転校生-さよなら あなた-(日本映画・2007年) |
<角川映画試写室>
2007年5月18日鑑賞
2007年5月19日記
70歳直前の大林宣彦監督が25年前の名作『転校生』をリメイク。・・・ではなく、新しい『転校生』に挑戦!舞台を海のまち尾道から山のまち長野の善光寺へ移し、ヒロインを小林聡美から蓮佛美沙子に変えたものの、ココロとカラダが入れかわったという設定は全く同じ。「10年に1度」の逸材、蓮佛美沙子の快演を楽しむとともに、あらためて大林宣彦監督の底力を確認できるはず・・・。注目は今回もラストシーンと最後のセリフ。そして、大林宣彦監督25年後の、第3作へのチャレンジは・・・?
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監督:大林宣彦
斉藤一美(一夫の幼なじみの同級生)/蓮佛(れんぶつ)美沙子
斉藤一夫(尾道から長野への転校生)/森田直幸
斉藤直子(一夫の母)/清水美砂
山本弘(一美の現在の彼氏)/厚木拓郎
吉野アケミ(一夫の尾道での彼女)/寺島咲
大野光子(善光寺北中学校の音楽の先生)/石田ひかり
斉藤孝造(一美の父親)/田口トモロヲ
斉藤千恵(一美の母親)/古手川祐子
斉藤孝一(一美の兄)/窪塚俊介
斉藤孝之助(一美の祖父)/犬塚弘
今田正助(病院の理事長)/長門裕之
金子正枝/関戸優希
佐久井由香/高木古都
角川映画配給・2007年・日本映画・120分
<蓮佛美沙子さん、ごめんなさい・・・>
この映画のすばらしさは、大林宣彦監督の「腕力」によるものが半分で、あとの半分は蓮佛美沙子という新人女優の素材としての魅力とこの映画における快演・・・。ちなみにこの蓮佛美沙子は、2005年に角川映画とソニーミュージック、Yahoo!JAPANが合同で実施したスーパーヒロイン・オーディション「ミス・フェニックス」で、グランプリを受賞した女の子。そして、この『転校生─さよなら あなた─』には、準グランプリの関戸優希と審査員特別賞の高木古都も出演しているから、美人の揃い踏み・・・?
それはともかく、私はこの蓮佛美沙子という変わった名前が印象に残っていたので、プレスシートを読むと、『犬神家の一族』(07年)で映画初出演、『バッテリー』(07年)で初ヒロインをつとめたと書いてあった。『犬神家の一族』の印象はほとんどなかったが、男ばかりが登場し、恋模様をほぼ封印していた『バッテリー』では、ほんの少しだけ、恋模様の味付けをする役として登場していたことはよく覚えている。しかし、その評論で私が書いたのは、「それはそれでいいのだが、私が不満なのは、この繭役の蓮佛美沙子が2005年「ミス・フェニックス」グランプリを獲得した女の子であるにもかかわらず、少し魅力不足なこと・・・?もっとも、これは単なる私の好みにすぎないが・・・」ということ・・・。
過去、ミス○○やミス△△でグランプリを獲得した数多くの美人女優ほどの美人ではないことに私は今でも固執している(?)が、この映画でみせた彼女の魅力を考えれば、『バッテリー』の評論で私がそのように書いたことは率直に「ごめんなさい」と謝らなければ・・・。
<「尾道三部作」と無縁だったのは・・・?>
大林宣彦監督の「尾道三部作」の第1作となった『転校生』は、今から25年前の1982年に公開されたもの。以降『時をかける少女』(83年)、『さびしんぼう』(85年)と尾道を舞台とした映画が続いたわけだが、実は私はそのどれも観ていない。それはなぜか?その理由は簡単で、当時私は1974年に弁護士登録してから8年目の弁護士としてメチャクチャ忙しかったため。それ以外の理由は何もない。すると、今私が同じ弁護士でありながら、年間300本も映画を観ているのは、弁護士としてメチャクチャ暇なせい・・・?
もっとも、「尾道三部作」は観ていないものの、「尾道」というまちにはさまざまな縁があり、最近は、おのみち映画資料館で撮影した写真が、『シネマルーム8』の表紙を飾り、また『男たちの大和/YAMATO』(05年)のロケセットを見学した際に撮影した写真が『シネマルーム9』の表紙を飾ることに・・・。
さらに広島地裁尾道支部と広島高裁におけるある民事事件では、高裁において画期的な判決を獲得することに・・・。映画はたくさん観ているものの、本業もこのようにキッチリとこなしているから、従来からの坂和総合法律事務所の依頼者のみなさまはご安心を・・・。
<小林聡美VS蓮佛美沙子・・・>
私が5月16日に『かもめ食堂』(05年)を観て、そこではじめて25年前の『転校生』でヒロインを演じた小林聡美を知ったのも何かの縁。なぜなら、それを観ていなければ、「小林聡美VS蓮佛美沙子」という小見出しを書くこともできなかったはずだから・・・。
とはいっても、小林聡美の『転校生』を観ていない私の勝手な比較は、美人度は小林聡美の方が上だが、面白さは蓮佛美沙子の方が上というもの・・・?
ちなみに、プレスシートの中で大林宣彦監督は「映画は、人との出会いから生れる。蓮佛美沙子という少女とこの時期出会わなければ、今回の《転校生》は誕生し得なかっただろう」と書いているから、蓮佛美沙子との出会いはそれほど大きなインパクトがあり、大林宣彦監督のインスピレーションを刺激することになったわけだ。
続けて大林宣彦監督は、前作の「小林聡美がおもいっきり夏の少女であったのに対し、美沙子はしっとりとした山の里娘の風情を湛えていたのは幸福だった」と書いているのが印象的。チラシにも「10年に1人」と絶賛し惚れこんだことが書かれているが、『転校生』公開の25年後にそんな刺激的な少女に出会い、再び同じテーマで新作をつくろうという意欲を沸かせることができたのは、1938年生まれで既に70歳になろうとしている大林宣彦監督にとってもそりゃありがたいこと。
やはり、いくつになっても人との出会いを大切にしたいものだと実感・・・。
<リメイクではない、新しい『転校生』・・・>
最近はテレビでも『白い巨塔』がリメイクされたし、キムタクこと木村拓哉主演の『華麗なる一族』のリメイク版が大ヒット。また映画でも『日本沈没』(06年)や『犬神家の一族』(06年)など1970年代の作品のリメイク版が大はやり・・・。しかしてこの『転校生─さよなら あなた─』もリメイクかと思ったが、同じ監督によるリメイクには何か抵抗感が・・・。そう思って調べてみると25年ぶりの『転校生』はリメイクではなく、全く新しい『転校生』・・・。
舞台は海のまち尾道から山のまち長野へ。この発想は大林宣彦監督の言葉によると、開国以来、海彦となって国を築いてきた私たち日本人には、もともと山彦としての日本古来の約束が眠っているのでは、という問題意識から生まれたもの。登場する主人公は斉藤一夫と斉藤一美、また2人のココロとカラダが入れかわるというマンガチックな設定も全く同じ。
しかして、新しい『転校生』では、斉藤一夫(森田直幸)が尾道から長野へ転校してきたのは一体なぜ?そして長野で待つ(?)幼なじみの斉藤一美(蓮佛美沙子)は、転校してきた彼をどのように受けとめるの・・・?
<信州はやっぱり、そば!>
尾道は海の幸の豊かなまちだが、かつて武田信玄が塩不足で苦労した山国信州の名物はやっぱり、そば。一美の両親、孝造(田口トモロヲ)と千恵(古手川祐子)は長野県善光寺のまちで古くからの蕎麦屋を営んでいるが、そばづくりを仕切っているのはもっぱら祖父の孝之助(犬塚弘)のよう。この家には、年の離れた幼い姪もいるから、今ドキの日本には珍しく、賑やかな大家族。一美には兄の孝一(窪塚俊介)もいるが、彼は今東京で1人生活中・・・。
この映画は信州を舞台としただけに、そばにまつわる物語が満載・・・。その第1は、一美と一夫の肉体が入れかわることになる「さびしらの水場」。そばづくりは水が生命だから、この水場は大切で神聖な場所。したがって、善光寺へ転校してきた一夫を自宅に招いた一美は当然のように、思い出の場所であるこの「さびしらの水場」へ一夫を案内したが・・・。
<信州のそばVS尾道のうどん・・・?>
第2はそばのこね方。孝之助の言葉によると、孝之助の息子孝造はどうもそば職人としての腕はもう1つらしく、隔世遺伝の法則によって、孫の一美の方が腕は確からしい・・・?そこでこの映画では、信州がそばなら尾道はうどんとなるのだが、実はこれが私には不思議なところ・・・。なぜなら『UDON』(06年)というタイトルの映画まで完成した香川県(さぬき)はうどんで有名だが、尾道もうどんが名物・・・?ちなみに近時有名になっている「尾道ラーメン」は私が味わったところではイマイチ・・・?
そんな尾道にうどんで有名な店があるとは思えないのだが、一夫の言葉によると、信州がそばなら尾道はうどん、らしい・・・?そして、試しにそばをこねてみるかと孝之助から言われた一美(一夫?)は、何と台の上にあがり、足でこれをふみはじめたから、斉藤家は大騒動。こりゃ一体ナニ・・・?
<こんな母親と息子の関係なら・・・>
一夫が尾道から長野の善光寺に転校してきたのは、母親の直子(清水美砂)が父親と離婚したことによって母親の生まれ故郷へ戻ることになったため。長野への列車の中で明るく語られる離婚話(?)や今後の生活についての母親と息子の会話を聞いていると、こりゃまさに理想的な関係・・・?
さる5月15日未明、福島県会津若松市において、高校3年生の息子が母親を殺害し、その頭部と右腕を切断するというおぞましい事件が発生したが、この母親と息子の間にはこの映画でみるような楽しい会話が成り立っていなかったことは確実・・・。
大家族の斉藤一美ファミリーと2人だけの核家族の斉藤一夫ファミリーは両極端だが、こんな母親と息子の会話の中にも大林宣彦監督が描く日本のあるべき家族像は明確・・・。
<蓮佛美沙子の快演にビックリ!>
この映画で蓮佛美沙子は「10年に1度」と絶賛されただけあって、すばらしい快演を見せている。小学6年生頃は女の子の方が早熟だが、中学3年生ともなればほぼ同等になってくるものだが、この映画を観る限り、一夫より一美の方が明らかにうわ手。転校してきた早々、「寝しょんべんの一夫でしょう!」と言われ、さらに「お嫁さんになってあげるといってキスしたでしょう!」と公表(?)されたのでは、そりゃ一夫としてはたまったものではない・・・。しかし、根があけっ広げで夢みる世界を次々とくり広げていくタイプの一美にとっては、そんな昔話は絶好のネタ・・・。機関銃のようにくり出す一美の言葉に一夫がたじたじとなったのは当然・・・。
もっとも、蓮佛美沙子の腕の見せどころは、「さびしらの水場」でのある事件によってココロとカラダが入れかわってからが本番。男になった一美が着物のスソをまくってあぐらをかいたり、スカートの前後を逆にしたり、また大家族の中、食べ負けまいと必死にはしを伸ばす蓮佛美沙子の姿は「よくぞ16歳のヒロインがここまで快演!」と拍手を送りたくなるほど・・・。また男言葉のしゃべり方も、多少の違和感はあるものの、よく出来たもの。
こりゃ近いうちに、25年前の小林聡美の『転校生』も観て、2人の快演ぶりを比較してみなければ・・・。そしてもし、まだ資格があるのなら、まちがいなくこの映画での蓮佛美沙子を新人女優賞候補に推したいところだが・・・?
<ボクも、そしてあと2人もお忘れなく・・・>
この映画ではどうしても注目が蓮佛美沙子ばかりに集まってしまうが、オカマ風に一美を演ずる森田直幸も、ホントは蓮佛美沙子に負けない名演技だからお忘れなく・・・。
またこの映画が面白いのは、大人たちは2人のココロとカラダが入れかわったことを全然認めようとしないのに対し、子供たちはそんな現実を敏感に理解するところ。すなわち「あの事件」以降あまりにも行動がヘンになったとして、一美と一夫の母親たちは絶交宣言をしてしまう始末だが、一美の彼氏の山本弘(厚木拓郎)はキルケゴールの哲学に凝っているだけあって(?)、この奇妙な現実を率直に受け入れたのは立派。さらに尾道に住む一夫(一美?)のガールフレンドの吉野アケミ(寺島咲)も、メールや電話の話だけでコトの真相を理解したのは立派。こりゃつまり、子供の方が想像力が豊かで、大人は頭がカチカチだということの現われ・・・?
したがって、奇妙な病気にかかって死にかけている一美(一夫?)の最後の過ごし方をめぐる議論には、そんな大人たちの価値判断と子供たちの価値判断の対立もチラリ・・・。この映画の注目の焦点はあくまで蓮佛美沙子だが、その相棒の森田直幸、そして新たな『転校生』の物語を成立させるのに不可欠な、2人の子供たちにも注目を・・・。
<音楽も最高!ピアノの使い方も最高!>
「2人のココロとカラダが入れかわった」というテーマだけで、2時間の映画をひっぱっていくためにはさまざまな工夫が必要。そこで今回は、ピアノの上手な一夫が一美に入れかわった後、失った自分を想って弾き語りで歌う、『さよならの歌』という名曲が大きなウエイトを・・・。マンガみたいなストーリーながら、この曲を聴いていると思わずウルウルしてくるかも・・・?
エンディングに流れる主題歌『さよならの歌』は、寺尾紗穂がヴォーカルをつとめる6人グループ「Thousands Birdies’Legs」によるものだが、この曲を蓮佛美沙子が必死になって練習し、スクリーン上で堂々と弾き語りするまでになったというのはそりゃ立派なもの。こんな姿をみていると、一概に「今ドキの若いモンは・・・」と言うのを控えなければ、と思ってしまったが・・・。
<「奇妙な病気」の設定は、ちと安易だが・・・?>
私はこの映画は最高に面白かったが、唯一の欠点は、最初は生理による影響かと思っていた一美(一夫?)が実は奇妙な病気にかかっており、余命があと2、3ヶ月と宣言される後半のストーリー。そりゃ、ちょっと安易すぎるのでは、と思ったのは私だけ・・・?
もっとも、その点だけを我慢すれば、その後の展開は子供たち4人による病院からの脱出、また一夫と一美の2人だけの旅(?)における旅芸人一座との出会い等々、面白いストーリーが続出するから、興味は尽きず、その欠陥は十分に補われている感じ・・・。
<注目のラストシーンは、そして最後のセリフは・・・?>
どの映画でもラストシーンに注目されるのは当然だが、この映画のそれは概ね予測できるはず・・・?だって、ココロとカラダが入れかわったままエンディングを迎えたのでは、どこか落ち着かないことになってしまうはずだから・・・?しかして、最後に2人が訪れる場所は・・・?
25年前の『転校生』のラストシーンは、去っていく一夫とこれを追ってくる一美、そして最後のセリフは「サヨナラ、オレ」「サヨナラ、あたし!」というセリフだったが、さてこの『転校生─さよなら あなた─』のラストシーンと最後のセリフは・・・?
プレスシートのプロダクションノートの中で、大林宣彦監督が「ぼくは後二十五年生きて、もう一度《転校生》を作ろう」と書いているのには驚いたが、監督は続けて「その時は今よりもっともっと穏やかな日日のなかで、《転校生~こんにちはあなた》となるのかしらん」と書いている。94歳となった大林宣彦監督の第3作目の『転校生』におけるそんなセリフを聞くためには、私もあと25年間健康を持続しなければ・・・。
2007(平成19)年5月19日記