あかね空(日本映画・2006年) |
<角川ヘラルド試写室>
2007年2月20日鑑賞
2007年2月21日記
大河ドラマで山本勘助を演じている内野聖陽が映画では、善良な豆腐づくり職人と不気味なやくざの親分という2役を・・・。お相手はつい先日、第30回日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞した中谷美紀だから、期待十分だが・・・?江戸深川の下町を舞台とし、スクリーン上から豆腐の香りが漂ってくる(?)この映画のテーマは、夫婦の絆と家族の絆。幸せの絶頂からどん底へ、そしてどん底からの復活は・・・?ちなみに、永代橋、あかね空などのCG技術についてのご感想は・・・?
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監督:浜本正機
原作:山本一力『あかね空』(文藝春秋刊)
永吉(豆腐職人)、傳蔵(ヤクザの大親分)/内野聖陽
おふみ(永吉の女房)/中谷美紀
清兵衛(豆腐屋相州屋の主人)/石橋蓮司
おしの(清兵衛の女房)/岩下志麻
平田屋(豆腐屋)/中村梅雀
嘉次郎(豆腐屋)/勝村政信
源治(おふみの父)/泉谷しげる
おみつ(おふみの母)/角替和枝
栄太郎(永吉の長男)/武田航平
悟郎(永吉の次男)/細田よしひこ
おきみ(永吉の長女)/柳生みゆ
西周(永代寺)/小池榮
角川ヘラルド映画配給・2006年・日本映画・120分
<一人二役だが・・・?>
この映画の面白いチャレンジは、浜本正機監督が、あえて(?)内野聖陽に主人公である働き者で家族思いの永吉と、賭場を仕切る大親分の傳蔵の2役をやらせたこと。現在放映中のNHK大河ドラマ『風林火山』で主役山本勘助を演じている彼の演技力からすれば、この程度の落差のある2役を演ずるのは屁でもないかもしれないが、問題はどちらの方がより似合っているかということ・・・。そしてこんな場合、どちらかというと善玉よりも悪玉の方が目立つもの・・・?そして、私の目には内野聖陽が演ずるキャラとしては、どう見てもスキンヘッドで恐い顔をした傳蔵の方が似合っていると思ってしまうのだが、そうなると主役の陰が少し薄くなってしまう弊害が・・・。
もっとも、映画の冒頭に登場する、賑わう永代橋の上で迷子になってしまった4歳の一人息子正吉を、20年後に永吉の姿にダブらせて応援する相州屋の主人清兵衛(石橋蓮司)とその女房おしの(岩下志麻)の物語がこの映画の軸となっているため、どうしても一人二役にすることが必要・・・?
この映画の後半に入ると、突然賭場の大親分の傳蔵が登場し、なぜかその傳蔵が京やの店の前で豆腐の匂いを懐かしそうに嗅いでいるシーンが登場するが、それは一体なぜ・・・?
<最優秀主演女優賞受賞者の演技だが・・・?>
去る2月16日に発表された第30回日本アカデミー賞では、私の予想どおり『嫌われ松子の一生』(06年)で抜群の演技を見せた中谷美紀が、最優秀主演女優賞を受賞した。おめでとう、中谷美紀さん!
『あかね空』では、その中谷美紀が、初々しい江戸の下町娘と、それから20年後3人の子持ちとなっている京やの女将おふみをしっかりと演じている。ところが物語の途中、その演技にえらく違和感が・・・?
それは、今や立派に成人し、京やの「外回り」を一手に引き受けている長男の栄太郎(武田航平)をなぜかベタベタとかわいがっていること。栄太郎が賭場に入り浸っているという情報が入ってからも、なぜかおふみは栄太郎のことになると、ムキになって永吉に食ってかかる有り様。こりゃきっと何か曰く因縁があるナと思っていると、案の定・・・?
映画後半、その種明かしがされると、なるほどやっぱりそうだったのか、と納得したが・・・。さらに、さすが最優秀主演女優賞を受賞した女優の演技と思えるのだが、浜本正機監督の演出はちょっとミエミエすぎるのでは・・・?
<スクリーンを通じて豆腐の匂いが・・・>
私は大の豆腐好きだが、もめんではなくもっぱら絹ごし党で、夏場は冷や奴、冬場は鍋でよく食べている。私がこんなに豆腐好きになったのは、小学校低学年の時、この映画にあるように、毎朝配達してくれるつくりたての豆腐を食べていたせい・・・?今は豆腐はビニールで密閉されたパック入りのものをスーパーで買うのが相場だが、昔はこの映画のように、客が用意した容器におじさんが手ですくって入れてくれたもの・・・。
江戸では豆腐1丁が、両手で持たなければならないほど大きいことに驚いたが、この映画では豆腐のつくり方がリアルに描かれているところが興味深い。永吉が一生懸命豆腐づくりに励んでいる姿を見ていると、まるでスクリーンを通して豆腐の匂いが伝わってくる感じ・・・。
<1500円の豆腐を知ってる・・・?>
ちなみに、スーパーでは豆腐の値段は1丁150円程度だが、天神橋3丁目商店街には、前田豆腐店という有名な店がある。この店では同じ大きさで1丁300円が標準。そのうえ、何と「まぼろしの絹ごし豆腐」という1丁1500円の商品がある。これは、「大豆を極力水で薄めない高純度、なのにツルンとしてて口で溶けない喉越しの良さ」というのが売り・・・?私はお正月に1度、清水の舞台から飛び降りるつもりで(?)購入して食べてみたが、やはり味が全然違うことにびっくり・・・。こんな高級品は、鍋に入れたのではもったいない(?)ので、冷や奴で食べるのが1番。ところでこの映画では、豆腐を食べる時に醤油を全く使っていないが、江戸時代はみんなこんな食べ方・・・?
<京風VS江戸風は・・・?>
うなぎでもすき焼きでもあるいは寿司やうどんでも、関西風と関東風が大きく違うように、豆腐でも、京風と江戸風はその固さが全然違うらしい。すなわち、永吉がつくる京風豆腐はやわらかいから、どうも江戸っ子の口には合わない様子。したがって、おふみはおいしいと言っているものの、父親の源治(泉谷しげる)は「こんなもの食えるか」と言って吐き出してしまうし、母親のおみつ(角替和枝)もそれに同意・・・。
しかし、固さの点は好みの問題で、商売敵の嘉次郎(勝村政信)もおふみに対して、永吉のつくる豆腐の味の良さははっきり認めていたもの。そうは言っても好みの相違は致命的で、開店当日は珍しさもあって大繁盛だった京やも、翌日からは水桶の中にたくさんの売れ残りの豆腐が・・・。やはり江戸の深川では京風の豆腐はムリ・・・?
<商売繁盛となったのは・・・?>
そんな風に落ち込む永吉を、「私はこの豆腐が大好きだ。やり方を変えないで」と勇気づけたのがおふみだが、それ以上に現実的な支援をしたのは、永吉を迷子で失った正吉と重ね合わせている清兵衛の女房おしの。もっとも、事情がわからない清兵衛が、「どういう了見で、豆腐屋の女房が毎日よその店の豆腐を買ってくるんだ!」と怒ったのはごもっとも。しかし、この清兵衛も実はホントにいい人。おしのの切ない胸の内を聞いた後は、永代寺の西周(小池榮)に相州屋の代わりに京やの豆腐を仕入れてもらうよう願い出るというパフォーマンスを・・・。
もっとも、その願いが実現した理由はもう1つ。それはおふみが嘉次郎から聞かされていたヒントを受けて、おふみが日々売れ残った豆腐を永代寺に喜捨させてもらっていたこと。つまり、この先行投資的な営業活動と相州屋の支援によって、京風にこだわった永吉の豆腐が大口注文を受けることになり、以降商売繁盛となったわけだ。
<カルテルの是非は・・・?>
浅間山の噴火による飢饉や大火が江戸を襲ったのは歴史上の事実だが、それによって社会問題となったのがそれによる物価の高騰。そこで面白いのが、この映画で紹介されているように、豆腐屋がカルテルを結成(?)し、業界としてまとまって一律に豆腐の値上げをしていこうとする動き。この「豆腐屋連合」のボスが平田屋(中村梅雀)だが、この手の団体役員がホントに団体のために私心を捨てて活動するのか、それともホントは私益狙いを兼ねているのかが、昔も今もよくわからないところが問題・・・。
消費者の立場からすれば、永吉が「原材料の価格がいくら高騰しても、それを製品の価格にリンクして値上げすることはしない。それが京やの信用だ。歯を食いしばって今の価格で頑張っていく」と宣言したのは、実に立派でありがたい話。ところがそれは、京や以外の同業者の目から見ればカルテル破り・・・?そこで、京や乗っ取り計画とダブらせて、悪知恵を働かせたのが平田屋。そして、それをバックアップしたのが賭場を仕切る大親分の傳蔵。さて、価格争いでたった1人消費者の立場に立った京やは頑張っていけるのだろうか・・・?
<夫婦の絆と家族の絆がテーマ>
この映画の原作となったのは山本一力の『あかね空』だが、原作・映画を問わず、そのテーマは夫婦の絆と家族の絆。長男栄太郎を外回りとし、次男悟郎(細田よしひこ)とその妹のおきみ(柳生みゆ)に豆腐づくりを仕込んだのは、永吉とおふみが十分相談した結果だが、今栄太郎は、豆腐屋カルテルにおける価格値上げをめぐって孤立し苦しい状態。そんな中、平田屋が描いた策略は、栄太郎を賭場に連れて行ってたらし込み、骨の髄までしゃぶり、挙げ句の果てに京やを乗っ取ろうというもの。巧妙な平田屋の策略の中、栄太郎は賭場で勝って上機嫌。しかし、いつの頃からか、負けが込み始めたのは当然。すると平田屋は親切にも、「証文さえ書けばお金はいくらでも融通するよ」と甘い言葉を・・・。
これによって、今風のサラ金地獄に落ち込んだ栄太郎の生活は乱れに乱れ、遂にヤクザの親分の傳蔵が、おふみの前にその不気味な姿を現すことに・・・。「借金を返せばそれでおしまい」、そう簡単にいかないところが、サラ金地獄の恐いところ・・・?その後も遊びクセのついた栄太郎は、家のお金を持ち出そうとしたところを発見され、遂に永吉は栄太郎に対して勘当を宣言。ここまでグータラ息子に落ちてしまえば仕方なしだが、その後永吉夫婦と家族たちは、さまざまな試練を受けることに・・・。
<大団円はちょっと甘いのでは・・・?>
この映画に登場する傳蔵は、容貌もそうだがやっていることも相当のワル。しかも後半では、私文書偽造行為や手下をスリに化けさせての巧妙な細工も・・・。こんな武闘派兼知能犯のヤクザの親分にかかれば、栄太郎のようなヒヨッ子はもちろん、平田屋のような強欲な商売人でも太刀打ちできないのは当然・・・?
永代寺の西周から、思いもかけない相州屋清兵衛の伝言を聞かされた永吉が、喜び勇んで家に帰ろうとしている時、早馬を走らせてきた侍によって、大ケガをしたうえ、息絶えてしまうというのは、ちょっとストーリーとしてどうかと思うが、永吉亡き後、映画の後半は、おふみと平田屋+傳蔵連合軍とのぶつかり合いが焦点になってくる。永吉の初七日の日、京やを訪れてきた平田屋と傳蔵が、栄太郎が書いた証文を示しながら要求してきたことは驚くべきことだった。そして、それに対するおふみの対応は・・・?これによって、おふみはすべてを失い、ゼロからの再出発となるはずだったが・・・?
これ以上はここでは書けないが、映画はこの後、大ドンデン返しが待っているので、とくとご覧あれ・・・。もっとも、そんな大団円になると、あんなワルのヤクザの親分がいい人に思えてくるから不思議。しかし、ホントにそれでいいの・・・?
<CG技術はいいのだが・・・>
この映画の売りの1つが、江戸時代の深川各地の風景と下町の雰囲気を再現したセットとCGによる撮影技術。映画の冒頭、大きな永代橋の上を多くの人が行き交う様子が映り、その中で清兵衛とおしのの4歳の一人息子正吉が迷子になってしまうシーンが登場する。CG技術によるこの巨大な木造の永代橋の姿は圧巻だし、相州屋清兵衛亡き後、永吉が永代寺から借りることになった表通りに面した相州屋の前にある木造の太鼓橋も美しい。また、深川蛤町に軒を連ねる下町長屋に住んでいたおふみのすぐ近くに引っ越してきた永吉を、一目で気に入ったおふみが買い物につき合った後、一緒にお参りした永代寺の山門から見下ろす江戸のまちの全景も美しいもの。さらに、この映画のタイトルになっている「あかね空」をどんな風景の中に浮かび上がらせるかが、この映画のポイントの1つだが、それもバッチリと決まっている。
たしかにそれはそのとおり・・・。しかし、これだけたくさん美しい橋や風景が登場すると、逆にそれがCG技術によるものであることが強調されてしまうため、かえって少し違和感も・・・。さて、あなたはどう・・・?
2007(平成19)年2月21日記