プロジェクトBB(香港・中国合作映画・2006年) |
<ホクテンザ2>
2007年7月16日鑑賞
2007年7月18日記
50歳を超えたジャッキー・チェンが、今回は「赤ちゃん映画の系譜」をしっかりと継承・・・?「東方の三愚者」とも言うべき老壮青3人の泥棒が、2人の美女を交えて織りなすアクションコメディは、お笑いだけではなく心温まる感動的なストーリーに・・・?もっとも、主役の座が天使の笑顔で「熱演」する(?)赤ちゃんのマシューちゃんに奪われたのは仕方ないが、それはジャッキー・チェンの想定の範囲内・・・?
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監督・脚本・製作:ベニー・チャン
サンダル(泥棒3人組の1人)/ジャッキー・チェン
フリーパス(泥棒3人組の1人)/ルイス・クー
大家(泥棒3人組のリーダー)/マイケル・ホイ
スティーブ・モク警部/ユン・ピョウ
パッイン(フリーパスの妻)/シャーリーン・チョイ
大家の奥さん/テレサ・カーピオ
サンダルの老父/クー・フェン
赤ちゃん/マシュー・メドヴェデフ
赤ちゃんの母/チェリー・イン
メロディ(親切なナース)/カオ・ユェンユェン
リー奥様/キャンディ・ユー
洪峰(暗黒街のボス)/チェン・バオグオ
カメオ出演/ニコラス・ツェー、ダニエル・ウー
UIP配給・2006年・香港、中国合作映画・126分
<アクション・コメディを香港復帰第2作に!>
長年ハリウッドで活躍していたジャッキー・チェンが50歳になって香港に完全復帰したのは、2004年の『香港国際警察/NEW POLICE STORY』。そして、それに続く第2弾が、『プロジェクトA』シリーズを復活させたプロジェクトBB計画。と言っても、このBBとはベイビーのこと。そりゃ一体ナニ・・・?ジャッキー・チェンと言えばアクションだが、同じカンフーアクションでも先輩ブルースリーのそれは孤高で究道的なものであったのに対し、ジャッキー・チェンの方は軽やかでコメディタッチ。
復帰第1弾の『香港国際警察』はかなりシリアスなドラマだったし、若手イケメン俳優や若手美女をたくさん起用したため、50歳のジャッキー・チェンが1人だけ浮いて見えていた。そこで私は、ヘタすると「『老兵は去りゆくのみ』というヤバさが襲うことになるかも」と指摘した(『シネマルーム7』353頁参照)。そんな私の警告が聞こえたためか、ジャッキー・チェンには復帰第2作に老荘青3人の主人役をバランスよく配置するとともに、大胆に赤ちゃん映画に挑戦し、誰もが楽しめるコメディ映画を目指すことになった。さて、その選択は・・・?
<3人3様に面白い、老壮青3泥棒のキャラ>
この映画では、アクションはもっぱら壮年のサンダル(ジャッキー・チェン)と青年のフリーパス(ルイス・クー)の2人に委ねているが、リーダー格として老年の大家(マイケル・ホイ)が3人を束ねているところがストーリー構成のミソ。といっても香港映画は現実的だから(?)、引退に向けて貯めこんでいた冷蔵庫の中の現金を全て盗まれてしまったことが、大家が最後の大勝負にうって出た直接の動機・・・?
もともとサンダルとフリーパスを1人前の泥棒に育てたのは大家だし、2人に対して「盗みはすれど非道はせず」というモットーをたたき込み、強盗・強姦、誘拐などには一切関わらないという路線を確立させたのは大家。ところが今回の「ヤマ」は、赤ちゃんの誘拐だから、明確にその禁を破るもの。したがって、赤ちゃんをめぐって3人3様のキャラ、というよりその本来の人間性が試されることに。
ちなみに、独身のサンダルはギャンブル中毒で既に父親(クー・フェン)から勘当されている身だし、18歳の時に勢いでパッイン(シャーリーン・チョイ)と結婚してしまったことを後悔しているフリーパスは、妻をないがしろにして、金持ち女の尻ばかりを追い回しているダメ男。そして初老の大家は、20年前に幼いわが子を病気で失ってから情緒不安定となり、片時も赤ん坊の人形を手放そうとしない妻を抱えて大変だから金の亡者になったのも当然・・・?
こんな老荘青3人3様の面白いキャラがこの映画のポイント。
<赤ちゃん映画の系譜のお勉強は・・・?>
赤ちゃんが主人公の映画はいろいろあったように思うが、なかなか思い出せなかったところ、この映画のパンフレットには轆轤三郎氏の「東方の三愚者~赤ちゃん映画の系譜~」という面白いコラムがある。それによると、「3人の無法者が汚れなき生命を護ろうとして遭遇する数々の試練が、罪深き者たちの<贖罪>の旅となる」というのが「正統派赤ちゃん映画」のフォーマットであり、それはイエス・キリストの生誕を祝福した東方の三賢人のエピソードに材があるらしい・・・?そういえば、そこで指摘されていた、目の見えない座頭市が赤子を託されておろおろする三隅研次監督の『座頭市血笑旅』(64年)は私もかすかに覚えている。その他、このコラムの指摘は面白いので是非お勉強を・・・。
このような轆轤三郎氏の分析の結果がそのコラムのタイトルになったわけで、まさに『プロジェクトBB』も「赤ちゃん映画の系譜」に位置づけられる1本ということに・・・。
<赤ちゃん誘拐の動機にみる暗黒街のボスの人間味は・・・?>
「大富豪リー家の生まれたばかりの赤ちゃんを誘拐してこい。その代わりに多額の報酬を支払う」と大家に依頼してきたのは、暗黒街のボス洪峰(チェン・バオグオ)。ここでは、なぜ暗黒街のボスが自分の手下に直接命令せず、大家に依頼してきたのかがミソ。それはつまり、大家に頼めば、金庫から金を盗むのと同じようにこっそりと赤ちゃんを誘拐してくることができると考えたため。ということは、その誘拐は身代金目的でないことは明らかだが、さてその真の目的は・・・?
シリアスなドラマであれば、赤ちゃんの誘拐は深刻なテーマ。もちろん、リー奥様(キャンディ・ユー)にとってはその深刻さは同じだが、実はそこにも深い人間ドラマとかなりコメディっぽい色彩が・・・?残念ながらここでそのネタばらしをするわけにはいかないが、暗黒街のボスの意外な人間味にもご注目を!
<赤ちゃんの「演技」に脱帽・・・?>
人間50年も生きていると1年がアッという間に過ぎてしまうが、赤ちゃんは1カ月単位で大きく成長するもの。ある意味でこの映画の主役となる赤ちゃんは、採用決定当時は生後半年だったが、クランクアップの頃には10カ月になっていて、生えてきた2本の乳歯はCGで消されることになったとのこと。この映画の赤ちゃんの撮影は大変で、パンフレットにはわざわざ「出演した赤ちゃんには撮影中つねにお母さんが付き添い、必要な場面にはCG合成を使用して、万が一にも赤ちゃんに危険のおよぶことのないよう細心の注意が払われたことを申し添えておきます」と書いてあるほど。
そして、アップを中心としてメインを務めた赤ちゃん俳優は、延べ1000人ほど面接した赤ちゃんではなく、たまたま助監督が地下鉄で見かけたマシューちゃんとのこと。その場で両親に「赤ちゃんをジャッキー・チェンの映画に出す気はありませんか?」と聞くと、大喜びの父親がその場で即決し、母親はコロンビア人、オーストラリア在住で長期出張で広州に来ていたところだったとのことだから、どこに面白いチャンスが転がっているかわからないもの。
そんな赤ちゃん探しの苦労も、この映画におけるマシューちゃんの名演(?)ぶりを見ればすべて報われるというもの。といっても、「アクション映画では百戦錬磨のスタッフも相手が赤ちゃんでは勝手が違ったよう」で、「最初のうちは興味津々だった赤ちゃんも、無理やり色んなことをやらされると分かって来て、そのうちカメラを見ただけで泣きだすようになった・・・ジャッキー・チェンやマイケル・ホイほどの大スターが赤ちゃんの“笑い待ち”や“寝待ち”でワンカットも撮れずに一日が終わったこともあった」とのこと。そりゃそうだろう。しかしそんな苦労も吹き飛ばすほど、ホントにマシューちゃんの「演技」は最高!
<フリーパスはお馴染みの・・・?>
ジャッキー・チェンはもともとコメディ系の顔立ちだが、フリーパスを演ずる香港生まれのルイス・クーはもともとモデル出身というだけあってイケメン系で、男の私でも1度見たらすぐに覚えられるような顔立ち。したがって、彼が柔術家に扮した『柔道龍虎房』(04年)(『シネマルーム10』395頁参照)での演技やあのセシリア・チャンの演技に涙した『忘れえぬ想い』(03年)(『シネマルーム10』183頁参照)での脇役的な演技は強く印象に残っている。また近時の『エレクション』(05年)(『シネマルーム14』 頁参照)も同じ。
そんな存在感タップリのイケメン俳優ルイス・クーが、今回はジャッキー・チェンと組んで赤ちゃんの世話に大わらわ。そのうえ、ジャッキー・チェンがパパ役であるのに対し、ルイス・クーがママ役だから、ジャッキー・チェン以上にミルクの温度や飲ませる間隔など細かい世話を・・・。
この映画のクライマックスシーンは、3000万香港ドルの受領と引き換えに赤ちゃんを洪峰に渡すところ。しかし、洪峰の手に抱かれた赤ちゃんに何やら注射されている姿を見て、フリーパスはサンダルと共に自らの心の声に従う決心をすることに。したがって、その後の心温まる感動的な男たちの行動がこの映画の売り。そんな、表面上は赤ちゃんの世話に追われるカッコ悪い役ながら、ホントは人間味溢れる実にカッコいい役をイケメン俳優のルイス・クーがジャッキー・チェンと共に大熱演!
<2人の美女比べは・・・?>
アクションとコメディいっぱいのたわいのないジャッキー・チェン映画(?)の楽しみの1つは美女の競演・・・?前作『香港国際警察/NEW POLICE STORY』でジャッキー・チェンは若手イケメン刑事とともに3人の美女を競演させるサービスを見せたが、今回は3人の主人公を振り回す1人の赤ちゃん(マシュー・メドヴェデフ)のウエイトが大きいため美女は少し出番が少なくなったうえ人数も2人に・・・。
その1人は、『香港国際警察/NEW POLICE STORY』で「こちらは1982年生まれで美人系」と書いたシャーリーン・チョイ。今回彼女は、女グセの悪いフリーパスの妻として徹底的に耐える女の役柄を・・・。もう1人は、赤ちゃんに振り回されるサンダルを温かい目で見守るやさしいナース役を演ずる中国の女優カオ・ユェンユェン。こちらは、「どうして泥棒の俺を信用するんだ」と質問するサンダルに対して「一目会ったときからあなたはやさしい人だとわかったもの」と答える女神役で、その暖かいまなざしが特徴。私が観たのは今回がはじめてだが、彼女は既に『北京の自転車』(00年)がベルリン映画祭で銀熊賞を、『青紅/シャンハイ・ドリームズ』(05年)がカンヌ映画祭で審査員賞を受賞しているという実績のある1979年北京生まれの女優だから、次回作に注目したい。
<中国と融合気味の香港映画の行方は・・・?>
香港は2007年7月1日をもって中国返還10周年を迎えたが、現局面での特徴は政治・経済・社会全ての面において中国本土との融合化が進んだこと。すなわち、①政治的には、香港の民主派の低迷と中国共産党の影響の拡大、②経済的には、香港ドルの価値の低下と中国人民元の価値の高騰、そして③映画の面では人的交流が進み合作映画が増えたこと。
ジャッキー・チェンといえば香港を代表する俳優だが、そのジャッキー・チェン映画の『プロジェクトBB』ですら中国・香港合作映画となっていることをみれば融合化は明らか。したがって、この映画にも美女の1人ナースのメロディと暗黒街のボス洪峰は中国本土の俳優だ。
『インファナル・アフェア』3部作は香港映画として大ヒットしたし、現在公開中の『傷だらけの男たち』もハリウッドでのリメイクが決定しているが、大きな流れとしては香港映画の独自性が徐々に失われ、中国本土に融合化していることはまちがいない事実。ジャッキー・チェン映画を観ながら、思わずそんな今後の香港映画の行方を考えてしまったが・・・。
2007(平成19)年7月18日記