ドリーム・クルーズ(アメリカ映画・2007年) |
<角川映画関西支社試写室>
2007年4月13日鑑賞
2007年4月13日記
ホラーの先駆者、鶴田法男監督が挑むクルーザー上での密室劇の主人公は、顧問弁護士を含む1組の夫婦。美しい現在の妻の不倫と、離婚した前妻の怨念というテーマは割と平庸だが、鶴田監督の手にかかると、それがどのような恐怖を生み出すことになるのだろうか・・・?全編英語のこんなハリウッド映画に主演した木村佳乃は、これによって日本を代表する次のハリウッド女優として名乗りをあげたいところだが・・・?
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監督:鶴田法男
原作:鈴木光司『夢の島クルーズ』(角川ホラー文庫『仄暗い水の底から』所収)
斉藤百合(英治の妻)/木村佳乃
ジャック・ミラー(英治の顧問弁護士)/ダニエル・ギリス
斉藤英治(クルーザーの所有者)/石橋凌
斉藤直美(英治の前妻)/蜷川みほ
角川映画配給・2007年・アメリカ映画・88分
<これは邦画ではなく、ハリウッド映画!>
この映画は99%が石橋凌、木村佳乃、ダニエル・ギリスの3人の俳優によって成り立っており、残りの1%が蜷川みほ。このように、4分の3が日本人だし、監督も原作も日本人だから、これは誰でも日本映画だと思ってしまうはず・・・。
しかし、これはれっきとしたハリウッド映画であり、セリフは99%が英語。したがって、この映画の舞台となるクルーザーの所有者で資産家の斉藤英治を演じる石橋凌も、その美しい妻百合を演じる木村佳乃も英語が達者なことが大前提。そんな観点で観ると、木村佳乃は中学時代ニューヨークでの海外生活を通じて自然に英語を身につけたとのことだし、石橋凌も清水崇監督の『THE JUON/呪怨』(04年)をはじめ数々のハリウッド映画に出演しているから、英語はペラペラとのこと。やはり、何でも特技を持っていることは有利なもの・・・?
さて、英治の顧問弁護士であるジャック・ミラーを演じるダニエル・ギリスを含めた3人の英語劇によるホラー度は・・・?
<鶴田監督と心霊現象・・・>
ホラー映画のキーワードはもちろん「恐怖」だが、その恐怖を生み出すのは、人間の恨みや怨念。そして、映画でそれを表現するためには、幻想・幻聴・幻覚が不可欠であり、科学では説明しきれないさまざまな心霊現象をスクリーン上で表現する必要がある。そして映画は、舞台以上にそういう表現に適した芸術・・・。
私はよく知らなかったが、プレスシートによると、鶴田監督は80年代末、映画『リング』(98年)や『呪怨』(02年)がつくられるだいぶ前から誰よりも早く、実際に起きた心霊現象のように演出する「心霊実話テイスト」を実践してきた監督とのこと。そんな鶴田監督の作品だから、この『ドリーム・クルーズ』でも、ジャックの目に映る心霊現象が1つの大きなテーマ。一体ジャックはなぜそんな心霊現象を体験することに・・・?
<まずはジャックのトラウマの紹介から・・・>
映画の冒頭、スクリーン上にはボートに乗った2人の少年が登場する。そのうちの1人はしきりに海の上に落ちた帽子を拾いあげようと手を伸ばしているが、そのたびにボートが傾くので、もう1人はさかんに「やめろ」と制止。それにもかかわらず、無理をして帽子をとろうとしたため遂にボートは転覆し、2人は海の中に投げ出されてしまった。そして、兄のジャックはボートにしがみついたものの、弟のショーンは兄の手を握ることができず、遂に海の底へ・・・。
この生き残った少年が成長し、今は巨大な法律事務所に勤務する弁護士として、大富豪である英治の顧問弁護士となっている現在のジャック。ところが、最近のジャックはショーンの夢をよく見るうえ、時としては幻想・幻覚のように、目の前にあのショーンの帽子が見えたりすることも・・・。こんな心霊現象に襲われるジャックは、ハードな仕事に追われて少し過労気味・・・?
<顧問弁護士と依頼者は・・・?>
弁護士の大量増員時代を迎えて、弁護士会でも弁護士の教育を徹底しなければならなくなり、そのカリキュラムの1つとして倫理研修も始まった。「汝殺すなかれ、盗むなかれ、犯すなかれ」という当たり前のことを今さらわざわざ講義しなければならないというのは、少しナンセンスだが、弁護士が依頼者のカネを使い込んだりする事件が起きている今、やはり仕方ないかも・・・?
他方、弁護士が依頼者の女性あるいは依頼者の奥さんと「できてしまう」ことは、もっと最悪・・・?ところが、ジャックは一方で英治の顧問弁護士として自信タップリに仕事をしながら、他方で、その美しい妻百合と「できている」ようだから、こりゃ最悪!もっとも、弁護士の仕事をしていると、お金の誘惑や女の誘惑はあちこちに・・・?よほど用心しなければ・・・?
<3人の密室劇は・・・?>
4月9日に観た面白い映画『キサラギ』(07年)は5人の密室劇だったし、陪審映画の名作『十二人の怒れる男』(57年)は12人の密室劇。ところが、この『ドリーム・クルーズ』はたった3人の密室劇であるうえ、それがはるか沖に出てしまったクルーザーの中だから、脱出不可能な状況下における密室劇になっているため、密室性はより強化・・・?
そんな密室劇になったのは、英治があらかじめ計算していた筋書きに沿ったもののよう。しかして、英治はなぜ顧問弁護士と相談するのに、弁護士の事務所ではなく沖の海上に停止するクルーザーという密室を選んだの・・・?
<怨念の主は直美・・・?>
映画の前半は、石橋凌の演技力の冴えもあって、ジャックと百合の不倫を英治がどのように裁くのかという点に観客の興味が向くはず・・・?たしかに、それはそれで大きなテーマだから、その展開については十分注目を・・・。
しかし、百合のジャックに対する「告白」の中で少しずつ明らかになっていくのは、百合と結婚するため英治は、前妻の直美(蜷川みほ)に対してひどい仕打ちをしたらしいということ。もっとも、百合もその詳細は知らないようで、ただ「あの人は恐ろしい人だ」という漠然とした恐怖感だけ・・・。
そんな百合にしてみれば、スクリューに絡みついた海草を取り除くべく海の中に潜っていった英治が、事故で死んでくれれば超ラッキー・・・?こんな美しい人妻百合が、現実にそんな風に考え、ジャックが英治を救助しようとするのを制止したとは・・・?もしこれでホントに英治が死んでしまったとしたら、英治の怨念は百合に向かってくるはず・・・。
それはともかく、この映画の怨念の主は、英治の前妻の直美。しかして、直美の怨念とは・・・?そして、停止したクルーザーの中にいる英治たちに対して、直美はどんな風にその怨念を爆発させてくるのだろうか・・・?
<ちょっとストーリー構成に難点が・・・?>
『キサラギ』は二転三転、四転五転するよく練られた脚本がすばらしかったが、この『ドリーム・クルーズ』はちょっとストーリーに難点が・・・?それは直美がもつ怨念のターゲットが少し不自然、というかお門違いなこと・・・?
「新しい女ができたから、お前とは離婚する」と真正面から言われたうえ、もともと「俺はお前など最初から愛していない。お前が親父から相続した財産が目当てだったんだ」と言われれば、そりゃ女房は激昂するのが当然。もちろん、「新しい女ができたからお前と離婚する」という言い分は、法的に認められるものではないから、大富豪で顧問弁護士も抱えている英治がそんなバカな離婚交渉をしたとは思えないのだが、どうも実態はそうらしい・・・?しかし、誰が考えてもそれは、知恵の回らないバカな男のやり口で、自ら次のトラブルをつくり出すようなもの・・・?そんな英治の前の女房である直美が、怨念をもってこのクルーザー上に登場してくるのだから、英治が直美とどんな風に決着をつけたのかは誰だって想像できるはず・・・?
それはそれでいいのだが、それではなぜ直美の怨念は英治だけではなく百合やジャックにも向くのか、という点が私には理解できないところ。百合が英治と結託して古い女房の直美を排除しようとしたのなら、直美の怨念が英治のみならず百合に向くのも理解できるが、どうも百合はそんな共犯ではなさそう・・・。すると、直美の百合に対する怨念晴らしは、少し筋違いでは・・・?さらに、それを向けられたジャックに至っては、とんだとばっちり・・・?
<日本を代表する次のハリウッド女優は・・・?>
日本を代表するハリウッド女優といえば、『ラスト・サムライ』(03年)の小雪か『バベル』(06年)の菊地凛子かというところだが、渡辺謙、役所広司、中井貴一、真田広之など外国映画への進出が相次いでいる男優陣に比べると、女優陣のそれはまだまだ不十分・・・。言葉の壁があるのは仕方ないが、それは誰もが乗りこえなければならないもので、問題は本人の意欲のみ・・・。
プロ野球界では、イチローや松坂大輔をはじめとする13人の日本人大リーガーが活躍しているのだから、映画界だって、とりわけ女優陣はもっと奮起してもらいたいものだ。その点、木村佳乃はこれだけ自由に英語がしゃべれるのだから、この映画での「熱演」をステップにしてもっと自分をハリウッドにアピールしてもらいたいと思うのだが・・・。果たして、木村佳乃が小雪、菊地凛子に続いて日本を代表するハリウッド女優として名乗りをあげることができるだろうか・・・?
2007(平成19)年4月13日記