雲南の少女 ルオマの初恋(中国映画・2002年) |
<東宝東和試写室>
2007年7月23日鑑賞
2007年7月24日記
章家瑞(チアン・チアルイ)監督の「雲南3部作」の第1部であるこの映画は、ハニ族の娘ルオマが主人公。章子怡(チャン・ツィイー)が張藝謀(チャン・イーモウ)監督の『初恋のきた道』(00年)で輝いたのと同じように、ルオマを演ずる李敏(リー・ミン)の輝きはピカイチ!日本ではとうの昔に失われ、急速に近代化した中国でも急速に失われつつある美しい棚田の自然と、純朴な17歳の娘の初恋の姿を見れば、今や汚れきった(?)あなたの心も、一瞬洗われるのでは・・・?
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監督:章家瑞(チアン・チアルイ)
ルオマ(ハニ族の17歳の少女)/李敏(リー・ミン)
アミン(映画館を営む青年)/楊志剛(ヤン・チーカン)
ルオシア(まちの男との結婚を決めたルオマの友人)/祝琳媛(シュー・リンユエン)
ルオマのおばあちゃん/李翠(リー・ツイ)
ワコー、グアパ・グアポ配給・2002年・中国映画・90分
<久々に心温まる中国映画が!>
中国映画も次第にハリウッド化、商業化が進み、張藝謀(チャン・イーモウ)監督の『HERO(英雄)』(02年)や『LOVERS(十面埋伏)』(04年)、陳凱歌(チェン・カイコー)監督の『PROMISE』(05年)などが大ヒットしているが、手放しで喜べない面も・・・?その反面、張藝謀監督の「初恋3部作」といわれる『初恋のきた道』(00年)のような心温まる映画は最近少なくなってきた・・・。最近私が観た中国映画でも、『墨攻』(06年)や『女帝 エンペラー』(06年)は前者の系列で、後者の系譜は『孔雀 我が家の風景』(05年)くらい・・・?
ちなみに、『イノセントワールドー天下無賊ー』(04年)はその中間(?)で、『胡同愛歌』(03年)は残念ながらまだ観ていない。また、7月27日に観る予定の『長江哀歌』(06年)は、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督らしい現代中国の問題提起作!
そんな状況下、中国の最南西部の雲南省にある昆明のさらに田舎である少数民族ハニ族の美しい17歳の娘ルオマ(李敏/リー・ミン)を主人公として、久々にすばらしい心温まる映画が・・・。
<俺も雲南省へ行ってきたぜ!>
私がこの映画を何としても観たかったのは、私が2004年11月28日~12月5日の7泊8日で雲南省旅行へ行った時の印象が今でも強く残っており、昆明というまちやハニ族の娘ルオマに対して親近感を覚えたため。私が最も強く印象に残っているのは、3連泊した麗江のまちの美しさ(その詳細は「西双版納・昆明・麗江・大理「雲南省大周遊8日間」旅行記」参照)。少数民族はペー族、ハニ族、ナシ族などを見たが、今や北京や上海等の大都会では失われてしまった中国の大自然の美しさには、とにかくビックリ。
<雄大な棚田の美しさにビックリ!>
この映画の舞台となっているのは、ベトナムのハノイに流れ注ぐ紅河(ソンコイ)川のある紅河からさらに奥地に入った雲南省の元陽県。そしてルオマがおばあちゃん(李翠/リー・ツイ)と一緒に生活しているハニ族の村は、標高1500~2000mのベトナムと国境を接している小さな村だ。
ハニ族といえば棚田、棚田といえばハニ族。山の頂きにある泉からこんこんと涌き出る水の恵みを受けて、頂きから麓まで一面につくられている水田の大きさと美しさがハニ族の村最大の特徴。ハニ族がこんな風に水田と稲作をしている姿を見ていると、ハニ族が日本人のルーツだという説にもかなりの信憑性が・・・?
日本の「千枚田」を100倍も1000倍も大きくしたようなこのハニ族の雄大な「兆枚田」は、現在ユネスコ世界自然遺産に申請、受理されているとのこと。私は残念ながら、前回の雲南省旅行ではそこまでの見学をしていないので、いつかまた雲南省旅行へ行った際には、必ずその姿を自分の目で見て、カメラに収めたいものだ。
<3000万ドルと30万ドル、どちらに価値が・・・?>
資本主義国では1000円は10円の100倍の価値だし、3000万ドルは30万ドルの100倍の価値。そんなことは小学生の子供でもすぐに計算できるもの。しかし、ホントにそうなのだろうか?
例えば、財布の中に何十万円も入っている時、友人に貸した1万円を返してもらっても何もうれしくないが、財布を忘れて一文なしの状態、そして喉が渇いて死にそうな時に、見知らぬ人から100円のジュースをプレゼントされたら、すごくうれしいもの。したがって、この場合の1万円と100円の価値は必ずしも、1万円が100円の100倍ではないはず・・・?
なぜこんなワケのわからないことを書いているかというと、2002年のベルリン国際映画祭に張藝謀監督の『HERO(英雄)』と共に出品された章家瑞監督の『雲南の少女 ルオマの初恋』の価値を比較したいから・・・。つまり、『HERO(英雄)』の製作費3000万ドルに比べて、『雲南の少女 ルオマの初恋』の製作費はその100分の1の30万ドルという低予算映画というわけだ。それにもかかわらず、『雲南の少女 ルオマの初恋』は大好評を博し、モントリオール国際映画祭をはじめ世界各地の映画祭に招かれ、現在17カ国で上映が決まっているとのこと。さらに、中国国内では、中国のアカデミー賞とも言える金鶏奨で主演の李敏は最優秀新人賞を獲得し、その他3部門でもノミネートされたというすばらしい成果を。そう考えると、3000万ドルと30万ドルのどちらに価値が・・・?
<冒頭、描かれるルオマの日常生活は・・・?>
おばあちゃんと共に簡素な朝食を食べたルオマは、とうもろこしをいっぱい入れた籠を背中に担ぎ、棚田の間を走る幅50mくらいの狭いあぜ道を歩きながらまち(市場)へ。そこで彼女は何をするのかというと、ある一角に腰をおろして、目の前に七輪のようなものを置き、その網の上で持参したとうもろこしを焼き、1本ずつお客さんに売るもの。
焼きとうもろこし1本の値段は5角、すなわち1元の2分の1(約7~8円)だ。1日で何本売れるのか見当もつかないが、飛ぶように売れているわけではないから、せいぜい20~30本だろう。すると、1日の売上げは10~15元・・・?良くも悪くも、これが彼女の1日の稼ぎというわけだ。
観光客も現金なもので、ハニ族の民族衣装を着た美しい女の子を発見すると、すぐ隣りに座って写真撮影。私もよくやったものだが、せめてとうもろこしを買ってあげるなり、チップでも渡せばいいのに、先を急ぐ観光客は「Thank you」と言い残してすぐに去っていくパターンばかり・・・。
<ルオマの初恋は・・・?>
張藝謀監督の『初恋のきた道』の原題は『我的父親母親』だが、この『雲南の少女 ルオマの初恋』も原題は『 的十七歳』。すなわち英題の『When Ruoma Was Seventeen』とほぼ同じで、「ルオマが17歳の時」という意味。ところが、邦題を『雲南の少女 ルオマの初恋』としたのは、明らかに『初恋のきた道』を意識したもの・・・?
それはともかく、ルオマの初恋のお相手になったのは、ルオマのシマ(?)のすぐ前で写真館をやっている漢民族の青年アミン(楊志剛/ヤン・チーカン)。長髪でカッコ良くバイクに乗り、ルオマの焼きとうもろこしをまとめて10本も買ってくれたのだから、いい人なのだろうが、実は家賃は未払いだし、10本分5元のお金もポケットの中に持っていない有り様。しかし、お金の代わりに預けたウォークマンから流れてくる音楽を聴くと、ルオマはたちまち夢見心地に・・・。
田舎娘がちょっと現代的でカッコいい若者に恋することはよくあるが、危ない、危ない・・・?
<雲南省でよく見た風景が・・・?>
アミンがルオマに近づいてきたのは、観光客がかわいいルオマに近づいてタダで写真を撮っている姿を見て、ある商売を思いついたため。それは、私が雲南省旅行の時に再三見かけた風景で、少数民族の衣装を着たかわいい少女と並んで写真を撮らせて料金をもらうという商売。1個1個炭火で焼いた焼きとうもろこしが1個5角なのに、並んで「ハイポーズ!」とするだけで10元なら、そりゃよほど楽に稼げる商売。
アミンのバイクで棚田観光の絶好地へ行き、観光客を相手に1回10元の写真撮影を狙った商売は大当たり。「これは私が稼いだのよ」と自慢気に報告するルオマに対し、おばあちゃんは「ハニの民は人を騙してお金を取ったりしないよ、写真を撮ってお金を稼ぐなんて誰に教わったの」とやんわり諭したが・・・。
<ルオマの都会情報はルオシアからも・・・>
この映画のストーリーは、ルオマの初恋とそれを契機とするルオマの成長を描くもの。しかしこの映画はハニ族の村を舞台としているだけに、美しい棚田だけではなく、①ハニ族の婚礼における「別れの酒」という面白いしきたりや、②田植えにおける日本の「泥んこ祭り」と同じような儀式など、興味深い習慣をスクリーン上で見せてくれるので、それらは必見。
他方、標高の高いところで生活していると、重たい物の荷物運びは大変。石を運ぶ時などは、少女たちが1人1個ずつ担いで登っていかなければならないから、そんな仕事がイヤで都会に憧れる少女が出てくるのも当然。ルオマの友人のルオシア(祝琳媛/シュー・リンユエン)がそうなのかどうかは知らないが、都会の男との結婚が決まっているルオシアは都会の情報に詳しいから、美人のルオマに対しても冗談半分・本気半分で、「都会に出たらいい彼氏が見つかるのに・・・」と語りかけることも。そんな時のルオマの表情は、そりゃ何ともいえず愛らしいもの・・・。
それはともかく、ルオマの都会に関する情報はアミンからだけではなくこのルオシアからも入っていたが、ルオマが最大の興味を示したのは、都会のビルの中にあるエレベーターというもの。この電気で自動的に上下する箱があれば、重い荷物を運ぶのもヘッチャラ。そんな都会の高層ビルの写真がアミンの写真館の壁にも張ってあった。こんな夢を語るルオマに対して、アミンはいつかきっと昆明に行き、ルオマをエレベーターに乗せてあげると約束したのだが・・・。
<アミンにはお金を当てにする恋人が・・・>
再三家主から家賃を催促されているアミンは、「しばらく待て。彼女が来たら払うから・・・」と言っていた。昆明から恋人がやって来たのを見れば、これがあながち口から出まかせの言い訳ではなかったのだと妙に納得・・・。
2人の話を聞いていると、写真館の開店費用2万元もこの恋人が出してくれたよう。したがって彼女は、芸術と商売の両立などとカッコいいことを言いながら、アミンがハニ族のかわいこチャンと遊び回っていることに腹を立て、「一緒に昆明に帰るのか、それとも私と別れるのか、ハッキリさせてよ!」ということを言いに来た様子。17歳の純朴な娘ルオマにはそんなややこしい話はサッパリわからないものの、自分が邪魔な存在であることは感じとったようで、その場はすぐに退散したが・・・。
芸術好きで女にやさしく都会育ちのカッコいい男は、往々にして生活力がないもの。ひょっとしてアミンはそんなタイプの男、それとも・・・?
さて、映画はこれからルオマの初恋の行方をどのように描き、展開していくのだろうか・・・?それはこれ以上書かないから、美しい大自然をバックとしたハニ族の17歳の少女の微妙な心の動きを、あなたには心ゆくまで味わってもらいたいものだ。そうすれば、都会のアカにまみれる中、今やすっかり汚れきった(?)あなたの心も少しは洗われ、リフレッシュできるはずだから・・・。
<「雲南3部作」の第2部、第3部も早く日本公開を!>
プレスシートによれば、この『雲南の少女 ルオマの初恋』は2002年につくられた映画で、章家瑞(チアン・チアルイ)監督の「雲南3部作」の第1部にあたるもの。そして、第2部『花嫁大旋風』(原題『花腰新娘』)(04年)は、イ族の婚礼や龍舞などの民俗色を取り入れたコメディタッチの作品。さらに第3部となる『芳香之旅』(05年)では、1960年代から現代までを背景に、雲南省の山間部を走るバスの運転手と女車掌との複雑な愛に彩られた人生をじっくりと描くものだそうだ。
また、第2部、第3部の主演は、『孔雀 我が家の風景』で主演した張静初(チャン・チンチュー)。この第3部『芳香之旅』はカイロ国際映画祭でグランプリに当たる金ピラミッド賞を受賞した他、主演男優の范偉(ファン・ウェイ)が審査員特別賞を、張静初が主演女優賞を受賞。またシンガポールで開催されたASIAN FESTIVAL OF 1st FILMS(アジア“処女作”映画祭)では、最優秀作品賞、最優秀脚本賞、シンガポール外国人記者協会が選ぶパープル・オーキッド賞を受賞したとのこと。第1部の『雲南の少女 ルオマの初恋』に続いて、早く第2部、第3部も日本で公開してもらいらいものだ。
<章家瑞監督の今後の活躍に注目!>
この映画のプレスシートには、『三国志』の蜀の国の都として有名な四川省の成都生まれの章家瑞監督の生年月日は書かれていない。しかし、①文化大革命の中、16歳の時に下放されていたこと、②1979年に中央戯劇学院演出系を受験したが失敗し、四川大学哲学科に入学したこと、③1983年に卒業した後、1986年にあらためて北京電影学院に入学し、2年後の1988年には北京電影学院附属の映画製作所である青年電影製片廠に入ったこと、④その後いくつかの映画で助監督を務めた後、1991年『太陽鴿』で1992年度飛天奨特別賞を受賞し、その後いくつかのテレビドラマの演出を続けた後、2002年に本作で劇場用映画デビューしたこと、が明らかだから、多分彼は1950年代生まれ・・・?
したがって、1970年生まれで、第6世代監督の旗手である『長江哀歌』の賈樟柯監督や同じく第6世代に属する『胡同(フートン)のひまわり』(05年)の張楊(チャン・ヤン)監督などより年齢はだいぶ上のはず。しかし、もっぱら雲南省を舞台としてすばらしい作品を次々と発表している章家瑞監督の今後の活躍に、是非注目しなければ・・・。
ちなみに、プレスシートによれば、彼の次回作は、ベトナムを舞台に、中国人男性とベトナム人女性の恋愛映画が予定され、さらにその後は、監督自身の故郷である成都を舞台に、1970年代の青春を描く作品が用意されているとのことだから、大いに期待したいもの。
2007(平成19)年7月24日記