鉄コン筋クリート(日本映画・2006年) |
<試写会・朝日生命ホール>
2006年11月9日鑑賞
2006年11月10日記
知る人ぞ知る、松本大洋原作の伝説的傑作マンガ『鉄コン』の映画化だが、私はサッパリ知らなかった世界。しかし何事も勉強・・・。大阪の中之島、ニューヨークのマンハッタンと同じように(?)川に挟まれた宝町は義理と人情とヤクザの“地獄”のまちだが、その再開発(の巨大な利権)をめぐってうごめく人間模様がこの映画のテーマ。すると、私のライフワークである都市問題と共通点が・・・。てなわけで、私は興味深くこの映画を勉強できたが、さてあなたは・・・?
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!ご注意ください!!
↓↓↓
監督:マイケル・アリアス
原作:松本大洋『鉄コン筋クリート』(小学館刊)
声の出演
“ネコ”クロ/二宮和也
“ネコ”シロ/蒼井優
木村(ヤクザ)/伊勢谷友介
鈴木“ネズミ”(ヤクザ)/田中泯
蛇/本木雅弘
沢田刑事/宮藤官九郎
チョコラ/大森南朋
バニラ/岡田義徳
アスミック・エース配給・2006年・日本映画・111分
<はじめて知った松本大洋の世界・・・>
全3巻100万部を突破した松本大洋の『鉄コン筋クリート』は、1993年に『週刊ビッグコミックスピリッツ』に連載が開始されたもので、「伝説的な傑作漫画」と呼ばれているらしい。もっとも、パンフレットにある堀靖樹氏の「松本大洋は常に新しい。」の解説によると、松本大洋の連載3作目となる『鉄コン筋クリート』は大ヒットまちがいなしという予想を大きく裏切って「低迷」し、単行本5冊版から3冊版に変更されたとのこと。ただしその解説には、これは「連載打ち切り」ではなく、松本大洋氏が「あれは全3巻が、丁度いい長さの話だったと思うよ」と言っていたと書かれているが、これって何となく負け惜しみ的・・・?
ところが、人気的には失敗作だったのに、ほんの2万部の初版で始めた作品が口コミで広まり、現在も30数回目の増刷中。そして、13年後の2006年、遂に映画化に至ったというわけだ。つまり、「言い古されたフレーズだが、時代が遂に松本大洋に追いつきつつあるのだ」とのこと・・・。
私はマンガ自体は嫌いではないが、電車の中でマンガの週刊誌を読んでいる人間を見るとついバカにしてしまう性分なので、そんな伝説のマンガ『鉄コン筋クリート』の存在は知らなかったのは当然。したがって、この映画を観て、なるほど松本大洋の描いた『鉄コン筋クリート』の世界はこんな深い意味があったのかということをはじめて勉強することに・・・。
<舞台あいさつで見たマイケル・アリアス監督とは・・・?>
そんな伝説的な傑作漫画『鉄コン筋クリート』の魅力に取りつかれ、その映画化を強くアピールしたのが、アメリカから日本にやってきたCGプログラマーのマイケル・アリアス。ハリウッド映画のVFXスタッフとして働いた経験を持ち、ソフトイマージ社の優秀な技術者として日本で活動していた彼の、長年にわたる熱意と努力によって映画化が実現したわけだ。今日の試写会には、そんなマイケルが舞台あいさつに登場。ジーンズを履いた小柄な40歳代(?)のおじさんだが、驚いたのは日本語がえらく達者で、言葉だけ聞いていればアメリカ人とはわからないほど・・・。そんな彼が、『鉄コン』への思い入れと、その映画化に向けたいくつかの面白いエピソードを語ってくれたのは大きな収穫。世界中にはいろいろと面白い人間がおり、変わった才能があるものだと痛感!
<『鉄コン』のテーマは、私のライフワークと共通・・・?>
『鉄コン』の舞台は「宝町」。ちなみに、これは原作では「たからちょう」と呼称されているが、映画では「たからまち」との呼称を使用しているとのこと。それはともかく、私にとって興味深いのは、スクリーン上に登場する宝町を含む一帯の鳥瞰図。パンフレットの冒頭にも「ソコカラ、ナニガ、ミエル?」という問題提起とともにそれと同じ地図が載っているが、宝町は2本の川に挟まれた島の中にあるまち。これは大阪で言えば、土佐堀川と堂島川に挟まれた中之島地区であり、アメリカで言えば、あの『ギャング・オブ・ニューヨーク』(01年)の舞台となった、ハドソン川とイースト川に挟まれたマンハッタン島とよく似た地形。
この宝町は義理と人情とヤクザの“地獄”の街であり、そこを飛び回る「ネコ」と呼ばれる2人の少年がクロ(二宮和也)とシロ(蒼井優)。そして、この宝町の再開発(の巨大な利権)をめぐる人物達が次々と登場。そう、『鉄コン』のテーマは、宝町というまちの再開発をめぐってうごめく人間模様なのだ。すると、それは私の弁護士としてのライフワークである都市問題と完全に共通するテーマ・・・。
<濃い個性と、多種多様な登場人物たち・・・>
昨今は「たかがマンガ」と侮ることができないことは私も痛感しているが、それは『鉄コン』も同じ。前述の混沌としたまち、再開発の野望、その中でうごめく人間たち(?)の野望と抗争という社会的なテーマもさることながら、登場人物たちは第一級のぐ犯少年と警察官、地上げ屋、ヤクザ、殺し屋、さらに蛇と呼ばれる謎の男や伝説の餓鬼イタチなど多種多様。さらに、その個性も濃い人(?)ばかり。原作が10年以上にわたって売れ続けており、固定ファンが多いのは、きっとその濃い個性の面白さだろう。したがって、はじめてこの映画を観る私には、結構複雑な人間関係(?)をまず理解する必要があった。
また、人気マンガを映画化するについては、紙上でおなじみとなっているそれぞれのキャラに声優たちが生きた声を吹き込まなければならないから、それが大変。マンガのアニメ化がヒットするには、マンガ上のキャラと声が一体化する必要があることは、藤子・F・不二雄の『ドラえもん』における大山のぶ代や長谷川町子の『サザエさん』における加藤みどりなどの声優で実証済み。さて、それがこの映画では・・・?
<シロとクロを蒼井優と二宮和也が熱演!>
私がこのサッパり訳のわからない映画の試写会へ行こうと思ったのは『花とアリス』(04年)、『虹の女神』(06年)そして『フラガール』(06年)での活躍が著しい蒼井優が声優として登場していたため。だってもともとアニメ嫌いの私にとっては、訳のわからないドタバタマンガをアニメ化したものであれば基本的には行くだけ時間のムダだから。
もう一つ目についたのは、クリント・イーストウッド監督の硫黄島2部作の『硫黄島からの手紙』に出演している二宮和也も声優として登場していたこと。
以上2つの理由によって私はこの『鉄コン』を観に行くことになったのだが、主人公シロとクロをこの2人が何ともすごい熱演!
パンフレットによると「本作のコンセプトは、“原作のキャラそのまんま”であること。なおかついわゆるアニメ声を使わない、というのが監督の要望だった」とのこと。したがって、第一級のぐ犯少年で、シロを警察に保護してもらった後、暴力の限界まで突き進んでいくクロの声を創造するのも難しいし、無垢な心を持ち、「こんなドブみたいな町で汚れなく生きている不思議な子」シロの天然ボケのような声を創造するのも大変。そんなきわめて濃いキャラの2人クロとシロを二宮和也と蒼井優が熱演!
<木村とネズミを伊勢谷友介と田中泯が熱演!>
「子供の城」と呼ばれる一大レジャー施設をつくって宝町を再開発し、巨大な利権の獲得を狙うヤクザの親分の意向に従って、宝町に舞い戻ってきたのがヤクザの木村とヤクザの鈴木、通称ネズミ。彼らはさっそく不気味な動きを開始した。この2人のキャラを熱演するのが伊勢谷友介と田中泯。しかし、木村はこんな動きに反発したクロによって予想外の反撃を受けて傷を負い、次第に自分の人生観を失っていくことに・・・。他方、宝町の象徴的存在であったネズミも、自分の思惑を超えた巨大な組織の動きの中に取り込まれていくことに・・・。
<もう1人のポイントは蛇!>
通常「悪の権化」は後から登場するものだが、それはこの映画も同じ。まず、露払いとして(?)、木村とネズミが登場し、さらにヤクザの親分が登場した後、やっとキーマンである「悪の権化」の蛇が登場する。この不気味な蛇のキャラを体現する声優はあの本木雅弘だ。
蛇が宝町を支配するために立てた邪魔者退治の戦略は冷酷非道なもの。その第1のターゲットはもちろんクロとシロで、そこに差し向けられた刺客は龍、蝶、虎というとてつもない強者。そして第2のターゲットとなったのは、かつての宝町の象徴ともいえるネズミ。さらにその刺客として指名されたのは、ネズミに憧れ彼を親代わりと考えていた木村。蛇の命令に従ってネズミに対して拳銃の引き金を引いた木村だったが、彼が最後に反撃したのは一体誰・・・?そして木村は、自分なりの人生の解決方法を見出していこうとしたが・・・?
<絵の好き嫌いは・・・?>
マイケル監督をはじめとして多くの人たちがこの原作にホレたのは、第1にそのテーマ、第2に登場人物のキャラ、そして第3に個性そのままのマンガの絵だろう。私はマンガを読んだことがないが、スクリーン上に登場する人物たちの姿は、パンフレットに出ているマンガの絵と全く同じ。そしてそれは私の印象で言えば、かなりどぎついもの・・・?
主人公のクロにしても、メガネをかけて笑っている姿はガキのくせにかなり不気味だし、蒼井優が演じていることもあって一見女の子に見える純真無垢な少年シロもおよそかわいいと言うにはほど遠い顔立ち・・・?蛇はもちろん顔を見ているだけで気持ち悪いし、ヤクザの木村もクロに負わされた顔のキズをじっと見ていると気持が悪くなってくるほど・・・。したがって、好きな人はそれが好きなのだろうが、私はどう考えてもこの絵はあまり好きになれないが・・・。
<龍、蝶、虎の後には遂にイタチが・・・>
映画が終盤に向かってくると、良くも悪くもマイケル監督の解釈と主張が鮮明に観客に対してメッセージされてくる。その1つがイメージとして示される、冒頭にも少し登場する海中のシーン。それは、クロとシロが美しい魚たちと共に海中を遊泳しているシーンだが、それは一体何を意味しているのだろうか・・・?そんなシーンも含めた映画のクライマックスを盛り上げるために不可欠な存在がイタチ。シロを沢田刑事(宮藤官九郎)らの手に委ねたクロは、宝町の中で常軌を逸した暴れ方をするようになり、龍や蝶や虎との死闘を展開していくがその最後の到達点においてイタチが登場!イタチはクロを深い闇の中に誘い込んでいくが、さてこのイタチとは一体何者・・・?そして、マイケル監督は、このイタチに何を託しているの・・・?
そんなこんなの迷宮の世界が、ものすごい音響効果を伴いながらスクリーン上に展開されていくが、さてその成否は・・・?ちなみに、第19回東京国際映画祭ではコンペ部門で『リトル・ミス・サンシャイン』(06年)が最優秀監督賞、最優秀主演女優賞、観客賞を受賞した。同映画祭にはこの『鉄コン』も受賞対象外の特別招待作品として出品されたが、もし特別招待作品でなかったとしたら・・・?さあ、そんな受賞状況を踏まえたうえで、あなたはこの映画をどのように評価する・・・?
2006(平成18)年11月10日記