包帯クラブ(日本映画・2007年) |
<東映試写室>
2007年6月25日鑑賞
2007年6月26日記
何とも奇妙なタイトルだが、この包帯は身体の傷ではなく、心の傷に巻くもの・・・。平和で豊かなニッポンでは、高校生たちの身体の傷は減っても、心の傷は複雑で多様化、そして深まるばかり・・・?そんな心の傷を、包帯を巻くことによって癒すことができたら・・・?かなりバカげた発想だが、柳楽優弥と石原さとみの説得力ある演技もあって、その成果は・・・?ところで、あなたが癒してほしい心の傷はどこに・・・?そして、誰のどんな包帯を求めているの・・・?
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監督:堤幸彦
原作:天童荒太『包帯クラブ The Bandage Club』(筑摩書房刊)
井出埜辰耶(通称ディノ)(入院患者)/柳楽優弥
騎馬笑美子(通称ワラ)(女子高生)/石原さとみ
柳元紳一(通称ギモ)(浪人生、ワラの中学の同級生)/田中圭
丹沢志緒美(通称タンシオ)(ワラの親友)/貫地谷しほり
本橋阿花里(通称テンポ)(ワラの中学の同級生)/関めぐみ
芦沢律希(通称リスキ)(ワラの中学の同級生)/佐藤千亜妃
ワラの母親/原田美枝子
テンポの母親/風吹ジュン
東映配給・2007年・日本映画・118分
<奇妙なタイトルだが・・・>
この映画のタイトル『包帯クラブ』は、作家天童荒太が2006年に発表し、18万部を売り上げている『包帯クラブ』をそのまま使ったもの。天童荒太は、①1986年に『白の家族』(栗田教行名義)で第13回野性時代新人文学賞を、②1993年に『孤独の歌声』で第6回日本推理サスペンス大賞優秀作を、③1996年に『家族狩り』で第9回山本周五郎賞を、④2000年に『永遠の仔』で第53回日本推理作家協会賞長編部門をそれぞれ受賞している1960年生まれの作家で、私と同じ愛媛県出身。私は松山市の愛光中学・高校出身だが、彼は松山北高等学校出身とのこと。
ところが、そんな作家がいることや、そんな作家の『包帯クラブ』という小説があることを私が知ったのは、この映画を観たことによって。つまり、この映画のタイトルを見るまではそんなことを全然知らず、タイトルを見てはじめてこの奇妙なタイトルの映画は一体ナニ、と思ったもの。別に弁解するわけではないが、そりゃ知っている人はわかっても、予備知識ゼロの人には、何とも奇妙なタイトル・・・?
<包帯が心の傷に有効・・・?>
誰でもケガをした時は、その部分に薬を塗り、包帯をしてもらった経験があるはず。傷の部位に巻かれた真新しい包帯を見ていると、これで治療は完璧だと思い、妙に安心できるもの・・・?しかし、それはあくまで身体にできた傷に対するもので、心の中に抱えている傷には薬を塗ることも、包帯を巻くこともできないのは当然。
プレスシートにある松田哲夫氏(編集者・ブックコメンテーター)の「『包帯クラブ』原作者と原作について」によると、「天童さんが、『いまこれを書かなくては』という思いに後押しされ、若い読者に向けて7年ぶりに書き下ろしたのが長編小説『包帯クラブ』(2006年・ちくまプリマー新書)です」とのこと。6月6日に観た『ヒロシマナガサキ』(07年)と6月19日に観た『ひめゆり』(06年)は、いずれも被爆者とひめゆり学徒隊の生き残りが、「今、語らなければ。今、伝えなければ」との思いからつくられたドキュメンタリー映画。
しかし、天童荒太が「今これを書かなくては」と思ったのは、平和で豊かな今のニッポンでありながら、少年・少女そして高校生たちの多くはそれぞれ大きな心の傷をもっているという現実に気づいたため。少年犯罪の増大とその犯行の凶悪化に対しては、少年法の改正による厳罰化によって対処し、教育の荒廃に対しては、教育再生会議における議論と提言によって立て直そうとしているが、さてその効用は・・・?
また、少年犯罪に至らなくても、核家族化と家族関係の崩壊、受験勉強と教育の崩壊、安易なセックスの横行と男女間の愛の喪失、さらに薄っぺらな人間関係の蔓延と友情の喪失など、今の時代における少年少女や高校生たちの心の傷は大きいはず。さて、その処方箋は・・・?そこで天童荒太が目をつけたのが包帯、すなわち心の傷に包帯を巻くことだ。そんなバカな、と誰もが一瞬思うのは当然だが、しかし・・・?
<若くても演技派を・・・>
この映画を監督したのは、『トリック劇場版』(02年)、『トリック劇場版2』(06年)等で有名な堤幸彦監督。彼は一方で『大帝の剣』(06年)のようなバカバカしい映画をつくっているが、他方で『明日の記憶』(06年)のようなシリアスな映画もつくっている。そして『包帯クラブ』は、流行小説を映画化したものだが、心の傷に巻く包帯をテーマとしたものだから、結構シリアスなもの・・・?
とはいっても、『明日の記憶』における渡辺謙と樋口可南子のようなベテラン演技派俳優を起用するわけにはいかず、起用する俳優が高校生を演じられる年代に限られるのは当然。そこで堤監督が選んだのが、柳楽優弥と石原さとみ。台所でのちょっとした包丁操作のミスで手首を傷つけたことを、勝手に「リストカットしないようにね・・・」と決めつけられて落ち込んでいる高校3年生の騎馬笑美子(ワラ)を石原さとみが演じ、他方、屋上で奇妙な出会いをし、とっさの思いつきでワラの心の傷に包帯を巻き、「手当て、や」とケッタイな関西弁で語りかけた井出埜辰耶(ディノ)を柳楽優弥が演じている。
適役が他に誰もいないと言えば言いすぎだろうが、私が思うに、この2人を主役に起用したのは大正解!柳楽優弥の演技力は、『誰も知らない』(04年)や『星になった少年』(05年)で折り紙付きだが、唇がポッチャリと厚く、スカーレット・ヨハンソンのようなイメージの(?)石原さとみは、実は私の大好きな女優で注目株・・・?そんな2人の演技力もあり、私のこの映画の採点は星4つ・・・。
<今ドキの高3生は意外と・・・?>
包帯クラブが発足するについては、もう1人、今年のNHK大河ドラマ『風林火山』で山本勘助の恋人役で、早々と死んでしまったものの、印象的な演技を披露した貫地谷しほり演ずるワラの親友丹沢志緒美(タンシオ)が大きな役割を果たしている。
女の子同士の失恋の打ち明け話などはどこにでも転がっているものだが、タンシオが打ち明けた失恋話を聞いたワラが、その心の傷を癒すべく思い出の場所に包帯を巻いてみると、タンシオからは「すっごくいい!」との反応が・・・。そう、これが包帯クラブ発足のきっかけになったわけだ。
パソコン上の実務を担当するのは、浪人生の柳元紳一(ギモ)(田中圭)。これに発案者のディノも加わり、包帯クラブが発足したわけだが、その反響は上々・・・。メールで送られてきた悩みを分析し、傷ついた人の傷ついた場所に行って包帯を巻き、それをデジカメで撮影してメールで送るという包帯クラブの活動は、あちこちで高い評価を受けることに・・・。こんな姿を見ていると、今ドキの高校生も意外に活動的で、捨てたものではないナと思っていたが、それはある面、ワラもタンシオも大学受験を目指していないという気楽さのため・・・?
<あと2人の親友は・・・?>
ワラとタンシオには、中学時代の親友本橋阿花里(テンポ)(関めぐみ)と芦沢律希(リスキ)(佐藤千亜妃)がいた。しかし、リスキは父親の会社の倒産などの事情で高校に進学せず、今は居酒屋で働いている身。他方、裕福な家庭の娘テンポは、進学校の高校に進み、今は大学受験で頭がいっぱいのよう。したがって、ワラとタンシオから包帯クラブのことを聞き、またリスキとの仲直りの機会を提供されても、「あんたたちバカじゃないの!」という冷たい反応のみ・・・。この女の子4人による議論(?)は、近年稀にみる真剣な内容が含まれているため、是非注目を・・・。
この場での4人の議論は、「勝ち組」への道を1人着々と進むテンポの1人勝ちだった(?)が、映画の後半は一転して、テンポの母親(風吹ジュン)から、机をキレイに片づけたままでテンポがいなくなったという連絡をワラが受けることに・・・。さて、既にテンポとは決別しているはずのワラ、タンシオ、リスキの3人、そしてワラ、タンシオと共に包帯クラブを運営しているディノとギモはそれに対してどんな行動を・・・?
<何でも、やりすぎると・・・?>
屋上から飛び降り自殺をしようとする心の傷を癒すため、屋上の防御柵に包帯を1本巻きつけるくらいならいいが、①オウンゴールをして落ち込んでいる男の子の心の傷を癒すために、ゴールポストに包帯を巻いたり、②逆上がりができない男の子を励ますため、鉄棒に包帯を巻いたり、さらには③美容院で、髪型ではなく顔を変えろと言われた女の子の心の傷を癒すために・・・?
人間何でもやっていると少しずつ凝ってくるものだし、表現力も豊かになってくるもの。そして、次第に規模も大きくなってくるもの・・・?まちのあちこちには真っ白な包帯を巻かれたさまざまな物体と、包帯がやさしく風に舞っている風景が登場することに・・・。これに伴って、包帯クラブのサイトには、当初の「心が癒されました」という好意的な反響を大きく超えて、「偽善的」「自己満足」という批判的な書き込みが続々と・・・。
そのうえ、誰が見ても包帯クラブの面々がやっている行為は、その目的が心の傷を癒すためという遊びゴコロ(?)にあることを無視すれば、器物損壊罪に該当するものだから、遂に警察も登場してくることに・・・。
何でもやりすぎるとヤバイということだが、さあここで包帯クラブは解散するの、それとも・・・?
<ディノの心の傷は・・・?>
この映画の成否のポイントは、良家のお坊っちゃまでありながら、自傷行為もどきの奇妙な行動をくり返しながら、包帯クラブの運営に積極的に参加するディノの存在にある。いつもテンションが高く、発言も行動も挑発的だが、それはきっと彼が心の中に抱えている大きな傷の裏返し・・・?そんなディノの心を、柳楽優弥が『誰も知らない』の時の静かで穏やかな演技とは逆に、心の傷を裏に隠したまま、やけに派手っぽい演技で見事に表現している。
この映画はかなり遅くなってからクライマックスが2つ訪れてくる。その1つが、このディノの心の傷の告白。そのお相手はもちろんワラだが、彼の心の奥深くに刻まれていたディノの心の傷とは・・・?それはかなり奥の深いものだから、じっくり注目を・・・。そして、それに対してワラはどんな包帯を・・・?
<もう1つのクライマックスは・・・?>
もう1つのクライマックスは、失踪したテンポを探すため、ディノがとった突拍子もない行動。それは、高崎市庁舎の屋上の防御フェンスに数百本の包帯を巻いてたらし、テンポに対して「出てこいや!」と呼びかけるもの。
実際にこれだけの包帯を巻きつける作業は1人では到底不可能で、その作業は大変だったらしいが、映画ではそんな裏話は見せてはならないもの・・・?屋上のフェンスに巻きつけられ、風に舞う包帯の姿は雄大で、これなら『幸福の黄色いハンカチ』(77年)のクライマックスシーンである、風に舞うたくさんの黄色いハンカチを高倉健さんがすぐに見つけることができたように、テンポも発見することは容易・・・?
あっけにとられながら、この白い包帯を見ていたワラ、タンシオ、リスキ、ギモの前に姿を現したテンポは・・・?「包帯を巻いて心の傷が治せるはずないじゃない!」「バカみたい!」とあれほどワラたちの行動をバカにしていたテンポだったが、ディノの包帯はテンポの心のどんな傷を、どのように癒したのだろうか・・・?
事件が起こるたびに視聴者受けを狙った当たり前のつまらないコメントをくり返すコメンテーターたちの言葉は空虚なものばかり。百の白々しい言葉よりも、こんなすばらしい1つの行動の方が・・・。そう実感させてくれることまちがいなしの感動的なクライマックスを、是非あなた自身の目で・・・。
2007(平成19)年6月26日記