プラダを着た悪魔(アメリカ映画・2006年) |
<試写会・厚生年金会館芸術ホール>
2006年8月24日鑑賞
2006年8月28日記
「プラダを着た悪魔」とは、アカデミー賞最多ノミネートを誇る名女優メリル・ストリープ扮する、ファッション誌のカリスマ編集長のこと。そのアシスタントという世界中の女性が憧れる仕事に就いた主人公は、果たしてその激務に耐え、生き残ることができるのだろうか・・・?若き主人公に扮するアン・ハサウェイのカッコ良さは、ため息の出るようなファッションの数々を含めて、若い女性の生き方の指針となるはず・・・。もっとも、そのためには、仕事や男の選択についての強い意思が必要。自分自身の生き方に悩んでいる今ドキの女性必見の映画が、ここに誕生・・・。
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監督:デヴィッド・フランケル
原作:ローレン・ワイズバーガー『プラダを着た悪魔』
ミランダ・プリーストリー(ファッション誌のカリスマ編集長)/メリル・ストリープ
アンドレア・サックス(アンディ)(ミランダのジュニア・アシスタント)/アン・ハサウェイ
ナイジェル(ミランダの右腕のファッション・ディレクター)/スタンリー・トゥッチ
エミリー(ミランダのシニア・アシスタント)/エミリー・ブラント
クリスチャン・トンプソン(著名なエッセイスト)/サイモン・ベイカー
ネイト(アンディの恋人)/エイドリアン・グレニアー
20世紀フォックス映画配給・2006年・アメリカ映画・110分
<突然ベストセラー作家になったのは・・・?>
アメリカでは2003年4月、20代の新人女性作家が書いた『プラダを着た悪魔』が刊行と同時に一大ベストセラーになったらしい。彼女の名はローレン・ワイズバーガーで、ヴォーグ誌の女性編集長のアシスタントをつとめた経験を持つとのこと。ヴォーグ誌は中年男の私でもその名前を知っているファッション誌だから、若い女性にとっては身近な必需品(?)。したがって、オシャレに興味を持ち、ファッション業界に憧れる若い女性にとっては、そんな職場で働くことは大きな夢。ところが、その実態は・・・?
「隣りの花は赤い」「隣りの芝は青い」というように、いくら華やかな業界であっても、その内実は大変な業界であることは常識・・・?それは現に、何百万人に1人しかなれないと言われているヴォーグ誌の編集長のアシスタントを辞めて小説家になったローレン・ワイズバーガーの生き方からも明らか・・・。そんな原作の映画化だから、ヴォーグ誌やファッション業界の隠された生々しく、毒々しい生態が赤裸々に・・・?だからこそ、そのタイトルは『プラダを着た悪魔』・・・?
<これ以上の適役はなし!>
そんなランウェイ誌の編集長ミランダ・プリーストリーに扮するのは、アカデミー賞最多ノミネート記録を誇るメリル・ストリープ。日本でも最近、カリスマ○○、カリスマ△△という言い方がはやっているが、ミランダの場合はカリスマ編集長という表現の枠をはるかに超え、いわば北朝鮮の金正日と同じようなレベル(?)だから、独裁編集長と言った方が適切かも・・・?もちろん、彼女の場合は、ファッションセンスも編集の能力も超一流という実力の裏づけの下でその立場をキープしているわけだが、その仕事ぶりを見ていると映画の中とはいえ、そりゃものすごいもの・・・。機関銃のような矢継ぎ早やの指示はもちろんだが、アメリカ流の「トップはかくあるべし」というスタイルが完璧に貫かれているから、ある意味ですごくカッコいい・・・?
しかし、実は彼女もかわいい双子の女の子の母親という意外な姿を持っているうえ、結婚・離婚・再婚のくり返しで、今も家庭内には荒波が立ってそう・・・?そんなカリスマ編集長や独裁編集長を、メリル・ストリープがまさに「これ以上の適役はなし」という抜群の貫祿で演じきっている。
<アシスタントも大変・・・>
他方、こんな独裁編集長のアシスタントに「逆転の発想」で採用されたのが、アンドレア・サックス(アン・ハサウェイ)。アンディはもともとジャーナリスト志望で、ファッションにはまるで興味のない、いわばダサい文学少女・・・?ミランダが、そんなランウェイ誌の編集長アシスタントにハナから向かないアンディを採用したのは、面接の際の受け答えに見えた彼女の頭の良さと「意外性」に賭けたもの。この映画前半の面白さは、そんな動機でアシスタントに採用されたアンディとミランダとの「バトル」だが、さてアンディは、ミランダのしごきやいじめ(?)に耐えられるのだろうか・・・?
<クッションになるのはエミリーだったが・・・?>
ファッションセンス「ゼロ」のダサいアンディの採用を聞いて、呆気にとられながらも、さすがアメリカ流の合理主義者(?)らしく仕事は仕事と割り切り、テキパキと指示を与え、先輩の貫祿を示すのがシニア・アシスタントのエミリー(エミリー・ブラント)だった。男の私が見ていると、アンディが実力をつけてくるにしたがって、ボスからの指示の仕方が次第に変わってくることをめぐって、2人のアシスタントの間には火花が飛び交っているのではと思うものの、映画前半のスクリーン上では意外にビジネスライクな進行を・・・。しかし、果たして後半は・・・?
<もう1人のクッションはナイジェル・・・>
他方、おじさんは、やはりダサくても若い美人の新入社員にはやさしいもの・・・?ミランダの右腕ともいうべきファッション・ディレクターであるナイジェル(スタンリー・トゥッチ)は、アンディに対して実に的確なアドバイスを・・・。日本流のグチの聞き役や慰め役ではなく、いかにもアメリカ流の白黒をハッキリさせたこんなアドバイスが私は大好き!本来であれば、1週間から1カ月で辞めてしまうはずのアンディが気持を切り替えることができたのは、8割方このナイジェルのおかげ・・・?
<あなたはナニ派・・・?>
この映画を評価するにあたっては、メリル・ストリープに注目する人とアン・ハサウェイに注目する人に二分されるはず・・・?長年メリル・ストリープのすばらしさに馴れ親しんでいる人は、この映画での彼女のカリスマぶりに着目して、早くも「オスカーにふさわしい演技」と絶賛しているが、他方、「若い頃のオードリー・ヘップバーンの清らかな美しさと快活さを持っている」とアン・ハサウェイに着目するアン・ハサウェイ派も多いはず・・・?そして、私は断然アン・ハサウェイ派!
<アン・ハサウェイの代表作が誕生!>
冒頭の字幕が流れる中で対比されるダサいアンディとファッショナブルなアンディの姿も面白いが、ナイジェルのアドバイスによって一変していくアンディの成長ぶりを見ていると、その姿は「カイカーン!」と叫びたくなるほど鮮やか!『ブロークバック・マウンテン』(05年)での真っ赤なベストで、真っ赤なカウボーイハットを被ったロデオの女王ラリーンに扮した彼女は、『プリティ・プリンセス2~ロイヤル・ウェディング~』(04年)におけるプリンセス役よりもカッコ良かった(『シネマルーム7』118頁参照)が、この『プラダを着た悪魔』においては、あらゆるブランドを着放題という役得(?)はあるものの、その多彩なファッションは実にカッコいいもの。ここにアン・ハサウェイの代表作が誕生した、と言ってもいいのでは・・・?
<出世と個人の幸せは反比例・・・?>
日本の企業は昔から家族型経営。したがって、かつての高度経済成長時代の日本では、私生活返上のモーレツ社員が当たり前だったが、今やそんな日本の特徴は失われ、仕事と家庭を明確に峻別する価値観が多数派に・・・?もっとも、今の日本でも、本気で幹部入りを目指す社員のモーレツぶりは同じ(?)で、相対的にそんな人種の数が減っただけかも・・・?
他方、自由競争の国アメリカでは、幹部になればなるほど競争が激しくなるのは当然で、そのために家族や家庭を犠牲にするのは当たり前・・・?現にミランダの私生活は・・・?しかし、アンディにはキャリアアップのために私生活を犠牲にするという意識はなく、恋人ネイト(エイドリアン・グレニアー)との仲をうまく進めつつ、ミランダの有能なアシスタントになるという心づもりだった。しかしミランダから要求される現実は予想をはるかに超える厳しいもので、ランウェイ誌においては出世と個人の幸せは反比例・・・?
<プレイボーイの出現による危機は・・・?>
アンディはもともとジャーナリスト志望だったが、1年間ランウェイ誌でミランダのアシスタントをつとめあげればキャリアアップすることまちがいなし、と考えてその仕事に臨んだ。そしてナイジェルの適切なアドバイスもあったが、危機のたびに奇跡的なめぐり合わせと本人の努力によって、次第にアシスタントとしての実力が認められるとともに、次第にいいオンナに・・・。といっても、それは「この業界において」という意味で、恋人のネイトにとってはその正反対・・・?
そんな中、アンディは学生時代から憧れていた著名なエッセイストのクリスチャン・トンプソン(サイモン・ベイカー)と出会ったが、このクリスチャンはかなりのプレイボーイ。コトあるごとにアンディを誘惑していたが、最高にロマンティックでゴージャスなパリコレの中、ついに2人は・・・?こんなアンディの姿を見ていると、いくら元カレと縁が切れたからといって、パリのムードとセレブなクリスチャンの雰囲気にのまれてしまうのは、絶対許せない!と私は思ってしまうのだが・・・?
<権力闘争の内幕も少しだけ・・・>
日本でも、ホリエモンによるニッポン放送の買収騒動以降、企業の敵対的買収やTOB(株式公開買い付け)という言葉が新聞紙上を賑わすようになったが、自由競争の国アメリカではそれは昔から当たり前。むしろ、社会の動きのスピードが早まるにつれ、企業間の競争や企業内部での権力争いも激化し、スピードアップしているのでは・・・?
ミランダがランウェイ誌のカリスマ編集長の地位をキープしているのは、あくまでその実力によるものだが、華やかなパリコレの裏側では、企業の合併とその役員就任をめぐるすさまじい陰謀合戦が展開されていた。そして、今や最も有能なアシスタントとなり、パリコレに同行していたアンディだったが、ある日偶然にそんな情報をキャッチしたアンディは、さてどのように動くのだろうか・・・?
<後半はさらにカッコいい女に・・・>
今やミランダの有能なアシスタントとして欠かすことのできない存在となったアンディ。そしてパリコレの中、クリスチャンとも夢の一夜を過ごしたアンディだったが、やはり最も本質的な自分は失っていなかったよう・・・。
普通は華やかな世界に入りチヤホヤされると、なかなかその世界から抜け出すことができなくなるもの・・・。それは橋下弁護士をはじめ某法律相談番組(?)の北村弁護士、丸山弁護士、住田弁護士たちの姿を見ても明らか・・・?芸能人は芸能人でいいのだが、「芸能人まがい」でチヤホヤされてしまうと、近い将来使い捨てにされてしまうという当然のことを忘れ、その華やかな世界にしがみつくのが人間の弱さ・・・?しかし、その点アンディは偉い!そのアンディのカッコ良さは、映画の後半しっかりとスクリーン上で・・・。
<その後の2つの進路の選択は・・・?>
時をかまわずかかってくるケイタイを噴水の中に投げ捨てることによって、ミランダのアシスタントとしての人生に決別したアンディは実にカッコ良かったが、その後、アンディは2つの面で進路の選択を迫られることに・・・。
その1は彼氏の選択で、その選択肢は3つ。すなわち、①クリスチャンについていくこと、②ネイトとヨリを戻すこと、③新規の男とつき合うこと。さて、アンディの選択は・・・?ここで意外だったのは、カッコいいアンディの生き方からすれば私は③だと思ったのだが、さて現実は・・・?
その2は、次の就職先探しで、アンディは某出版社の面接を受けることに。履歴書には当然ランウェイ誌のアシスタントを途中で辞めたことが書かれているところ、それがプラスに働くのかそれともマイナスに働くのかが難しいところ・・・?一般的にはそれはマイナスに働くものだが、運の強い人は途中で辞めたことまでプラスに活用できることも・・・。そして、現実にはアンディの予想をはるかに上回るプラスの恩恵が・・・。
<さて、あなたの生き方は・・・?>
アンディの生き方は特殊で誰も真似のできないものだが、働きがいのある職場を見つけ、一生懸命にキャリアを磨きたいというカッコいいアンディの生き方は、きっとあなたの生き方の指針になるはず・・・。もっとも、アンディの場合は、ランウェイ誌を辞めたことや、その後の2つの選択が結果的に大成功となったわけだが、くれぐれもこれがすべての人に妥当するものではないということを、お忘れなく・・・。そうでなければ、ひょっとしてあなたの人生を大きく狂わせる可能性も・・・?
2006(平成18)年8月28日記