ラッキーナンバー7(アメリカ映画・2005年) |
<角川ヘラルド試写室>
2006年12月12日鑑賞
2006年12月13日記
競走馬の薬物詐欺(?)と単純な人違いをめぐって展開される豪華な俳優陣によるクライム・サスペンスだが、ちょっと脚本に凝りすぎの感も・・・。プロの手にかかれば1発の銃弾で人が死ぬのは当然だが、主役級を次々と惜しげもなく殺していく演出にビックリ・・・?しかして、その真相は・・・?アッと驚くタネ明かしに、あなたは唖然・・・?
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監督:ポール・マクギガン
スレヴン/ジョシュ・ハートネット
グッドキャット(暗殺者)/ブルース・ウィリス
ボス(大物ギャング)/モーガン・フリーマン
ラビ(敵対するギャングのトップ)/ベン・キングズレー
リンジー(ニックの隣人の女性)/ルーシー・リュー
ブリコウスキー(ニューヨーク市警捜査官)/スタンリー・トゥッチ
ニック・フィッシャー(スレヴンの友人)/サム・ジャガー
アートポート配給・2005年・アメリカ映画・111分
<豪華キャストとクセモノぞろいの登場人物たち・・・>
タイトルだけでは何の映画かサッパリわからなかったが、案内のハガキを見てまず驚いたのはそのキャストの豪華さ。友人ニックにまちがえられたため、とんでもないトラブルに巻き込まれる主人公スレヴンに扮するジョシュ・ハートネットは、名前と顔が一致していなかったものの、『パール・ハーバー』(01年)や『シン・シティ』(05年)に出演していた若手俳優。次にギャングのボスに扮するモーガン・フリーマンやグッドキャットという名前の暗殺者に扮するブルース・ウィリスそしてニックの隣人の女性リンジーに扮するルーシー・リューは、私はもちろん多くの日本人映画ファンも名前と顔が完全に一致する俳優たち。また、ボスに敵対するギャングのラビに扮するベン・キングズレーは、『ガンジー』(82年)で注目を浴び、『オリバー・ツイスト』(05年)や『サウンド・オブ・サンダー』(05年)等に数多く出演している名俳優。そして、ニューヨーク市警捜査官のブリコウスキーに扮するスタンリー・トゥッチはあまり印象のない俳優だが、『ターミナル』(04年)や『プラダを着た悪魔』(06年)で個性を発揮していた俳優とのこと。
ルーシー・リューだけが紅一点で、スレヴンとの間で恋の花を咲かせるようだが、ややもすれば豪華キャストの映画が散漫になる傾向が強いのは、『オーシャンズ11』(01年)や『オーシャンズ12』(04年)の例を見れば明らか・・・?クセモノぞろいの登場人物たちが織りなす二転三転のクライム(犯罪)・サスペンスというふれこみだが、さてその実態は・・・?
<思わずディープインパクトを連想・・・>
この映画は登場人物が多いうえ、練りに練られた脚本(?)にしたがって次々と物語が進んでいく(次々と人が殺されていく)から、その意味を理解するのはかなり大変。そして、冒頭に登場する競馬の物語が、その後のすべてのトラブル(?)の発端になることは明らか・・・。
競走馬の薬物疑惑といえば、2006年10月1日(日本時間10月2日)に行われたパリの凱旋門賞における日本の名馬ディープインパクトのニュースが生々しいが、競走馬に興奮剤を注射するというインチキは1970年代からあったよう・・・?そんなヤミ情報が「内緒の話だが・・・」という前提でまことしやかに伝えられると、人間はふとそれに惹かれていくもの・・・?映画の冒頭、いかにも思わせぶりなそんな物語が展開されていく。
7番の馬券に賭けるためヤミルートで2万ドルの賭け金を借用したある人物が、ゴール直前に「ヤッター!」と思った瞬間、その馬が倒れ込んでしまったから大変。借用した賭け金を返せなくなればどうなるか?闇の世界の掟は厳しいもの。その男はもちろん、その妻や一人息子までもギャングたちのピストルによって・・・?
<R-15指定のワケは・・・?>
「レイティング」は私が映画検定4級と3級の受験勉強の中で覚えた言葉の1つで、これは「映画を鑑賞することができる年齢制限を定めた規定」のこと。日本では映倫が審査し、四段階に分かれている。①一般はあらゆる年齢層が鑑賞できる、②PG-12は12歳未満(小学生以下)の鑑賞には保護者の同伴が適当、③R-15は15歳未満(中学生以下)の入場禁止、④R-18では18歳未満の入場が禁止される。従来は性的シーンが重要な決定要素だったが、90年代以降は暴力、殺人などの反社会的描写も重要になっている(『映画検定 公式テキストブック』204頁参照)。
ところで、この『ラッキーナンバー7』はR-15指定。性的シーンはもちろん、特別残忍なシーンがあるわけでもないのになぜ、と考えてみると、それはピストルの弾1発でいとも簡単に次々と人が殺されていくせい・・・?しかし、この程度の殺人でR-15指定とされるのなら、例えば『ゴルゴ13』などもR-15指定としなければならないことになるのでは・・・?
<ニューヨークのまちは物騒・・・?>
『UDON』(06年)は、お笑い芸人を志すユースケ・サンタマリア扮する主人公、松井香助がニューヨークでの夢破れて高松に戻ってくるところから物語が始まったが、世界の大都市ニューヨークでの成功はそんなに甘いものではない・・・?また、日本の夕張市と同じような自治体の財政破綻はアメリカでもあり、かつてニューヨーク市の財政はかなりやばかったはず・・・?さらに、かつては世界一治安のいい国、安全な国を誇っていた日本(東京)も最近はそのレベルが下がっているが、ニューヨークの治安が東京よりはるかに悪いのは昔も今も同じ・・・?
仕事をクビになり、そこに恋人の浮気発覚が重なった失意のスレヴンが訪れたのが、そんなニューヨークに住む友人ニックのアパートだが、スレヴンはニューヨークのまちでチンピラから一撃を食らい、身分証明書まで持ち去られる羽目に・・・。
<不幸な星の下に生まれた人は・・・?>
こんな不幸な目にあう人は、おおむね不幸な星の下に生まれているもので、次から次へと不幸が舞い降りてくるもの。この映画における主人公スレヴンはまさにそれ。ニックのアパートの部屋に入って膨れ上がった鼻の手入れをしていると、隣人の女性リンジーが入ってきたのはラッキーだったが、幸運はそれだけ。その後は不幸の連続となり、ニックとまちがえられたスレヴンは、ギャング風の男2人にタオル1枚の姿で拉致されてしまった。そしてボスの前に引き出されたスレヴンは、敵対するギャングのトップ“ラビ”の息子の暗殺を命じられることに・・・。
「なぜ自分が・・・」と思いつつ、命令に従わざるをえないスレヴンは、やむなくそれを実行しようとしたが、そこにはニューヨークに来る前に空港で出会ったナゾの男グッドキャットが再登場。さらにスレヴンはラビにも誘拐される羽目に陥ったが、これもニックの借金のため。そのうえ、ギャング間の抗争を見張っていたニューヨーク市警のブリコウスキーも、突然登場してきたスレヴンによって混乱させられ、ここにギャング、殺し屋、警察が入り乱れる大騒動に・・・。さて、そんな展開の中、スレヴンの不幸の連鎖はいかに・・・?
<ほどよいタイミングで(?)タネ明かしも・・・>
この映画では、とにかくよく人が死ぬ・・・。映画の冒頭、人気のない駐車場で車に乗ろうとした男が1発の銃弾でアウト。さらに、ある部屋の中に突然入ってきた1人の男によって、数人のボディーガードが一撃で倒されたうえ、帳簿をめくっていたボスらしき男も一撃でアウト。さらに・・・?
これがR-15指定の原因(?)だが、この映画はそんな雑魚(?)ばかりではなく、主役級の人物も惜しげもなく次々と殺していく・・・?まずは、息子が殺されたことでいがみ合うギャングのボスとラビが、両者ともなぜか何者かによって捕えられたうえ、ついには・・・?また、なぜかあれほどスレヴンとの仲がうまくいっていたリンジーも、殺し屋グッドキャットの銃弾であっけなく死んでしまう・・・。さらに、そのグッドキャットさえも車の後部座席に座ったスレヴンから直接頭に当てられた拳銃によって、脳天ごと吹っ飛んでしまうことに・・・。こんなに次々と主役級が殺されていくと、最後に残るのは主人公のスレヴンただ1人だけに・・・?そんな風に思わせるのがこの映画の狙い・・・?複雑に絡み合ったクライム・サスペンスの醍醐味はここらあたりに・・・?
もっとも、その真相がわからない観客のために、タイミングよく(?)タネ明かしもあるからご心配なく・・・。
<この邦題はいただけないネ・・・>
この映画の原題は『LUCKY NUMBER SLEVIN』。このSlevinとは主人公の名前。物語のラストに至ってその名前の由来が解説される(?)が、このSlevinと邦題の7=Sevenとはちょっとの違いで大きな違い。この映画はクライム・サスペンスと紹介されているとおりギャングや殺し屋が暗躍する映画であり、『ラッキーナンバー7』というのは物語と何の関係もないタイトル。導入部において、ある人物が購入した薬物疑惑のある馬の馬券ワクが、たまたま7番だったというだけのこと。したがってこの邦題では、クライム・サスペンスのこの映画について「名は体を表す」となっていないことが明らか。誰だ!こんな邦題をつけたのは!
2006(平成18)年12月13日記