はじめてのおもてなし(ドイツ映画・2016年) |
<ギャガ試写室>
2017(平成29)年12月11日鑑賞
2017(平成29)年12月14日記
世界各国からの制裁が続く中、冷たく荒れた日本海で無理矢理操業する北朝鮮の漁師たち(?)は危険でいっぱいだが、「2015年欧州難民危機」の中、100万人を超す難民・移民も大変だ。
ドイツのメルケル首相は一貫して難民受け入れOKと表明していたが、ハートマン家では、妻の独断と偏見で一人のナイジェリア人難民の受け入れを宣言したから大変。そこから噴出してくる本音と建前の矛盾、そして家族の諸問題とは・・・?
深刻かつ難解な難民問題も、映画なら山田洋次監督流に家族の視点から。そしてまた、あくまで笑いの視点から!さあ、2016年度ドイツ興行成績No.1の魅力を満喫しよう。
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監督・脚本:サイモン・バーホーベン
アンゲリカ・ハートマン(母)/センタ・バーガー
Dr.リヒャルト・ハートマン(父)/ハイナー・ラウターバッハ
フィリップ・ハートマン(息子・兄)/フロリアン・ダーヴィト・フィッツ
ゾフィ・ハートマン(娘・妹)/パリーナ・ロジンスキ
Dr.タレク・ベルガー(難民センターの医師、ディアロの友人)/エリヤス・エンバレク
ディアロ・マカブリ(ナイジェリアからの難民)/エリック・カボンゴ
Dr.サーシャ・ハインリヒ(リヒャルトの友人の美容整形外科医)/ウーヴェ・オクセンクネヒト
ハイケ・ブロジャー(難民センターのボランティア教師)/ウルリケ・クリーナー
配給:セテラ・インターナショナル/116分
■□■深刻難解な「難民問題」を分かりやすく!こりゃ必見!■□■
韓国には韓国特有のテーマとして南北分断問題があり、そのため『シュリ』(99年)、『JSA』(00年)((『シネマルーム1』62頁参照)、『二重スパイ』(03年)(『シネマルーム3』74頁参照)等の名作がある。近時のキム・ギドク監督の『レッド・ファミリー』(13年)(『シネマルーム33』227頁参照)や『The NET 網に囚われた男』(16年)(『シネマルーム39』145頁参照)もそのテーマの傑作だった。それと同じように、ドイツにはドイツ特有のテーマとして、東西ドイツの分断問題と共にナチスドイツ、ヒトラー、ホロコースト、アイヒマン裁判、等がある。12月9日に見た『否定と肯定』(16年)はそのテーマの傑作だった。
それに対して、近時ヨーロッパで大きな社会問題になっている難民・移民問題では、イギリスのケン・ローチ監督の『この自由な世界で』(08年)(『シネマルーム21』247頁参照)等の傑作が生まれていた。そして、2015年には地中海やヨーロッパ南東部を経由してEUへ向かう100万人を超す難民・移民が発生する、いわゆる「2015年欧州難民危機」が発生したため、大規模な難民受け入れOKを表明していたドイツのメルケル首相も、今ではかなり苦しい立場に追いやられている。そんな状況下、本作がドイツで大ヒット!「ドイツ・アカデミー賞観客賞受賞、400万人が笑って泣いた2016年度 ドイツ興行成績No.1の大ヒット作!」だそうだが、それは一体なぜ?
■□■難民受け入れ宣言は誰が?その波紋は?■□■
ドイツはアメリカと違い、フランスと同じで、一戸建て住宅は少なく、共同住宅が多い。都市法をライフワークにしている私はそう理解していたが、大病院の医長を務める外科医リヒャルト・ハートマン(ハイナー・ラウターバッハ)と、教師を定年退職して暇を持て余す妻アンゲリカ・ハートマン(センタ・バーガー)夫婦ともなると、収入が多いためかその家は庭付きの立派な一戸建て。車も夫婦それぞれ一台だから、そのライフスタイルはヨーロッパ風ではなく、アメリカ風だ。
また、長男のフィリップ(フロリアン・ダーヴィト・フィッツ)は弁護士として大活躍中だが、次女のゾフィ(パリーナ・ロジンスキ)は31歳にもかかわらず、「自分探し」を続ける大学生だから、中途半端。学校ではストーカーに付きまとわれ、父親からは受験勉強に精を出すよう圧力をかけられていたから、その毎日の生活は大変そうだ。フィリップは現在上海で大きなプロジェクトに挑戦中だが、仕事ばかりで妻とは離婚しており、両親に預けている小学生の一人息子・バスティは生意気盛りでかなりヤバそう。こんな風にハートマン家は経済的には豊かだし、それなりの家族秩序は保たれているようだが、その内実は・・・?
ある日曜日の晩、久しぶりに家族が集まった夕食会は家族懇親の場とはならず、それぞれの生き方における現在の問題点が露呈。テーブルに険悪な雰囲気が流れ始める中、突然アンゲリカが「難民を一人受け入れる」と宣言したから、夕食会は大混乱に。メルケル首相と違って、リヒャルトは難民受け入れ反対派。また、人権派弁護士ではなく、企業弁護士であるフィリップも、当然そうだ。それに対して、31歳まで中途半端な立場にあるゾフィは難民に同情的。しかして、ハートマン家は、男2人VS女2人に分かれたが、「反対だ。議論は終わりだ」と一方的に宣言するリヒャルトに対して、アンゲリカは「ここは私の家でもあるの」と反撃。ハートマン家は決定的対立状態に・・・。
■□■警察沙汰、近隣紛争、極右デモ■□■
私は深田晃司監督の『歓待』(11年)の評論で、「闖入者二態!『冷たい熱帯魚』VS『歓待』」と題して、「招かれざる客」=「闖入者」をテーマとした両作品を紹介した(『シネマルーム27』161頁参照)。両作品とも、一見人懐っこい顔で家族の中に入ってきた闖入者が、いざそこに自分の居場所をみつけ、それをキープすると、たちまち君子は豹変!何ともすさまじい闖入者二態を見せたわけだ。
それに比べると、ハートマン家に難民としてやってきた、ナイジェリア人の青年ディアロ(エリック・カボンゴ)は闖入者ではなく、リヒャルトとアンゲリカが難民施設で自ら面接して決めた若者だ。祖国で何があったのかについては「話せません」と拒否していたが、お行儀も良く、アンゲリカの指導によるドイツ語の勉強も真面目だし、庭仕事もきちんとこなしていたから、受け入れ難民としては優等生。しかし、アンゲリカがディアロのために開催した歓迎パーティは、アンゲリカの友人で難民センターのボランティアをしているハイケ(ウルリケ・クリーナー)達のおかげで乱痴気騒ぎとなり、警察問題、近隣問題、さらには極右デモにまで発展することに。ここまで問題が広がれば、家族内での解決は到底ムリ!さあ、大変な事態に・・・。
■□■いい青年だが、亡命申請の可否は?■□■
日本の弁護士はよほどのことがなければ「亡命」事件に関与することはないが、ナイジェリアからドイツに難民としてやってきたディアロにとっては、亡命が認められるか否かが最大の問題。メルケル首相の大方針のもとでは、特別な問題を起こさなければ、ディアロは大丈夫だったはずだが、前述したような警察問題、近隣問題が起きると・・・?
それに輪をかけたのは、ディアロがフィリップの息子のバスティのミュージックビデオ撮影を手伝うためのダンサーとしてストリッパーを呼んだこと。さらに、ゾフィのストーカーとして付きまとう男とディアロが殴り合いになったことで、これまた警察沙汰になったから、更にヤバイ。これでは、ディアロの難民申請は却下されてしまうのでは・・・?そう思っていると、案の定・・・。
すぐに異議申し立てをし、2日後に裁判所で審査されるそうだが、ディアロとハートマン家はどんな対応を?バスティは父親のフィリップに対して、上海からすぐに戻るよう脅迫めいた電話をしたがさて、フィリップは上海での儲け仕事を放棄してまでダニエルの危機=一人息子バスティの危機に対処してくれる?この時既にリヒャルトの家には、ネオ・ナチや極右団体のデモ隊、それに反抗する反ナチ団体のデモ隊の双方が駆けつけ、一触即発状態になっていたが、さてディアロの亡命申請の可否は・・・?
■□■あくまで1家族の視点から!また、あくまで笑いで!■□■
12月12日付日経新聞「回顧2017 映画」では、編集委員の古賀重樹氏が「家族に映る不寛容社会」という見出しで、三島有紀子監督『幼な子われらに生まれ』(16年)(『シネマルーム40』102頁参照)、廣木隆一監督『彼女の人生は間違いじゃない』(17年)(『シネマルーム40』272頁参照)等を取り上げた、また、そこでは山田洋次監督の『家族はつらいよ2』(17年)を「誰もがピリピリし、他人を許さない。そんなこわばった空気をドタバタ喜劇として笑いのめした」と書いている。つまり、「一段と不寛容になっていく日本社会」の中でも、「無縁社会という深刻な主題だからこそ、お節介な家族の騒動がおかしく、しんみりした切実感もあった」ということだ。
それと同じように本作では、年間100万人を超す難民・移民が発生する「2015年欧州難民危機」をテーマとしながら、映画は笑いでいっぱい。ちなみに、ドイツ映画『おじいちゃんの里帰り』(11年)も深刻な難民問題をテーマとしながら、国際的ホームドラマとしての楽しさが目立ち、安モノのTVドラマとは一味違う教養とセンスが身につく映画だった(『シネマルーム32』52頁参照)が、本作は「400万人が笑って泣いた」そうだからすごい。それは一体なぜ?本作については、何よりもそこに注目したい。
サイモン・バーホーベンの監督インタビューでも、彼は難民・移民問題という深刻なテーマを題材としながら本作をあくまで家族のドラマにしたかったこと、そしてまた、ストーリー展開上はハートマン家が次々と深刻な状況に陥っていくにもかかわらず、観客にはあくまで笑いをもってそれを見てもらいたかったことを強調している。中国の馮小剛(フォン・シャオガン)監督は「中国の山田洋次監督」と呼ばれているが、本作の作り方を見ればこのサイモン・バーホーベン監督も、若いけれども「ドイツの山田洋次監督」と呼べるのかも・・・?ちなみに、本作のプレシートには①ヤマザキマリ氏の「先進国の裕福な“難民”たちを笑いで描き出す」、②六草いちか氏の「ヨーロッパ難民事情は今・・―この映画をより深く理解し愉しむために―、③黒田邦雄氏の「ヒアルロン注射を笑えるか」、という3本のエッセイがあるので、それにも注目。
2017(平成29)年12月14日記