メッセージ(アメリカ映画・2016年) |
<TOHOシネマズ西宮OS>
2017年5月27日鑑賞
2017年5月31日記
奇妙な形の宇宙船でやって来た地球外生命体(エイリアン)!そんな「SFもの」には「戦争型」と「問題提起型」の2種類があるが、本作は『第9地区』(00年)と並ぶ後者の典型。アカデミー賞の作品賞、監督賞は逃したが、図形のような文字に込められたメッセージとは?
女性言語学者の脳裏にいつも登場する一人娘ハンナは、なぜ前から読んでも後ろから読んでも「HANNAH」なの?過去・現在・未来の時間軸ってホントに絶対なの?
科学的追究にこだわればさっぱりわからなくなるから、そこはほどほどにして、本作のエッセンスを大づかみし、3000年先の地球を救うためにやって来たエイリアンからのメッセージをしっかり受け止めたい。
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監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原作:テッド・チャン 「あなたの人生の物語」(ハヤカワ文庫刊)
ルイーズ・バンクス(言語学者)/エイミー・アダムス
イアン・ドネリー(物理学者)/ジェレミー・レナー
ウェバー大佐/フォレスト・ウィテカー
ハルバーン捜査官/マイケル・スタールバーグ
マークス大尉/マーク・オブライエン
シャン上将/ツィ・マー
2016年・アメリカ映画・116分
配給/ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
<近時のハリウッドは「SFもの」が豊作!>
近時のドイツ映画では、『顔のないヒトラーたち』(14年)(『シネマルーム36』43頁参照)、『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(15年)(『シネマルーム36』36頁参照)、『帰ってきたヒットラー』(15年)(『シネマルーム38』155頁参照)、『手紙は憶えている』(15年)(『シネマルーム39』83頁参照)、『ヒトラーの忘れ物』(15年)(『シネマルーム39』88頁参照)等の「ヒットラーもの」、そして、『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』(15年)(『シネマルーム38』150頁参照)、『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』(15年)(『シネマルーム39』94頁参照)、『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』(15年)(『シネマルーム39』101頁参照)等の「アイヒマンもの」が多い。
それに対して、近時のハリウッド映画では、「アメコミもの」「スパイもの」「戦争もの」と並んで「SFもの」が豊作!最近の話題作は、『ゼロ・グラビティ』(13年)(『シネマルーム32』16頁参照)『インターステラ』(14年)(『シネマルーム35』15頁参照)『オデッセイ』(15年)(『シネマルーム37』34頁参照)等だ。それらは軒並みアカデミー賞にノミネートされているが、さて本作は?
<この監督の名前もインプット!>
本作は第89回アカデミー賞で監督賞、作品賞等8部門にノミネートされたが、残念ながら受賞したのは音響編集賞のみだった。しかし、本作のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、私が星5つをつけた『灼熱の魂』(10年)(『シネマルーム28』62頁参照)、『プリズナーズ』(13年)(『シネマルーム33』139頁参照)、星4つをつけた『複製された男』(13年)(『シネマルーム33』275頁参照)を監督した1967年生まれのカナダ人監督で、徐々に世間の注目を集めている。
本作は、テッド・チャン原作の『あなたの人生の物語』に基づくもの。そして、パンフレットの中でドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、「多層的に心の底に響いた。自分がいつ、どうやって死ぬかわかったらどうなるか。人生、愛、家族、友人、社会との関係はどうなるか。死、そして命の性質やその機微を真摯に見つめることで、僕らはより謙虚になれる。今、人類にはその謙虚さが必要なんだ。今の時代、ナルシズムが蔓延し、自然との繋がりが危険なほど失われている。この素晴らしい短編小説のおかげで、死や自然、命の謎との関係を取り戻すことができた」と語っている。原作も本作も、エイミー・アダムス扮する言語学者ルイーズ・バンクスを主人公とした何とも難解なSFものだが、その中に込められている様々な「メッセージ」は深くかつ重い。直近で観た『パッセンジャー』(16年)はイマイチだった(『シネマルーム39』未掲載)が、それとよく似たタイトルの本作『メッセージ』は必見!そして、その監督の名前はインプットしておく必要あり!
<SF映画の新たな第1歩を!そのメッセージとは?>
安い予算でも、新人監督でも、スターなしでも、企画さえよければ映画は大ヒット!その典型が、ニール・ブロムカンプ監督の『第9地区』(09年)だった(『シネマルーム24』30頁参照)。同作では、「人間以外立入り禁止」の看板が溢れる南ア、ヨハネスブルグの上空に留まる宇宙船と、それに乗ってやって来た地球外生命体(エイリアン)の難民ぶり(?)が異色だったが、さて本作に見る奇妙な形をした宇宙船は?その中に乗っている(?)エイリアンの姿は?彼らが語る言葉は?そして、何よりも彼らが地球にやって来た目的は?
本作のパンフレットには、「※このページ以降は、必ず映画ご鑑賞後にお読み下さい。」と注意書きされた「REVIEWS」が1から12まで12本収録されているが、これらはそれぞれ力作で、興味深いものばかりだ。その2番目に松浦泉(ライター)の「世界観の変革と新たなレベルの体験を観客にもたらす『メッセージ』」があり、そこでは、「『月世界旅行』(1902)から『インデペンデンス・デイ』(96)まで、ファースト・コンタクトはこれまでも何度も描かれてきた。だが『2001年宇宙の旅』(68)などわずかな例外を除けば、異星人が真に「想像を絶する存在」として登場したことはない。『メッセージ』は、テッド・チャンの原作をただSFスペクタクルの素材として利用するのではなく、小説の革新的なアイデアそのもの――人類と異なる認識の枠組みを想像すること――の映像化に成功している」と書かれている。
本作は、言語学者のルイーズとその盟友となる物理学者イアン(ジェレミー・レナー)が、苦労を重ねながらアボットとコステロと名付けた2体のエイリアンとの間で、彼らのタコ足のような7本の指(?)から吐き出される図形のような文字(?)を読み解いていく中で少しずつ「対話」を成立させていき、それによって、「全面戦争」の回避に成功する物語。そんな場合、何といっても難しいのはファースト・コンタクトのあり方だ。それについて、同REVIEWは、最後に「想像を越えた存在に対して自分を開き、未知の思考を受け入れること。世界が自閉し、排他的になろうとしている現在だからこそ、この映画のメッセージはひときわ鮮烈に映る」とまとめているので、その言葉をしっかりかみしめたい。
<時間軸とは?過去・現在・未来をどう考える?>
織田信長の時代は「人間50年」だったが、今は、男性80歳、女性86歳の時代。他方、秦の始皇帝は不老不死の薬を求めたが叶わず、時間だけはどんな英雄も金持ちも関係なくすべての人間に平等に与えられている。誰もがそう考えているが、さて、時間軸はホントに過去・現在・未来と流れていくものなの?
本作冒頭のスクリーン上には、湖畔の家に一人で住むルイーズが、時おり死んだ一人娘のハンナとの何気ない日常が脳裏に浮かんでくるシーンが登場する。そこでのハンナの年令は反抗期のティーンエンジャーだったり、いたいけな赤ん坊だったり、その都度違っている。それはある意味当然だが、本作全般を通して何度もルイーズの脳裏に登場するハンナの姿をみていると、それはかなり変。つまり、ルイーズの脳裏に描かれるハンナの像は必ずしも過去だけではなく、未来の姿も描いているらしい。
ルイーズは、エイリアンが示す図形の解読作業を続ける中で、エイリアンの文字(図形)では3000年後の地球のことも現在と同じ座標軸にあることを理解し始め、それと共に、自らの人生における経年も、今まで生きてきた時間軸の概念を超越したのもになっていくことを知るわけだ。なるほど、なるほど。しかし、なんとなくわかったような、わからないような・・・。
<同じ日に、同窓会で、同級生から同様の講義を!>
ちなみに、私は本作を鑑賞した5月27日の夕方、愛光学園卒業50年周年「68歳記念関西大会」に出席し、U氏が語る「宇宙はどのように生まれたのか」と題する10分間講義を聴いた。そこでは、「アインシュタインの法則」や「光の速度」「宇宙の膨張」等の話と共に、「時間軸」のあり方についての興味深い話が展開されていた。その趣旨が本作に登場する理論と同じかどうかは私にはわからないが、とにかく、人間は必ずしも過去のことしか認識できないのではなく、未来も認識できるらしい・・・?
本作に見るルイーズの思考経路は、ネタバレを恐れずに説明すれば、要するに今回の宇宙船は地球を攻撃するためにやって来たのではなく、3000年後の地球の危機を救うためにやって来たものらしい。なるほど、なるほど・・・。
しかして、本作の鑑賞後に読むべきREVIEWSの10番目には、大森望(書評家)の「名作小説の核心を、鮮やかに映像に転写させたSF映画の傑作の誕生」と題するREVIEWがあり、そこでは「変分原理」「フェルマーの原理」を解説した上で「『ブレードランナー』から35年、原作と同じく長く歴史に残るSF映画の傑作が誕生した」と結んでいる。もちろん、これ自体何回読んでもどこまででわかったのか自体がよくわからないREVIEWだが、とにかく本作では、「時間軸」についてよくよく考えることが不可欠だ。それによって私もあなたも本作のヒロイン、ルイーズと同じ思考経路に立てば、たちまち世界は平和に・・・?
<宇宙船に対する各国の対応は?米国は?中国は?>
映画『ゴッドファーザー』(72年)の舞台となったイタリアのシチリア島のタオルミーナで5月26、27日に開催されたG7サミットでは、トランプ大統領の過激発言が注目(?)されたが、何とかまとまり、北朝鮮問題について「G7宣言」には「新たな段階の脅威」との文言が盛り込まれた。しかして、宇宙船の出現という地球全体の非常事態ともなれば、国連軍を中心に世界各国がまとまって対応すべきが当然だ。ところが本作では、交戦の準備をし始める国、相手の出方を伺おうとする国、と各国の対応は分かれ、協力し合ってコトに当たろうとする気配は全くない。
本作で、ルイーズに対して①宇宙船内にいる異生物が発する音や波動から彼らの言語を解明すること、②彼らに何らかの手段でこちらのメッセージを伝えることを要請したのは、米軍のウェバー大佐(フォレスト・ウィテカー)。もっとも、彼は中間管理職として動いているだけで、米軍全体を動かしている司令官がいるはずだが、本作にはそれは登場しない。他方本作には、対宇宙船戦略についてのキーマンとして中国人民解放軍のシャン上将(ツィ・マー)が登場する。各国は連日のように宇宙船の映像を映し出し、その対応策を協議しているが、しびれを切らした中国はどうやら核攻撃を狙っているらしい。しかし、そんなことになれば地球は一瞬のうちに崩壊してしまうのでは・・・?
『キネマ旬報』2017年6月上旬特別号の「REVIEW 日本映画&外国映画」では、佐々木敦、那須千里、山口剛の3氏が本作について星5つ、5つ、4つを付けている。私は、この採点にも納得だが、とりわけ那須千里氏の「ドラマの行方を左右する局面での中国のポジションが、今の国際社会における中国のそれと多分に関係しており、政治的にも映画を含む産業的にも如実に反映されている」との指摘が興味深い。『インデペンデンス・デイ リサージェンス』(16年)(『シネマルーム38』未掲載)では、インターナショナル・レガシー大隊の女性パイロットとして中国人美女を登場させた。しかし、それがハリウッドの中国(市場)に対する露骨なゴマすりであることは明らかで、それは前述の『ゼロ・グラビティ』や『オデッセイ』も同じだった。すると、本作にみるシャン上将の登場はさもありなん・・・?しかも本作のラストでは、ルイーズがこのシャン上将と直接電話で交信することによって、世界が大きく変わるというストーリーが大きなポイントとなるので、本作はハリウッド映画ながら、中国(軍)の動静にも十分注意を・・・!
<キネ旬でも大特集!>
『キネマ旬報』2017年5月下旬号は「『メッセージ』ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督インタビュー」を載せたが、その内容はパンフレットにある監督インタビューとほぼ同じものだった。
ところが、それに続いて、『キネマ旬報』2017年6月上旬特別号は、58頁から65頁にわたって「『メッセージ』を読む3つの角度─SF/サウンド/文字」を載せたからすごい。3つの角度とは、①SF、②サウンド、③文字だが、ここまで掘り下げて本作を分析したのは一体なぜ?3人の解説者はそれぞれの分野における専門家だからその内容は難しいが、もともと内容の難解な本作をホントに読み解くためには、パンフレットに収録されている前述の12本の「REVIEWS」とともに、これらを読み解くことが不可欠だ。
<本作の「メッセージ」をしっかり受け止めよう!>
『第9地区』が放ったメッセージは特異だったが、本作で言語学者のルイーズがエイリアンとの「対話」を通じて放つメッセージもかなり特異だ。その理解はかなり困難だが、理論的な追究はほどほどにして、そのエッセンスを大づかみしたうえで、しっかり受け止めたい。もっとも、現在一緒に働いている物理学者のイアンが自分の夫で、再三再四、自分の脳裏の中に浮かんでくる一人娘ハンナの父親がこのイアンであることを自分一人だけが理解した時のルイーズの心境はいかに・・・?
ちなみに、日本にはかつて「上から読んでも山本山、下から読んでも山本山」という某社の海苔のコマーシャルが人気だったが、ハンナを英語でつづると「HANNAH」だから前から読んでもハンナ、後ろから読んでもハンナとなる。なぜルイーズが自分の娘にそんな風に、前から読んでもハンナ、後ろから読んでもハンナと名付けたのかはわからないが、過去は過去ではなく、未来は未来でもないという「時間軸」をテーマとした本作では、娘にそんな名前を付けたこと自体が本作の本質を見事に象徴している。そんなことも考えながら、作の「メッセージ」をしっかり受け止めたい。
2017(平成29)年5月31日記