氷の微笑2(アメリカ映画・2006年) |
<東映試写室>
2006年10月17日鑑賞
2006年10月19日記
シャロン・ストーン扮するあのセックスアピール抜群の犯罪小説家が、14年ぶりにスクリーンに復帰!お相手は刑事から精神医にかわったが、「魔性の女」の魅力と弁舌そして卓越した情報収集・処理能力の前にかき回され、ボロボロにされていくという筋書きは全く同じ・・・。次々と起こる殺人事件はミステリー性とサスペンス性がいっぱいで、あなたの頭も混乱すること必至・・・。それにしても、前途洋々だった若き精神医の結末の姿を見ると、いくら魅力的であってもこんな魔性の女に対しては、「触らぬ神に祟りなし」がベストだと痛感。おいらも、そしてあなたもせいぜい用心しなければ・・・。
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監督:マイケル・ケイトン=ジョーンズ
キャサリン・トラメル(犯罪小説家)/シャロン・ストーン
マイケル・グラス(精神医)/デヴィッド・モリッシー
ロイ・ウォッシュバーン(刑事)/デヴィッド・シューリス
ミレーナ・ガードッシュ(マイケルの同僚の女性精神科医)/シャーロット・ランプリング
ミシェル・ブロードウィン(マイケルの友人の女性精神学者)/フローラ・モントゴメリー
デニース・グラス(マイケルの別れた妻)/インディラ・ヴァルマ
アダム・タワーズ(デニースの恋人、雑誌記者)/ヒュー・ダンシー
ジェイコブ・ゲルスト博士(精神科医学界の大物学者)/ヘースコート・ウイリアムス
シナジー配給・2006年・アメリカ映画・114分
<こんなパート2なら大歓迎・・・>
誰でも第1作が成功すれば、柳の下に2匹目のどじょうがいないかと期待して続編やパート2を狙うものだが、はっきり言ってその成否は半々・・・?女優シャロン・ストーンを一躍有名にしたのは、マイケル・ダグラス扮するサンフランシスコ市警の敏腕刑事を官能の虜とし、いつしか刑事自身を容疑者にしてしまうという魔性の女流作家キャサリン・トラメルを演じた『氷の微笑』(92年)だった。その翌年の『硝子の塔』(93年)も、彼女の強烈なセックスアピールと女の恐さを見せつけた面白い映画だったが、残念ながらそれ以外の彼女の出演作はほとんど印象に残っていない。本来、彼女は決して「一発屋」ではないのだが・・・。
シャロン・ストーンは1958年生まれだから既に40代後半。その年になって『氷の微笑』パート2が完成したわけだが、その企画は約8年前に始まったとのこと。そしてそのアイデアは、シャロン・ストーン演ずる女流作家キャサリンは前作と共通のキャラとしたうえ、そのお相手を刑事から精神医にかえること。なるほど精神医なら、キャサリンが書くセックスと殺人をテーマとし、現実とフィクションが入り混じったややこしい小説ともまともに太刀打ちできるはず・・・?そんな狙いで、男性ファン待望のシャロン・ストーン演ずるファム・ファタール、キャサリン・トラメルが、14年ぶりにスクリーンに戻ってきたわけだが、アメコミのパート2と違ってこんなパート2なら大歓迎・・・?
<冒頭から思わずドッキリ・・・?>
映画の冒頭の舞台はロンドンの市街地。1台のカッコいいスポーツカーを猛スピードで運転しているのがシャロン・ストーン扮するキャサリン。そして、その隣りにシートベルトで固定された状態で座っているハンサム男は、後でわかったところではサッカーの人気選手らしいが、この時は既に幻覚状態にある様子・・・?キャサリンは一方の手でそんな男の手を取って自らの股間に誘い激しく動かしていくうち、次第にスピードの快感とセックスの快感が重なり合い、遂にクライマックスに・・・。ところが、それと同時に片手運転でかろうじて道路上を走っていた車も大きくジャンプし、テムズ川の中に突っ込んでしまったから、さあ大変・・・。
こりゃまるで、桃井かおり扮する鬼塚球磨子が車ごと海中へ転落した、野村芳太郎監督の『疑惑』(82年)(『シネマルーム10』33頁参照)を彷彿させるもの・・・。もっとも、『疑惑』は球磨子だけが生き残り、3億円という巨額の保険金請求が認められるか否かが争われた社会派サスペンスだったし、球磨子は単なる同乗者だった。しかし、『氷の微笑2』は「色気派サスペンス」であるうえ、キャサリン自身が運転者。したがって、転落事故によるキャサリンのサッカー選手殺害の可能性や、転落事故以前に既に薬物でサッカー選手が死亡していた可能性など、いろいろな疑惑が・・・。
その是非はともかく、この映画ではミニドレス姿で足を広げたあられもない姿で、しかも片手はハンドルに片手は自らの股間に男の手を導きながら猛スピードでスポーツカーを運転しているシャロン・ストーンの姿にまずはドッキリ・・・。
<精神医の鑑定に注目!>
麻原彰晃をめぐる裁判は、弁護人の控訴趣意書不提出によって一審での死刑判決が確定するというきわめて異例な結末となった。殺人事件をめぐっては、被告人の精神状態の鑑定が必要なケースが多く、またそれが有罪・無罪の結論に大きな影響を与えることが多いのは、今や常識・・・。そして麻原裁判においても、彼が心神喪失か否かが大問題となったことは周知のとおり。
しかして、サッカー選手の死亡事件について、キャサリンを有罪とするのに執念を燃やしたのはロイ・ウォッシュバーン刑事(デヴィッド・シューリス)。それはかつて、サンフランシスコの殺人事件で、キャサリンが容疑者とされながら有罪とするのを逃したため。そこで登場したのが、キャサリンの精神鑑定をする若き有能な精神医のマイケル・グラス(デヴィッド・モリッシー)だった。さすがにマイケルは、キャサリンを一目見た時から彼女の心の奥に秘められた危険に耽溺する性格を読みとったが、それはキャサリンも同じだったようで、「腹の探り合い」はお互い様・・・?もっとも、刑事裁判では逮捕・起訴する警察・検察側の立場と裁判を受ける被告人側の立場は根本的に違うのだが、キャサリンはそれを意に介せず、どこまでも自信満々で、これをまるで危険いっぱいのゲームとして楽しんでいるかのよう・・・。しかし法廷に立ったマイケルは、検察官の尋問に対して、キャサリンは危険に溺れる性格の持ち主で、放免することは好ましくないと証言したから、キャサリンの有罪は確実、と思ったのだが・・・。
<別れた元妻は・・・?>
マイケルは目下独身。それはマイケルの説明では、元妻のデニース・グラス(インディラ・ヴァルマ)が雑誌記者のアダム・タワーズ(ヒュー・ダンシー)と不倫関係になったためだが、マイケルだって友人の精神学者のミシェル・ブロードウィン(フローラ・モントゴメリー)と激しいセックスプレイを楽しんでいたから、どちらがどの程度悪いのかは多分微妙。弁護士稼業を32年間やってきた私に言わせれば、このマイケルとデニースの離婚原因など所詮どっちもどっち・・・?
この映画はそんな点に興味があるのではなく、テーマとなるのは殺人の動機。すなわち、アダムが誰かに殺されれば、疑われるのは一体誰・・・?さらに、別れた元妻と激しく口論していた姿を目撃されていたマイケルは、もしその直後にデニースが殺されたとしたら殺人事件の第一容疑者とされるのは当たり前・・・。
そんな私の心配どおり、まずアダムが首に革のベルトを巻きつけられた状態で殺された。そして、デニースがキャサリンによく似た女とトイレの中に入っていくのを見て追いかけていったマイケルは、何とデニースがトイレの中で首から血を流している姿を発見することに・・・。なぜこんなに次々と犠牲者が・・・?
<なぜ釈放・・・?なぜマイケルの前に・・・?そしてなぜ・・・?>
キャサリンが釈放されたのはマイケルのせいではなかったが、結果的にマイケルの証言が価値を持たなかったのはたしか。そんなわけで落ち込んでいる(?)マイケルをシャーシャーと(?)訪れてきたのがキャサリン。キャサリンは自分の危険に耽溺する性向を治療してほしいと申し出てきたのだった。もちろん、良識ある精神医のマイケルは、「裁判の鑑定でかかわりを持った患者は治療しないから、友人の医師を紹介する」と丁重にその申し出を断ったのだが、なぜかキャサリンの説得力ある説明を聞いていると、何でも彼女の言うとおりの結果になっていくから不思議・・・。そのうえマイケルは、治療に通ってくるキャサリンの話を聞いているうち、次第に彼女の女としての魅力に惹かれていく自分を自覚せざるをえなかった。もっとも他方では、キャサリンの話にはどこかトゲがあり、そのうえ裏がありそう・・・。そもそも、なぜそんなことをキャサリンが知っているのかというビックリするような話も次々と・・・。その最たるものが、マイケル自身がかかわった過去の患者の殺人事件に関すること。マイケルは医師の「守秘義務」を守り、自分の患者のことは決してしゃべっていないのに、なぜキャサリンがそんな情報を・・・?そんな疑問に対してキャサリンは、自分はアダムとも肉体関係があったことの他、さらに何とデニースとも肉体関係(?)があったことを告げたから、もうマイケルの頭の中は・・・?
<キャサリンの神出鬼没ぶりと情報処理能力の高さ>
キャサリンはアダムやデニースと接触して情報を得ていただけではなく、マイケルの大学昇進の推薦のカギを握るジェイコブ・ゲルスト博士(ヘースコート・ウイリアムス)とも接触していい仲になっている(?)うえ、ウォッシュバーン刑事の過去の事件もキャッチしている様子。次第に混乱の度を深めていくマイケルを心配した同僚の女性精神科医ミレーナ・ガードッシュ(シャーロット・ランプリング)は、キャサリンの治療をかわることを申し出たが、その「治療」の中でキャサリンがミレーナに話した内容は・・・?
とにかく、この映画を観ていて特徴的なのは、キャサリンの神出鬼没ぶりとその情報処理能力の高さ。そして何よりも驚くのは、キャサリンの語りがホントかウソかの区別がつかないこと。「ホントだと言ったら信じるの?ウソだと言ったら信じるの?」とキャサリンから問われると、とにかく何をどこまで追及してもすべて無力なことが少しずつわかってくるから恐い・・・。それが、まさにファム・ファタール、キャサリンがキャサリンであることの由縁・・・?さあ、あなたもスクリーン上で40代後半のファム・ファタールの魔性ぶりをたっぷりと味わってみよう・・・。
<魔性の女の前には男同士の友情も・・・>
キャサリンはセックスと殺人をテーマとした小説家だから、マイケルに接触してきたのは、精神医を主人公とした次の小説を執筆するためらしい・・・。それも半分ホントで半分ウソだと思うのだが、現実にキャサリンはマイケルを取材しその周辺の人たちを取材していく中で、新作小説を完成させたが、それはかなり身近な取材を元にした小説だからヤバそう・・・。一流の精神医ながら、既にかなり頭が混乱しているマイケルがそんな小説を読んだからたまらない。アダムやデニースに続く次の殺人の犠牲者は、その小説に描かれているミレーナだと直感したマイケルは直ちにミレーナの自宅に駆けつけるとともに、信頼しているウォッシュバーン刑事にも現場に急行してくれるように要請。マイケルがミレーナの自宅に駆けつけると、ミレーナは無事。安心したマイケルはミレーナに事情を説明しはじめたが、ミレーナの目は何となくマイケルに対して怪しげなもの。それもそのはず、ミレーナはキャサリンを治療する中、既にキャサリンからさまざまな情報を入れられていたのだった。そこで必然的に発生する対立。そして、そこに登場したのがキャサリン、さらにそこにマイケルの要請を受けて乗り込んできたのがウォッシュバーン刑事。さあ、ここではどんなハプニング、あるいはキャサリンにとっては計算し尽くされた事件が発生するのだろうか・・・?
<この程度の紹介が限度・・・>
『氷の微笑』もこの『氷の微笑2』も、シャロン・ストーンのセックスアピールの魅力を根源とした本格的犯罪サスペンスだから、むやみやたらとストーリーを明かしていくことは禁物。そういう制約の下にここまでこの映画のポイントを書いてきたが、これ以上の紹介はネタバレとなってしまうからムリ。マイケルを核としながら、次々と登場してくるさまざまな人物とキャサリンがどのように接触し、どのような犠牲者が生まれ、その犯人は誰なのか・・・?そんなお色気たっぷりの本格的サスペンスをあなた自身の目でしっかりと確かめてもらいたいものだ。
<触らぬ神に祟りなし・・・>
坂和流映画評論においては、「女はコワイ」という評論がたびたび登場するが、それはナニワのオッチャン弁護士としての32年間の弁護士稼業に裏づけされたもの・・・?ところが『氷の微笑』の時もそうだったが、『氷の微笑2』を観ていると、「こんな女は願い下げ」とにかく「こんな女とは接触しないのが1番」という実感がしみじみと・・・。とはいっても、弁護士という仕事は精神医のマイケルと同じように、相談者(患者)のナマの姿、心の奥底に触れ、それを引き出す職業だから、ある意味で何とも因果なもの・・・。一定の距離を置いて楽しくおしゃべりをしたり、食事を楽しんだりするのであればいい関係を保つことができても、それ以上奥深く入り込むことによって、一方で信頼がより深まることがあるとともに、他方でわがままや自我が出てしまうことも・・・。そんな経験を私も何度となくしながらここまで成長してきた(?)が、こんなキャサリンのようなコワイ女ははじめて・・・。したがって、いくら魅力的であってもこんな女は願い下げ。「触らぬ神に祟りなし」というのはいかにも日本的な表現だが、物事の本質をついた名言であることをあらためて痛感・・・。
2006(平成18)年10月19日記