ブラッド・ファーザー(フランス映画・2015年) |
<シネ・リーブル梅田>
2017年6月6日鑑賞
2017年6月9日記
還暦を過ぎた男が昔のサバイバル術を駆使して愛する娘を救出!そんなテーマは、リーアム・ニーソン主演の『96時間』3部作と同じだが、まずはフランス色とアメリカ色の違いに注目!
かつての『マッドマックス』3部作(79年)(81年)(85年)で名を馳せたメル・ギブソンが荒野で復活した本作は、フランス映画ながらアメリカ色プンプンだ。
出来の悪い父親にとっては、出来の悪い娘でもかわいいもの。その娘がギャングたちに命を狙われているとあっては、父親たるもの、命を張って娘を守らなければ・・・。そんなワン・イシュー(issue)の単純な映画だが、意外にドキドキハラハラの展開に満足。そして、少し意外な結末を、あなたはどうみる・・・?
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監督:ジャン=フランソワ・リシェ
ジョン・リンク(元犯罪者)/メル・ギブソン
リディア・リンク(ジョンの一人娘)/エリン・モリアーティ
ジョナ(リディアの恋人)/ディエゴ・ルナ
カーヴィ(ジョンの親友)/ウィリアム・H・メイシー
説教師/マイケル・パークス
友人/ミゲル・サンドバル
2015年・フランス映画・88分
配給/ポニーキャニオン
<1956年生まれの俳優メル・ギブソンに注目!>
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年)はメチャ面白かった(『シネマルーム36』232頁参照)。その狂気の世界の基を築いたのは、俳優メル・ギブソンだ。『マッドマックス』(79年)、『マッドマックス2』(81年)、『マッドマックス3』(85年)と続いたシリーズは絶大な人気を誇ったが、残念ながら私はそれをテレビでチラホラしか観ていない。もっとも、『マッドマックス』シリーズ以外の彼の俳優としての活躍ぶりは、私が書いているものだけでも『サイン』(02年)(『シネマルーム2』237頁参照)、『パパラッチ』(04年)(『シネマルーム10』326頁参照)がある他、テレビで観たものは、『身代金』(96年)、『パトリオット』(00年)等々たくさんある。
他方、メル・ギブソンは、監督としての活躍ぶりもすごく、近々公開される『ハクソー・リッジ』(16年)は第89回アカデミー賞作品賞、監督賞等6部門にノミネートされ、編集賞、録音賞を受賞している。また、『パッション』(04年)はすごい映画だった(『シネマルーム4』261頁参照)し、『アポカリプト』(06年)(『シネマルーム14』19頁参照)も面白かった。
過去のそんな活躍からわかるとおり、彼は1956年生まれだから既に還暦を過ぎている。したがって、その1人娘が本作のリディア(エリン・モリアーティ)くらいの歳になっているのは当然だが、この歳でなお、かつての『マッドマックス』シリーズのように大型バイク(ヘリテイジクラシック)に乗って大暴れするの?
<『96時間』に対抗?そのテーマは「娘を守る!」>
本作は、なぜかハリウッド俳優メル・ギブソンの主演だが、フランス映画。他方、妻や娘を守るためなら何だって!そんな男の美学で、悪に立ち向かう男のアクションと知恵を見せつけたのが、フランス人俳優リーアム・ニーソン主演のアメリカ映画『96時間』3部作。つまり、『96時間』(08年)(『シネマルーム23』未掲載)、『96時間/リベンジ』(12年)(『シネマルーム30』未掲載)、『96時間/レクイエム』(14年)(『シネマルーム35』132頁参照)の3作だ。『96時間』3部作における、メル・ギブソンと同じく還暦を過ぎてのリーアム・ニーソンの「還暦越えアクション」の冴えは素晴らしかったが、さて本作にみるメル・ギブソン演じるジョン・リンクのアクション能力、そしてサバイバル能力は?
タイトルからわかるとおり、ある血なまぐさい事件(犯罪)で刑務所に入っていた彼は、今は荒野のトレーラーハウスでタトゥ屋を営みながらアルコール中毒のリハビリをしつつひっそりと暮らしていた。そんなある日、数年前から行方不明になっていた一人娘のリディアが現れたから、彼は大喜びするとともにビックリ!多額の懸賞金を掛けても容易に見つからなかったリディアが、なぜ自分から電話をかけ、舞い戻ってきたの?本作冒頭は、リディアがワケのわからないギャングの仲間たち(?)と共に登場し、とある屋敷に殴り込みをかけるシーンから始まる。そこでは恋人のジョナ(ディエゴ・ルナ)も一緒で、ジョナは一生懸命リディアを鼓舞して犯行に協力させようとしたが、パニック状態のリディアには何が何やらさっぱりわからないらしい。その結果、リディアは手にした拳銃で撃つ相手を間違え、何とジョナを撃ってしまうことに・・・!
彼らはメキシコ系のドラッグギャング団らしいから、その巨大な組織が18歳のリディアの裏切り行為を許せないのは当然。そのため、荒野のトレーラーハウスに住む父親の元に逃げ込めばひと安心。そんなリディアの期待はわずか1、2日間だけで、父娘が再会を喜んだのも束の間、トレーラーハウスの前にはギャング団たちが車で乗りつけ、ド派手に銃をぶっ放すことに。この危機はトレーラー・タウンの「仲間」たちが救ってくれたが、とにかく命あっての物種。一刻も早くここをずらかり、ギャング団から父娘の消息を消してしまわなければ・・・。
<逃走、迎撃、反撃!還暦オヤジの実力は?>
リディアを追うギャングたちは若いだけにエネルギーがあり余っているが、あまり頭は良くなさそう。それに対して、本作中盤の一人娘リディアを連れての脱出行に見るジョンは、いつもギリギリのところで危機を脱しているが、それなりの計算が働いているらしい。それを支えるのが、トレーラーハウス・タウンの親友や刑務所内の仲間、さらにはかつての犯罪の仲間たちだ。いずれも真っ当な社会人とは言えないが、ジョンとの関係ではそれなりの信義を守り、それなりの役割を果たすので、還暦を過ぎた主人公のそんな人脈に注目!
さらに、彼が大型バイクでブイブイいわせたのは随分昔のことだが、トレーラーハウスを見限り、かつての愛車・ハーレーにまたがって逃走の旅に出る姿は十分サマになっている。しかして、ドラッグ・カルテルの組織あげての追撃に対して、逃走、迎撃、反撃する還暦男のサバイバル能力は?
リーアム・ニーソン主演の『96時間』3部作と同じく「娘を守る」という単純なテーマながら、自己反省を込めたジョンの父親としての娘に対する愛を還暦を過ぎてなお発揮するためのサバイバル能力の冴えを十分堪能したい。
<この潔さに感服!この結末をどう見る?>
『96時間』3部作は、いかにも生真面目そうなリーアム・ニーソンの個性もあって、ユーモア的要素はほとんどなかった。それに対して、メル・ギブソン主演の本作は、父娘の愛憎劇(?)の回顧にもユーモア色が散りばめられているし、現在進行形の逃走劇やサバイバル術発揮シーンにもたくさんのユーモア色が入っているから、それに注目!
他方、ジョンの方は徹底的にサバイバル術に長けていても、リディアにそれを求めるのは無理。そのためジョンがリディアに「ここを動くなよ」と言い残したまま刑務所内の仲間を訪れている間に、リディアに異変が発生!リディアを人質に取られたまま、ギャングたちが要求する場所に1人で出向けば、そこでの悲惨な結果はみえみえだが、さてジョンはどうするの?そこでの見どころは、ジョンが乗って行った愛車・ハーレーへのある「仕掛け」だが、さてそれはどんなもの・・・?さらに、娘の救出に向かったのはジョン1人だから、多勢に無勢であるのは最初から明らか。そのため、敵の一瞬の隙を突く戦術に成功しても、その後の対応は・・・?
『96時間』3部作はいずれも、妻や娘の救出に成功するハッピーエンドになっていたが、それはひょっとして最初からシリーズ化を狙っていたため?まさかそんなことはないだろうが、ハッピーエンドが約束されていると、ある意味ストーリーが単純化することは避けられない。しかし、既に『マッドマックス』シリーズを完結させたメル・ギブソンが、還暦を過ぎて荒野に完全復活させた本作は、ハナからシリーズ化を狙っていないのは当然。すると、そのエンディングのつくり方の幅が広がるのも当然だ。しかして、本作の結末を、あなたはどう見る・・・?ワン・イシューの単純の映画だが、『96時間』3部作と対比しつつ、「父娘の愛」を再確認するのも、たまにはいいのでは・・・?
2017(平成29)年6月9日記