味偉い。
さらにミサイル発射実験と核実験で挑発を強める北朝鮮に対して、トランプ大統領は「軍事攻撃も辞せず」とばかりに、原子力空母カール・ビンソンを中心とする第一空母打撃群と海中深くからミサイルを発射することができる強力な原子力潜水艦を北朝鮮に送り込み、中国に対しても、「金正恩のムチャぶりをしっかり抑えろ。さもないと、米国が単独で北朝鮮を武力攻撃するぞ」と脅かしているから、中国も大変だ。こんな風に政治、経済や軍事、外交面では、今やアメリカと世界第二の大国となった中国との緊張関係が続いているが、さて映画の世界では?
<映画界での米中融合は、今やここまで!>
そこでは近時、『ゼロ・グラビティ』(13年)(『シネマルーム32』16頁参照)、『インデペンデンス・デイ リサージェンス』(16年)(『シネマルーム38』未掲載)、『オデッセイ』(15年)(『シネマルーム37』34頁参照)等で見るように、米中の「融合」が大きく進んできた。
ちなみに、2016年3月22日付産経新聞は、「ハリウッド大作 濃い『中国色』」と題してそんな状況を報告している。そこでは『オデッセイ』について、映画評論家の秋本鉄次氏が「『70億人が彼の還りを待っている』というキャッチコピーなのに、米国以外は中国ばかり。まるで米中共同救出作戦のようで、違和感を覚えた」と語っている。また、「『007 スペクター』のダニエル・クレイグや『オデッセイ』のマット・デイモンらはキャンペーンで訪中したが、来日せず。『ハリウッドは、かつてのように“日本第一”ではなくなった』と感じる映画関係者は多い。」と書いている。そして、「中国の映画興行収入は間もなく米国を超えるといわれ、その影響力はますます強まりそう」な中、秋本氏は、「映画の世界では米中は共闘しており、若干、中国の方が優勢な印象。将来を暗示しているようで、考えてしまう」と話している。
そんな状況下、チャン・イーモウが監督し、マット・デイモンが主演した本作で、映画界における米中の融合は頂点に!
<なぜ傭兵が中国に?火薬は中国が先?>
ヨーロッパを近代化に導いたルネサンス期における「三大発明」は、火薬、羅針盤、活版印刷術の3つ。私は、中学校の歴史の授業でそう教わったが、実は火薬の発明はヨーロッパよりも中国が先・・・?万里の長城を作ったのは、清の始皇帝だから紀元前2世紀のこと。しかし「グレートウォール」と題された本作の時代設定は、12世紀の宋の時代だ。その時代に中国では、火薬が発明されていたため、傭兵のウィリアム(マット・デイモン)、ペロ(ペドロ・パスカル)たちは、それを入手してヨーロッパに持ち帰り、大金持ちになるべく半年にわたる旅の末、ようやくシルクロードの果ての宋の国境までたどり着いたらしい。
馬賊に追われて逃げていく中、ウィリアムとペロの目の前に現れたのは、噂に名高い巨大な万里の長城。今さら後方に引けないウィリアムとペロは、腹を決めて武器を捨て、長城防衛の命を受けた禁軍に投降したが、さて2人の処分は?それがストーリの本筋だが、長城の中には、既に火薬を求めて宋の国に入っていた「先輩」のバラード(ウィレム・デフォー)がいたことがもう1つのサブストーリーになっている。バラードもいつか火薬を持って(盗んで)故郷に帰ることを夢見ていたから、ウィリアムもペロも守備隊のシャオ将軍(チャン・ハンユー)の命令によって殺されなければ、バラードと共に火薬を持って故郷に帰れるかも・・・?
中学時代に習った歴史とは全然違う、ハチャメチャだが何とも楽しそうな、火薬を巡るそんなストーリーに、なるほど、なるほど・・・。
<長城建設の目的は?饕餮(とうてつ)とは?>
秦の始皇帝が「万里の長城」を作ったのは、北方に住む異民族(=夷狄)から漢民族を守るため。長城建設の苦労とそれによる民衆の始皇帝への恨みの増大は、勝新太郎が始皇帝を演じた大映映画の70ミリの大作、『秦・始皇帝』(62年)でも明らかだが、チャン・イーモウ監督はそんな「史実」を本作のために大胆に変更!何と、万里の長城を建設した目的は2000年以上前から60年に一度現れ、過去幾度となく襲来してきた怪物、饕餮(とうてつ)から国を守るため、と解釈した。饕餮の大襲来を食い止めるため、長城には鷲軍・虎軍・熊軍・鹿軍・鶴軍の5つの軍からなる「禁軍」が配備されているわけだ。
禁軍の司令官はシャオ将軍だが、ある日一匹の饕餮との戦いでシャオ将軍が死んでしまうと、彼は娘のリン・メイ(ジン・ティエン)を新しい司令官に任命。こんな若くて美人、そして英語もペラペラの女性にホントに司令官が務まるの?そんな疑問もあるが、「ボンドガール」ならぬ「イーモウガール」と呼ばれる、女優発掘の名人だったチャン・イーモウ監督が、本作で抜擢したジン・ティエンの魅力と存在感は抜群だ。5つの軍の司令官もそれぞれ若いイケメン俳優が演じているが、意外にその存在感は薄く、目立つのはアンディ・ラウ演じる、戦略を司るワン軍師の存在感。やはり、これくらいの経験がないと、美人の司令官を補佐して大量の饕餮と戦うのは無理だということを実感させてくれる。
ポン・ジュノ監督の韓国映画『グエムル 漢江の怪物』(06年)を見た時は、一匹だけのグエムルの造形ぶりが大きな話題となったが(『シネマルーム11』220頁参照)、本作でも一匹ごとに見れば饕餮の造形は面白い。しかし、それが何千、何万と群れをなして長城めがけて突進してくる姿を見ると、かなりマンガ的。さらに、饕餮の大軍の行動がすべて女王の饕餮に制御されているとか、なぜか磁石の前では大人しくなってしまうという「属性」を見せつけられると、なお一層マンガ的になっていくことに・・・。
<色使いと3Dの立体性に注目!>
チャン・イーモウ監督の代表作は何といっても『紅いコーリャン』だが、その最大の特徴は赤を基調とした色使いだった(『シネマルーム5』72頁参照)。また、西の『マトリックス』東の『HERO(英雄)』と称されるほど、CGを多用したチャン・イーモウ監督作品が『HERO(英雄)』(02年)だったが、そこでも3つのストーリーを赤、青、白の3つのカラーで分類した映像の美しさが際立っていた(『シネマルーム5』134頁参照)。
さらに、唐代を舞台とした『王妃の紋章』(07年)では、『満城尽帯黄金甲』という中国タイトル通り、ゴールドを基調とした絢爛豪華な衣装をはじめとして、とにかくキンキラキンさが目立っていた(『シネマルーム34』90頁参照)。しかして、チャン・イーモウ監督初のハリウド映画の本作ともなれば、そんな彼の一つの特徴である「色使い」がより強調されるのは当然だ。
本作では、長城を守る禁軍は、①射手で編成された鷲軍、②火玉を投げる投石機などを操る工兵隊である虎軍、③饕餮と接近戦で戦う熊軍、④騎兵隊と歩兵隊で構成されて、饕餮が長城に侵入した際の防衛線となり、敵を長城の反対側へと誘導する役割を果たす鹿軍、⑤女性兵士で構成されている鶴軍という5つの防衛軍で構成されている。そして、それぞれ、①鷲軍は赤色、②虎軍は黄金色、③熊軍は黒色、④鹿軍は紫色、⑤鶴軍は青色、の甲冑に身を包む華麗な姿で登場してくるので、それに注目!高い壁に向かって突進し、よじ登ってくる饕餮を迎え撃つには、弓矢や投石だけではなく、空から地上の饕餮への攻撃が有力。そのため、身体をロープのようなものに繋ぎ、槍を手に、鳥のようにダイブし、饕餮を突き刺す形で戦うのが鶴軍だ。これには身体の軽い女性の方が向いているため、鶴軍はすべて女性兵士で構成されているから、その点でも極めてユニーク。また、鶴軍の女性兵士の甲冑の色がすべて青色とされているのは、空からの攻撃をカムフラージュするためだ。なるほど、なるほど。
他方、こんな禁軍と饕餮との戦闘を大スクリーン上で楽しむには、やはり3Dで立体的に見る方がベター。そのため、本作の上映には2Dはなく、すべて3Dにされているからその立体性にも注目!
<欧中が共に戦うキーワードは?「信任」>
ウィリアムとペロは火薬の獲得を目指して傭兵となり大儲けを企んでいたのに、禁軍に捕まり、処罰されたのでは元も子もない。「即刻処刑すべきだ」との武将たちの声を制してワン軍師がウィリアムたちの命を助けるよう求めたのは、ウィリアムたちが饕餮の手を切り落として撤退させた「実績」を持っていたためだ。したがって、ウィリアムたちはシャオ将軍やワン軍師から饕餮について聞かれる質問に対して、リン司令官の通訳で回答すればいいだけで、自ら命を張って「長城」を襲ってくる饕餮と戦う義務がないのは当然だ。しかし、饕餮の第一波攻撃の場面で、ウィリアムとペロはいかにも「実力派」の傭兵らしい力を発揮して饕餮と戦ったため、これがリン司令官やワン軍師の目に焼き付けられることに。
しかして、所詮ウィリアムとリン司令官との恋物語には発展しない本作においては、「信任」が、ウィリアムとリン司令官の心を結び付けるキーワードになる。「信任」は中国語では「シンレン」と読み、日本語の「信頼」と同じ意味。ペロはバラードと共にさっさと火薬を盗んで長城を逃げ去ろうと画策するのに対し、ウィリアムはリン司令官の「信任」のために命を張って饕餮と戦うことに生きがいを見いだすというストーリーだが、さてその成否は?
そもそも、傭兵のウィリアムのどこにナニワ節的な心情があったのか不思議だし、ウィリアムがペロと仲違いしてまでリン司令官との「信任」のために饕餮と戦う心情を私はイマイチ理解し難い。それが、ひょっとしてリン司令官の美人度にあったとすれば、中国流のハニートラップは宋の時代にも形を変えて存在していたことになるのだろうか・・・?それはともかく、本作では、チャン・イーモウ監督が12世紀の西洋と中国を結びつけるキーワードとして設定した「信任」の意味をしっかり考えたい。
<中国の皇帝は?人民は?首都防衛は?>
1949年10月1日に成立した新生中国、つまり中華人民共和国の首都は北京だが、中国歴代王朝の首都は、西安、洛陽、南京、北京等いろいろと変わってきた。しかして、12世紀の宋王朝の都はどこに?「グレートウォール」(=万里の長城)は、皇帝が住む首都とそこに住む人民を守るためのものだが、本作後半は、ウィリアムやリン司令官の奮闘にも関わらず、饕餮の大軍があまりにも強力なため、長城が突破され大量の饕餮がクイーンの指揮の下に首都に乱入してしまう事態になるから、宋帝国は万事休す。そう思えたが、そんな場面の中でもリン司令官たちは、大量の飛行船(?)に乗って首都に向かい、あくまで饕餮と戦い、首都と皇帝、人民を守る戦いに命を捧げるので、後半はそれに注目!
そこで、饕餮を倒す武器とて大きく浮上するのが、当時既に実用使用段階に入っていた火薬だ。これで、いちいち饕餮を倒しても埒が開かないが、饕餮全体を支配するクイーンの身近で火薬を爆発させクイーンを殺してしまえば、饕餮を全滅させる可能性あり!そんな戦略、戦術の下で本作のクライマックスに向けて、ウィリアムとリン司令官、ワン司令官たちのクイーン退治に向けての決死の戦いが決行されていくから、若干マンガ的ながら、それに注目!リン司令官による英語の通訳を介しながらのウィリアムとワン軍師との共同作戦は大変だが、そのチームワークの良さは抜群。その結果、多くの犠牲を払いながらも火薬を腹の中に仕込んだ生け捕りの饕餮をクイーンの近くに運び、そこに矢を放って爆発させることに大成功!さあ、その結果スクリーンに展開されていく、あっと驚く光景とは・・・?
本作で皇帝を演じたのは、中国の人気アイドルグループ TFBoys(The Fighting Boys)のリードボーカルのワン・ジュンカイで、本作が俳優デビュー作らしい。その音楽界における実力は全く知らないが、彼が演じる皇帝の饕餮への興味の示し方をみていると、ハッキリ言って「馬鹿」と言わざるを得ない。こんなバカ皇帝のために、みんなが命を張って饕餮から宋帝国を守っているのかと思うといささかイヤになってくるが、国とはなにか?皇帝とは何か?人民とは何か?を考えながら、饕餮からの首都防衛の意味をしっかり考えたい。
2017(平成29)年4月28日記