ウィンターソング(香港映画・2005年) |
<ヘラルド試写室>
2006年10月13日鑑賞
2006年10月14日記
香港のピーター・チャン監督が、台湾・中国・香港・韓国の才能を結集したミュージカル映画は、さらにその中でミュージカル映画を製作中。したがって、雪の北京での10年前の恋をベースに、金城武と周迅がくり広げる切ないラブストーリーは二重唱となって、美しい叙情詩を見るよう・・・。なぜ2人が北京で別れ、10年後に上海でまた再会できたのか?そこには第三の人物が重大な影響を・・・。理想と現実の葛藤、生々しい三角関係のもつれ、さらに再会の中で徐々に高まっていく激情、そんな中、2人の失われた愛は再び甦るのだろうか・・・?その行方は、色彩美に富んだスクリーンと、静かに流れる美しいラブソングの数々を聴きながら、あなた自身の目でじっくりと・・・。
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監督:陳可辛(ピーター・チャン)
林見東(リン・ジェントン)(張揚)/金城武
孫納(スン・ナー)(老孫、小雨)/周迅(ジョウ・シュン)
聶文(ニエ・ウェン)/張学友(ジャッキー・チュン)
天使/池珍熙(チ・ジニ)
角川ヘラルド映画配給・2005年・香港映画・109分
<アジアの才能を結集!>
『キネマ旬報』7月上旬号は「アジアで合作映画が作られる理由」を特集したが、そこで注目されている作品の1つがこの『ウィンターソング』。その主役の金城武が台湾生まれで、周迅(ジョウ・シュン)が中国生まれ、そして2人を支える張学友(ジャッキー・チュン)が香港生まれで、池珍熙(チ・ジニ)が韓国生まれ。香港生まれの陳可辛(ピーター・チャン)監督はこういう形でアジアを代表するスターたちを結集したわけだ。そのうえスタッフもシドニー生まれのクリストファー・ドイルは別として、撮影の鮑徳熹(ピーター・パウ)をはじめ、本作で香港電影金像奨最優秀オリジナル作曲賞を受賞した作曲者たちはアジアの才能が結集されている。
上記特集によると、ピーター・チャン監督は、この映画を「まず第一に中国大陸の観客を頭において作りました」とのこと。このように「中国大陸」や「中国語圏」を明確に意識し、アジアの才能を結集した映画づくりは今後ますます増えていくこと確実だろう。
<中国語の勉強が大切・・・>
そんな流れの中で大切なのは、何よりも言葉。その意味で北京語、台湾語、広東語、日本語、英語を自由に操る金城武は貴重な俳優。そして、日本でも既に中国語をしゃべる主役級として先行登場したのが『PROMISE』(05年)の真田広之や『幻遊伝』(06年)での田中麗奈だが、これに続くためには中国語の勉強が不可欠。プロ野球界ではイチローや松井秀喜らに続いて、遂に来季は西武の松坂大輔投手がポスティングシステムによる大リーグへの移籍が確実視されているが、真田広之や田中麗奈らに続いてアジアに羽ばたく次の大スターは果たして誰・・・?
<はじめて観た中国語ミュージカル・・・>
私は昔からミュージカル映画が大好き。例外的にフランスにもミュージカル映画『シェルブールの雨傘』(63年)があったが、そのほとんどはブロードウェイミュージカルだった。最近面白かったミュージカル映画は、何といってもニコール・キッドマンが主演した『ムーラン・ルージュ』(01年)で、章子怡(チャン・ツィイー)を起用した日本のミュージカル映画『オペレッタ狸御殿』(05年)の出来はイマイチ。また最近観たインド映画『ラジニカーント★チャンドラムキ 踊る!アメリカ帰りのゴーストバスター』(05年)の圧倒的迫力にはビックリさせられたもの。私は中国語ミュージカルはこの『ウィンターソング』がはじめてだが、中国語の歌はテレサ・テンの『月亮代表我的心』をはじめ、王菲(フェイ・ウォン)の『但願人長久』など結構たくさん知っているから、中国語の歌詞はそれなりに親しみがある。さてはじめて観た中国語ミュージカルの出来は・・・?
<10年ひと昔だが・・・>
この映画のラブストーリーははっきり言ってちょっとややこしい・・・。というのは、10年前と現在の2つのラブストーリーがスクリーン上で交互に描かれるうえ、時々は「スクリーン上のスクリーン」に映る10年前の姿と現在の姿が重なり合うから、多少頭がこんがらがることも・・・。
若き日の金城武扮する林見東(リン・ジェントン)と周迅扮する老孫(ラオスン)と名乗る孫納(スン・ナー)が出会って恋に落ち、そして別れる舞台は北京。しかも映画のタイトルどおり冬の北京だから、いかにも寒そう・・・。なぜ2人が別れたのか?それは、別れのパターンとしてよくある女性側の上昇志向・・・?つまり、林見東は監督になる夢を諦めて香港へ帰ろうとしたのに対し、孫納はあくまで女優への夢を諦めることができなかったため。そんなギャップによって孫納は林見東と別れる決意をしたわけだが、こんな場合、男の方は軟弱でいつまでもメソメソしているケースが多く、林見東もそのタイプ・・・?そんな2人が再び顔を合わせる舞台は上海だが、10年後の再会により2人がヨリを戻す可能性は・・・?
<何やら意味シンなモノローグ・・・>
映画の冒頭は、バスに乗っている1人の男(池珍熙)によるモノローグから始まる。それは「人生は映画そのもの。人はみな映画の主役。他人の人生なのに主役と錯覚する人もいるが、たいていは脇役かワンカット出演がせいぜいだ。出演シーンがカットされることだってある。・・・・・・私はカットされた多くのシーンを集めている。カットされたシーンを、また必要になった時に戻してあげるために。今もあるシーンを戻すためにここへ来た」という、いかにも意味シンなもので、実はこの男は天使らしい・・・。したがって、彼はその後何度もスクリーン上にその姿を見せるが、実はこの世には存在していないことにご注意を。そしてプロローグがそうであれば、この映画の最後を締めるのも、もちろんこの天使・・・。
<ミュージカル中ミュージカルは・・・?>
天使によるモノローグの直後に、ミュージカル映画の製作現場が登場する。すなわち、昔の上海を再現したスタジオの中で、今、聶文(ニエ・ウェン)監督(張学友)はミュージカル映画撮影の真っ最中だ。『ウエスト・サイド物語』を彷彿させる見事な、中国映画には珍しい(?)群舞がさまざまなパターンで展開されていくが、聶文監督は何やら不満な様子。それは、「話に無理がある・・・・・・陳腐だ」という彼の声にはっきりと・・・。
このミュージカル中ミュージカルの主演女優が今や大スターとなった孫納だが、10年の歳月は彼女にもしっかりとした年輪を刻んだようで、今孫納は聶文監督といい仲に・・・?多分これは不倫関係だと思うのだが、そこに割って入るかのように登場した孫納の共演者が香港から呼ばれてやって来た、これも監督への道を諦めて今は俳優として成功している林見東。そこで、切羽詰まった問題として登場するのが、ミュージカル中ミュージカルの完成に加えて、三角関係・・・?さあ、聶文監督の嫉妬心を軸とした三角関係の行方は・・・?
<聶文監督自身も役者として登場!>
ミュージカル中ミュージカルの主役は、記憶喪失状態でサーカス団に身を寄せ、空中ブランコをやっている孫納扮する小雨(シャオイー)。「陳腐な物語」からの脱却をはかるため聶文監督は自らサーカスの団長として出演することとし、団長と小雨との新しい人生から物語がスタート。そこに登場するのが、小雨のかつての恋人であった林見東扮する張揚(チャン・ヤン)だが、小雨は彼を覚えていない。そこで、張揚は小雨の記憶を取り戻すべくサーカス団に入るが、この張揚と小雨の物語は、まるで林見東と孫納の愛の物語と瓜二つ・・・?ミュージカル中ミュージカルの中でそんな張揚と小雨の役柄を林見東と孫納が演じていれば、2人がどんな気持になっていくか容易に想像がつくというもの・・・。
さすが『ラヴソング』(96年)で香港電影金像奨の作品賞、監督賞など9部門を受賞したピーター・チャン監督のラブストーリーのつくりかたは手が込んでいてうまいもの・・・。このミュージカル中ミュージカルでも、張揚と小雨に団長が絡んだ三角関係になるのは必至。さて、その行方は・・・?
<10年後の北京は・・・?>
今ミュージカル中ミュージカルをつくっている舞台は上海だが、なぜか聶文監督が突然姿を消してしまったから大変。多分、これは三角関係のもつれが原因だろうが、それは映画を観てのお楽しみに・・・。ミュージカル中ミュージカルの共演で10年前の北京における2人の姿を重ね合わせていた2人だったが、監督不在による撮影休止を幸いとばかりに、林見東は孫納を思い出の北京に連れていくことに・・・。林見東が強引に連れて行ったのは、かつて2人が過ごしていた倉庫。北京のまちの再開発で取り壊される運命にあった古い倉庫を、香港で人気スターとなった林見東が2人の思い出の建物として買い取っていたのだった。つまり、孫納は林見東を振り切ってスターへの道をまっしぐらに歩んでいたのに対し、林見東は10年間ずっと孫納の影を追い続けていたというわけだ。林見東がミュージカル映画への出演を引き受けたのも、それに出演すれば孫納と出会えるため・・・。
今、倉庫内に置いてある録音テープには林見東の孫納に対する毎年の熱い思いがタップリと刻まれていた。そんなテープを聞かされれば誰だって・・・。そして、当然孫納もそれによってメロメロに・・・?思い出の倉庫の中で熱い一夜を過ごした2人だった。ところが、翌朝孫納が目を覚ますと、既に林見東の姿はなかった。孫納が枕元に置いてあった録音テープのスイッチを入れてみると、そこには何とも思いがけない復讐の言葉が・・・?これは一体ナニ・・・?
<手に汗握る空中ブランコは・・・?>
聶文監督が撮影現場に復帰し、ミュージカル中ミュージカルはいよいよクライマックスの空中ブランコシーンの撮影に入った。私は小さい時から高所恐怖症・・・。したがって、古い上海のまちなみにある時計台の上から投げられた縄ばしごを伝って団長が一歩ずつ登っていき、時計台の上に立つのを見ると、それだけで目がくらみそう・・・。そんな団長が手に握ったのが1本のブランコ。そして、道路を隔てた向かい側の建物にも、1本のブランコを握った小雨が。これから道路を隔てた2人による空中ブランコショーの開演というわけだ。
どういうストーリーの流れでそうなったのかはよくわからないが、まずは見事な「空中合体」で、小雨が団長の手に飛びつきそして離れていったが、2回目はその逆。つまり団長が空中で回転しながら小雨の手に飛びつくわけだが、ちょっとでもタイミングがズレれば大ゴトになるのは当然。普通のサーカスでは下に安全網を張ってあるから安心して見ていられるが、このミュージカル中ミュージカルでは道路を挟んでの空中ブランコだから安全網は全くなし・・・。さて、2度目の団長からの小雨へのチャレンジは・・・?
思わず「あっ」と声を出しかけたほど、少しのタイミングのズレが大変なことに・・・。かろうじて団長の片方の足だけを小雨は握ることができたが、このままでは団長の重みを支えきれないことは明らか・・・。そこで団長が命じたのは・・・?さて、そんな手に汗を握る空中ブランコの結末と、ミュージカル中ミュージカルの結末は・・・?そして張揚と小雨の恋の結末は・・・?
スクリーン上に満ちあふれた色彩美と静かに流れてくる2人が歌うラブソングを聴きながら、このミュージカルの行方をじっくりと楽しんでもらいたいものだ。
<天は二物も三物も・・・>
香港四天王の1人であったジャッキー・チュンはもともと「歌神」と称されているほどの歌手だから、金城武と周迅は分が悪いのではと思っていたが、何の何の・・・大したもの。ちなみに、周迅は歌手としても活躍しており、2003年チャイニーズ・ポップ・チャート・アワードの最優秀新人賞を受賞したほどだから、その実力は折り紙付き。このご両名が歌うミュージカルナンバーは静かなバラードが多いので、ラブストーリーの展開に合わせてじっくりと・・・。やはり天は時々二物も三物も与えることがあるのだということをあらためて実感・・・。
『始皇帝暗殺』(97年)、『ふたりの人魚』(00年)、『ハリウッド★ホンコン』(01年)、『小さな中国のお針子』(02年)を観る中で私が注目していた周迅は、歌手としても章子怡と対抗しているうえ、本来の女優業においても今や章子怡に迫る勢い・・・?ちなみに、周迅の最新作は、章子怡と共演する『夜宴(原題)』とのこと。さて、このライバル(?)はどのような形で女の闘いの火花を散らすのか、興味津々・・・。
2006(平成18)年10月14日記