サン・ジャックへの道(フランス映画・2005年) |
<東宝東和試写室>
2007年2月26日鑑賞
2007年2月28日記
3人の兄姉弟が、フランスのル・ピュイからスペインの聖地サンティアゴまで約1500kmの巡礼路を歩くのは、そうしなければ遺産相続ができないため・・・。こんな3人を主人公とした2カ月の巡礼ツアーはガイドを含め総勢9名だが、変なヤツばかりで先が思いやられるもの・・・。ところが、ロード・ムービーは面白い。そして人間って面白い・・・?冒険の旅、自然と触れ合う旅、そして心の旅の中、人間はどのように変わっていくのだろうか?心が洗われ、いつかは是非・・・、と思うことまちがいなしの美しい映画に感謝・・・。
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監督・脚本:コリーヌ・セロー
クララ(長女)/ミュリエル・ロバン
ピエール(長男)/アルチュス・ド・パンゲルン
クロード(次男)/ジャン=ピエール・ダルッサン
マチルド/マリー・ビュネル
ギイ(ベテランガイド)/パスカル・レジティミュス
クレストインターナショナル配給・2005年・フランス映画・112分
<ロード・ムービー⊂巡礼ムービー>
ロード・ムービーとは、「固定された生活基盤を持たない主人公が旅をすることによって人生観が変わったり、成長をとげる様を描く」もの(『映画検定 公式テキストブック』195頁参照)で、その代表作は『イージー・ライダー』(69年)や『テルマ&ルイーズ』(91年)など。また最近では、『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04年)や『世界最速のインディアン』(05年)がそれ。
しかし、「ロードすなわち道路は移動の象徴」だから、これらロード・ムービーの移動手段はそのほとんどがバイクか車。しかしこの映画『サン・ジャックへの道』は、フランスのル・ピュイ・アン・ヴレのノートル・ダム大聖堂からスペインにあるキリスト教の聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラまで約1500kmの巡礼路を約2カ月かけて徒歩で巡礼する奇妙な集団の姿を描くもの。したがって、いわば「巡礼ムービー」とでも名づけるべき範疇の映画だが、そうするとロード・ムービー⊂巡礼ムービー・・・?
<四国だって負けてないよ・・・>
フランスのル・ピュイからスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラまでの巡礼路が、ヨーロッパで最も人気の高いもので、近時巡礼ブームが起きているなら、私の故郷愛媛県松山市の道後町にあり、私が小学生時代に何回も写生に通ったことのある石手寺等を含む四国八十八カ所巡りだって負けてはいない。すなわち、サンティアゴ巡礼が約1500kmならこちらは約1400km。もっともサンティアゴ巡礼は、自然の美しさや文化遺産が多い歴史街道であるのに対し、四国八十八カ所巡りは、今はその大部分が都会化されたまちを通っての八十八カ所巡りだから、その点では大違い。また近時の四国八十八カ所巡りはバス遍路も多いようで、それでも約13日間かかるらしいが、この映画のように歩き遍路では約45~60日くらいというから、この映画の巡礼の旅に要する時間とほぼ同じ。四国八十八カ所巡りが、あのフランスとスペインをまたぐサンティアゴ巡礼に負けてはいないことを知って、何となく自慢したい気分に・・・?
<フランスの郵便事情は・・・?>
この映画はフランス映画。そして主人公は3人の兄姉弟。2005年の9・11総選挙によって郵政民営化への道筋を確立したが、郵便貯金・簡保と並ぶ本来の郵便事情について日本国民の多くは実はよく知らないのでは・・・?
ところで、この映画の冒頭、字幕と共に次々と登場するのがフランスの郵便事情・・・?なぜそんな風景が映し出されているのかサッパリわからないが、郵便受けに入った郵便物をそれぞれの住所地で読んだ兄のピエール(アルチュス・ド・パンゲルン)、姉のクララ(ミュリエル・ロバン)、弟のクロード(ジャン=ピエール・ダルッサン)の3人が一様に怪訝そうな顔をしているところを見ると、その中には一体何が書かれていたの・・・?
そんな風に観客の興味を集中させておいて、いきなり登場するのが、この3人に対して、死亡した母親が残したとされる遺言書の説明シーン。さて、そこには何が書かれていたのだろうか・・・?
<遺言書への反応は『犬神家の一族』以上・・・?>
アメリカ人もそうだが、フランス人も日本人と比べれば実によくしゃべる民族・・・?遺言書に、3人がフランスのル・ピュイからスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラまでの巡礼路を歩くことを条件として、遺産を相続させると書かれてあることを聞いた時の3人の反応は、『犬神家の一族』(06年)における有名な遺言書説明シーン以上のもの・・・?
そもそも無神論者であるうえ、会社経営で忙しくさらに妻がアルコール依存症という悩みまで抱えているピエールは、「俺にはそんな時間はない!」と怒鳴りまくるし、学校の教師をしているクララは、家族の世話のため巡礼など行けるはずがないと兄以上の早口でまくし立てた。そして、ほとんどアル中状態で家族からも見捨てられているクロードも理由は別として行きたくないのは同じ・・・?
民主主義の国、自由主義の国ではここまで言いたいことを言えるし、兄姉弟間で罵り合うのも自由。それはいいのだが、「そんな条件なら、遺産などいらねえよ」といえないところが3人の弱み・・・?
<ツアー旅行の第1のポイントはガイド>
私は中国へのツアー旅行に何回も出かけているが、3泊も4泊も行動をともにするツアー旅行の第1のポイントはガイドの良し悪し、そして相性の良さ。本当に心からまたこのガイドに案内してもらいたいと思う人もいれば、1度はバスの中でケンカしかけたガイドもいたほど・・・。
ましてやこの映画の主人公3人は、遺産を相続するためやむなくこの聖地巡礼ツアーに参加しているだけで、巡礼を望んでいるわけではないから、そんな参加者が3名もいるツアーのガイドは大変・・・。まして1日24時間ほとんど一緒に行動する旅が2カ月も続くのだから大変。ベテランガイドのギイ(パスカル・レジティミュス)は何度もこのコースをめぐっているらしいから安心して任せることができるはずだが、3人は口々に文句を唱えるわ、罵り合いをはじめるわ、ツアー初日から先が思いやられることおびただしい限り・・・。それにしても、こんな巡礼ツアーのガイド料は、HOW MUCH・・・?
<ツアー旅行の第2のポイントはツアー仲間>
第2のポイントは、どんな仲間と一緒になるかということ。それによって食事の時間やバスの中が楽しくなったり不愉快になったりすることが多い。また、旅行社によって、あるいはガイドによって参加者に自己紹介をさせて仲間意識を持たせるケースとそうでないケースがある。私は「雲南省大周遊8日間」旅行(04年11月28日~12月5日)や曲阜・泰山・済南・青島「中国5日間」旅行(05年10月20日~10月24日)では、たくさんの仲間とお友達になり、今でも数名とは手紙のやりとりを続けているほど・・・。さて、この映画における合計9名御一同様の仲は・・・?
<巡礼地ツアーの参加者は・・・?>
主人公の3人が何の信仰心も持たないまま参加しているのと同じように、他の5名のツアー参加者もケッタイな奴ばかり・・・。その第1は、楽しい山歩きと勘違いしてお気楽に参加したハイティーンの女の子であるエルザとカミーユ。第2は、カミーユを追って参加したアラブ系移民の少年サイッドと従兄弟であるサイッドにだまされてイスラムのメッカに行けると信じ、2人分の旅費を苦しい家計から母親に捻出してもらったラムジィの2人。そして第3は、なぜか頭をターバンで包んだ1人参加の女性マチルド。出発当初は3人の兄姉弟の罵り合いに辟易し、ギスギスした人間関係の中で仕方なく旅を続けていたが・・・。
<ポイント地点はサン・ジャン・ピエ・ド・ポー>
1500kmの巡礼の旅の中間点は、スペインとの国境付近にあるフランス西端のまちサン・ジャン・ピエ・ド・ポー。旧市街地のサンジャックの門から聖地サンティアゴまで約800kmで、この街から歩き始める人も多く巡礼の宿場町となっているとのこと。
ピエールは持病の心臓病のため、薬を切らせると大変。ところが途中、荷物を軽くするためリュックから一部の荷物を捨てた際、持参していたその薬も一緒に捨ててしまったらしい。そこでピエールは「もう帰る!」とわめきたてていたのだが、なぜかその後、薬なしでも心臓病の発作は出ず、むしろその歩きは快調に・・・。これこそまさにウォーキング効果・・・?
このピエールの例をはじめとして、出発点のル・ピュイからこのサン・ジャン・ピエ・ド・ポーまで、ツアー参加者たちの間ではさまざまなドタバタ劇(?)がくり広げられる。その中で、1人参加者のマチルドがなぜターバンを巻いているのかも見えてくるし、アラブ系移民の少年ラムジィが悩む失読症に対して、誰がどう対処するのかも見えてくる・・・?また、1人だけ何の荷物も持たずに飄々と歩き続けているアル中同然のクロードは・・・?
ところが、人間って面白いもの。1カ月近くの時間をかけ700kmの旅を続けてきた9人は、今残り800kmの地点に立った時、その心がほとんど1つになっていたから不思議・・・。
<強制的VS自主的・・・?>
日本の教育の最大の欠陥は、勉強することの楽しさや面白さを教えない(教えられない)こと。私の大学受験はまさに強制の連続だったから、勉強は苦痛以外の何者でもなかったが、司法試験受験は勉強することの面白さを感じながらやっていたから、苦しい中でも楽しさや充実感を伴ったものだった。したがって、1日8~10時間の勉強は強制ではなくすべて自主的なもの。今だって、弁護士と映画評論家という2足のわらじをはいているおかげで、映画を観る時間とその評論を書く時間を仕事に含めると、平日の実労働時間は12~14時間だし、土日だって一定時間は必ず仕事しているが、これはすべて自主的なもの・・・。
ピエール、クララ、クロードの3人にとって、1500kmの巡礼の旅は当初(半)強制だったはず。だって、それをやり遂げなければ遺産相続ができないのだから・・・。ところが、ある地点で、ガイドのギイから意外な言葉が・・・。それは「実はこの遺言書はこの地点でいいと書いてあった」というもの。遺言書の内容について今さらそんなバカな、という法律家特有の無粋な反応はこの際横におき、それを聞いた3人の行動に注目だ!
3人は、今や完全に仲間になり切った他の6人に心からの別れを告げ、反対の道を歩き始めたが、まず最初に立ち止まったのがピエール。そして、ピエールは方向を変え、また元の道を歩き始めたから、クララとクロードもビックリ。そして3人は・・・?それは一体ナゼ・・・?それを自然に納得させるのがロード・ムービーの良さであり、この映画のすばらしさ・・・。
<私も、いつか・・・?>
今の私はピエールと同じように時間に追われる毎日だから、事務所を放置して2カ月も巡礼の旅に出かけるのはとても不可能。せいぜい中国雲南省への8日間の旅行が最長・・・?
プレスシートによれば、この巡礼路を年間8万人が「聖都サンティアゴを目指して歩いている。今、フランスではサンティアゴ巡礼が密かなブームとなり、バカンスや週末の休暇を利用して数日間だけ歩きに来る人も多い」とのこと。もちろん、3人の主人公のように無神論者であっても、またアラブ系移民の少年のようにイスラム教徒であっても、巡礼の旅が自然と一体になる旅であり、冒険の旅であり、心の旅であるとすれば、その意義は同じ。
私のヨーロッパ旅行は、18年前のイギリス(ロンドン)・オランダ(アムステルダム)・西ドイツ(フランクフルト)・スイス・フランス(パリ)旅行の1度きりだから、今度はスペイン・イタリアの旅に是非行ってみたいと思っていたが、それは5~10年以内に実現したいもの。そして、70歳を超えてなお健康でいられるなら、是非このフランスからスペインへの2カ月間の巡礼の旅に出かけてみたいものだ。そんな刺激を与えてくれたこの映画に大いに感謝!
2007(平成19)年2月28日記