イノセントワールドー天下無賊ー(中国映画・2004年) |
<東宝東和試写室>
2007年3月27日鑑賞
2007年3月28日記
お正月映画の第一人者で、「中国の山田洋次監督」と呼ばれる馮小剛(ファン・シャオガン)監督の、2005年のお正月作品は楽しさいっぱい。そして、性善説VS性悪説を考える人生哲学もタップリ・・・?一匹狼のスリと窃盗集団そして警察官を含めた三つ巴の闘いが展開されるのは、チベット鉄道の列車内という密閉された舞台。美しい風景とプロの妙技に酔いながら、馮小剛監督特有の人間に対する温かい視点をじっくりと味わおう。
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監督・脚本:馮小剛(ファン・シャオガン)
王薄(ワン・ポー)(スリ稼業)/劉徳華(アンディ・ラウ)
王麗(ワン・リー)(王薄の恋人)/劉若英(レネ・リウ)
胡黎(フー・リー)(窃盗集団のリーダー)/葛優(グォ・ヨウ)
小葉(シャオイエ)(窃盗集団の女)/李冰冰(リー・ビンビン)
シャーケン(農家の青年)/王宝強(ワン・バオチアン)
警察官/張涵予(チャン・ハンユー)
キネティック、アルゴ・ピクチャーズ配給・2004年・中国映画・116分
<さすが馮小剛監督、さすが葛優>
「中国の山田洋次監督」と呼ばれる馮小剛(ファン・シャオガン)監督は「お正月映画」の第一人者で、中国では大衆から最も愛されている監督と言われている。私が観た『ハッピー・フューネラル』(01年)(『シネマルーム5』276頁参照)は実に面白く心温まる名作だった。彼の最新作は章子怡(チャン・ツィイー)主演の『女帝 エンペラー』で、これは3月29日に観る予定だが、今日は2005年のお正月映画として『カンフーハッスル』をおさえてNO1ヒットとなった『イノセントワールドー天下無賊ー』を楽しく鑑賞。キャラの配置とツボをおさえたストーリーづくりは、「さすが馮小剛監督!」と思える出来。
また、馮小剛監督作品に欠かせない名優が葛優(グォ・ヨウ)。彼の代表作は何といっても、カンヌ国際映画祭で最優秀主演男優賞を受賞した張藝謀(チャン・イーモウ)監督の『活きる』(94年)(『シネマルーム5』111頁参照)だが、『ハッピー・フューネラル』や『わが家の犬は世界一』にも出演し、妙技を見せている。そして2005年の正月映画として中国で大ヒットしたこの『イノセントワールドー天下無賊ー』でも、盗賊集団のリーダー胡黎(フー・リー)という不気味な役(?)で登場し、例によって見事な怪演を・・・。
<「チベット鉄道」完成前だが・・・>
2007年1月2日にNHK総合テレビで放映されたチベット鉄道(青蔵鉄道)は、西安の西にある西寧からチベットのラサまで所要27時間の列車の旅に撮影クルーが同乗し、車窓風景や名所、沿線の人々などを追ったもので、「さすがNHK!」というすばらしい番組だった。チベット鉄道は最高地点が海抜5072mという世界一高い場所にある鉄道で、このような高所に鉄道が建設されるのは世界でも例がないもの。したがって、まさに「世界の屋根」を走る鉄道。しかし、貨物輸送が開始されたのが2005年10月、そしてゴルムド~ラサ間の旅客営業運転を開始したのが2006年7月1日で、正式開業は2007年7月1日の予定ということだから、この映画が製作された2004年の段階では、この青蔵鉄道はまだ走っていないはず・・・。すると、この映画の舞台になるとともに、密室ならではの面白い盗賊合戦を展開しているあの列車は、どこからどこへ走っているの・・・?中国人なら誰でもわかるのかもしれないが、日本人にはそこらが少しわかりにくい・・・?
<香港・台湾・中国から・・・>
最近は中国・香港・台湾・韓国・日本の俳優やスタッフを結集したアジア映画が増えているが、これは中国を盟主とした新たな大東亜共栄圏づくりの一環・・・?そんなキナ臭い考え方や議論は横におき、映画の世界では純粋にそのコラボレーションの楽しさを味わいたいもの。
しかして、馮小剛監督がこの映画の主役として起用したのが、香港のスーパースター劉德華(アンディ・ラウ)。彼が演ずる王薄(ワン・ポー)は、一匹狼として詐欺やスリ稼業で生きている悪党。しかし、その悪党の本性が実は・・・というのが、いつも人間に対して温かい目を注ぐ馮小剛監督がこの映画で描くポイント。
また、この王薄と行動を共にしている恋人王麗(ワン・リー)を演ずるのは、台湾の歌手兼美人女優の劉若英(レネ・リウ)。映画の冒頭、王薄との巧妙なタッグによる「美人局」的手法によって、大金持ちからBMWの高級車を騙しとった王麗だが、その後「泥棒稼業から足を洗いたい」と言い始めたのが、波乱の物語のスタート。彼女はなぜ急にそんなことを言い始めたの・・・?
他方、窃盗集団の大ボス胡黎の傍にいつも付き添っている美女小葉(シャオイエ)を演ずるのが、『シルバーホーク』(04年)や『ドラゴン・スクワッド』(05年)で私も知っている李冰冰(リー・ビンビン)。スリの腕前も一流だが、胡黎の目の前で演ずる柔軟体操や、王薄の目を困惑させるような胸元チラリ、太ももチラリの演技はお見事で、馮小剛監督のサービス精神に感謝!まずは、こんな香港・台湾連合VS中国本土組の、男女2人ずつのスリのキャラと妙技に注目!
<あと2人キーマンが・・・>
この映画のストーリーを複雑で面白いものにしているのは、人を疑うことを知らず、「世の中に泥棒なんているはずがない」と信じている農家の青年シャーケン(王宝強/ワン・バオチアン)の登場と、彼が出稼ぎで貯めた結婚資金6万元(約100万円)を持って田舎に帰っていることを人込みの中で口にしてしまったこと。つまり、シャーケンがカバンの中に持つ6万元の窃取を狙って王薄と胡黎が動き始めたというのが、この映画の基本ストーリー。
ちなみに、列車の中にはトンマな強盗団も潜伏していたようで、ストーリーの途中彼らが急に動き出すのも一興だが、それ以上にきっちりとした存在感を示すのが警察官(張涵予/チャン・ハンユー)。この警察官は酸いも甘いもかみ分ける度量のあるタイプだから、人間的魅力がいっぱい・・・?
シャーケンと警察官を演じる2人は共に中国本土出身だから数的には本土組が優勢だが、お互いを信頼した王麗とシャーケンは姉と弟の契りを結ぶ(?)から、6万元をめぐる三つ巴の泥棒合戦は5分と5分・・・?こんな面白いキャラが、知力と秘術の限りを尽して6万元窃取の攻防戦が展開されるのだから、面白いのは当たり前・・・。
<プロの技術の数々を堪能・・・>
この映画の面白さの1つがプロの妙技だが、それをスクリーン上でどのように表現するかは難しい。一瞬の早業をわかりやすく表現するにはスローモーションが1番だが、それだけでは能がない・・・?さて、そんな映像技術を含めたプロの妙技を、馮小剛監督はどのように表現・・・?
他方、王薄も胡黎も、自分たちは強盗ではなくプロの技を持ったスリだということに誇りを持っているが、そうかといって、まるっきり武器を使わないわけではなさそう・・・?右手の指の間に挟み持った刃物を巧みに操ることによって、相手に致命傷を与えるワザの応酬は格闘技そのもの・・・。そんな刃物を含んだ早業を、どのような映像技術で表現・・・?
<やっぱりアッと驚く結末が・・・>
「列車モノ」は「潜水艦モノ」と同じく密閉された空間という制約がある。そのため、否応なく人間の本性が露出してくるところが面白い。物語の進行の中で、王薄と王麗のキャラ、胡黎と小葉のキャラそして警察官のキャラが明確に示され、そのぶつかり合いのポイントも観客ははっきりと理解できる。
そんな三つ巴の闘いで最後に勝つのは主役の王薄と考えるのが当然だし、そういうストーリーにすることはもちろん可能。しかし、そんなハッピーエンド(?)では面白くない。そう考えた馮小剛監督は、二転、三転、四転するストーリー展開と、アッと驚く結末を用意している。したがって、最後まで集中力を切らさず、スクリーンに注目を・・・。
2007(平成19)年3月28日記