ゴールド 金塊の行方(アメリカ映画・2017年) |
<TOHOシネマズ西宮OS>
2017年6月17日鑑賞
2017年6月28日記
金脈探しの会社。そんなヤクザな会社(?)をどこまで信用するかは人それぞれだが、1990年代にアメリカで現実に起きたブリ・エックス(Bre-X)社による「ブリ・エックス事件」は史上最大の詐欺事件らしい。今世紀最大の金脈は嘘だった!170億ドルがパーに!それって一体ナニ・・・?
マシュー・マコノヒー演じる主人公ケニーは決して悪人ではなく、FBIですらその供述を信用した一流の企業人!そこまで言うと嘘になるが、そのキャラは面白い。共同出資者となる、これもホンモノかニセモノかよくわからないキャラの地質学者との共同作業が生み出した、嘘のような本当の大事件を本作で堪能したい。そして本作では、ラスト10秒の大どんでん返しにも大注目!
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監督:スティーヴン・ギャガン
ケニー・ウェルス(探鉱会社「ワショー社」社長)/マシュー・マコノヒー
マイケル・アコスタ(地質学者)/エドガー・ラミレス
ケイ(ケニーの恋人)/ブライス・ダラス・ハワード
ブライアン・ウルフ(投資銀行の敏腕バンカー)/コリー・ストール
/トビー・ケベル
/クレイグ・T・ネルソン
/ステイシー・キーチ
/ブルース・グリーンウッド
2017年・アメリカ映画・121分
配給/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント、STAR CHANNEL MOVIES
<怪演続きのマシュー・マコノヒーに注目!>
ハリウッドを代表する俳優マシュー・マコノヒーには、弁護士役がよく似合う。端正な青年弁護士役を演じた『評決のとき』(96年)と『アミス・タッド』(97年)を観れば、誰でもそう思うはずだ。それから15年後の『リンカーン弁護士』(11年)(『シネマルーム29』178頁参照)で観た、一見チョイ悪風のおじさん弁護士も、ほんとはすごく真面目で優秀な弁護士だった。しかし他方で、マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオの5作目のコンビとなった『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13年)(『シネマルーム32』38頁参照)で、株のカリスマブローカー役をチョイ役として演じたマシュー・マコノヒーがディカプリオ演じる主人公に株の投資で大きな影響を与えたように、俳優・マシュー・マコノヒーの存在感は抜群だ。
そんな彼が演技派としての本領を発揮したのが、体重を21kg減量して実在のHIV患者を演じた『ダラス・バイヤーズクラブ』(13年)(『シネマルーム32』21頁参照)。同作の怪演で第86回アカデミー主演男優賞を受賞したマシュー・マコノヒーが、本作では『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でウォール街を席巻した風雲児を演じたディカプリオと同じように、金の鉱脈をめぐって大騒動を起こすことになる。
本作冒頭に登場する、父親の下で一生懸命働いている時のケニー・ウェルス(マシュー・マコノヒー)はまだ若かったが、父親が死亡した後会社を引き継いだ彼は、それから7年も経つと、頭は禿げあがり、腹は出っ張り状態に・・・。しかし、若い時にゲットした美人妻のケイ(ライス・ダラス・ハワード)とは今もラブラブ状態であることは、時々見せる裸の姿を見れば明らかだ。「ワショー社」は、祖父の時代から続いてきた探鉱会社だが、いかにもバクチっぽい(?)鉱脈を探し当てるという会社の仕事は、今の時代いかなる状態に・・・?
<これも実話にもとづく物語!>
去る6月19日午後7時過ぎには、籠池泰典氏を前理事長としていた学校法人「森友学園」の補助金不正受給問題にメスが入り、大阪地検特捜部による家宅捜索が夜を徹して行われるという異例の事態になった。他方、私が弁護士10年目頃に世間を大騒がせしたのが、「豊田商事」事件だった。このように古今東西を問わず、世の中には常に「お騒がせ事件」が発生するものだ。
しかして、1990年代には世界を騒然とさせた、ブリ・エックス(Bre-X)社による「ブリ・エックス事件」と言われている史上最大の詐欺事件が発生したらしい。そして、この事件では、「今世紀最大の金脈は大嘘だった」という衝撃的な見出しが新聞に躍り、株式市場に大混乱をもたらしたらしい。本作は名前こそ変えているが、そんな大事件にもとづく物語だ。
そんな大事件を引き起こしたのは、長年父親のもとで修業を積み、社長職を継いだ今も鉱脈探し(とりわけ金脈探し)に命を燃やしているケニー。父親から引き継いだ会社は現在どん底状態で、株価はゼロだから、このままでは会社は倒産必至・・・。
<この地質学者の学説は?その実行力は?>
そんな状況下、藁にもすがる思いでケニーが頼ったのは、地質学者のマイケル・アコスタ(エドガー・ラミレス)。カール・マルクスの『資本論』は19世紀の世界を変える経済学の学説となったが、近時は、トマ・ピケティの『21世紀の資本』がそれに対抗するかの勢いを見せている。かつてマイケルが唱えたある学説はそれと同じぐらいの影響力をもったそうだが、今は廃れているらしい。したがって、今更そんな学説にすがっても駄目だと思うのが普通だが、インドネシアのジャングル内に大量の金脈が眠っていると信じているケニーが、今もインドネシアに住んでいるマイケルに金の採掘の話を持ち込んだところ、2人は意気投合!こうなれば、ケニーの仕事は投資家から金を集めること、マイケルの仕事は現地で金脈を掘り当てることになる。2人の権利はあくまで50対50だ。成功すれば儲けはすごいが、失敗すれば2人ともアウト。それがミエミエなだけに、2人は必死のパッチで頑張ったが、さてその結果は・・・?
学者は研究室に閉じこもって研究するのが普通だが、実践派で現場主義のマイケルは研究室ではなくいつも現場にいるから、その点はすごい。そういう意味で彼の実行力は折り紙つきだが、彼のそんな実行力は本作ラストの大どんでん返しにおいても大いに発揮されるから、それにも注目!
<会社の実態は?株式の上場とは?株価の動静は?>
資本主義経済の本質は富と労働力の集積。そして、それを可能にする最もポピュラーな手法が株式会社方式。これは要するに、多くの人々から金を集めること。つまり、利益を目的として投資を募ることだ。長い間弁護士をしていると、会社の経営問題はもとより、株式の上場問題に関与することもある。普通は、株式会社が株式を上場すれば一気に株価が上昇するが、それはその会社が公開され、その会社が将来的に利益を上げ続けると期待できるためだ。
インドネシアで金の鉱脈を発見したことによって、ワショー社は多くの投資家から投資を集め、ついに株式を上場した。それによって株価はどんどん上昇したから、ケニーとマイケルはウハウハだ。代表取締役の報酬をいくら取ったのかは知らないし、上場による1株あたりの利益がいくらあったのかも知らないが、スクリーンを見ている限りワショー社の急成長ぶりはすごい。そこで突然持ち上がってきたのが、ワショー社の株式上場を支援してきたウォール街の巨大投資銀行との提携問題(吸収合併問題)だ。さあ、そこでケニーとマイケルはいかなる立場を・・・?ちなみに、ハリウッド俳優のジョージ・クルーニーは、先日不動産開発を手がけるマイク・メルドマン氏と起業家ランディ・ガーバー氏と共に、2013年に立ち上げたテキーラのブランド・カーサミーゴスを、今般(6月22日)、英国の酒類メーカー・ディアジオに対して最大10億ドル(約1115億円)で売り渡したことが報道された。これによって、ジョージ・クルーニーが現実に10億ドルの現金を手にするのかどうかは知らないが、さてケニーはワショー社(の株)を投資会社に売り渡すことを合意するの?もちろん、そうすればケニーがジョージ・クルーニーと同じような大金持ちなるのは当然だが、ケニーが求めてきたのはそんな大金?それとも、それとは全然違う男の夢・・・?そこらあたりのケニーのこだわりを、本作ではしっかり確認したい。
<こんな国では、会社の浮沈も政治権力が決め手?>
日本では近時「森友学園」問題と「加計学園」問題を巡って総理大臣や文科省の忖度(そんたく・さじ加減)が世間を賑わせているが、韓国では、朴槿恵(パク・クネ)前大統領と崔順実(チェ・スンシル)との密着ぶりが明るみに出たことによって、大統領は辞任にまで追い込まれた。資本主義国でもそうなのだから、共産主義国である中国はもちろん、ケニーとマイケルが金脈を掘り当てたインドネシアでも、その採掘活動を続けていくためには、初代のスカルノ大統領のあとを引き継いだ二代目スハルト大統領との結びつきが不可欠・・・?スハルト政権は1968年から1998年まで30年間に続いた長期政権だったから、急成長したワショー会社の乗っ取りを企む投資銀行に対抗するべくケニーとマイケルが頼ったのが、スハルト大統領の(バカ)息子。その取り入り方は、いかにも自由奔放なケニーの面目躍如たるものがあり、投資銀行のエリートサラリーマンであるブライアン・ウルフ(コリー・ストール)には到底真似ができないやり方だから、本作では後半のそんな面白いストーリーにも注目!
日本で急成長したIT企業の1つが「ホリエモン」こと堀江貴文が起業した「ライブドア」だが、彼の若き起業者としての「光と影」は周知の通りだ。彼は小泉政権の時代に衆議院議員選挙に立候補する行動に出たが、これは明らかな失敗だった。やはり企業人としては、本作にみるケニーのように、うまく時の政治権力を利用して自らの会社と自らの地位を保つという戦略を立てることが大切だ。時の政治権力との結びつきをうまく利用したケニーとマイケルのやり方を見ていると、2人とも大したものだと大いに感心させられたが・・・。
<金脈は嘘?170億ドルがパーに?FBIの捜査は?>
戦後の高度経済成長期に起きた2度の石油ショックや1990年前後のバブル崩壊、さらには2008年のリーマンショック等はいずれも日本経済に大きな影響を与えたが、消費者問題として日本最大の事件は、1970年代に起きた「豊田商事」事件だ。そして、アメリカで1990年代に起きたブリ・エックス(Bre-X)社による「ブリ・エックス事件」は、これに匹敵するほど世間(の投資家)を騒がせる大事件だったはずだ。
本作中盤以降は、金脈を発見したとのニュースに有頂天になり、会社の株価が急上昇するにつれて生活ぶりがどんどん派手になっていくケニーの姿が描かれる。普通こうなれば、女を作って家庭生活が乱れることが多いが、その方面のケニーは意外に堅実だった(?)から、それにも注目!ところが、それでもある時ちょっとした行き違いから「糟糠の妻」ともいうべきケイがすね始めたから、ケニーは大変。さらに、業績絶頂期の中であの金脈は嘘だったというニュースが流れたから、ケニーは大仰天。すると、170億ドルがパーに・・・?そんなバカな・・・?そんな嘘を一体誰が・・・?もし嘘だという話が本当だとしたら、その張本人はマイケルしかいないが、そんなバカな・・・?
そこまで世間を騒がせる大事件=経済事犯ともなれば、アメリカではFBIが動きだしたのは当然。ケイとの別れという辛い状況下でFBI捜査官と対峙したケニーは、そこで思いのたけを語り、自分は無罪だと主張したが、さて、そんな弁解は通用するの・・・?
<ラスト10秒の大どんでん返しに注目!>
前述した、時の政治権力との結びつきとそれを利用した企業活動にはプラス面とマイナス面がある。マイナス面は、時の政治権力のさじ加減一つで、あるいは時の政治権力の交代によって、企業活動の扱いが180度転換してしまうということだ。投資銀行の買収行動に抵抗して自分たちの地位と会社を守ったケニーとマイケルはしばらくは得意満面だったが、金脈は嘘だったとの大騒動になる中、ケニーはマイケルと全く連絡が取れなくなってしまったから大変。FBIの尋問の中で聞かされたところでは、盟友のマイケルはインドネシアで軍に捕えられ、渓谷の中でヘリコプターから飛び降り、自殺を決行したらしい。事態はそこまで悪化していたわけだ。そんな中でもラッキーだったのは、すべてを正直に話したケニーの言葉をFBI捜査官が信用してくれたこと。場合によればそのまま逮捕され裁判にかけられても不思議ではないところ、これはケニーの供述にそれなりの迫力と説得力があったということだ。会社はもちろん今や完全にアウト。そして、ケニーが一文無しになったのも当然。そんな中でケニーは別れた妻ケイの後を追ったが、さてその成り行きは・・・?
その後、ケニーは穏やかな老後を細々と過ごすだけ。誰でもそう思うところだが、本作のラスト10秒でケニーに届いた1通の郵便には一体何が書かれ、何が入っていたの・・・?ちょっと出来すぎ!ちょっと懲りすぎ!そんな見方もあるが、本作ではこのラスト10秒の大どんでん返しに注目!
2017(平成29)年6月28日記