レイルロード・タイガー(中国映画・2016年) |
<TOHOシネマズ西宮OS>
2017年6月17日鑑賞
2017年6月26日記
還暦を越えたジャッキー・チェンが「列車モノ」で「列車アクション」に挑戦!時代は1940年代、舞台は中国山東省の鉄道駅、主役はレイルロード・タイガーのリーダー。そう聞けば反日・抗日色が心配だが、ジャッキーなら大丈夫。
八路軍でもできなかった「韓荘大橋の爆破」という大変な任務の達成物語と、仲間・家族たちの友情・愛情物語、そして、そこに反日・抗日色をバランスよく・・・。
「列車モノ」は面白い!そんな定説通りの出来だし、ラストの感動は『誰が為に鐘は鳴る』(43年)に迫るもの。それはちょっと言い過ぎだが、ジャッキーの頑張りと2時間のエンタメ作提供に拍手!
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監督・脚本:ディン・シェン
マー・ユエン(荷運び屋の親方)/ジャッキー・チェン
山口(日本軍の憲兵隊長)/池内博之
ダーハイ(裁縫師)/ファン・ズータオ
ファン・チュアン(食堂経営・元ボディガードで熟練狙撃手・レイルロード・タイガーの一員)/ワン・カイ
ダーグオ(八路軍の兵士)/ワン・ダールー
ダークイ(棗荘駅の駅員)/サン・ピン
シャオフウ(棗荘駅で荷物運び)/ン・ウィンラン
チン(ダーハイの母親・煎餅売り)/シェイ・ファン
由子(日本軍の憲兵司令官)/ジャン・ランシン
シンエル(マー・ユエンの娘)/チャン・イーシャン
2016年・中国映画・124分
配給/プレシディオ
<「列車もの」は面白い!それをあらためて実感!>
「潜水艦ものは面白い」と並んで「列車ものは面白い」が、私の持論。それは馮小剛(ファン・シャオガン)監督の『イノセントワールド-天下無賊-』(04年)(『シネマルーム17』294頁参照)やポン・ジュノ監督の『スノーピアサー』(13年)(『シネマルーム32』234頁参照)等で実証されている。
若い時からアクション映画に俳優生命を懸けてきたジャッキー・チェンは、当然、一対一で対決する「カンフーもの」が多いが、車やトラックそして列車等の「道具」を使った「アクションもの」も多い。しかして、これまでに俳優としてはもとより、監督、脚本、歌手、プロデューサーとして関わってきた映画が200本以上となり、2016年にはアジア人俳優としてはじめてアカデミー名誉賞を受賞したジャッキー・チェンが主演する最新作たる本作は、後半45分間の息をつくことのない列車アクションを含む、まさに「列車もの」。そしてまた、いかにもジャッキー・チェンにふさわしいコメディ色満載のエンタメ巨編の「列車もの」だ。
今秋の中国共産党大会を控えて習近平国家主席の独裁体制が強化される中、中国と香港・台湾との関係は少しずつ悪化しているが、ジャッキー・チェンの最新作ともなると、中国資本は気前よく3億元(約54億円)もの大金を出資したらしい。さらに、中国政府の協力によって(?)、本作では中国東北地区の遼寧省鉄嶺市でのみ今でも稼働している大型の蒸気機関車が撮影に使われると共に、地元の鉄道労働者たちの協力を得て全編リアルな列車色で彩られることになったらしい。
同じ日に見たガイ・リッチー監督の『キング・アーサー』(17年)はCG色満載だったが、本作はジャッキー・チェンの肉体を使ったアクションはもちろん、列車も駅も本物の匂いがプンプン。それもあって、後半45分の列車のぶつかり合いや転覆シーンの迫力はすごい。やはり、「列車もの」は面白い。それを、あらためて本作で実感!
<時代は?舞台は?反日・抗日色は?>
本作の時代は1940年代。舞台は中国山東省。つまり、日本が満州国を作り、大東亜共栄圏の建設を目指していた、中国にとって最悪の時代だ。満州国では、甘粕正彦を理事長とし、李香蘭を代表的女優兼歌手とする満映(満州映画)と共に、「あじあ号」に代表される満州鉄道が有名。狭い日本でも、「汽笛一声新橋を、早や我が汽車は離れたり」で有名な「鉄道唱歌」に代表される鉄道の敷設によって富国強兵の明治国家が建設されたから、広い満州国ではなおさら鉄道網が日本にとって重要な輸送手段だった。そのことは裏を返せば、憎っくき日本軍に八路軍(中国共産党軍)だけではまともに対抗できない力関係の下では、反日・抗日の民間人ゲリラの活躍が大切ということになる。
中国旅行に行くと今でも毎日のように、ホテルのテレビでは反日・抗日ドラマが放映されているが、本作で見る主役を務めるジャッキー・チェンの役柄は、そんな反日・抗日の民間ゲリラ組織「レイルロード・タイガー」のリーダーであるマー・ユエン役だ。、このゲリラ組織は、劉知侠原作の『鉄道遊撃隊』やゴードン・チャン監督の映画『ファイナル・オプション/香港最終指令』(94年)で有名な「飛虎隊」をモデルとしたものらしいが、彼らは当時どんな反日・抗日活動を展開していたの?もっとも、張芸謀(チャイ・イーモ)監督の『金陵十三釵(The Flowers Of War)』(11年)(『シネマルーム29』98頁参照、『シネマルーム34』132頁参照)の反日・抗日色はきつかったが、本作ではそれはかなり薄められ、エンタメ色が強められているので、「その手の反日・抗日映画」が嫌いな人もご安心を。
<主役は民間ゲリラのリーダー!「日本鬼子」は誰が?>
前述のように、本作の主役はジャッキー・チェン演じる「レイルロード・タイガー」のリーダー・マーだから、その縦横無尽ぶりの活躍が作品の出来を左右するのは当然。しかし、他方で反日・抗日映画では、反日・抗日のヒーローの存在感を強めるため、嫌われ役としての日本鬼子(=リーベンクイズ)役の存在感が不可欠だし、その役割も重大だ。
姜文(チアン・ウェン)監督の『鬼が来た!(鬼子來了)』(00年)(『シネマルーム5』212頁参照)では、香川照之がその日本鬼子役を「怪演」していた。また、日本人俳優で中国語がペラペラの矢野浩二が、中国で放映されている反日ドラマの日本鬼子役で大活躍しているのは有名だ。しかして、本作では、池内博之が日本鬼子役の日本軍憲兵隊長で大活躍。
他方、なぜか日本軍の憲兵司令官由子役(日本鬼子役)を、中国人女優ジャン・ライシンが熱演している。元テコンドー選手だったという彼女のアクション能力は、とりわけ本作後半で発揮されているが、池内博之演ずる憲兵隊長より上の階級である憲兵司令官の役を、女がしかも中国人女優が演じるのはいかがなもの・・・?マーの娘でシンエル(チャン・イーシャン)が、可憐な姿で「レイルロード・タイガー」の決死の任務に志願してくるストーリーはそれなりに心打つものだが、ジャン・ライシンの日本軍の憲兵司令官由子役は、ミスキャストだったかも・・・?
<八路軍兵士の救出を契機に、重大かつ危険な任務を!>
マーをリーダーとする民間ゲリラ組織レイルロード・タイガーに集うのは、①棗荘駅の駅員のダークイ(サン・ピン)、②棗荘駅で荷物運びをするシャオフウ(ン・ウィンラン)、③鋭く大きなハサミをいつも持っている素人裁縫師のダーハイ(ファン・ズータオ)等々の若者たち。彼らは棗荘駅で働く鉄道労働者だから、列車や地元の地形をよく知っているのは当然だ。
姜文が監督、主演した近時の大ヒット作『さらば復讐の狼たちよ(譲子弾飛/LET THE BULLETS FLY)』(10年)は、1920年代の軍閥が割拠する時代に、腐敗した権力に牙をむいたギャング団が西部劇風に中国大陸をかけめぐる痛快エンタメ作だったから、その舞台は広く大きかった(『シネマルーム34』146頁参照)。それに対して、本作に見るマーたちの任務は所詮棗荘駅に出入りする日本軍の列車から軍用物資を盗む程度のことだから、馬や武器がなくても小回りさえきけば、その実行は可能。それでも、「チリも積もれば何とやら」で、憲兵隊長の山口はそんなレイルロード・タイガーの取り締まりが進まないことにイライラ。新しく 着任してきた軍司令官の由子もその取り締まりを強化したが・・・。
他方、マーたちのそんなセコいゲリラ活動(?)を少し斜めに構えて見下していたのが、過去にある将軍のボディガードをしていたため狙撃が自慢の男で、今は食堂を経営しているファン・チュアン(ワン・カイ)。そんな仲の悪いマーとファンを結びつけることになった出来事は、ある日、足を撃たれた八路軍兵士のダーグオ(ワン・ダールー)が町の中に逃げ込んできたことだ。マーは娘のシンエルや煎餅売りのおばさんチン(シェイ・ファン)たちと共にダーグオを匿い逃がしたが、中国を横断する日本軍軍用物資の輸送を妨害するために韓荘大橋の爆破に向かった彼の部隊はそれに失敗し、彼一人だけが生き残ったらしい。そのためダーグオはその任務をマーたちレイルロード・タイガーに託したが、それまで軍用物資の盗みしかやったことのないレイルロード・タイガーの面々にそんな重大かつ危険な任務が務まるの・・・?ファンがそんなことはとても無理!と鼻で笑ったのは当然だが、さてマーは・・・?
<爆弾はどこで?ゲリラには所詮無理?>
ジャッキー・チェンは1954年生まれだから、私と5歳しか違わない。しかし、本作冒頭から次々と登場する彼の「列車アクション」を見ていると、その身のこなしにビックリ!私なら列車の上にしがみつくだけでも無理だが、マーをリーダーとするレイルロード・タイガーの面々は、山の中から列車の屋根の上に飛び乗ったり、屋根の上を走り回ったり、更には列車の下にへばりついて追っ手の目から隠れたりと、まさに列車を舞台として好き放題の暴れ方見せてくれるので、本作ではそんな「列車アクション」に注目!これだけのアクションができれば、駅の中の軍用物資をくすねるくらいのゲリラ活動は簡単だろう。
しかし、橋の爆破のために必要な大量の爆弾を盗み出すとなると話は別。そこでは、警備は厳重だし、そもそも、大量の爆弾を運び出すためには大規模な輸送手段も不可欠だ。しかし、そんなことを議論ばかりしていても仕方がない。実践派で現場主義、そして何事もその場の機転とアクションの機敏さで任務を果たしてきたマーは、若手の星ダーハイと共に日本軍の爆弾庫の中に入り込み、見事に大量の爆弾を盗み出すことに成功!そう思ったが、由子と山口の執念によって形勢は逆転し、2人は捕えられることに・・・。
そこでの司令官の計略は、2人の「公開処刑」を餌としてレイルロード・タイガーを一網打尽にすること。リーダーのマーが捕まってしまった以上、残りの部隊ではとてもその奪回は無理。誰もがそう思ったが、そこでそれまでの主義主張を改め、レイルロード・タイガーの加入に同意したのがファン。正規軍に近い形でファンがレイルロード・タイガーの面々に銃の打ち方や戦闘技術を教えたことによって、レイルロード・タイガーは何とかマーとダーハイの奪回作戦を成功させたが、さあ次の本格的目標である韓荘大橋の爆破という、八路軍にもできなかった大任務の達成は・・・?
<橋爆破は至難の技。しかし、これぞ男子の本懐!>
橋の爆破のためには何よりも橋に大量の爆弾を巻き付ける作業が必要だし、一定の時刻に一瞬に橋を爆破する爆破装置と爆弾を連結しなければならない。そのため、それは大変な作業で、その達成は至難の業。そのことは、ゲーリー・クーパーとイングリッド・バーグマンが共演した『誰が為に鐘は鳴る』(43年)を観ても、『戦場にかける橋』(57年)(『シネマルーム14』152頁参照)を観てもよくわかる。もっとも、マーの場合は、韓荘大橋の爆破のみが目標で、韓荘大橋の爆破とその上を走る列車の爆破の両者が目標ではないから、まだ少し楽かも・・・。本作は、ラスト45分にみるその韓荘大橋の爆破がクライマックスになるので、それに注目だが、その前にマーが立案する列車強奪計画とその実行にも注目したい。
スティーブ・マックイーン、ジェームズ・ガーナー、チャールズ・ブロンソン、ジェームズ・コバーン、リチャード・アッテンボロー、デヴィッド・マッカラムなどハリウッドのスターたちが大集結した『大脱走』(63年)では、大脱走の前のトンネル掘り作業の計画性とその実行ぶりがクライマックスシーン前の面白さだったが、それは本作も同じだ。八路軍が狙うのは、日本軍が新たに導入する兵器を乗せた輸送列車を阻止するために韓荘大橋を爆破すること。そのためにまずマーたちレイルロード・タイガーの面々が乗っ取る輸送列車には大量の爆弾はもちろん戦車まで積み込まれていたから、当然その警備は厳重だ。そう思っていたが、本作ではそこらあたりの日本のヘマさ加減が少しご愛嬌。しかし、それでもそこで見せるマーたちの列車内への「潜入アクション」はお見事で、迫力十分なうえコメディー色もたっぷり。
他方、その警備を指揮する由子と山口も剣術や格闘能力は抜群だから、マーたちを迎え撃つレベルは相当高い。したがって、マーたちが乗り込んだ列車内の爆弾の奪い合いではダークイ、シャオフウ、ダーハイたち若いレイルロード・タイガーのメンバーたちが、一人また一人と犠牲になっていくことに・・・。マーは今回の任務については犠牲者はもとより、自分の死も覚悟のうえだったから、これらの死者の屍を乗り越えながら、今やボロボロになった列車に乗り込み続け、大量の爆弾と共に韓荘大橋の手前まで進んだが、そこで列車は停まってしまったから万事休す。一瞬そんな諦めムードになりかけたが、さあそこからさらに登場する最後のクライマックスとマーの決死の行動とは・・・?
<自己犠牲の姿も中国流!ジャッキー流で!>
『誰が為に鐘は鳴る』では、爆破装置の設置を終え、最後に敵の狙撃を免れながら走ったロバートの足を敵の銃弾が射抜いたから、さあロバートはどうする?そんなクライマックスの中、自由のため、スペインのため、アメリカのためにはどうしても頑張れないロバートが、「そうだ。マリアのためならまだ頑張れる」と最後の力を振り絞り、マリアたちを逃がすシーンが感動的だった。もちろん、『誰が為に鐘は鳴る』では、主人公のロバート自身が、スペイン人民のためフランコ独裁体制に反対してスペインに渡ったアメリカの義勇軍兵士だから、もともとしっかりした任務感をもった人物だった。
それに対して本作の主人公マーは、レイルロード・タイガーのリーダーとして反日・抗日の不満分子を率いているのだから、それ相応の愛国心を持っていることは確実だが、そのために命を張ろうという気持ちまで持っていたのかどうかは、冒頭にみせる彼の姿とキャラを見ると、いささか怪しいものだ。しかし、傷つきながらも韓荘大橋爆破の任務達成に固執する若い八路軍兵士ダーグオの心意気を知ると、・・・?さらに、それまで仲の悪かったファン・チュアンの本格的協力を得たり、自分の目の前でレイルロード・タイガーに結集する若いメンバーたちが次々と死んでいく姿を見たり、自分の娘のシンエルまでも命を懸けて任務の達成に協力している姿を見ると・・・。
やっと韓荘大橋にたどり着いたマーは由子や山口たちとの対決を続けていたが、肝心の橋を爆破するための大量の爆弾は、今にも橋からずり落ちそうな軍用列車の中に収められたまま。しかし、最後のチャンスとして火のついた1個の爆弾を列車の中に投げ込んだところ、それが無事にナイスイン!これで橋の爆破は大成功!そう思ったが、残念ながら、いったん列車の中に入った爆弾は次の瞬間無情にもずり落ちてしまったから、いよいよ万事休すだ。さあ、そんな中、60歳の還暦を超えたジャッキー・チェン演じるマーが見せる、オリンピックと世界体操競技選手権で素晴らしい活躍を見せ続けた内村航平ばりのダイビングとは・・・?
爆破のためには、韓荘大橋に爆弾を巻き付ける作業が不可欠。そして、それに着火して爆発させる作業が不可欠。マーはそれにこのダイビングで挑んだわけだが、するとその本人は・・・?本作のクライマックスに観る『誰が為に鐘は鳴る』で見た主人公ロバートの崇高な自己犠牲の姿とは少し違う、中国流かつジャッキー・チェン流の自己犠牲の姿に注目したい!
2017(平成29)年6月26日記