世界最速のインディアン(ニュージーランド、アメリカ合作映画・2005年) |
<ソニー・ピクチャーズ試写室>
2006年12月20日鑑賞
2006年12月26日記
63歳でバイクの世界最速記録に挑戦し、それを達成した男の物語が登場!その名は、ニュージーランド生まれの前向きな努力人間(?)バート・マンロー。そして、あの名優アンソニー・ホプキンスが『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター役とは正反対の、陽気で人のいいおじさん役に挑戦!団塊世代の大量定年が何かと話題になっている昨今の日本、70歳を過ぎてなお世界記録を次々と更新したこんなおじさんを見習って、大いに夢を持たなければ・・・。
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監督・脚本・製作:ロジャー・ドナルドソン
バート・マンロー/アンソニー・ホプキンス
ジム・モファット(カーレーサー)/クリス・ローフォード
トム(隣家の少年)/アーロン・マーフィー
ティナ・ワシントン(モーテルのフロント係)/クリス・ウィリアムズ
エイダ(未亡人)/ダイアン・ラッド
ラスティ(ベトナム休暇兵)/パトリック・フリューガー
フェルナンド(中古車販売店の店主)/ポール・ロドリゲス
フラン(ガールフレンド)/アニー・ホイットル
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント配給・2005年・ニュージーランド、アメリカ合作映画・127分
<君は伝説のライダー、バート・マンローを知っているか?>
この映画は「伝説のライダー」と言われているバート・マンローの実話にもとづいた物語に、あの名優アンソニー・ホプキンスが挑戦したもの。1899年にニュージーランド南端のまちインバカーギルで生まれたバート・マンローは、63歳となった1962年にアメリカのボンヌヴィル塩平原(ソルトフラッツ)で、1000cc以下の流線型バイクの世界記録に挑戦し、時速288キロの世界最速記録を達成し、以降も70歳過ぎまで毎年ボンヌヴィルへ行き自己記録を次々と更新したというすごいおじいさん・・・?そしてその愛車は、1920年型インディアン・スカウトというもの。君はそんな人物を知っていた・・・?
<いつまでも夢を持たなくちゃ・・・>
なぜ63歳で、地球の反対側のニュージーランドからアメリカのボンヌヴィルまで旅をして、そんな大会に・・・?それは夢を追うため。そして、心臓病と前立腺肥大を中心とする身体のポンコツぶりと、1920年型インディアン・スカウトのポンコツぶりを考えて、これがラストチャンスと思ったため・・・。
西武ライオンズの松坂大輔投手は、26歳という働き盛りでアメリカ大リーグへ挑戦する夢をかなえたが、バート・マンローのそれは63歳。日本の団塊世代も彼を見習って、大いなる夢に向かってチャレンジしなければ・・・。
<これだってロード・ムービー>
ロード・ムービーとは、「固定された生活基盤を持たない主人公が旅をすることによって人生観が変わったり、成長をとげる様を描く」もの(『映画検定 公式テキストブック』195頁参照)だから、正確にいえばこの映画はロード・ムービーではない。なぜなら、この映画ではその4分の3でニュージーランドからアメリカまでの長旅の様子を描いているが、インディアン・スカウトに乗ってスピード記録に挑戦するというバートの夢や人生観は最初から一貫したもので、何の変化もないのだから。しかし、長旅の中で偶然知り合う人たちとの心の交流が暖かく描かれているという点では、これだってれっきとしたロード・ムービー・・・。
ちなみに2006年12月20日付朝日新聞夕刊の「超老」は、「夢を追う奴は若者」というタイトルで俳優三國連太郎を紹介しているが、彼は「自分を『老人』と認めたことはない」とのこと。そして「2年前にドラマで、東海道新幹線をつくった元国鉄総裁・十河信二を演じた際のセリフが、今も心に響くという」。それは「二十歳でも夢のない奴は老いぼれだ。百歳でも夢を追う奴は若者なんだ」。ニュージーランドでも日本でも、夢を追い続ける奴の心意気は全く同じ・・・。
<ロード中の登場人物はいい人ばかり・・・>
長旅の途中でバートが出会うのは①女装した親切なモーテルのフロント係のティナ・ワシントン(クリス・ウィリアムズ)、②中古車販売店主のフェルナンド(ポール・ロドリゲス)、③砂漠の真ん中でトレーラーの車輪が外れ、途方に暮れていたバートを助けて、一夜の宿を提供してくれたうえ、お守りと前立腺の特効薬をプレゼントしてくれた先住民(インディアン)の男。そして④一夜の宿を提供してくれる未亡人エイダ(ダイアン・ラッド)の4人がメインだが、その他にも⑤違法駐車を摘発する警察官や⑥車が故障して困っていたベトナム休暇兵のラスティ(パトリック・フリューガー)などもいる。
これらはみんないい人ばかりで、バートはその場所、その時期においてそれぞれいい関係に・・・。しかしそれは、出会った人たちがたまたまいい人だったというのが半分で、後の半分はバートの人懐っこく飾らない人柄のおかげ・・・。新聞やテレビでは暗いニュースばかりが流れ、人間同士の疎外感が強まっている今の時代、こんなにも自然な人間同士の心の交流があることを見せられると、それだけで感動的・・・。
<心臓病と前立腺は・・・?>
63歳のバートには心臓病と前立腺障害の持病があった。ところが、心臓病についてはニトログリセリンを常時携行し、必要に応じてそれを使用することになっていたが、前立腺については特に対応していなかったよう。そのため旅の途中、何度かおしっこが出ない(出にくい)というトラブルが・・・。これは笑いゴトではない。50歳を過ぎた男性はみんな大なり小なり前立腺肥大の症状が生まれるのは必然で、頻尿、残尿感はその典型的な症状・・・。したがって、63歳のバートにとって、これはある意味仕方のない症状だが、長旅の場合はちゃんと薬を持っていかなくちゃ・・・。
そんなバートが救われたのが、一夜の宿でお世話になった先住民のインディアンがくれた前立腺障害の特効薬。たっぷりの水と一緒に飲みなさいと言われた薬は、そりゃ臭かったらしいが、即効いたというから感謝感激!もし、この話がホントなら、その特効薬の名前と入手方法を是非確認しなければ・・・。
<試合会場でもいい出会いが・・・>
はるばる地球の反対側にあるニュージーランドからアメリカのボンヌヴィルまでやってきたバートだったが、受付では「登録されていない」という思わぬ障害が・・・。つまり、ニュージーランドの田舎者のバートは、「スピード・ウィーク」が開催される会場まで来れば、誰でも走れると思っていたのだが、出場するには事前の登録が必要で、その期限はとうに切れてしまっているとのこと。受付には「規則は守るべし」という頭の固い奴が配置されているのが常だから、いくらバートが「地球の反対側からやってきた」と言ってもダメ。ところが、ここでもバートには幸運が・・・。
それは、最初に会場入りした時に知り合っただけの出場者の1人ジム(クリス・ローフォード)がすごくいい人だったということ。バートが困っている状況を聞いたジムは、人ゴトとは思えないほど熱心に受付に対して説得を・・・。さらに、明らかに他の出場者とは雰囲気が違うニュージーランドからやってきたこの中年おじさんを応援する人たちが次々と・・・。試合会場でも、こんないい出会いが続くバートはホントに幸せ者・・・。
<「闘う二輪戦車」か「インディアン」か?>
過去アカデミー賞最多11部門を受賞した作品は3本あるが、『ベン・ハー』(59年)が『タイタニック』(97年)、『ロード・オブ・ザ・リングー王の帰還ー』(03年)と並ぶその1本。『ベン・ハー』のハイライトは何といっても「映画史上もっともスリリングな15分間」と言われているラスト15分間のベン・ハーとメッサラとの二輪戦車競技の闘い。そして、二輪戦車VSバイク、他人との闘いVS自己との闘いという違いこそあれ、バートが愛車インディアンに乗って世界最速記録に挑むシーンが、この『世界最速のインディアン』のハイライト。
自己流ながら改良に改良を重ねてきた愛車インディアンは一見ポンコツ風だが、実はすごいパワーの持ち主。もっとも、スピードメーターもなく、止まるつもりがないからブレーキはあまり効かず、さらに直線仕様なのでコーナーには弱いというさまざまな欠陥(?)を持ったインディアンに、転倒した場合の革ジャンも着ないという危険いっぱいのスタイルで乗り込んだバートは、観客が固唾を呑んで実況中継に聞き入る中、一体時速何キロを出すことができるのだろうか・・・?
2006(平成18)年12月26日記