ある決闘 セントヘレナの掟(アメリカ映画・2016年) |
<梅田ブルク7>
2017年6月10日鑑賞
2017年6月16日記
久しぶりに観る「ウエスタン・ノワール第2弾」の西部劇は潜入捜査モノ。ダルビッシュ有が入団し活躍している大リーグ球団・テキサスレンジャーズの由来とは?また、ヘレナ式決闘とは?
トランプ大統領の登場以降アメリカとメキシコの国境が注目されているが、『アラモ』(60年)がホントの真実?それとも、テキサスはアメリカが奪い取った土地?
そんな歴史の上に先住民の存在も絡ませながら、独自の法により州内の自治を守った“テキサス・レンジャー”の、ある活躍ぶりを本作でしっかり確認したい。
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監督:キーラン・ダーシー=スミス
エイブラハム・ブラント(説教師)/ウディ・ハレルソン
デヴィッド・キングストン(テキサス・レンジャー)/リアム・ヘムズワース
マリソル(デヴィッドの妻)/アリシー・ブラガ
アイザック(エイブラハムの息子)/エモリー・コーエン
ナオミ(アイザックの愛人)/フェリシティ・プライス
カルデロン将軍(メキシコ)/ホセ・ズニーガ
ロス州知事(テキサス州)/ウィリアム・サドラー
モンティ/クリス・ベイカー
デール/クリス・ベリー
ジョージ/ベネディクト・サミュエル
ジョン/ジャイルズ・マッシー
2016年・アメリカ映画・110分
配給/クロックワークス・東北新社・STAR CHANNEL MOVIES
<久しぶりの西部劇はウエスタン・ノワール第2弾!>
かつてのハリウッド映画では西部劇が花盛りだったが、近時は激減。最近の西部劇の傑作は、黒澤明監督の『七人の侍』(54年)をリメイクした『荒野の七人』シリーズ第5作となる『マグニフィセント・セブン』(16年)(『シネマルーム39』296頁参照)とクエンティン・タランティーノ監督の『ヘイトフル・エイト』(15年)(『シネマルーム37』40頁参照)だった。しかして、本作は近時公開された第1弾『悪党に粛清を』に続く「ウエスタン・ノワール」第2弾。これは、「スターチャンネル・ムービー」が、「映画の本来の魅力、感動と興奮と涙と笑いがいっぱい詰まった良質の作品を、世界中から厳選してお届けする、映画のラインナップ」らしい。
本作の事前情報はあまりなかったが、本作の企画はマット・クックの『ザ・ブラックリスト(優秀脚本を選ぶ賞)』に選ばれた脚本からはじまったそうだから、きっと面白いに違いない。ちなみに、パンフレットのINTRODUCTIONには次の通り書かれている。すなわち、
『グランド・イリュージョン』など数々のハリウッド大作に出演しているウディ・ハレルソンと『ハンガー・ゲーム』シリーズなど若手NO.1の人気を誇るリアム・ヘムズワースというハリウッドきっての演技派二人がタッグを組んだ本作は、『パトリオット・デイ』(6月公開)でも脚本を務めたマット・クックの「ザ・ブラックリスト(優秀脚本を選ぶ賞)」に選ばれた脚本からはじまった。キーラン・ダーシー=スミス監督は、従軍経験のあるクックと共に伝統的なウエスタンの“決闘”というモチーフを中心に据えながらも、そこに<国境><信仰><暴力>など建国から続くアメリカの闇を映し出し、聖書的寓話とミステリーが織りなすウエスタン・ノワールを完成させた。
西部劇が大好きな浜村淳氏は6月2日付朝日新聞夕刊に本作のインタビューを載せており、そこでは本作への愛着ぶりが軽妙に語られていた。そんな記事を読んだこともあって、私は久しぶりに正規の料金を払って映画館で本作を鑑賞することに・・・。なお、本作の鑑賞に刺激を受けた私は、その日の夜に、近時BS3(プレミアム)で録画した『壮烈第七騎兵隊』(42年)を観た。これは昔のハリウッドの西部劇を代表する傑作だが、本作のテイストは当然そのテイストとは全く違ったもの。さて、その面白さは・・・?
<本作では次々とこんな新発見!あんな新発見!>
2012年ダルビッシュ有がアメリカ大リーグのテキサス・レンジャーズに入団したことによって、テキサス・レンジャーが有名になったが、そもそも、「テキサス・レンジャー」って一体ナニ?それを、本作ではっきり知ることに。また、本作のタイトルになっている「セントヘレナの掟」って一体ナニ?私は「巌流島の決闘」はよく知っていたが、「ヘレナ流決闘」は全く知らなかった。これは、互いの左手を布で繋ぎ合わせ、右手のナイフでどちらかが死ぬまで闘うテキサス州ヘレナでかつて行われた決闘方式らしい。なるほど、なるほど・・・。
私は『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(16年)(『シネマルーム39』63頁参照)を観て、アメリカの南北戦争の時代に「ジョーンズ自由州」と称して南部から独立し、「ジョーンズ自由州4原則」を宣言したニュートン・ナイトという男がいたことをはじめて知った。また、トランプ大統領就任以降、アメリカとメキシコの国境問題と移民問題が急浮上しているが、私にとって『エスコバル 楽園の掟』(15年)(『シネマルーム33』未掲載)と、『カルテル・ランド』(15年)(『シネマルーム38』114頁参照)は、1848年に国土の約半分をアメリカに割譲してから今日までのメキシコ麻薬戦争をテーマにした興味深い映画だった。さらに、ジョン・ウエインが主演した『アラモ』(60年)とそれを近時リメイクした『アラモ』(04年)(『シネマルーム6』112頁参照)は、メキシコからテキサスを守ったというテイストの映画だった。しかし、本作では、冒頭のこんな字幕で次の歴史を勉強することなる。すなわち、
1846年、アメリカがテキサスを奪う形でメキシコに戦争を仕掛け、戦後の両国の国境はリオ・グランテ川に制定された。アメリカ先住民やメキシコ人と白人入植者の衝突が何十年も続く中、秩序維持を担う一団があった。独自の法により州内の自治を守った“テキサス・レンジャー”である。
なるほど、なるほど、本作では次々とこんな発見!あんな発見を!
<サスペンスウエスタンの本作は潜入捜査もの!>
本作では、まず冒頭の「ヘレナ流決闘」に注目!その勝者はエイブラハム(ウディ・ハレルソン)だ。敗者となって横たわっている男の側ににじり寄り、じっとエイブラハムを見つめる少年に注目!この少年こそ、その22年後にテキサス・レンジャーとしてテキサス州知事(ウィリアム・サドラー)の要請によって、マウント・ハーモンという町への潜入捜査を開始することになる男デヴィッド(リアム・ヘムズワース)だ。
テキサス州ヘレナで、神を信じない無宗教の男ジェシーと神を信じる男エイブラハムがヘレナ式決闘をしたのは1866年。それから22年後の1888年、シャイアン族の戦いを終えたにもかかわらず、アメリカとメキシコとの国境として定められたリオ・グランテ川には、毎日何十という死体が流れ着いていた。その中に以前から姉弟で行方不明だったメキシコのカルデロン将軍の甥の死体が見つかったことによって怒ったカルデロン将軍は、未だ行方不明の姪と犯人を捜すため大部隊を出すと息巻いているらしい。そこで、これ以上戦争を望まない州知事は、事件を解決するために死体が流れ着く川の20キロほど上流にある町マウント・ハーモンへの潜入捜査をデヴィッドに命じたわけだ。なるほど、なるほど・・・。
すると、現在マウント・ハーモンの町を牛耳っているのは、22年前のあの時、ヘレナ式の決闘でデヴィッドの父親ジェシーを殺したあの男、エイブラハム?当然そんな予想ができたが、さてそんな予想の成否は?
<予想がピタリ!2人の男の対比は?>
本作にみるエイブラハムのセリフ回しには独特のものがあり、少しくどいが、それが「説教師」という役柄がピッタリ。しかし、そもそも説教師って一体ナニ?本作でエイブラハムは、そんな説教師であると同時にマウント・ハーモンの町長のような役割を担っていたから、私の予想がピタリと的中。他方、古典的な西部劇ではインディアンによる「頭皮狩り」の習慣が有名だが、エイブラハムも頭皮狩りで千人の先住民、黒人、メキシコ人を虐殺して名を挙げていたらしい。さらに、民兵団を率いて北軍を殺りくし、死と暴力にとりつかれたうえ、マウント・ハーモンに小さな自分の王国を築いていたらしい。彼のそんな「蛮行」を支えているのは、本作全編を通じて示される、彼の強い意志の力と独自の理念だ。そんな彼には、アイザック(エモリー・コーエン)という息子がいたが、一代目に比べると、どうみても二代目の存在感の無さと馬鹿さ加減が目立っている。
他方、デヴィッドはあくまでテキサス・レンジャーとして州知事に命じられた任務を全うするためにマウント・ハーモンの町にやってきたもの。したがって、その町長たるエイブラハムが自分の父親殺しの犯人だとわかっても、それはヘレナ式決闘の結果と割り切っており、エイブラハムに対して個人的恨みを晴らすつもりはなかったから、思いがけずエイブラハムから保安官の仕事を任せられると、その話に乗っていくことに・・・。デヴィッドは、テキサス・レンジャーとして特別の訓練を経ているわけではないようだが、度胸の座り方はもちろん、射撃も格闘も抜群。そのうえ知的レベルも高いから、エイブラハムの息子アイザックとは大違いだ。そうすると、ひょっとしてエイブラハムはデヴィッドに対して理想の息子の姿を・・・?逆にデヴィッドは、エイブラハムに対して理想の父親の姿を・・・?
<美しい妻の「奪い合い」が絡むと・・・>
デヴィッドにとって誤算だったのは、「一人で家に残るのはイヤ」と駄々をこねた妻マリソル(アリシー・ブラガ)の希望を聞き入れて一緒にマウント・ハーモンの町にやってきたこと。そして、そのために美しい妻の「奪い合い」問題が発生したことだ。エイブラハムがマリソルに興味を示したのはもちろんマリソルが美人だったためだが、エイブラハムのマリソルへのアプローチ(誘惑?)を見ていると、それ以上に何かがありそうだ。他方、マリソルの方はそんなエイブラハムの誘惑をはねつければいいだけだが、それが何故か中途半端。さらに、デヴィッドの目で見ると、マリソルもどこかでエイブラハムに対して興味と関心を持っているように思えたから、アレレ・・・。こりゃヤバイ。そう思っていると、いろいろと・・・。本作中盤では、親子ほど歳が離れているエイブラハムとデヴィッドのキャラが、直接ぶつかり合うだけではなく、そこにエイブラハムの息子アイザック、デヴィッドの妻マリソル、デヴィッドの亡父親ジェシーのキャラが複雑に絡まってくるので、それをしっかり観察したい。
本作のパンフレットには、添野知生氏の「言い知れぬ不穏さを纏った『父殺し』の物語」と題する「CRITIC」があり、そこでは、エイブラハムの息子アイザックへの思いとデヴィッドの父親ジェシーへの思いの中で互いに理想的な父親と理想的な息子を感じ合いながら、トコトン対立に向かっていくエイブラハムとデヴィッドのあり方を興味深く論じているので、それに注目!ちなみに「父親殺し」をテーマにした最も有名な作品はシェークスピアの『ハムレット』だが、潜入ものの西部劇たる本作のそんなテイストは珍しいので、本作ではそこに注目!
<2人の女性に注目!さらにラストの女性にも!>
西部劇では男のキャラがメインとなり、女は添えもの的になるのは仕方ない。しかし本作では前述したデヴィッドの妻マリソルと、マウント・ハーモンの町で娼婦をしている女ナオミ(フェリシティ・プライス)という2人の女性がストーリー構成上大きな役割を果たすので、それに注目!
マリソルはデヴィッドを愛しているにもかかわらず、「自分を憎んでいる人は愛せない」と意味シンなセリフを吐くうえ、デヴィッドにせがんで同行したマウント・ハーモンの町の滞在中には、エイブラハムからの度重なるアプローチ(誘惑?)のため何かとお騒がせ的な事件に巻き込まれることに・・・。他方、ナオミはエイブラハムの息子アイザックの情婦でもあるようだが、はじめて会ったデヴィッドにマウント・ハーモンの町の危険を暗示するから、かなりのワケあり女だ。デヴィッドがこの町にやってきた目的は潜入捜査で、決してエイブラハムへの復讐ではなかったが、エイブラハムがマリソルに対して格別の関心を示したことよって、デヴィッドの心の中に次第に荒波が広がっていくことに・・・。
さらに本作では、マウント・ハーモンの町の人たちがエイブラハムから提供されているメキシコ人「狩り」を有料で楽しむシークエンスが登場するのが大きなポイントになる。そして、本作ラストには、その檻の中に入っていた1人の若いメキシコ人女性が、大きな役割を果たすので、それにも注目!
本作はたくさんの問題提起に対する「正解」は提示していない。したがってラストのエイブラハムとデヴィッドの決闘についても、デヴィッドが勝利しても別にかまわないのかもしれないが、やはり最後は・・・?
<任務の達成は?ここでの「ヘレナ式決闘」はなぜ?>
デヴィッドがテキサス・レンジャーの一員として州知事の命令によって潜入捜査のためにマウント・ハーモンの町に入ってきたことを、エイブラハムがどこまで認識していたのかはストーリー構成上明確ではない。しかし、エイブラハムはデヴィッドがあの時の「ヘレナ式決闘」で殺したジェシーの息子であることや、何らかの目的を持って妻と共に自分が支配している町にやってきたことは明確に認識していたから、そんなデヴィッドを葬り去ろうとすれば、それは簡単なこと。しかし、本作のストーリー展開はそうではなく、エイブラハムはデヴィッドの自由な行動を最大限尊重し、好きなようにやらせたうえで、最後に自分の手でデヴィッドを殺そうとしたが、それは一体なぜ?本作では、そこらあたりが父と子を巡る確執を1つのテーマとして描かれているので、それに注目したい。
なお本作では、袋の中のねずみ状態となったデヴィッドに対して、エイブラハムの息子アイザックがあえて「ヘレナ流決闘」を申し込むので、それに注目!これは、一貫して出来の悪い息子としてスクリーン上に登場していたアイザックが、最後の土壇場で見せる唯一の男の意地であり、父親のエイブラハムに認めてもらうための最後のチャンス。もっとも、誰がどうみても冒頭で見たエイブラハムとジェシーとの「ヘレナ流決闘」と同じようにその結果はミエミエだが、なぜエイブラハムはあえてそんな決闘を認めたの?そして、その決闘を終えた後のエイブラハムとデヴィッドの最後の対決は・・・?
<最後の対決は?正義は勝者の手に?>
本作のクライマックスは、当然エイブラハムとデヴィッドの「ヘレナ流決闘」ではない方式での「対決=決闘」になる。そしてそこでは予想通り、デヴィッドが圧勝することになる。しかし、このような形でデヴィッドがテキサス・レンジャーとしての任務を果たし、エイブラハムの悪が明白となったことによって、勝者はデヴィッドと州知事(アメリカ合衆国)に決まるの?
テキサス・レンジャーズのダルビッシュ有投手は2017年のシーズンの出だしは好調だったものの、しばらくは足踏みが続いていた。それは、ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手も同様だが、ダルビッシュ有投手は6月12日(日本時間13日)の試合で7回1安打の快投を見せて、今年の通算成績を6勝4敗としたから、まずまず。
しかして、本作でテキサス・レンジャーの一員として任務を果たし圧倒的にエイブラハムをやっつけたデヴィッドは、勝者として州知事の下に報告に戻ったの?イヤハヤ、実はそうではない。それは一体なぜ?そのことをしっかり考えながら、本作の結末をじっくり味わいたい。
2017(平成29)年6月16日記