しあわせな人生の選択(スペイン、アルゼンチン映画・2015年) |
<テアトル梅田>
2017(平成29)年7月9日鑑賞
2017(平成29)年7月13日記
末期ガンで延命治療を拒否し、スペインで愛犬と共に過ごす男を、カナダから古い友人が訪問。その4日間の滞在で、2人の男が見せるホンモノの友情とは?しあわせな人生の選択とは?
スペインでゴヤ賞の主要5部門を受賞した監督と俳優たちに注目しながら、何とも濃密な4日間の人生ドラマを、しっかり味わいたい。
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監督・脚本:セスク・ゲイ
フリアン/リカルド・ダリン
トマス/ハビエル・カマラ
パウラ/ドロレス・フォンシ
2015年・スペイン、アルゼンチン映画・108分
配給/ファインフィルムズ
■□■スペイン・アルゼンチン映画とこの監督に注目!■□■
スペインには「スペインのアカデミー賞」と呼ばれる「ゴヤ賞」がある。そのゴヤ賞で高く評価されたのが、スペイン人のペドロ・アルモドバルが監督・脚本し、ペネロペ・クルスが主演した『ボルベール―帰郷―』(06年)。これは、スペイン映画の素晴らしさを私に認識させてくれた最初の映画だった(『シネマルーム13』198頁参照)。
他方、2009年のアルゼンチンのアカデミー賞で最優秀作品賞等計13部門を受賞し、2010年の第82回アカデミー賞外国語映画賞も受賞したのが、本作の名優リカルド・ダリンが主演した『瞳の奥の秘密』(09年)。これは私が「こりゃ今年のベストワンの作品かも?」と評価した最高の映画だった(『シネマルーム25』69頁参照)。さらに、最近観てメチャ面白かったアルゼンチン・スペイン映画が、タジアン・ジフロン監督の『人生スイッチ』(14年)(『シネマルーム36』112頁参照)だった。
『ボルベール―帰郷―』はスペイン映画、そして、『瞳の奥の秘密』と『人生スイッチ』はスペインとアルゼンチンの合作映画だったが、それらの系譜を受け継ぎ、スペインのアカデミー賞である第30回ゴヤ賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、脚本賞の最多5部門受賞したのがセスク・ゲイ監督の本作だ。日本ではまだまだ馴染みは少ないが、近時素晴らしい作品を次々と発表しているスペイン。アルゼンチン映画とセスク・ゲイ監督に注目!
■□■“しあわせ”を2人と1匹で探した特別な4日間!■□■
難病ものの映画は多いし、安楽死をテーマにした問題提起作も多い。、役所広司が主演した『象の背中』(07年)は、48歳の働き盛りで末期がんを宣告された男が、残されたわずかな時間内にそれまで出会った大切な人たちと直接会って別れを告げようとする物語だった(『シネマルーム16』382頁参照)。また、大沢たかおが主演した『解夏』(03年)は、ベーチェット病による失明の宣告を受けた主人公が故郷の長崎に戻り、解夏までの夏を恋人とともに過ごす姿を描いた映画だった(『シネマルーム3』356頁参照)。それらに対して本作は、末期がんを宣告されて延命治療を拒否し、今は身辺整理を始めながら残り少ない人生をいかに過ごすかという人生最後の選択をしようとしている男フリアン(リカルド・ダリン)を、カナダにいるはずの古い友人トマス(ハビエル・カマラ)が突然訪問してきたことによって2人が共に過ごす濃密な4日間を描くものだ。
本作冒頭は、1人でカナダから飛行機に乗ってスペインで愛犬のトルーマンと共に過ごしているフリアンの自宅をわざわざ訪問してくるトマスの姿が描かれる。これは、トマスがフリアンのいとこのパウラ(ドロレス・フォンシ)から彼の具合が良くないと聞かされたためだ。しかし、いくらそんな情報を聞いても、わざわざカナダからスペインまで、しかも何の連絡もないままいきなり自宅を訪問してくるのはきわめて異例だ。延命治療を拒否したフリアンの目下最大の関心事は、すでに老齢となり、老い先が短くなってきた愛犬トルーマンの引き取り先(里親)を探すこと。それを決める前に自分が死んでしまうわけにはいかない。フリアンはそんな気分だったから、いくら古い親友でも、トマスが自分に対して「抗がん剤を飲め」等のくだらないアドバイスをするためにやってきたのなら、そんな訪問(お見舞い?)は断固拒否。フリアンははっきりその意思を伝え、トマスを追い返そうとしたが、トマスはそんなフリアンの言い分を無視して4日間は滞在すると宣言。もちろん、わざわざカナダからスペインまで来てくれた親友の滞在をそれ以上拒絶する理由はないから、そこから“しあわせ”を2人と1匹で探した特別な4日間が始まることに・・・。
■□■スケジュールが大事?それとも直感を優先?■□■
昔の友人関係が良いのは、何よりも会えばいきなり昔の関係に戻れること。もちろん、10年も20年も経てば、互いの社会的な立場や家族関係等が大幅に変わっているのは当然。しかし、2人きりになれば、すぐに「俺とお前」「おい、こら」の関係に戻れるのが昔の友人関係の良いところだ。ちなみに、私は去る6月28日には高校卒業以来50年ぶりという友人に東京の居酒屋で2人で再会し、そこでは互いに顔を見た瞬間すっかり18歳の「あの頃」に戻っていた。それが男同士に限定された関係なのかどうかはわからないが、本作では共に主演男優賞と助演男優賞に輝いたリカルド・ダリンとハビエル・カマラが本作全編を通じて見せてくれる男同士の何とも言えない良い関係に注目したい。
滞在が4日間だけの限定と決まれば、その4日間に何をどうすべきか、そのスケジュールが大切。海外旅行に行く時はスケジュールをきっちり決めてしまうタイプの私はついそう思ってしまうが、よくよく考えれば、トマスがフリアンの家を訪れ、4日間滞在すると言っても、ホテルは別にチェックインしているし、一緒に病院めぐりをしたり観光旅行をするわけではないから、決められたスケジュールは何もない。会話だって「特別これをしておかなければ・・・」というものは何もない。すると、2人はある意味気づまりに・・・?いやいや、決してそんなことはない。全くの思いつきだったが、例えば、これからオランダのアムステルダムの大学に通ってる息子ハンスの誕生日祝いのため、飛行機に乗ってアムステルダムに行こうというアイデアは・・・?多分、こんな状況下ではスケジュールよりも、そんな直感力の方を優先したほうがベター・・・?
■□■“余命いくばく・・・”の情報をいつ誰に?■□■
「08憲章」に署名し、ノーベル平和賞を授与された中国の人権活動家で執筆家の劉暁波氏が末期の肝臓がんで危篤状態に陥っていることがつい最近報道されたが、彼が中国から出国してアメリカやドイツでその治療を受けることを巡っては意見が対立している。海外の医師は治療のための国外移動は可能だと主張しているが、中国の発表では「すでに危篤状態になっている」との主張も・・・。
それはともかく、フリアンは自分が余命いくばく状態にあるという情報を積極的に開示したわけではないから、トマスがいきなりやってきたことに驚いたのは当然。フリアンはその情報を自分の別れた妻にも伝えてなかったし、息子にも伝えていなかったが、息子に伝えるべきか否かについては相当悩んでいたらしい。トマスがやって来たことによって、フリアンは急に息子の誕生日祝いのためアムステルダムの大学へ行こうと思いついたわけだが、その訪問でフリアンは自分の病状を息子に告知するの?
フリアンのそんな「内心」にトマスがずけずけと入り込んでくるシーンやそれを率直に受け入れるシーンは本作の白眉だが、さあ、そんな決心で臨んだアムステルダムでの息子とその恋人とのささやかな誕生日パーティー(ランチ)の展開は・・・?
■□■家族ではなく、なぜこの男が・・・?■□■
先日、歌舞伎界の若きプリンス市川海老蔵の妻小林麻央さんが34歳の若さで亡くなった。彼女が夫・海老蔵を始めとする家族に見守られながら続けてきた闘病の姿は多くの日本人の涙と感動を呼んだが、そこでのテーマはあくまで家族の絆だった。しかし、妻と離婚しているフリアンの家族で今一緒に生活しているのは、老犬のトルーマンだけ・・・。
ちなみに、離婚した妻との間に生まれた息子ハンスに、フリアンの余命いくばくの情報が伝わっているのかどうかは別として、彼が大学を休学してフリアンの看護のためにスペインに戻るという選択肢はまずありえない。したがって、フリアンはあくまで1人で、愛犬トルーマンと共に自宅で最期の瞬間を迎えようと考えていたわけだが、そこに古い友人だったトマスが登場してくると、互いに何かとわがままを言い合い、ぶつけ合うことに。普通はそんな関係が4日も続くと仲たがいしてしまうものだが、本作にみるフリアンとトマスの場合は・・・?
スペインのゴヤ賞で本作が作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、脚本賞という主要5部門を受賞したことに納得。心からそう思える本作で、2人の男が見せる展開をしっかり楽しみたい。
■□■トルーマンの処理もきっちりと!■□■
日本では、7月10日に学校法人「加計学園」の獣医学部新設の経緯を巡って、衆参両院の「閉会中審査」が開かれ、参考人として前川喜平・前文部科学事務次官が登場した。彼は「官邸の関与」をしきりにアピールしたが、さて、その真相は?加計学園問題では、官邸の関与の忖度の有無が論点とされているが、私に言わせれば本当の問題の本質は獣医不足は本当なの?獣医学部の増設は本当に必要なの?ということだ。大きな犬を家の中で飼っていた私の友人は、ここ数年その犬の高齢化、認知症の進展(?)に悩み、獣医通いを続けていたが、先日ついにその愛犬との別れの時がやってきた。
その話を聞いていると獣医不足は明らかだったが、トルーマンは獣医通いは不要で、とりあえず必要なのは里親らしい。そのため、トマスが来訪するまでにフリアンはそれなりの努力を続けていたが、トマスの来訪によってフリアンはトルーマンの処理についてある方針を決めたようだ。トルーマンがいる間もフルアンはトルーマンの処遇についてはいろいろと手を打ったが、4日間で具体的な方針が決まらない以上、フリアンが提示したトルーマンに関するあるわがままとは・・・?さあ、それを聞かされたトマスはそんなフリアンのわがままを受け入れるの?トルーマンはドーベルマンだから、その体はかなり大きい。しかし、動物の飛行機での移動は簡単らしい。また、人間ならスペインからカナダに移動すれば言語の壁があるが、犬の世界では言語の壁はないからスペインからカナダへの移動にも問題なし・・・?その結果、スペインの空港におけるフリアンとトマスの別れでは、トルーマンはどっちの側に・・・?
2017(平成29)年7月13日記