レディ・イン・ザ・ウォーター(アメリカ映画・2006年) |
<梅田ピカデリー>
2006年9月30日鑑賞
2006年10月4日記
今回のM.ナイト・シャラマン監督作品は、あっと驚くドンデン返しなしのナーフ(水の精)をテーマとしたおとぎ話。主人公となるアパートの管理人をはじめ多数の住人たちが「活躍」するのは、「ナーフ」の「うつわ」探しと、無事「青い国」への帰還と協力・・・。「現代人に対する再生を込めたファンタジー」といえばカッコいいが、私には、シャマラン監督がコケたとしか思えない・・・。さて、あなたの印象と評価は・・・?
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!ご注意ください!!
↓↓↓
監督・脚本・製作:M.ナイト・シャマラン
クリーブランド・ヒープ(コーブ・アパートの管理人)/ポール・ジアマッティー
ストーリー(ナーフ(水の精))/ブライス・ダラス・ハワード
ビック・ラン/M.ナイト・シャマラン
アナ・ラン(ビックの妹)/サリータ・チョウダリー
ハリー・ファーバー(コーブ・アパートの新しい住人)/ボブ・バラバン
チェ・ヨンスン(大学生)/シンディー・チャン
レジー(右側だけを鍛えるボディビルダー)/フレディー・ロドリゲス
リーズ氏(コーブ・アパートの長年の住人)/ビル・アーウィン
ベル夫人/メアリー・ベス・ハート
デュリー氏(クロスワードパズルの達人)/ジェフリー・ライト
ジョーイ・デュリー(デュリーの息子)/ノア・グレイ・キャビー
ワーナー・ブラザース映画配給・2006年・アメリカ映画・110分
<M.ナイト・シャマラン監督の「おとぎ話」は・・・?>
この映画は、「青い海」に住んでいる水の精(ナーフ)が人間の世界に現れるという、M.ナイト・シャマラン監督が自分の子供たちに語って聞かせた即興のおとぎ話がモチーフであり、それが劇場用映画になったもの。そのおとぎ話では、ナーフが人間界に現れるのは、ナーフが出会うべき運命とされている選ばれた「うつわ」を見つけるためだが、人間界には特別な力を持つナーフを亡き者にしようとする邪悪な魔物が待ち受けているためナーフは命を落とす危険がある。そこでナーフを守るために、自分たちの力について自覚しないまま、うつわの近くに暮らしている①記号論者(シンボリスト)、②守護者(ガーディアン)、③職人(ギルド)、④治癒者(ヒーラー)、⑤証人(ウィットネス)という役割の人間がいるとのこと・・・。
さて、『シックス・センス』(99年)は大ヒットしたものの、その後『アンブレイカブル』(00年)、『サイン』(02年)、『ヴィレッジ』(04年)と次第に落ち目(?)傾向にあるそんなシャマラン監督のおとぎ話に、今回つき合ってみる価値はあるのだろうか?
<映画の舞台は・・・?>
このおとぎ話を映画化するについては、多くの登場人物が必要。そこで、そのために用意された舞台がフィラデルフィア郊外のコーブ・アパート。コーブ・アパートとは普通の人々が暮らす、普通のアパートだが、それでもその中庭部分には立派なプールが・・・。ここには多種多様な人々が住んでいるが、一見してわかるのはその多くがヒスパニック系、韓国系、黒人などのマイノリティであり、しかも変わった人たちばかりだということ・・・。
『ヴィレッジ』で印象的な演技を見せた、シャマラン監督のミューズ(?)ブライス・ダラス・ハワード扮するストーリーという名のナーフと最初に接触するのは、コーブ・アパートの住人をよく知っている管理人のクリーブランド・ヒープ。このクリーブランドが映画全編を通じて登場し、物語進行のキーマンになる。そのクリーブランドを演じているのは、『サイドウェイ』(04年)で印象的な中年男を演じ、『シンデレラマン』(05年)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたポール・ジアマッティー。普段は吃っている自分が、ストーリーと一緒にいる時だけその吃音が治るという奇蹟を目の当たりにして、クリーブランドはアパートに住む韓国人の女子大生チェ・ヨンスン(シンディー・チャン)が曾祖母から聞いたという「東洋の伝説」を徐々に信じるようになっていったが・・・。
<「グエムル」VS「スクラント」>
昨年の韓国映画の大ヒット作は『トンマッコルへようこそ』(800万人)だったが、今年の大ヒット作は『王の男』(1300万人)とポン・ジュノ監督の『グエムル 漢江の怪物』。
「グエムル」はもちろん想像上の怪物だが、『レディ・イン・ザ・ウォーター』にナーフを襲う化け物として登場する「スクラント」も、その姿がわからないように草と同じような色で全身が覆われた、一見獰猛な犬か狼のような形をした化け物。「グエムル」はそれ自体が映画の主役(?)で、それが新鮮で観客に受けたため映画自体が大ヒットしたが、シャマラン監督のおとぎ話に登場してくる化け物「スクラント」の観客への受けは・・・?
<シャマラン監督の役柄は・・・?>
ヒッチコック監督は自らメガホンをとった映画に「カメオ出演」するのが大好きだったが、シャマラン監督はそれ以上の目立ちたがり屋のよう・・・?彼はインド生まれだから、普通のアメリカ人とは全然違うので、すぐにわかる。この映画で、ナーフのストーリーが求める「うつわ」は、男か女かもわからず、わかっているのはただその人はライター(物書き)だということ。しかしアパート内には、①13-Bに入居したばかりの最も新しい住人ハリー・ファーバー(ボブ・バラバン)、②かつて作家だったが、執筆した本は20年も前に絶版となっているベル夫人(メアリー・ベス・ハート)、そして③半年かけて小説を執筆中だが、現在は行き詰まって机の上に置きっぱなしとなっているビック・ラン(M.ナイト・シャマラン)らがいるし、④クロスワードパズルの達人であるデュリー氏(ジェフリー・ライト)もライターといえないこともない・・・?
目立ちたがり屋であれば、誰でも自分をその「うつわ」役にしたがるだろうが、シャマラン監督もまさにそのとおり・・・。「うつわ」は、ナーフの姿を見ると突然ひらめきを与えられ、心の中の何かが目覚め、心の中を何かで刺されたような感覚になるとのことだから、その症状の有無をチェックすれば「うつわ」探しは意外と簡単・・・?
ストーリーとの出会いによって、この「うつわ」は、自分の悲しいけれども輝かしい未来を知ることになるのだが・・・?このシャマラン監督演ずる「うつわ」のビック・ランはそれなりの雰囲気はあるものの、セリフが少ないためその演技力は未知数・・・?
<思わずマンション建替えの難しさと対比・・・?>
区分所有法における5分の4の(単純)多数決による建替え決議の創設と、マンション建替え円滑化法の制定によって、それまで全員同意が要求されていたうえ手続が未整備だったため、きわめて困難だったマンション建替え事業が今後促進されていくことは明らかなところ。しかし、マンション建替え事業が困難だったのは、このような法的手続の不十分さだけではなく、マンション住人同士のコミュニケーション不足にあったことは、阪神大震災後顕著になった建替え派と修復派の争いを見れば明らか。
そんなマンション住人相互のコミュニケーションの難しさを弁護士としてよく知っている私には、突如コーブ・アパートに現れたナーフを無事に「青い国」に帰すべく、クリーブランドの音頭に合わせてアパートの住人たちが一致協力していく姿にビックリしたのは当然。
日本では、そんな「東洋の伝説」にもとづくメルヘンチックなおとぎ話に時間をとっておつき合いしていくほどヒマな人は少ないだろうし、そこまで協調的でない人がほとんどだろう。そう考えると、クリーブランドをはじめコーブ・アパートの住人たちが心をひとつにしてあれこれと思考をめぐらし、一致協力しながら行動しているこの映画の世界はまるで夢のよう・・・?
<ヒットはとても無理・・・?>
『レディ・イン・ザ・ウォーター』は『キネマ旬報』10月上旬号の「キネ旬チョイス」に取りあげられられており、そこにはシャマラン監督のインタビューの他、大森さわこ氏の「現代人に対する再生への祈りを込めたファンタジー」という解説がある。しかし、そのインタビューを読んでもシャマラン監督の自己満足ではないかという感が強いし、「再生への祈りを込めたファンタジー」というカッコいいまとめや、「最終的にはナルホドと思える感動的なオチが用意されるのだ」という誉め言葉もイマイチピンとこない・・・。
予告編を観た時から、私はこの作品はヒットしないだろうと予測していたが、公開初日の土曜日のラスト上映であるにもかかわらず観客席はガラガラ・・・。これではヒットはとても無理で、「シャマラン監督もついにコケたか」という惨めな結果になるのでは・・・?
2006(平成18)年10月4日記