幸せのちから(アメリカ映画・2006年) |
<ソニー・ピクチャーズ試写室>
2006年12月20日鑑賞
2006年12月25日記
ホームレスから億万長者への道は証券マンになることから・・・。これは、アメリカンドリームを諦めなかった実在の男クリス・ガードナーの物語。この男の、そしてこの映画の面白い点は、父子の絆の強さが描かれているところ。日本におけるホリエモンのサクセスストーリーが崩壊した理由と対比しながら観れば面白いかも・・・。しかし、何よりも感動したいのは、自分の能力を信じあくまで前向きに努力するクリスの姿。こんなひたむきな姿を、今の多くの日本人は失っているのでは・・・?
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監督:ガブリエレ・ムッチーノ
クリス・ガードナー/ウィル・スミス
クリストファー(クリスの息子)/ジェイデン・クリストファー・サイア・スミス
リンダ(クリスの妻)/タンディ・ニュートン
ジェイ・トゥイッスル(人材課長)/ブライアン・ハウ
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント配給・2006年・アメリカ映画・117分
<クリス・ガードナーのサクセスストーリーとは・・・?>
この映画のキーワードは「ホームレスから億万長者へ!!」、そしてそのテーマは「父と子の愛と希望に満ちた真実の物語」。そんな物語の主人公クリス・ガードナーは、1954年にアメリカ、ウィスコンシン州で生まれた実在の人物で、息子と共にホームレス生活を1年近く続けながら、証券会社の研修生として頑張り、1981年に試験に合格した後は稼ぎ頭となり、1987年にはニューヨークで自らの会社ガードナー・リッチ&カンパニー(GRC)を設立し、現在はシカゴに本社を置くGRCの社長兼最高経営責任者を務めているとのこと。このクリス・ガードナーのサクセスストーリーは、全米の報道番組や新聞・雑誌で取り上げられた有名なものらしい。クリス・ガードナー=アメリカン・ドリームを諦めなかった男、というわけだ。
ところが残念ながら、日本では全く知らない物語だから、映画ではせめて一目だけでも大成功を収めたクリスの姿を見せてほしかったが・・・。
<父子合計の出演料は・・・?>
この映画最大の話題は、ホームレス生活の中で頑張って生きていく父クリス・ガードナーとその5歳の息子クリストファーをウィル・スミスとジェイデン・クリストファー・サイア・スミスという実の父子が演じていること。プレスシートによると「この映画の生命線」となるクリストファー役については、100人以上の子供たちを面接し、その結果見出されたのが6歳のジェイデン・クリストファー・サイア・スミスだったとのこと。そしてこの子は映画初出演ながら、さすがに「カエルの子はカエル」と言えるような名演技を披露しているが、石原慎太郎都知事がトップダウンで始めた若手芸術家の支援事業トーキョーワンダーサイト(TWS)に知事の四男延啓(のぶひろ)氏(40歳)が深く関わっていたことが問題となっている昨今、客観的にみると、そのオーディションが適正・公平だったのかどうか、多少の疑問(疑惑)も・・・?
また、ウィル・スミスは、「アフリカ系米国人俳優としては初めて2000万ドルの出演料を稼ぐようになった」俳優だから、7歳の息子までこんな映画に準主役級で出演して稼げば、一体父子の合計出演料はHOW MUCH?
<リンダ役は損・・・?>
毎朝息子をチャイナタウンにある保育所に送り届けているクリスの仕事は、骨密度を測定できる新型医療機器のセールス。こんな高価な機器を大量に仕入れたものの、いくら病院にセールスしても現実にはなかなか売れず、苦戦の日々。そんなクリスに日々イライラした目を向けているのが妻のリンダ(タンディ・ニュートン)。思うようにクリスの収入が入ってこない今、3人家族の家計を支えているのは、このリンダの工場勤めによる収入のみ。リンダだってクリスが一生懸命働いていることは認めるものの、家賃すらまともに払えない状況が続く中、イライラの毎日。そして、そんな状況を早く切り開こうとクリスがあがけばあがくほど、逆の目が出てきて散々な目に・・・。そんな中、遂に我慢の限界を超えたリンダは家を出ていく決意を・・・。
たしかに、このリンダのイライラはよくわかる。しかし、しかし・・・。クリスがぐうたらで仕事もせず飲んだくれの亭主なら、リンダがそれを見捨てて家を出ていく決心をしたのもわかるが、今は若い時の苦労で、誰にでもあるもの・・・。したがって、そんな苦労は夫婦で背負い、互いに助け合って生きていかなければならないのでは・・・?
この映画はクリスとクリストファーの父子愛を中心に描くものだから、妻であり母親であるリンダは若干嫌われ役(?)の感があり、女優としては損な役・・・。
<さすがアメリカ、チャレンジのチャンスは・・・?>
どん底状態にあるクリスの運命を変えたのは、高級スーツを着て赤のフェラーリからさっそうと降り立ったビジネスマンの姿に見とれ、思わず声をかけたことによるもの。その男に対するクリスの質問は次の2つ。すなわち第1は、仕事は何を?第2は、どうすればそうなれるの?ということ・・・。
男の仕事は証券マン。証券会社の養成コースを受講すれば正社員採用への道が開けるとのこと。そして、営業マンとして成功すれば、いくらでも稼ぐことができ、あんな風になれる・・・。クリスは大卒ではないが数字には自信があるし、高校の成績だってトップ(もっとも12人しかいない田舎の高校らしいが・・・?)。これなら俺だって、とクリスが意気込んだのは当然・・・。
そこでクリスはディーン・ウィッター社という一流証券会社の株式仲買人養成コースに申し込んだが、問題は半年間の研修期間中は無給であるうえ、20人の研修生からはたった1人しか合格者が出ないということ。さすがアメリカ、チャレンジのチャンスはどこにでもゴロゴロ・・・?しかし、明日の生活費にも困っているクリスにはこれは不向きなチャレンジ。さてここでのクリスの決断は・・・?
<一体、1人で何役を・・・?>
この映画はクリス・ガードナーのサクセスストーリーを描くものだが、前述のように成功物語は全く登場せず、下積み時代の苦労話のみ。ちょっとシャレたセリフが満載されたクリスの合格発表のシーンでエンディングを迎えることになるのだが、それまでは、これでもかこれでもかというほどクリス父子に苦難が降り注いでくる。観客はそんなクリスの苦労する様子を楽しめばいいのだが、その奮闘ぶりは「ホントに1人で何役を・・・?」と感心させられるもの・・・。
家賃滞納で家を追い出されたクリス父子は仕方なく安モーテルに移るが、そこも締め出されると遂に正真正銘のホームレス。そんな中でもクリスはクリストファーを決して手放そうとはせず、朝はクリストファーを保育所に送り届け自分は研修のため証券会社へ。そして、夕方クリストファーを迎えに行った後は教会や慈善団体の施設を渡り歩き、夜は猛勉強という生活・・・。このように、1人で何役もこなす超人的な生活を続けながら、クリスはそんな苦労を対外的には全く見せないで頑張り抜き、立派に20名の研修生のトップとなったのだから、そりゃえらいもの。こんな涙と感動の「父親奮闘記」をウィル・スミスがイキイキと演じている。
こんな姿を見ていると、司法試験の勉強がしんどいなどと愚痴を言うのはもちろん、仕事と勉強の両立が大変とか、家庭と仕事の両立が大変などというのも、いかに甘えたものであるかがよくわかる。1人で何役もやらなければならないあなたの苦労もわからないではないが、そんな時、このクリスの奮闘ぶりを思い出してみれば・・・。
<もともと向いていたのでは・・・?>
長年、司法試験の受験生を見ていて思うのは、やはり人間には向き・不向きがあるということ。もっとはっきり言えば、司法試験にはきっと向かない人がいるということだ。司法試験は、何年間頑張れば合格するとか、1日何時間勉強しなければダメという試験ではなく、その合否には人間の感性の問題が大きいと私は考えている。私の言う感性とは、感覚の良し悪しだけではなく、論理的な思考方法とかしゃべり方の説得力などを含めた、かなりトータルな能力。したがって、受験生本人と少し突っ込んで話をすれば、「こいつは受かる、あいつはムリ」というのが大体見えてくるもの・・・。
そういう視点でこの映画を観ると、クリスがホームレスから億万長者になることができたのは、単なる偶然や僥倖ではなく、あくまでクリスの持って生まれた能力と、どんな状況下でも自分を信じて前向きに頑張った努力によるもの。もっとも、いくら能力がありいくら努力しても、みんながクリスのようになれるわけではなく、そこには運が左右することは当然だが、運を掴むのもあくまで実力のうちということなのだ。その意味において、クリスはもともと証券マンに向いていた人物なのでは・・・?こんな私の見方を「それは結果論だ」と言うのは、人の向き・不向きを見抜けない人たちの言うこと・・・?
<アカデミー賞最有力!は・・・?>
「2006年クリスマス・シーズンに公開予定」のこの映画のプレスシートには、「アカデミー賞を始めとする映画賞レースでも有力候補間違いなしと早くも話題沸騰!」と書かれている。それは、この映画が「メガヒットを連発してきたウィル・スミス」による、「ミラクルな実話に基づくハートウォーミングな新作」だから。また今回、はじめて英語映画にデビューしたイタリア映画界の俊英ムッチーノ監督を囲むスタッフに、撮影、プロダクション・デザイン、編集、衣装デザイン、音楽、製作等で「オスカー受賞作経験者が勢ぞろい!」だから。
たしかにそのとおりだが、これは少し楽観的見込みが強すぎるのでは、というのが私の判断。つまり、父と息子の絆を熱くかつユーモラスに描く物語は感動的で、かなりのインパクトはあるのだが、やはりそれはそれなりのもの・・・。「賞取り確実作品」とまではちょっといかないのでは・・・?
2006(平成18)年12月25日記