祈りの幕が下りる時(日本映画・2018年) |
<東宝試写室>
2017(平成29)年12月15日鑑賞
2017(平成29)年12月19日記
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監督:福澤 克雄
原作:東野圭吾『祈りの幕が下りる時』(講談社文庫)
加賀恭一郎(警視庁日本橋署刑事)/阿部寛
浅居博美(舞台演出家)/松嶋奈々子
松宮脩平(刑事捜査一課刑事・加賀の従兄弟)/溝端淳平
金森登紀子(看護師)/田中麗奈
加賀隆正(恭一郎の父親)/山崎努
田島百合子(失踪した恭一郎の母)/伊藤蘭
????/小日向文世
????/及川光博
浅居厚子(行方不明になっている博美の母)/キムラ緑子
宮本康代(スナック「セブン」のママ)/烏丸せつこ
大林(警視庁捜査一課刑事)/春風亭昇太
????/音尾琢真
浅居博美(20歳)/飯豊まりえ
浅居博美(14歳)/桜田ひより
配給:東宝/119分
■□■ショートコメント■□■
◆私は2010年4月からTBS日曜劇場で放映された、東野圭吾原作の『新参者』シリーズが大人気になっていたことを全く知らなかった。しかして、本作はその完結編にして「シリーズ最高の“泣ける”感動作巨編」だそうだが、それをはじめて映画で鑑賞することに・・・。
◆ホームページやチラシそして本作のプレスシートには、「“泣けるミステリー”の最高傑作」「加賀恭一郎は、なぜ新参者になったのか―」「この事件は俺とかかわりが強すぎる。」「事件のカギは俺なのか・・・?」等々の文字が躍ると共に、「親子の絆」「美しき女性演出家」「孤独死」等のキーワードがいっぱい並んでいる。その反面、ストーリーの解説は極めて短く、プレスシートでも、本作のキーパーソンとなる名優・小日向文世が演じる人物の名前が「????」とされている等、秘密の部分が多い。
これは去る12月9日に観た『オリエント急行殺人事件』(17年)と同じように推理小説の傑作を映画化する時の常套手段。というより、「犯人探し」がテーマとなる推理小説の事前解説では、それは当然のことだ。しかして、『祈りの幕が下りる時』といういかにも謎めいたタイトルをつけられた本作の「推理モノ」としての出来ばえは?また、その醍醐味は・・・?
◆私が邦画のベスト1として挙げるのは、松本清張原作、野村芳太郎監督『砂の器』(74年)。その冒頭シーンは、国鉄蒲田操車場で発見された扼殺死体だったが、本作冒頭で提示されるのは、それと同じように東京都葛飾区小菅のアパートで発見された女性の絞殺死体。被害者は滋賀県在住の押谷道子だとわかったが、殺害現場となったアパートの住人・越川睦夫も行方不明になっていた。その捜査にあたるのは、警視庁の松宮脩平(溝端淳平)。そして、そこには長年日本橋署に勤務している刑事・加賀恭一郎(阿部寛)も関与してくることに。
他方、プレスシートのストーリー4行目には「やがて捜査線上に浮かびあがってくる美しき舞台演出家・浅居博美(松嶋奈々子)」と書かれているが、この表現はちょっと安易すぎる。なぜなら、ストーリ展開を観ていても、観客は誰もこの謎めいた女性・浅居博美が冒頭に提示された腐乱死体に関与しているとは思えないはずだからだ。『砂の器』でも中盤に「紙吹雪の女」が登場するところからストーリー展開が少しずつ読めてきたが、本作では今は舞台演出家として大成功を収めている浅居博美の他、20歳の浅居博美(飯豊まりえ)と14歳の浅居博美(桜田ひより)も登場するので、それに注目。
『砂の器』では父と息子2人の巡礼の旅がストーリーの骨格を形成していたが、さて博美は14歳から40歳になるまでの間にどんな波乱万丈の人生を・・・?なるほど、なるほど・・・。私は『新参者』シリーズを全く知らなかったので、本作がその最高傑作にあたるのかどうかは判定できないが、これはかなり面白い推理小説であることは間違いなし。
◆本作のポイントの第1は、2011年3月11日の東日本大震災に伴って発生した福島第一原発の爆発事故以降有名になった、いわゆる「原発渡り鳥」の男を登場させて1つのトリックを作り上げたこと。そして第2のポイントは、本作が初共演となる阿部寛と松嶋奈々子が「なるほど、そういう関係だったのか」と誰もが納得しうる、しかし、誰もが容易に思いつかない設定にしたこと。これにはさすが「推理小説の大家・東野圭吾」と感心させられるはずだ。
他方、私が全然納得できないのは、小日向文世扮する男が死亡する、本作のクライマックスとなるストーリー。音楽の盛り上げ方も含めて、スクリーン上を観ている限り映像的には良くできているが、どう考えてもこれは納得できない。その論点は、自殺を決意した人間が勝手に自殺すれば誰にも問題は波及しないが、その自殺を助けたり、自殺する代わりに殺してやれば、自殺ほう助罪や殺人罪の問題が発生してしまうこと。ここでこれ以上書けないのは仕方ないので、後はあなた自身の目で確認してもらいたいが、さて、あなたのご意見は・・・?
◆東野圭吾の推理小説は中国でも大人気で、平積みされているらしい。もっとも、中国では今やテレビの人気ドラマが多いから、いかに「新参者」シリーズでも、かつての山口百恵が主演した「赤いシリーズ」のような人気は得ていないはず。しかし、本作は推理物としては実によくできているから、中国版でリメイクすれば大ヒットするのでは。そんな期待が膨らんだが・・・。
2017(平成29)年12月19日記