「汚れたダイヤモンド」(フランス・ベルギー映画・2016年) |
洋18-5 ★★★(ショートコメント)
<テアトル梅田>
2018(平成30)年1月12日鑑賞
2018(平成30)年1月15日記
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監督:アルチュール・アラリ
ピエール・ウルマン(ヴィクトルの息子)/ニールス・シュネデール
ガブリエル(ギャビー)・ウルマン(ジョゼフの息子、ピエールの従兄弟)/アウグスト・ディール
ジョゼフ・ウルマン(ピエールの伯父、ヴィクトルの兄)/ハンス・ペーター・クロース
ラシッド/アブデル・アフェド・ベノトマン
ルイザ(ガブリエルの恋人)/ラファエル・ゴダン
ゴパール(インド人の投資家)/ラグナト・マネ
リック(ジョゼフの会社の研磨作業所の細工師)/ジョス・フェルビスト
ケビン/ギヨーム・ヴェルディエ
オルガ・ウルマン/ヒルデ・ファン・ミーゲン
配給:エタンチェ/115分
■□■ショートコメント■□■
◆公式ホームページによれば、本作のイントロダクションは次の通りだ。
フランスの新星 アルチュール・アラリ監督×ニールス・シュネデールによるノワール映画の真骨頂
2016年のフランス映画界で、最も傑出した才能の出現として話題になったアルチュール・アラリ監督による、フィルム・ノワールが誕生。自らがシェークスピアの『ハムレット』を下敷きにしたと語っているように、本作には<父と息子>という永遠のテーマが通奏低音のように流れている。原石のダイヤモンドに眠る、煌めく輝きと、坩堝のような深く暗い欲望。それを知ってしまった者には、もはや安穏は許されないのだった――。
監督のアルチュール・アラリは、本作において、フランス映画批評家協会・新人監督賞、リュミエール学院が主宰するジャック・ドレー(推理映画)賞、ボーヌ国際探偵映画祭・審査員賞およびクロード・シャブロル賞を受賞している。
主演のニールス・シュネデールは、本作でフランス映画アカデミー・セザール新人男優賞を獲得。また強盗の参謀役ラシッドを演じ、本作出演後に亡くなったアブデル・アフェド・ベノトマン(映画の冒頭で献辞を捧げられている)は、実際 “元服役囚” であり、現代を代表するフランスのノワール作家である。当初ラシッド役はアブデラティフ・ケシシュ監督に依頼されたが、ケシシュはベノトマンをアラリ監督に推薦したという。そしてロレーン・バコールを想起させるラファエル・ゴダンなど映画を彩る俳優陣も興味深い。
果たしてピエールの復讐は成就されるのだろうか? 映画は、まったく意想外な展開を示しながら、ラストで、ピエールに対してある深いモラルの決断を強いる。『汚れたダイヤモンド』は、ここで単なる犯罪映画の枠を超え、大いなる世界への導きを許すのであった――。
◆公式ホームページによれば、本作のストーリーは次の通りだ。
「ギリシャ悲劇」『ハムレット』から、『汚れたダイヤモンド』へ-。永遠の“父と息子”の物語は、この映画により次のステージへ。
フランス、パリ。強盗に明け暮れるピエールは、15歳から音信不通だった父が死んだことを突然知らされる。アントワープのダイヤモンド商家生まれの父は、ダイヤの研磨作業中に不慮の事故で手先を失い、その後精神を病み、家族の前からも姿を消し、野垂れ死んだのだ。それを知らされたピエールは、生家から追放された父の過去とみじめな最期に、父の兄ジョゼフを長とする一族への復讐と、ダイヤの強盗を誓う。舞台はパリから、ベルギーのアントワープへ。しかし生まれて初めてダイヤモンドに触れたピエールは、自分の体内に流れる、父から受け継いだ血が騒ぎだすのを感じるのだった。そしてそれは、悲劇への序章でもあった――。
◆タイトルからは何の映画かさっぱりわからないが、本作はフランスの若手監督アルチュール・アラリによるフィルム・ノワール。そして、監督自らがシェイクスピアの「ハムレット」を下敷きにしたと語っていたように、本作には“父と息子”という永遠のテーマが通奏低音のように流れているらしい。しかし、それって一体何?そう思っていると冒頭、ダイヤモンドのカット(研磨)をめぐる作業の中で、ある事故が起き、ある男が血まみれになるシーンが登場する。ダイヤモンドの原石を見る目の、スクリーンいっぱいのアップの映像に驚かされるとともに、なるほどダイヤモンドのカットとはこういう作業なのかが少しわかったが、この2人の男は一体ダレ・・?
いかにもフランス映画らしく、そんな冒頭シーンについてなんの説明もないまま以降、本作で、2016年第42回セザール賞(仏アカデミー賞)新人男優賞を受賞したというハンサムな若手俳優ニールス・シュネデールが登場するが、さて本作の人物相関図とは・・・?
◆私の長男と長女は私と同じ大阪大学法学部を卒業し、2人とも弁護士になっている。さらに長男の妻も、長女の夫も弁護士だから、まさに弁護士一家だ。それに対して、本作の主人公ピエール・ウルマン(ニールス・シュネデール)は、ベルギーのアントワープにあるダイヤモンド商家の家に生まれたダイヤモンド一家らしい。
そして、冒頭の悲惨な事故のシーンは、ピエールの父ヴィクトルの若き日の姿だったらしい。研磨機に手を挟む事故によって指先を失い、以降精神を病み、消息を絶ったヴィクトルに対し、ヴィクトルの兄、つまりピエールの伯父であるジョゼフ(ハンス・ペーター・クロース)はダイヤモンド会社を引き継ぎ財を成していたから、この「ダイヤモンド一家」の明暗は鮮やかだ。
しかして、「ハムレット」のような“父と息子”というテーマが通奏低音のように流れる本作の中で展開される、ピエールの復讐物語とは・・・?
◆ダイヤモンドの映画といえば、『タイタニック』(97年)でのお坊ちゃま顔から完全に脱皮し、野性味たっぷりのダイヤ密売人に扮したレオナルド・ディカプリオ主演の『ブラッド・ダイヤモンド』(06年)が有名。これは、ピンクダイヤモンドという巨大なダイヤを巡って、アフリカのシエラレオネ共和国を舞台に、1991年から11年間続いた「シエラレオネ紛争」や革命統一戦線など、日本人は誰一人聞いたことがないものが登場する難解な「アフリカもの」だったが、同時に奥深い人間ドラマ満載の傑作だった(『シネマルーム14』116頁参照)。それに比べて本作は、ダイヤモンドのカット(研磨)技術の厳しさを前面で見せながら、まさにダイヤモンド一家の分裂とピエールの再生(?)を描く異色作だ。
私はダイヤモンドやそのカット技術に何の興味もないが、ダイヤモンド一家なればこそ、そこから生まれてくる父子の愛情とダイヤモンド一家のお家騒動ぶり、そしてそこから生まれてくる主人公の悲劇と再生のサマをしっかりと見定めたい。
2018(平成29)年1月15日記