ザ・マークスマン(アメリカ映画・2005年) |
<ホクテンザ2>
2006年9月30日鑑賞
2006年10月7日記
チェチェンでテロリストたちがロシアの核施設を占拠。このままでは核使用の危機が・・・。そんな生々しい設定の下に、米特殊部隊の「マークスマン」の活躍を描くアメリカ讃歌映画(?)だが、イラク戦争の後遺症に苦しむ現実の姿と大きな乖離が・・・?それにしても、北朝鮮の「核実験」予告の「処理」に中ロが苦労している今、アメリカにはそれを直ちに中止させるようなスーパーマンはいないのかナ・・・?
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!ご注意ください!!
↓↓↓
監督:マーカス・アダムス
ペインター(特殊部隊のマークスマン)/ウェズリー・スナイプス
アマンダ・ジャックス(女性司令官)/エマ・サムズ
ジョナサン・テンサー/ウィリアム・ホープ
イゴール・ザイザン(テロリストのボス)/ダン・バダルー
ハーグリーヴス/ピーター・ヤングブラッド・ヒルズ
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント配給・2005年・アメリカ映画・94分
<マークスマンとは?>
この映画はアメリカの特殊部隊の活躍、それも組織としての活躍以上に、主人公ペインター(ウェズリー・スナイプス)の個人としての活躍を描くもの。ペインターたちの仕事は航空機によるピンポイントでのミサイル発射を可能とするため、標的とされた建造物内に特殊な「ターゲット」を設置すること。ターゲットの設置を完了し、時刻を設定すれば自動的にその位置を知らせる電波が発せられるシステムとなっているため、その間に特殊部隊は現場から離れ、そのかわりに爆撃機がそのターゲットを目がけて急襲しミサイルを発射するというわけだ。したがって敵地に潜入してそんな危険な任務を遂行する人間を「マークスマン」というらしいが、これってホントの話・・・?
<舞台はチェチェン>
私たち日本人に、中東地域、イスラム地域の紛争以上によくわからないのが、旧ソ連圏であった中央アジア地域の紛争。チェチェンを巡る紛争は有名だが、実はその実際の姿は私を含めて多くの日本人はほとんど理解していないのでは・・・?
この映画が描く紛争の舞台もチェチェン。ロシアの核施設がイゴール・ザイザン(ダン・バダルー)率いるチェチェンのテロリスト集団によって占拠されたことが問題の発端。核施設を閉鎖するために働いていた7人の科学者のうち4人がアメリカ人だから彼らを早急に救出しなければならないうえ、核施設の稼働と核兵器の実用化を緊急に阻止しなければならない。さて、こんな場合のアメリカにおける危機管理体制の発動は・・・?
<特殊部隊の派遣を決定!>
ワシントンD.Cの軍事会議におけるジョナサン・テンサー(ウィリアム・ホープ)の詳細な説明によれば、ザイザンの副司令官であるアンドレ・フリントフが、韓国人仲間から核燃料棒を調達しているため、核兵器の実用化がさし迫っているということ。そこで米軍最高司令官が提案したのは空爆だが、女性司令官のアマンダ・ジャックス(エマ・サムズ)は、空爆すれば大量の放射性降下物質が生じるため、数十万の人間が犠牲になること確実だと反論。そして彼女が提案したのは、特殊部隊による科学者たちの救出と特定の核施設へのターゲットの設置という特殊作戦だった。そこで呼ばれたのが、そういう特殊任務に長けたペインター。彼はかつて誤ってターゲットをマークしたという前歴がささやかれていたが、ペインターと男女の仲にあった(らしい?)アマンダは、それは誤解だと確信し、ペインターの能力を固く信頼していた。
ペインターを含む特殊部隊は直ちにパラシュートでチェチェンに降り立ち、科学者たちの救出と核施設へのターゲット設置の任務に向かったが・・・。
<ロシアでは・・・?>
チェチェン紛争はもともとチェチェンの独立に対してロシアがちょっかいを出し、軍事介入をしたために生じたもの。血ナマ臭い軍事闘争を経てやっと停戦合意が成立し、ロシア軍は撤退したが、2002年のモスクワ劇場占拠事件をみれば、なお根強い火種が残っていることは明らか・・・。
この映画では、ロシアの公使イワノフ長官は、韓国から輸送される核燃料棒を積んだコンテナ船の追跡など、なぜかアメリカに協力的。もちろんこの核燃料棒の到着前に原子炉を破壊することが絶対条件だが、ホントにこんなアメリカとロシアの共同作戦はあるの・・・?そしてそれはうまく成功するの・・・?
<意外にスンナリと・・・?>
ペインターたち特殊部隊は無事核施設内に潜入し、そこに隠れていた2人の科学者を救出すると共に、残りの科学者たちの死亡を確認。そしてペインターはターゲットの設置を完了。こうなれば後は脱出ヘリに乗って引き揚げるだけだ。先に脱出した2人の科学者を含む特殊部隊は約束の地点に降り立ったヘリに急いで乗ろうとし、少し遅れて走っているペインターはこれに合流するべく急いだが、ここでペインターの頭をよぎったのは、「あまりにも簡単すぎる」という直感。もちろん、これは情報=データに基づく判断ではなく、百戦錬磨の軍人ペインターの直感!そして、これはイゴールが仕掛けたワナだと確信したペインターは、直ちに特殊部隊に連絡したが、既にヘリに乗り込んだ科学者の1人がヘリ内に爆弾を投入したからたまらない。とっさに逃げ出した3名は助かったものの、周りを固めたテロ集団たちにたちまち拘束されてしまった・・・。
科学者の裏切りによって救出部隊はまんまとワナにはめられたというわけだ。既にターゲットは設置され、そのターゲットに向けてミサイルを発射するための爆撃機は空母から発艦ずみ。さあ、1人残され、袋のねずみ状態になったペインターは、これからどのように行動し、この困難な局面を打開していくのだろうか・・・?
<例によって(?)ペインターはスーパーマン・・・?>
ハリウッド製のアメリカ特殊部隊の活躍を描く映画においては、その兵士がスーパーマン的に描かれるパターンがほとんど・・・。その典型はボスニア紛争を舞台とした『エネミー・ライン』(01年)だった(『シネマルーム1』71頁参照)が、その点は『ザ・マークスマン』も同じ。すなわち、ペインターは特殊部隊のチームの中では孤立しており、他のメンバーたちと一線を画する「一匹狼」だったが、その分、運動能力と思考能力は超一流・・・。かけたワナがまんまと成功したこと、そして1人だけ取り残された兵士がいることは、テロリストのボスであるザイザンにはわかっているのだから、常識的に考えればペインターを包囲し追い詰めていくことは簡単なはず・・・。しかしそれでは、アメリカはそしてハリウッド映画は納得しないから、ペインターはここから突然超人的かつスーパーマン的な活躍を見せていくことに・・・。それを観てスカッとしたい人も多いはずだから、そういう人は、以後のペインターの活躍にきっと満足できるはず・・・。
<おりしも北朝鮮による核実験の危機が・・・>
安倍政権発足直後の10月8、9日に日中・日韓首脳会談がセットされたことは喜ばしい限りだが、果たしてどのような成果が出るのかは大いに不安・・・。そして問題は、ターゲットを合わせるかのように北朝鮮が核実験をやるぞというカードを切り始めたこと。核実験の「予告」に対して韓国は反発しているが、中国の態度がもう1つ明確ではないのが気がかり・・・?
このように私たちが生きている今も、すぐ近くで核実験の危険が迫っているのだから、チェチェンでテロリストがロシアの核施設を占拠して、それを稼働させることによって核兵器の使用が可能になれば大変なこと。ちなみに先日観た面白い韓国映画『天軍』(05年)では、2005年に北朝鮮と韓国との共同開発による核兵器「飛撃震天雷」が完成し、アメリカに睨みをきかせるという筋書きだったが、それも含めてそんな物騒な話は映画の中だけにしてもらいたいもの・・・。
2006(平成18)年10月7日記