プレステージ(アメリカ映画・2006年) |
<角川映画試写室>
2007年4月27日鑑賞
2007年4月28日記
19世紀末のロンドンを舞台とした天才VS奇才マジシャン2人のライバル物語は、トリックやワナがいっぱい・・・。引田天功の脱出マジックも危険がいっぱいだが、命に関わる危険は「瞬間移動」も「新・瞬間移動」も同じ・・・?発明王エジソンのライバルであった天才科学者ニコラ・テスラの登場によって、マジックか科学技術かの境界もあいまいになったから、勉強すべきネタも満載!騙しのプロたちの命を賭けたトリックに、あなたはどこまで迫れるだろうか・・・?また、「この作品はトリックそのもの。騙されるな。」というクリストファー・ノーラン監督の挑発に、あなたはどう対応する・・・?次々と訪れる、アッと驚く結末にはもう唖然・・・?19世紀末のロンドンを舞台とした天才VS奇才マジシャン2人のライバル物語は、トリックやワナがいっぱい・・・。引田天功の脱出マジックも
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監督・脚本:クリストファー・ノーラン
脚本:ジョナサン・ノーラン
原作:クリストファー・プリースト『奇術師』(ハヤカワ文庫刊)
ロバート・アンジャー(奇術師「グレート・ダントン」)/ヒュー・ジャックマン
アルフレッド・ボーデン(奇術師「THE プロフェッサー」)/クリスチャン・ベール
カッター(アンジャーの協力者)/マイケル・ケイン
オリヴィア(新たなアンジャーの助手)/スカーレット・ヨハンソン
ジュリア・マッカロー(アンジャーの妻)/パイパー・ペラーボ
サラ・ボーデン(ボーデンの妻)/レベッカ・ホール
ニコラ・テスラ(科学者、発明王)/デヴィッド・ボウイ
アレー(テスラの助手)/アンディ・サーキス
ギャガ・コミュニケーションズ配給・2006年・アメリカ映画・130分
<タイトルの意味の理解が不可欠!>
「プレステージ」というカタカナは、何となくその意味がわかるようなわからないような言葉。プレスシートによると、「プレステージ」とはもとはフランス語のprestigeで、「幻惑、奇術、詐術、偽物、魔法、魅惑etc.」から、やがてその意が転じ「偉業」「名声」「威光」を表すとのこと。したがって、この映画のタイトルはそれだが、残念ながらそれだけでは何のことかサッパリわからない・・・。
そこで映画の冒頭、この映画のテーマとなる「一流のマジックは、3つのパートから成る」ということの意味が、観客にわかりやすく紹介されていく。3つのパートの第1はプレッジ(確認)。うやうやしく、そこにはタネも仕掛けもないことを観客に確認させる。だがもちろん、タネはある。第2はターン(展開)。その仕掛けのない道具で、期待にそむかないパフォーマンスを見せる。さて、そのトリックを見破ろうとしても、わかりはしない。そして第3がプレステージ(偉業)。しかしそれだけでは観客は満足しない。最後にもう一段、予想を超えた驚きを提供する。そう、このバランスの中にこそトリックの生命線がある。だからそれを「偉業(プレステージ)」と呼ぶ、というわけだ。
なるほど、なるほど、それはそれでよくわかった。ところで、この映画の観客である私たちは、一体何を観ればいいの・・・?主人公となる2人の天才マジシャンのマジックを感心しながら鑑賞するだけ・・・?しかし、それでは・・・?
<2人のライバルは・・・?>
今日4月28日(アメリカ時間27日)は、松坂大輔VS松井秀喜の対決が見られたが、それに先立つ4月12日の松坂大輔VSイチローの大リーグ対決は、衛星放送を通じて日本全国の注目を集めた。これはもちろん「ライバル対決」をつくり出そうとするマスコミ戦略の1つ・・・。
この映画でライバルとして登場するのは、「グレート・ダントン」と呼ばれるマジシャン、ロバート・アンジャー(ヒュー・ジャックマン)と「THE プロフェッサー」と呼ばれるマジシャン、アルフレッド・ボーデン(クリスチャン・ベール)。2人はもともと、共に中堅どころのマジシャン、ミルトンの元で修行をしながら、マジシャンへの夢を温めていた仲間。ところが、ある時、ある事件から2人の間には決定的な対立が・・・。
そして今、長年のライバルであったアンジャーは、大人気を博していた「新・瞬間移動」の失敗(?)によって、水槽の中で苦しみ、溺れ死にする寸前・・・?そしてなぜか、その現場に直面していたボーデンは、アンジャーを溺死させたの疑いで刑事被告人の席に着くことに・・・。さらに今、証言台で証言しているのは、アンジャーの長年の協力者であったカッター(マイケル・ケイン)。松坂大輔VSイチローの第1ラウンド対決は松坂大輔の圧勝だったが、アンジャーとボーデンという2人のマジシャンのライバル対決のラストは、アンジャーの死亡とボーデンの殺人犯という形でエンドを迎えるのだろうか・・・?
<マジックあれこれ・・・>
この映画の時代と舞台は、19世末のロンドン。世界で最初に産業革命を成功させたイギリスにおけるその後の科学技術の進歩はすばらしく、マジックの世界においても、さまざまな科学技術を応用したトリックが工夫されはじめていた時代だ。
私が知っている日本の有名なマジシャンは、引田天功(プリンセス・テンコー)とMr.マリック。Mr.マリックは10本の指をメインとしたハンドパワーによる超能力が売りだが、引田天功が得意とするのは大規模な「脱出モノ」・・・。もちろん、「タネも仕掛けもありません」というのは真っ赤なウソで、いかなるタネを仕掛けて観客の目を欺き、観客をたぶらかせ、いかに称賛を浴びるかがマジックの生命線。したがって、Mr.マリックのマジックは何の危険もないのに対し、引田天功の「脱出モノ」は、命の危険と常に隣り合わせ・・・?万一失敗したら・・・?
<ニコラ・テスラについての勉強も不可欠・・・>
「発明王」エジソンの名前は誰でも知っているが、直流電流のエジソンに対して、交流電流の優位性を主張した実在の科学者ニコラ・テスラを知っている人はまずいないのでは・・・?かくいう私も全然知らなかったが、この映画のプレスシートを読み、ネット情報で勉強してみると、彼はそりゃすごい天才科学者。天才の例にもれず、かなりの変人だったようで、失意の晩年を送ったらしいが、1956年には磁束密度の国際単位に「テスラ」の採用が決定されるなど、彼の功績は今や広く認知されているとのこと。
この映画では、そんなニコラ・テスラ(デヴィッド・ボウイ)が、アメリカのコロラド山中の実験施設で秘かにつくっているあるモノが焦点になってくる。それは、テスラコイルと呼ばれる高周波高電圧発生装置で、平たくいえば人工的な雷発生装置とのこと・・・。と言われても、正直私にはサッパリわからないので、これ以上の孫引き的な説明はやめるが、要するに、アメリカまで渡ったアンジャーは、これをうまく活用すればボーデンがやっている「瞬間移動」以上のマジックができると考えたわけだ。
ボーデンの瞬間移動のトリックについて、カッターは替え玉を使ってやっている簡単なマジックだと主張したが、アンジャーは絶対にそうではないと確信していた。しかし、そのトリックを見抜くことはできない・・・。そんな焦燥感に駆られたアンジャーは、わざわざアメリカまでそのヒントを得るべく出かけていったわけだが・・・?マジックもここまでくると、科学との境界線があいまいになってくるほどのすごい世界。したがって、私たち観客もしっかりと勉強して騙されようにしなければ・・・?
<スカーレット・ヨハンソンは脇役ながら・・・?>
この映画はアンジャーとボーデン2人のライバル物語だから、女優陣のカゲが薄くなるのは仕方なし・・・?
アンジャーもボーデンもまだ修行中の時代、ミルトンの助手として舞台上に登場したアンジャーの妻ジュリア(パイパー・ペラーボ)は、脱出マジックの失敗で溺死するという不幸に見舞われた。これは、ジュリアの手をロープで結んだボーデンの過失によるもの・・・?それを知ったアンジャーの心の中に芽生えたものは・・・?
他方、ボーデンの方は、その後サラ(レベッカ・ホール)と出会って結婚し、一人娘ジェスにも恵まれ、幸せな家庭をつくっていたし、瞬間移動のマジックで人気を博していたから、第1ラウンドはボーデンの勝ち・・・?
もちろん、アンジャーもマジシャンとして身をたてており、今は美しい助手オリヴィア(スカーレット・ヨハンソン)を得て、それなりの名声を得ていた。しかし、ボーデンの瞬間移動のマジックのすばらしさを感じながらそのトリックがわからないアンジャーは、今やすっかりボーデンに対する復讐心にとり憑かれていた。そのうえ、カッターと相談してやっているアンジャーの「新・瞬間移動」は、観客から大きな支持を得ているものの、三流役者でアル中のルートを替え玉として使っただけの単純なマジックだったから、アンジャーは日々、悶々とした生活を・・・。
そんなアンジャーがオリヴィアに命じたのは、何と、ボーデンの助手となって瞬間移動のトリックを盗むこと。しかし、長年すぐ傍で仕事をしていれば、愛情が生まれてくるケースはよくあること。アンジャーはオリヴィアが自分に対してもっているはずのそんな気持を知りながら、あえてライバルのボーデンの元へタネ探りのために行けと命じたのだから、それはちょっと酷・・・。
『真珠の首飾りの少女』(03年)等の出演によってスカーレット・ヨハンソンは、今やハリウッドを代表する女優の1人に成長したが、この映画では途中から登場してくるだけの脇役。しかし、2人の男の間で瞬間移動マジックのタネ探しと愛をめぐって揺れ動く微妙な立場の女ゴコロを演じさせれば、さすが一流。例によって、あの厚ぼったい色気タップリの唇(?)をしっかりと印象に残す演技を見せてくれるから、脇役ながら彼女にも是非注目を・・・。
<新・瞬間移動のトリックはわかるが・・・?>
この映画を観ていると、鳥カゴの中の鳥がカゴごと消えたり、ハンカチの中で鳩が消えたり、また登場したり、というマジックのトリックは多少理解できる。また、アンジャーのやっている新・瞬間移動のトリックも丸わかりで、マジックで大切なのは技術力と共に演技力なのだということもよく理解できる。しかし、ボーデンのやっている瞬間移動のトリックは、替え玉を使っていないらしいし、アンジャーの知識をもってしても見抜けないで苦悩しているのだから、素人の私に見抜けるはずがないのは当然・・・。
この映画のプレスシートには、クリストファー・ノーラン監督の「この作品はトリックそのもの。騙されるな。」というメッセージが載せられているが、これはある意味、この映画の観客に対する挑戦状。すなわち、スクリーン上で展開される各種のマジックを観客として楽しむだけではなく、映画そのもののトリック性や仕掛けられたワナをあなたは見抜くことができますか、と問いかけチャレンジしてきているわけだ。さて、それをあなたはどこまで見抜くことができるだろうか・・・?
ちなみに、この映画のプレスシートはすごく立派なうえ、そのキラキラと光る表紙は目をくらませるもので、いかにもトリックが仕込まれていそうだが・・・?
<アッと驚く結末が次々と・・・>
M.ナイト・シャマラン監督の『シックス・センス』(99年)以降、「物語の結末は絶対に教えないで下さい」という1つの路線が急速に拡大したが、この『プレステージ』もその系列にある映画。だって、マジックそのものが、タネ明かしをすれば寿命がつきてしまうわけだから、秘密性がマジックの生命線・・・。したがって、クリストファー・ノーラン監督が、「この作品はトリックそのもの。騙されるな。」と挑発するように、映画全体に仕掛けられたトリックをこの評論で解説するわけにはいかないし、そう簡単に見破れるようなトリックではマジックの値打ちなし・・・。
マジックの天才と奇才がライバルとして「瞬間移動」をめぐって命をかけた勝負を展開するこの映画の醍醐味は、映画後半から・・・。上映時間は2時間10分もあるが、決してそれを長いと感じることはないはず・・・。究極のトリックの謎を解く暗号は、天才科学者の名前をとった「テスラ」・・・。ここまでの私の評論をしっかりと勉強し、頭に入れたうえで、この映画を観れば、最高に面白いこと請け合い・・・?
2007(平成19)年4月28日記