あるスキャンダルの覚え書き(アメリカ映画・2006年) |
<東宝試写室>
2007年4月25日鑑賞
2007年4月27日記
これはすごい!美人教師と15歳の教え子との密通・・・。そんな秘密を握ったベテラン教師は、一体何を狙うのか・・・?日記に綴られたモノローグは、老女の恐い恐い本音がてんこ盛り・・・。
共に2006年のアカデミー賞の主演女優賞と助演女優賞にノミネートされた二大女優の、迫力満点のガチンコ対決をタップリと楽しもう・・・。
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監督:リチャード・エアー
脚本:パトリック・マーバー
原作:ゾーイ・ヘラー
バーバラ・コヴェット(ベテラン教師)/ジュディ・デンチ
シーバ・ハート(新任美術教師)/ケイト・ブランシェット
リチャード・ハート(シーバの夫)/ビル・ナイ
スティーヴン・コナリー(男子生徒)/アンドリュー・シンプソン
ポリー・ハート(シーバの長女)/
ベン(シーバの長男)/
20世紀フォックス映画配給・2006年・アメリカ映画・92分
<二大女優のぶつかり合いは迫力満点!>
この映画は、『恋におちたシェイクスピア』(98年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞したイギリスの超ベテラン女優、そして1988年にはイギリス王室から「デイム」の称号を受けたジュディ・デンチと、『アビエイター』(04年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞したケイト・ブランシェットという2人のオスカー女優の夢の共演。
もっとも、共演といっても、生半可なものではなく、友情・駆け引き・打算・支配そして不倫・快楽・モラル・秘密・共犯などさまざまなキーワードで、2人の女性の人間関係における根源的な価値を問い直すもの・・・。したがって、2人が友情を育んでいく過程、秘密を共有し共犯となっていく過程、秘密の共有により一方が他方を支配しようと画策していく過程、すべての秘密が明らかになった後の女の闘いの過程、等々が、二大オスカー女優の迫真の演技によって迫力満点で迫ってくる。92分というほどよい長さの中、ずっと緊張感をもち続けたあなたは、上映終了後グッタリと疲れ、「ああ、すごかった」という感想をもらすことまちがいなし・・・?ホントに、二大女優のぶつかり合いは迫力満点!
<イギリスは明確な格差社会・・・?>
去る4月22日(日)の統一地方選挙と沖縄・福島の参議院議員補欠選挙において、小沢民主党は、さかんに格差社会への攻撃を仕掛けたが、私はどうもこの格差社会攻撃は好きになれない。なぜなら、日本ほど格差の少ない民主主義国家、もっと突き詰めて言えば、日本ほどかつてマルクスやエンゲルスが唱えた理想的な共産主義国家に近い国はないと私は思っているから・・・。
その詳しい説明はここではしないが、この映画を観れば、イギリスは明確な格差社会の国だということがすぐにわかるはず。それは、映画の冒頭にナレーションされるバーバラ・コヴェット(ジュディ・デンチ)の日記の中に、「労働者階級の子供たちばかりが通う学校に現れた場違いな美術教師シーバ・ハート」と表現していることによって明らか。さらに、はじめてシーバの家にランチに招かれたバーバラが、かなり年上のシーバの夫リチャード(ビル・ナイ)とおませな長女ポリー、ダウン症の障害をもつ長男ベンと共に暮らすシーバらブルジョワ家族の休日の様子を皮肉タップリに日記に書いていることによっても明らか。
日本では今ドキ、労働者階級、ブルジョワ階級という言葉自体が死語になっているが、イギリスでは21世紀に入った今もなお、明確にそんな「階級」が存在しているわけだ・・・。
<テーマその1ー女教師の恋のお相手は・・・?>
この映画のチラシに躍る文字は、「彼女の恋の相手は15歳だった」というものだから、『あるスキャンダルの覚え書き』というこの映画のタイトルと合わせて考えれば、誰だってこれは女性週刊誌をよく賑わすゴシップ物語かと、興味本位な目を向けてしまうかも・・・?現に私はそうだったし、それをきっかけにしてイントロダクションを読み、二大女優の共演に対する期待もあって、これは是非観なければと思ったもの・・・。
ケイト・ブランシェット扮する美術教師シーバは、導入部だけを観る限りでは独身といっても通るギリギリの年齢(?)の魅力的な教師。労働者階級の子供たちばかりが通う学校では、毎年同じことを教え、毎年一定数の卒業生を生み、彼らを各種の労働現場に配置させていくだけのくり返し・・・?したがって、シーバのような美人教師はちょっと場違いで、歴史を教えている定年間近のバーバラのような教師が、画一的な授業をくり返していればいいだけの学校・・・?
したがって、そんなシーバは他の教師からも興味の的なら、生徒たちからも興味の的。特に、性的好奇心の塊のような男子生徒たちはそう・・・?ある日、シーバの授業中に生徒たちが殴りあうという騒動が起きた。この騒動は、バーバラがそこに登場して生徒たちを一喝したことによって納まったが、その騒動の張本人の1人がシーバの「お相手」であった15歳の生徒スティーヴン・コナリー(アンドリュー・シンプソン)。こりゃ大変なスキャンダルだ。さあ、物語はこれからどんな展開を・・・?
<テーマその2ーベテラン教師の思惑と行動は・・・?>
テーマその1は誰にでもすぐにわかるスキャンダラスなものだが、テーマその2は、ジュディ・デンチの熱演が見モノの、定年間近の女教師、そして誰からも愛されず誰も愛したことのない、日記を書くことしか生き甲斐のない孤独な老女の心の描写。男の私には、そしてまた割と単純で純真な心の持ち主だと自覚している(?)私に容易に理解できないのが、こんな女の心理・・・?
試写開始前に、「この映画は絶対面白いですよ」と薦めてくれたソニー・ピクチャーズの宣伝マンは、映画終了後、「いや、すごかったワ」という私の感想に対して、「女ハンニバルみたいだったでしょう」と何とも気の利いた表現を・・・。ハンニバルとは、もちろんアンソニー・ホプキンスが演じた『羊たちの沈黙』(91年)、『ハンニバル』(01年)、『レッド・ドラゴン』(02年)の3作と、現在公開中の『ハンニバル ライジング』(06年)における人喰いのハンニバル・レクター博士のこと。ハンニバルは男だったからあんな行動になったが、15歳の少年と肉体関係を結んでいるシーバを発見し、その秘密を握り共有した時、孤独な女教師バーバラなら、さてどんな思惑をもち、どんな行動を・・・?
それがこの映画の第2のテーマ。
<日記を書くことの功罪は・・・?>
世の中には、バーバラや私のように書くことにマメな人がたくさんいるもの。そんな人たちにとって、「日記」は欠かせないものだが、日記は絶対に人に読まれないものであれば100%の本音を書くことができるが、ひょっとして誰かに読まれるかもとか、突然の事故で俺が死んだ場合は、と考えると、なかなか100%の本音は書けないもの・・・?
現在、産経新聞朝刊に連載されている渡辺淳一の『あじさい日記』は、妻の日記を開業医の夫が秘かに読むというのが基本構成。そして、現在進行中の物語は、妻がかつての大学時代の恩師との浮気を記載した日記を、同じく病院の受付嬢と浮気をしている夫が秘かに読み、イライラしているという局面・・・。そこで私が思うのは、果たしてその日記に書かれている内容は、100%本音なのかどうかということ。それが大問題だ・・・?
しかし、この映画におけるバーバラの場合は、既に何十年も孤独な生活に耐えてきた老女だから、日記帳のみが彼女の唯一の友人であり、心の支え。したがって、その中には100%の本音を書いているのでは・・・?それはそれでいいのだか、そうすると、それまでの孤独な境遇が一変し、バーバラの生活の中に、例えばシーバとの同居という形で他人が入ってくることになれば・・・?
日記のプライバシーを100%保護するためには、毎日銀行の貸し金庫にそれを預けなければならないが、それは所詮ムリな話・・・。そうすると、100%近い本音を日記に書くことの功罪は・・・?
<なぜシーバは若い男に・・・?>
どちらかというと単純な男の私は、シーバがスティーヴンと肉体関係をもったのは、もちろん若い男に対する性的興味はあったものの、スティーヴンから迫られたためと理解していたが、この映画を観ていると、どうもそうではなさそう・・・?つまり、シーバにとってスティーヴンは単なる一時的な欲求不満解消の便利なお相手ではなく、いつの頃からか恋のお相手になっていたらしい・・・?
したがって、コトが露見し大スキャンダルになると、スティーヴンはさっさと身を引こうとしたのに対し、シーバの方は「彼を愛していた」などとバカげたことを・・・?男の私には、シーバの女としての性的欲求がどれほどなのか、そして一見幸せそうに見えるシーバの元教師だったという、一回り以上、二回り近く(?)年齢が離れている夫リチャードとの間の性的満足度がどの程度なのかは全くわからないが、この性的な欲求不満がスティーヴンによって満たされていたことはまちがいない。
また驚くべきことに、バーバラの日記とナレーションによると、定年退職を迎えようというバーバラだって、お店で男性店員から肌に触れられると下腹部に熱いうずきが走ることがあるというから驚き・・・。なぜ、シーバが15歳の生徒との肉体関係とその恋に溺れたのか?それは、所詮男の私にはわからない未知の世界・・・?
<いつも思うのだが、ケンカも理性的・・・?>
こんな赤裸々でスキャンダラスな物語が展開していくから、下ネタが大好きなマスコミは大はしゃぎ・・・。コトが露見したシーバは、児童強姦罪で刑事被告人となり、連日マスコミを賑わす立場に・・・。そんな中、シーバと夫のリチャードとのケンカ、シーバと長女ポリーとのケンカはもとより、シーバとバーバラとの言い争いが次第にエスカレートしていったのは当然。もっとも、コトが露見した後も、バーバラは、シーバがスティーヴンとそういう関係にあったことは知らなかったとあくまでシラを切っていたから、その間はバーバラとシーバとの争いは生じなかったが、それがバレた後は大変。ケイト・ブランシェットが先輩女優のジュディ・デンチを大胆に突き倒す演技をするのは、かなり勇気が必要だったようだが、何といってもこの女同士の罵り合いと肉弾戦はこの映画のハイライト。そして、アカデミー賞で主演女優賞と助演女優賞を獲得できるかどうかの大きなポイント・・・。
こんなさまざまな争いを観ていつも思うのは、西欧文明国の人たちの争いは、それなりの合理性があるナということ。つまり彼ら彼女らは、常に自分の気持に対して正直に生き、正直に表現しているから、ケンカはケンカとしてトコトンやるものの、感情が収まった後はまた別の展開や対話が生まれてくるところがすごい・・・。この映画でもそれが見モノだが、さて・・・?
<モデル、原作そしてこの映画・・・>
この映画の原作は、ロンドン生まれの作家ゾーイ・ヘラーが書いた2作目の小説で、これはイギリス、アメリカ両国でベストセラーになったとのこと。もっとも、プレスシートによると、この小説は「教え子とのセックス・スキャンダルを起こした女教師シーバを同僚のバーバラが世間から匿い、事件の全貌を記録した日記という体裁が取られている。バーバラの主観という非常に信頼度の低い言葉を通し、バーバラがシーバに抱いた感情や、幻影、激しい思い込み、性的欲望などが明らかになっていく」とのことで、文学的アプローチが強く、映画的な物語にするのはかなり難しかったらしい。そんな原作を92分という短い時間に脚本化したのはパトリック・マーバー。その苦労話は面白いので、是非あなたにも読んでもらいたいもの。
さらに驚くべきことに、スキャンダラスな女教師シーバにはモデルがいたとのこと。それは1997年の「ルトノー事件」。これは、当時35歳で4人の子供を持つ母親でありながら、13歳の生徒ヴィリ・ファラーウと性的関係を持ち、彼の子供を妊娠・出産。そして懲役7年6ヵ月の判決を受けたという事件。当然その後「接見禁止命令」が出されたが、2人の関係はその後も波瀾万丈の展開をみせ、結局純愛を貫いた2人は2005年に結婚したとのこと。
こうなると、こういうスッキリした事実を見れば、必ずしも「事実は小説よりも奇なり」とは言えず、小説や映画の方がよほど「奇」・・・?ちなみに、この映画のラストシーンはすごく暗示的で、さらなる次のスキャンダルに発展する芽もありそう・・・?したがって、最後までスクリーンから目を離すことのないように・・・。
<最優秀賞は遠かった・・・?>
2007年2月25日(日本時間26日)に、2006年度第79回アカデミー賞が発表されたが、何を隠そう、この『あるスキャンダルの覚え書き』の二大女優ジュディ・デンチは主演女優賞に、ケイト・ブランシェットは助演女優賞にノミネートされていたもの。
結果的には、ノミネートされていた5人の中から、最優秀主演女優賞は『クィーン』(06年)のヘレン・ミレンに、最優秀助演女優賞は『ドリームガールズ』(06年)のジェニファー・ハドソンに決定したため、2人は涙を呑むことに・・・。しかし、1つの作品で共演した2人の女優が共にノミネートされただけでもすごいこと。でもやはり、1年間に1度だけのトップ1への道はやはり遠かった・・・。
<翌日はオーエス株式会社の株主総会で・・・?>
最近、株主優待の特典に凝っている私は、吉野家やマクドナルドなどの飲食会社の他、松竹、東映、オーエス、東京テアトルなどの株を購入し、さまざまな株主特典を享受している。そんな中、4月26日に開催されたのがオーエス株式会社の株主総会。
事前に調べたところでは、今年は総会終了後出席株主に対して、『あるスキャンダルの覚え書き』が上映され、またOS劇場、OS名画座への招待券2枚が与えられるとのこと。私はその前日の4月25日に試写室で既に観たから、この映画上映会には出席しないが、妻や事務員たちが出席してこの名作を鑑賞することに・・・。
4月25日付日経新聞夕刊の一面トップは、「株主優待4社に1社」という見出しだったが、金融商品取引法が2007年9月に施行されるという現在のニッポンにおいて、映画の好きな人は映画関係の株を有効に購入して、活用するのがお薦め・・・。これこそ、今のニッポンに求められている、自己責任の原則の1つの活用パターンだと私は確信しているが・・・。
2007(平成19)年4月27日記