マイアミ・バイス(アメリカ映画・2006年) |
<敷島シネポップ>
2006年9月17日鑑賞
2006年9月19日記
マイアミを舞台に展開されるドラッグの密輸犯罪に「潜入捜査」で挑むのは、白人(コリン・ファレル)、黒人(ジェイミー・フォックス)2人の刑事。他方、犯罪組織の中で重要な役割を果たしているナゾの美女は、中国の大女優、鞏俐(コン・リー)。男の美学を描いて定評のあるマイケル・マン監督が、国際色豊かな犯罪モノの中に、濃密な恋物語(?)をふんだんに挿入したのが本作の特徴だが、さてその成否は・・・?今やハリウッドを代表するスターとなったコリン・ファレルのチョイ悪おやじぶりと、はじめて純愛(?)と職務遂行の間で苦悩するサマにも注目したいもの・・・。
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監督・製作・脚本:マイケル・マン
ソニー・クロケット(マイアミ警察の特捜刑事)/コリン・ファレル
リカルド・タブス(通称リコ、マイアミ警察の特捜刑事)/ジェイミー・フォックス
イザベラ(国際密売組織の中の謎の女)/鞏俐(コン・リー)
トルーディ・ジョプリン(マイアミ警察特捜課の女性刑事)/ナオミ・ハリス
ジーナ(マイアミ警察特捜課の女性刑事)/エリザベス・ロドリゲス
マーティン・カステロ(ソニーとリコの上司)/バリー・シャバカ・ヘンリー
ホセ・イエロ(国際密売組織のボス)/ジョン・オーティス
モントーヤ(国際密売組織の黒幕)/ルイス・トサル
UIP配給・2006年・アメリカ映画・132分
<テレビシリーズから映画へーマイケル・マン監督の狙いは・・・?>
この映画の監督は、『ヒート』(95年)や『コラテラル』(04年)などのアクション映画から、社会派ドラマの『インサイダー』(99年)、伝説映画の『ALI/アリ』(01年)まで、さまざまな「男の美学」を描いてきた巨匠マイケル・マン。そして、このマイケル・マン監督が製作総指揮をした人気テレビドラマが、1984~89年に放映された『マイアミ・バイス』とのこと。その映画化は、今回リコ役をつとめたジェイミー・フォックスの提案によって決まったらしい・・・。
「マイアミ・バイス」とは、マイアミ警察特捜課のこと。その名物コンビがソニー・クロケット(コリン・ファレル)とリカルド・タブスの2人。フロリダ州の楽園であるマイアミはよく映画に登場するが、ここはアメリカで最も南米に近いため、南米と北米を結ぶドラッグ犯罪に絡むことが多い。それを前提として、潜入捜査官として活躍する2人の姿を描くのが、この『マイアミ・バイス』のテーマ。もちろん、私はこのテレビドラマは観ていないが、さてそれを2時間12分にまとめた本作の出来は・・・?
<「潜入捜査」の傑作は・・・?>
潜入捜査の困難さと緊迫感を描いた傑作が香港の『インファナル・アフェア』3部作で、近々ブラッド・ピットとロバート・ダウニーJrの主演によってハリウッドでリメイクされることが決定している。パンフレットは、「潜入捜査は常に映画ファンを楽しませてくれる素材」と指摘し、「これまでにないスケールで極限の緊迫感とアクションを描くのが本作『マイアミ・バイス』」と紹介しているが、さてそれは・・・?
<2人の潜入捜査とは・・・?>
映画の冒頭、ソニーとリコが使っている情報屋から、ソニーに対してSOSの電話が入ってくる。ソニーとリコは何とか彼との接触に成功するが、家族を殺された情報屋は自らの命も絶ってしまった。それに続いて、ドラッグ取引に臨んでいた潜入捜査官たちも、おとり捜査の現場で射殺。こんな事態を見れば、南米と北米を結ぶ巨大なドラッグ密輸コネクション「ニュー・アンダーワールド・オーダー」に、捜査当局の情報が漏れていたことは明らか・・・。そこで、FBIのフジマ(キアラン・ハインズ)が立てた計画が、ソニーとリコをニュー・アンダーワールド・オーダーの根拠地である南米のコロンビアに送り込み、麻薬ディーラーとして組織と接触し、情報漏洩のルートを見つけ出すというもの。上司のカステロ(バリー・シャバカ・ヘンリー)の反対を押し切って、そんな危険な任務を引き受けた2人は、まず密輸用のアジトを急襲して、大量のドラッグを強奪し、これをエサとして組織のキーマンであるホセ・イエロ(ジョン・オーティス)と接触することに成功した。
<「潜入捜査」ってこんなに簡単・・・?>
この映画のいう潜入捜査とはこういうものだが、れっきとしたマイアミ・バイスの有名刑事コンビが、そんなに急にドラッグ取引のプロに変身して、ニュー・アンダーワールド・オーダーのキーマンと接触することができるの・・・?若い時から10年間もずっとマフィアの組織の中に入り込むことによって、ボスの信頼を得るという『インファナル・アフェア』の潜入捜査の大変さを見ているだけに、潜入捜査(もっともこの映画におけるその意味は、刑事からドラッグ取引のプロに変身すること・・・?)って、こんなに簡単にできるの、と疑問に思うのだが・・・?私がそんな疑問を持つのは、高度な情報社会となっている今、マイアミ・バイスに所属する刑事の顔写真をはじめとする個人情報くらいは、ニュー・アンダーワールド・オーダーはすぐに入手できるはずだと思うから・・・。もっとも、パンフレットにあるマイケル・マン監督のインタビューによると、彼が描きたかった潜入捜査=アンダーカバー(覆面捜査)の大変さはもっと内面的な意味であり、刑事から運び屋になりきらなければならない過酷な任務の中で、どう人間性を保っていくかということらしいが・・・?
<最大の注目点は鞏俐の出演!>
この映画には、一見組織の黒幕モントーヤ(ルイス・トサル)の妻のように見える謎の美女イザベラが登場するが、これがテレビドラマとは全く異なる最大の注目点。実は、イザベラはモントーヤの妻ではなく、組織の資金を運用・マネーロンダリングする有能なビジネスウーマンという設定だが、モントーヤとベッドを共にしているようだから何とも微妙な男女関係・・・?
そんなイザベラが、はじめて会ったソニーに対して合理的なビジネスの可能性を感じたばかりか、互いに強く惹かれ合っていくところがこの映画のミソ・・・。そして、その怪しげな恋愛模様がこの映画後半のメインストーリーになっていくから、これまで男のドラマにこだわっていたマイケル・マン監督は、中国美女鞏俐(コン・リー)を見て、多少宗旨変えをしたのかも・・・?
<日本人にはわかりにくい「国際性」・・・>
鞏俐がハリウッドスターのコリン・ファレルやジェイミー・フォックスと本格的に共演するのは、『SAYURI』(05年)での英語の演技が認められたためだが、ここまで世界に飛躍して堂々と演じられるのは「さすが中国人!」と感心。日本の女優ではなかなかこうはいかないはずで、これまでの例外はせいぜい工藤夕貴くらい・・・?
それはともかく、世界がいかに広いか、国際性とはどういうことなのかは、島国ニッポンに安住する日本人にはわかりにくいテーマだが、この映画で鞏俐演ずるイザベラの立場や、それを前提として組織の黒幕と結びついた彼女の生き方は国際色豊かなもので、日本人にはわかりにくいもの・・・。
<中国、キューバ、アンゴラ・・・>
イザベラは見かけは中国人だが、キューバ生まれで、キューバとスイスで教育を受けた女性という設定。もちろん、タフでクールそして超美人だが、イザベラがスクリーン上で語る身の上話によれば、子供の頃にアフリカのアンゴラに行き、そこで母親と死別したとのこと。それだけではよくわからないが、パンフレットにあるマイケル・マン監督のインタビューを読むと、マイケル・マン監督とコリン・ファレル、鞏俐の3人が、キューバまでリサーチに行った際の貴重な体験がその基にあるらしい。アンゴラ内戦(1975~2002年)の時、キューバはアンゴラ解放人民運動(MPLA)を支援したが、その支援のためにアンゴラに行ったドクターは、その体験が人のため社会のために何かをしようとするスピリットになったと語ったらしい。そんなドクターの想いと同じものが、アンゴラで働き死別した母親の姿と重なって、イザベラの心の中にもあるというわけだが・・・。
<鞏俐の妖艶さとベッドシーンにも注目!>
そんな世のため人のためというスピリットが、正義の世界か悪の世界かは別として、ソニーとイザベラに共通しているため、2人は惹かれ合い燃えあがったというわけだが、その燃え方が尋常ではないから、その点にも注目を・・・。鞏俐は、『きれいなおかあさん』(01年)ではホントに「きれいなおかあさん」に徹していたが、『たまゆらの女』(02年)でははじめて梁家輝(レオン・カーファイ)との間で激しいベッドシーンを見せたし、『愛の神、エロス』(04年)では、『花様年華』(00年)の張曼玉(マギー・チャン)に負けず劣らずの、何とも妖艶なチャイナドレス姿を披露したが、この『マイアミ・バイス』では、妖艶なダンスシーンが2回そして絡みつくようなラブシーンが数回登場するので要注目。それにしても、鞏俐(コン・リー)のベッドシーンのお相手となる初のハリウッド俳優が、よく名前の似たコリンとなったのはちょっとしたオチ・・・?
<コリン・ファレルVSジェイミー・フォックス>
ソニーはイザベラに出会うまでは女にかけては自由な「遊び人」だったが、相棒のリコは逆に同僚の女性刑事トルーディ・ジョプリン(ナオミ・ハリス)一筋の真面目派・・・?そんなリコを演ずるのは、『Ray/レイ』(04年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞し、『コラテラル』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたジェイミー・フォックス。彼はこの映画ではソニーを演ずるコリン・ファレルを前に立て、自分は一歩退いた形ながら実に説得力ある演技をしている。これは言ってみれば、『ナポレオン・ソロ』におけるナポレオン・ソロを演じたロバート・ヴォーンとイリア・クリアキンを演じたデイヴィッド・マッカラムの関係みたいなもの・・・?
<リコとトルーディの恋は伏線として・・・?>
そんな私の勝手な2人の関係論はともかく、リコはソニーが組織の重要人物イザベラと濃密な関係になっていくことを心配しながら、あまり口出しはしなかったが、その男女関係が2人の潜入捜査のほころびとなったことは明らか・・・。そして、そのことによる被害=とばっちりを受けたのがリコ。すなわち、組織はソニーとリコがドラッグの取引をきちんと実行するかどうかの担保として、リコの恋人のトルーディを拉致して人質にとるとともに、その首に爆弾をセットしたのだった。こうなれば、トルーディ奪還作戦の実行は不可避・・・。このように、リコとトルーディの恋は、巨大なドラッグ取引に向かうメインドラマへの伏線として効果的に使われているが、人質とされるトルーディや恋人の命を危険にさらされたリコにしてみれば、ホントはそんな役割はイヤ・・・?
<「禁断の恋」が大きなウエイトを・・・>
もともと端正な顔立ちの正統派ハリウッドスターであるコリン・ファレルは、今回は少し長髪でひげをたくわえたチョイ悪おやじ風の有能な刑事役だから、頭の良さと銃の操作はもちろん、車の運転やボートの運転も超一流。そのうえ、プレイボーイだからダンスの腕も一流という役柄で、一目惚れしたイザベラをその日のうちに口説き落とすテクニックはさすが・・・。私には地理カンがないから、マイアミからキューバまで高速ボートでどれくらいの時間がかかるのかわからないが、潜入捜査の合間(?)にこんな自由恋愛時間のある捜査なら私だって大歓迎・・・。と思っていたら、ソニーは意外にも今回だけは真剣だったらしい。したがって、映画の中盤、この2人の熱愛シーンが延々と続くことに多少の違和感を感じたものの、実はこの禁断の恋がその後のストーリー形成に大きなウエイトを・・・。だから、最初からそのように覚悟を決めて、意外なラブストーリーもじっくりと鑑賞しよう。
<一気にクライマックスへ・・・>
もはやソニーとリコが潜入捜査官であったことは、相手方の組織にはバレバレ。しかし、強奪した大量のドラッグはまだ2人の手に・・・。したがって、こうなればそのドラッグを取引材料として、行き着くところまで行かざるをえないのが当然・・・?
カステロの指揮の下、狙撃手や同僚の女性刑事ジーナ(エリザベス・ロドリゲス)などにバックを守られつつ、ドラッグ組織の黒幕モントーヤやボスのホセらと直接対面しようとするソニーとリコ。もちろんそのドラッグの取引がもちろん無事成立して「手打ち」となるはずがないことはお互い大前提で、いつ、どういうタイミングで、どちらから銃が発射されるかがポイントだが、その迫力ある銃撃戦のサマは是非スクリーン上で・・・。また、これがマイケル・マン監督の最大の持ち味であることも明らかだから、その採点も是非・・・。
<結末は、犯人隠匿の罪・・・?>
イザベラはモントーヤにとって重要な役割を担っているビジネスウーマンだったが、彼女とソニーとの間のあまりにも濃密なダンスに疑いの目を持ったのがホセ。そんなホセからのご注進によってモントーヤはイザベラを見限り、ホセに「払い下げ」してしまったから、ソニーにとっては大量のドラッグの取引とともに、イザベラを彼らの手から取り戻す必要があった。しかしそこで困ったのが、自分の身分がイザベラにバレること。自分が潜入捜査官であることをイザベラが知ったら、そりゃ怒り狂うことまちがいなし・・・。しかし、今回のイザベラに対する愛だけはそれまでと違い真実のもの。そんな思いのソニーがイザベラに対して、してやれることは、さて・・・?
私は「究極の選択」として、ソニーは刑事を引退し、イザベラと共に逃走のうえどこかで静かに暮らすという形のエンディングになるのかと思っていたが、そんな私の予想は裏切られ、全く違う結末に・・・。しかし、これってひょっとして犯人隠匿の罪に該当するヤバイ結末では・・・?
2006(平成18)年9月19日記