祈りの幕が下りる時(日本映画・2018年) |
<東宝試写室>
2017(平成29)年12月15日鑑賞
2017(平成29)年12月19日記
東野圭吾の『新参者』シリーズの“完結編”にして“シリーズ最高の泣ける感動巨編”が、阿部寛と松島菜々子の共演で映画化。これは必見!
パンフやチラシには「この事件は俺の過去と関わりが強すぎる。」「事件のカギは俺なのか・・?」などの文字が躍り、「???の男」とされた登場人物もいるから、本作のミステリー色は強烈。冒頭の絞殺死体の女は、一体誰?
松嶋奈々子扮する“美しき舞台演出家”との関係は?さらに、長年日本橋署に勤務している阿部寛扮する刑事、加賀恭一郎との関係は・・?
アガサ・クリスティ原作の『オリエント急行殺人事件』(17年)も複雑なミステリーだったが、まさにこれぞ東野圭吾の最高ミステリー!ラストには本作のタイトルの見事さが浮かび上がるので、それにも注目!
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監督:福澤克雄
原作:東野圭吾『祈りの幕が下りる時』(講談社文庫)
加賀恭一郎(警視庁日本橋署刑事)/阿部寛
浅居博美(舞台演出家)/松嶋奈々子
松宮脩平(警視庁捜査一課刑事)/溝端淳平
金森登紀子(看護師)/田中麗奈
加賀隆正(恭一郎の父親・元刑事)/山崎努
田島百合子(恭一郎の失踪した母)/伊藤蘭
???の男/小日向文世
???の男/及川光博
浅居厚子(博美の行方不明になっている母)/キムラ緑子
宮本康代(スナック「セブン」のママ)/烏丸せつこ
大林(警視庁捜査一課刑事)/春風亭昇太
???の男/音尾琢真
浅居博美(20歳)/飯豊まりえ
浅居博美(14歳)/桜田ひより
配給:東宝/119分
■□■東野圭吾の新参者シリーズとは?■□■
私が1年間に鑑賞する映画は年間約200本だが、当然それは大変な時間を要する作業。したがって私は自宅で連続TVドラマを鑑賞する時間(習慣)はなく、いくら人気の連続TVドラマであってもほとんど見たことがない。そのため私は2010年4月からTBS日曜劇場で放映された、東野圭吾原作の『新参者』シリーズが大人気になっていたことを全く知らなかった。
しかし、それを映画化した今回の作品は面白そうだ。チラシによると、本作はその完結編にして「シリーズ最高の“泣ける”感動巨編」だそうだが、そんな謳い文句にひかれて、私は新参者シリーズを初めて映画で鑑賞することに・・・。
■□■シリーズは???がいっぱい■□■
本作のホームページやチラシそしてプレスシートには、「“泣けるミステリー”の最高傑作」「加賀恭一郎は、なぜ『新参者』になったのか―」「この事件は俺の過去と関わりが強すぎる。」「事件のカギは俺なのか・・・?」等々の文字が躍っている。また同時に、「親子の絆」「美しき女性演出家」「孤独死」等のキーワードがいっぱい並んでいる。その反面、ストーリーの解説は極めて短く、プレスシートでも、本作のキーパーソンとなる名優・小日向文世が演じる人物の名前が「???」とされている等、秘密の部分が多い。
これは去る12月9日に観た『オリエント急行殺人事件』(17年)と同じように推理小説の傑作を映画化する時の常套手段。というより、「犯人探し」がテーマとなる推理小説の事前解説では、それは当然のことだ。しかして、『祈りの幕が下りる時』といういかにも謎めいたタイトルをつけられた本作に???がいっぱいなのは仕方ないが、本作の「推理モノ」としての出来ばえは?また、その醍醐味は・・・?
■□■冒頭は絞殺死体!その捜査に向かう刑事は?■□■
私が邦画のベスト1として挙げるのは、松本清張原作、野村芳太郎監督『砂の器』(74年)。その冒頭シーンは国鉄蒲田操車場で発見された扼殺死体だったが、本作冒頭で提示されるのは、それと同じように東京都葛飾区小菅のアパートで発見された女性の絞殺死体。被害者は滋賀県在住の押谷道子だとわかったが、殺害現場となったアパートの住人・越川睦夫も行方不明になっていた。その捜査にあたるのは、警視庁の松宮脩平(溝端淳平)。
近時の映画では死体の惨状もリアルに撮影するものが増えているが、本作のそれもなかなかのもの。死体がここまでボロボロになってしまうと、昔はその死体の身元を洗うこと自体が大変だったが、近時はDNA鑑定等々の科学捜査の進歩によってそれは容易にわかるらしい。しかし、被害者の身元がわかっても、そこから犯人をたどっていく作業は大変。そのため、『砂の器』では大捜査陣が組まれていたが、それは本作でも同じ。しかして本作では若手刑事の松宮脩平(溝端淳平)のほか、警視庁捜査一課刑事大林(春風亭昇太)等の個性的な刑事が登場するので、それにも注目!もっとも本作の主役は『砂の器』に冒頭から登場していた森田健作扮する吉村正刑事と丹波哲郎扮する今西栄太郎刑事の新旧コンビではなく、後ほど登場してくる長年日本橋署に勤務している刑事・加賀恭一郎(阿部寛)になるので、ここまでの展開はその前座として謎解きのポイントをしっかり楽しみたい。
■□■“美しき舞台演出家”の登場はいつ?■□■
他方、本作のプレスシートのストーリー4行目には「やがて捜査線上に浮かびあがってくる美しき舞台演出家・浅居博美(松嶋奈々子)」と書かれているが、この表現はちょっと安易すぎる。なぜなら、ストーリー展開を観ていても、観客は誰もこの謎めいた女性・浅居博美が冒頭に提示された腐乱死体に関与しているとは思えないはずだからだ。
『砂の器』でも中盤に「紙吹雪の女」が登場するところからストーリー展開が少しずつ読めてきたが、本作では今は舞台演出家として大成功を収めている浅居博美の他、20歳の浅居博美(飯豊まりえ)と14歳の浅居博美(桜田ひより)も登場するので、それに注目。
『砂の器』では父と息子2人の巡礼の旅がストーリーの骨格を形成していたが、さて博美は14歳から40歳になるまでの間にどんな波乱万丈の人生を・・・?なるほど、なるほど・・・。私は『新参者』シリーズを全く知らなかったので、本作がその最高傑作にあたるのかどうかは判定できないが、これはかなり面白い推理小説であることは間違いなし。
■□■2つのポイントは原発渡り鳥と2人の男女の人間関係■□■
本作のポイントの第1は、2011年3月11日の東日本大震災に伴って発生した福島第一原発の爆発事故以降有名になった、いわゆる「原発渡り鳥」の登場!これは福島第一原発の爆発事故以降、日本各地の原発で不可欠となった各種の点検修理のための作業員を差す新語だが、この手の「渡り鳥」の仕事は危険がいっぱいだから、荒くれ者や無法者がいても不思議ではない。また、この手の作業員を雇い入れるについては、本人の身分確認等もいい加減になりがちなため、ややもすれば「ヤバい人間」が紛れ込む可能性もある。
14歳の浅居博美を連れて全国を旅していた「???の男」(小日向文世)はある日、一見親切そうな「原発渡り鳥」の「???の男」と出会い、温かい言葉をかけられたが、この男に誘われた博美が、男がホテル代わりにしている車を訪れてみると・・?まさに「好事、魔多し」とはこのこと。さあ、そこでの2人の「???の男」の対決は?そして、生き残った「???の男」のその後の生き方は・・?
次に、第2のポイントは、本作が初共演となる阿部寛と松嶋奈々子が「なるほど、そういう関係だったのか」と誰もが納得しうる、しかし、誰もが容易に思いつかない設定になっていること。これには、「さすが推理小説の大家・東野圭吾」と感心させられるはずだ。しかし、それをネタバレさせるわけにはいかないので、その展開はあなた自身の目でしっかりと。
■□■私が納得できないポイントは?■□■
他方、私が全然納得できないポイントは、小日向文世扮する「???の男」が死亡する、本作のクライマックスとなるストーリー。その場面では、すでに加賀恭一郎と浅居博美との関係は明らかにされており、ストーリー全体が終結に向かっていることは明らかだから、まさに観客は手に汗を握って「???の男」と博美とのつながりを注視しているはずだ。
しかし音楽の盛り上げ方も含めて、スクリーン上を観ている限り、映像的には良くできているが、どう考えてもこの展開は納得できない。
しかし、その内容を詳しく書くこともできないので、その「論点」だけを示せば、自殺を決意した人間が勝手に自殺すれば誰にも問題は波及しないが、その自殺を助けたり、自殺する代わりに殺してやれば、自殺ほう助罪や殺人罪の問題が発生してしまうということ。ここでこれ以上書けないのは仕方ないので、後はあなた自身の目で確認してもらいたいが、さて、あなたのご意見は・・・?
■□■日本のみならず、中国での大ヒットも期待!■□■
東野圭吾の推理小説は中国でも大人気で、書店では平積みされているらしい。もっとも、中国では今やテレビの人気ドラマが多いから、いかに「新参者」シリーズでも、かつての山口百恵が主演した「赤いシリーズ」のような人気は得ていないはず。しかし、本作は推理物としては実によくできているから、中国版でリメイクすれば大ヒットする可能性も。そんな期待が膨らんだが・・・。
2017(平成29)年12月19日記