ショートバス(アメリカ映画・2006年) |
<テアトル梅田>
2007年9月9日鑑賞
2007年9月12日記
これはポルノ映画・・・?冒頭のシーンの数々やゲイ、乱交セックスを観ていると一瞬そう誤解しそう・・・?しかしこれは、9・11テロによって傷つき孤独感を深めているニューヨーカーたちの心の絆の物語・・・?ゲイであることを隠さないジョン・キャメロン・ミッチェル監督の問題提起の鋭さと「ショートバス」によってセックスの悩みが癒されていく主人公たちに拍手を送りたいが、正直アメリカの病巣がここまで深いとは・・・?10年後には、私の頭もこの映画のレベルについていけているかも・・・?
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監督・脚本:ジョン・キャメロン・ミッチェル
ジェイムズ(ゲイ)/ポール・ドーソン
ジェイミー(ジェイムズのパートナー)/PJ・デボーイ
ソフィア(恋愛カウンセラー)/スックイン・リー
ロブ(ソフィアの駄目夫)/ラファエル・バーカー
セヴェリン(SM女王)/リンゼイ・ビーミッシュ
セス(ジェイムズとジェイミーの2人に憧れる美男子、モデル)/ジェイ・ブラナン
カレブ(ジェイムズのストーカー)/ピーター・スティクルス
ジャスティン・ボンド(ショートバスの主催者)/ジャスティン・ボンド
アスミック・エース配給・2006年・アメリカ映画・101分
<ジョン・キャメロン・ミッチェル監督ってどんな人・・・?>
2007年9月5日付読売新聞夕刊は、『ショートバス』の公開を受けて、「ALL ABOUT J・キャメロン・ミッチェル」という大特集を組んだ。監督の顔写真の隣りには「あなたは孤独ではない」というメッセージが、そして見出しには「むき出しの性と愛を描くゲイの映画監督」とあった。
また「JCMってどんな人ですか」との質問に3人の回答が載せられていたが、そこでも
①「ゲイの男としての幸せが、自分の全人格的な幸せと一致するのかと常に疑問を発しているので、『ショートバス』や『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のような作品を作る。どちらの作品でも自分自身が誰なのかを探しているのです」
②「作品を画面で見ていたころは、ゲイだとは知っていましたが、とても男らしい部分を持っている。すごく大きくてエネルギッシュな人だと思いましたね」との発言が。
また、1963年アメリカ、テキサス州に生まれた彼は、「少年期はベルリンの壁を身近に感じ、そこからウォーターゲートの後遺症が残るニューヨークに行った。そして思春期は演劇を通して屈折した人格と向かい合い、最近は9・11も体験した。いわば20世紀の負の遺産の後半部分にピンポイントで居合わせた」とのことだ。
そんな複雑なキャラの彼は、舞台や映画で、俳優としてまた監督として大活躍しているらしいが、「彼は天才というより、すごい葛藤を背負った人物です」とのこと。なるほど、そんな監督だからこそ、こんな映画が・・・。
<9・11から6年・・・>
この映画の舞台はニューヨーク。すなわち良くも悪くも世界で一番華やかで、最も注目される街だ。マンハッタン島をメインとしたニューヨークの地図は『ギャング・オブ・ニューヨーク』(01年)など、たくさんの映画に登場していたが、それはこの映画でも同じ。すなわちパンフレットには男女7人の主人公たちが住む家や、ショートバスのある場所が明示されている。もっとも、これはあくまで地図上にプロットされただけのものだが、冒頭に字幕と共にスクリーン上に映し出される油絵のような美しい色彩の立体画像はニューヨークの街を映し出すもので、視覚的に実に美しいもの・・・。
そんなニューヨークに激震が走ったのは、今から6年前の2001年9月11日。世界同時多発テロだ。この9・11テロによって明らかにアメリカ合衆国という国は大きな変化を遂げ、ブッシュ政権があと1年で終わろうとしている今、あらゆる分野での総括と方針転換が要請されている。そして、実はこの映画もセックス讃歌映画でなく、そんなことを考えた映画。したがってこの映画の重要な舞台の1つは「グラウンド・ゼロ」を見下ろすホテル。
「ショートバス」には、セックスに悩む若者達だけではなく、かつてニューヨークの市長をしていたという70歳代の老人(?)も登場するが、それは一体なぜ・・・?
それは、「NYは人が犯した罪への許しを求めて来る街だ」から・・・。それが、この映画を監督し、「2006年第59回カンヌ国際映画祭を始め、世界各国が驚嘆し、笑い、涙した超話題作」というこの映画だが・・・。
<主人公は7人の男女たちプラス1・・・?>
この映画の主人公はまず7人の男女たち。すなわち、第1にゲイ関係にある男性のジェイムズ(ポール・ドーソン)とジェイミー(PJ・デボーイ)。そして、それに絡んでいくゲイの男性がカレブ(ピーター・スティクルス)とセス(ジェイ・ブラナン)。
第2に、恋愛カウンセラーをしている女性ソフィア(リー・スックイン)とその夫のロブ(ラファエル・バーカー)。第3に、SM女王のセヴェリン(リンゼイ・ビーミッシュ)。
そして、以上7名にプラス1されるのが、サロン「ショートバス」の女主人であるジャスティン・ボンド(ジャスティン・ボンド)。彼女の説明によると、「“ショートバス”の意味を知っている?ここは少し変わった特別な人たちが集まる場所なの」とのこと。
セックスカウンセラーをしていながら、夫との性生活に満たされず、これまでずっと夫とのセックスで感じているフリをしてきたソフィアは、「私、オーガズムに達したことがないの。つまり未経験てこと」という悩みをもっていたわけだ。たまたまそんな悩みを聞いたジェイムズとジェイミーの2人がソフィアにショートバスを紹介したところから、世にも不思議な(?)ショートバスの世界が私たちの目の前に広がっていくことに・・・。
<「セックスがテーマではない」というものの・・・>
この映画には、露骨に性器を見せるセックスの描写がふんだんに登場する(もっとも、日本の上映にはボカシが入れられているが・・・)。またセリフも「オーガズム」をはじめ、普段の会話では口にしない単語が飛び交っている。しかし、それによって性的欲望を刺激し、性的欲情をもよおすか?と聞かれると全然そうではない。なぜならそれは、見せそうで見せないという独特の魅力によって一世を風靡した日活ロマンポルノや、端的に性的欲望をあおり射精させることを目的に作られたAVビデオ等とは、セックスを描く目的が全く違うから。もっとも、これまでたくさんのAVビデオを鑑賞してきた(?)私は、日本人は欧米人と比べもともと性的欲望が弱く淡白なのではと思っている。もちろん医学的にどうなのかは知らないが、そもそもこの映画の最初に登場する、ジェイムズの自慰のシーンを観ているとその感を強くしてしまう。
パンフレットにある金原由佳氏の評論を読むと、「冒頭、自分の放出した精液を自分の口で受け止めるというジェイムズのアクロバティックなマスターベーションの姿など、観客の思考を一瞬にして停止させる爆発力を持ち、私の周囲では『ここで映画を見るのを止めた』と密かに告白する人間が何人もいる」とのこと。
正直私もこんなシーンを観て、ジェイムズが心の中に抱いている疎外感や孤独感への理解よりも、イヤなものを観せられたいう嫌悪感の方が強かったくらい。ジョン・キャメロン・ミッチェル監督は、「この映画はセックスがテーマではない」と言っているし、それはそれで十分理解できるのだが、やはりどうも・・・?
<アメリカの病巣はこんなに深いの・・・?>
ソフィアが恐る恐るのぞいたショートバスの中は、まるで乱交パーティーの場・・・?しかし、そこが単なるセックスの欲望のはけ口になっているだけではなく、あくまで孤独な心の交流を目指したサロンであることは、美しい音楽に参加者が心を1つにして聴き入っている姿を見れば理解することができる。したがって何回かスクリーン上に映し出される多くの男女によるあらゆる体位のセックス行為も、セックスそのものが目的ではなく、ボクは、私は孤独ではなく、あなたとつながっていることをそれによってあるいはショートバスに集まることによって実感したいため・・・?
たしかにジョン・キャメロン・ミッチェル監督のそんな主張は、この映画を観ていると十分理解することができる。また当初ショートバスに違和感を感じていたソフィアが、最終的には心が癒され、セックス面においてもオーガズムを得られたのは実に喜ばしいこと。さらに2人のゲイのあり方に悩んでいたジェイムズとジェイミーにとっても新たにカレブとセスが入ってきたことによって、いったんはジェイムズの自殺未遂という絶望的状況に陥りながら、結局立ち直ることができたのも喜ばしいこと。しかし私が感じるのは、そんな喜びよりも、9・11テロの打撃によってアメリカの病巣がこんなにも深くなっているのだということ・・・。
その間に9月10日から始まった国会において、海上自衛隊のインド洋における米英など11カ国艦船への給油問題を中心とした自民党VS民主党の論争が開始されるが、日本の方向性を考えるについては、こんなにも深いアメリカの病巣を感じとる必要があるのでは・・・?
2007(平成19)年9月12日記