タロットカード殺人事件(アメリカ、イギリス映画・2006年) |
<GAGA試写室>
2007年9月20日鑑賞
2007年9月21日記
70歳を超えたウディ・アレン監督に新たなミューズが・・・?そう勘ぐられても仕方ないほど『マッチ・ポイント』(05年)に続いてスカーレット・ヨハンソンとのコンビの第2弾が・・・。そのうえ、シンプルでおしゃれな犯罪ミステリーの映画に監督自身が出演し大熱演!ジャーナリスト志望の女子大生をうまくリードする名(迷?)探偵ぶりを見せてくれるが、なぜか最後は三途の川をわたる船の上に・・・?新藤兼人監督が95歳を超えてなお頑張っているのをみれば、ウッディ・アレン監督もあと20年は現役で・・・。
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監督・脚本:ウディ・アレン
サンドラ・プランスキー(ジャーナリズムを専攻する女子大生)/スカーレット・ヨハンソン
スプレンディーニ(マジシャン、本名シド・ウォーターマン/ウディ・アレン
ピーター・ライモン(青年貴族、新進政治家)/ヒュー・ジャックマン
ジョー・ストロンベル(幽霊となった敏腕新聞記者)/イアン・マクシェーン
ミスター・マルコム(新聞社の編集者)/チャールズ・ダンス
ヴィヴィアン(サンドラの友人)/ロモーラ・ガライ
ジェーン(ピーターの元女性秘書)/フェネラ・ウールガー
ライモン卿(ピーターの父)/ジュリアン・グローヴァー
ワイズポリシー配給・2006年・アメリカ、イギリス映画・95分
<スカーレット・ヨハンソンはウディ・アレンの新たなミューズ・・・?>
1935年生まれのウディ・アレン監督が、66年に結婚し71年に離婚したルイーズ・ラサーに続いて、ダイアン・キートン、ミア・ファローと公私共にパートナー関係を築き続けてきたことは有名なお話。またミア・ファローとの関係が破局したのち、96年にファローの養女スン・イープレヴィンと結婚したことによって、さらにスキャンダラスな注目を集めたのは当然。
そんなウディ・アレン監督が、1984年生まれの若く美しい女優スカーレット・ヨハンソンを『マッチポイント』(05年)に続いて、『タロットカード殺人事件』に起用したうえ、自分自身が共演までしたのは一体なぜ・・・?
プレスシートの中で、「あなたはご自分のことをウディ・アレンの新たな“ミューズ”だと思いますか?」との質問に対し、スカーレット・ヨハンソンは「“ミューズ”という言葉は、マスコミが作り出した愛情表現であって、私もウディも否定すると思うわ」と軽く受け流しているが、『タロットカード殺人事件』に続いてさらにヨハンソンを起用した第3作『Woody Allen Spanish Project』(08年)まで予定されているとなると、さて・・・?
<ロンドンー売春婦ータロットカード・・・?>
先進国の中で1番物騒な都市はどこかと聞かれ、ロンドンと答えられると、イギリス人は怒るはず・・・?しかし、シャーロック・ホームズをはじめとする推理小説の人気が高い先進国イギリスでは、「切り裂きジャック」事件をはじめとする有名な殺人事件も多いから、何となくロンドンは犯罪ミステリー映画の舞台として最適のように思えてくる。ウディ・アレン監督もそうだったようで、70歳を超えてから何を思ったのか、急に『マッチポイント』とこの『タロットカード殺人事件』でロンドンを舞台とした犯罪モノにチャレンジ・・・?
また、最近の日本では殺人の被害者は多種多様な広がりを見せている(?)が、ロンドンの殺人事件の被害者として最もふさわしいのは売春婦・・・?さらに、タロットカードとは、ネット情報によると、大アルカナ22枚、小アルカナ56枚の計78枚のカードとのこと。日本で良く知られているトランプは、スペード、クラブ、ハート、ダイヤの4種類の1から13までのカード計52枚で、占ったり、博打をしたり、ゲームをしたりするものだが、タロットカードは基本的に占いに使われるもの。したがって、売春婦の死体にいつもタロットカードが置かれているという「タロットカード殺人事件」は何となく不気味なもの。そして、このタロットカードは、貴族の国、賭け事の国イギリスに最もふさわしい小道具・・・?
<シンプルでおしゃれなプロローグとエピローグはさすが!>
これまで全36本のほとんどをアメリカで撮っているウディ・アレン監督が、第35作目にはじめてイギリスで撮った『マッチポイント』に続いてイギリスで製作した2本目の『タロットカード殺人事件』は95分とシンプル。これは、『タロットカード殺人事件』の犯人を素人探偵コンビが追いつめていくというテーマがシンプルなことが最大の理由。しかしもうひとつ、プロローグとエピローグを三途の川(キリスト教でどういうのか知らないが)を渡る舟の上のシーンとし、そこでの会話で物語が始まり、そこでの会話で物語が終わるという、シンプルでおしゃれな構成にしたことも大きな理由。
映画の冒頭、舟の上に登場する主役(?)は、3日前に急死したばかりの敏腕新聞記者ジョー・ストロンベル(イアン・マクシェーン)。ストロンベルが船上で出会った女性ジェーン(フェネラ・ウールガー)から聞かされた話が、ロンドンを震撼させている連続殺人事件の犯人は、今をときめく青年貴族ピーター・ライモン(ヒュー・ジャックマン)だというビックリするようなネタ。彼女はピーターの秘書だったが、ピーターの行動を疑ったせいで、ピーターから毒殺されたらしいとストロンベルに告白したというわけだ。そこで、あらゆる特ダネをモノにしてきたと自負している新聞記者魂が刺激された彼は、何と舟上から三途の川の中に飛び込み、川の流れに逆らって泳ぎはじめたのだが、さて彼が行こうとしている先は・・・?
<俳優としても3年ぶりに・・・>
ウディ・アレン監督は元々『何かいいことないか子猫チャン』(65年)に俳優として映画デビューした後、脚本業や監督業に乗り出したという、多彩な才能を持った人物。
『キネマ旬報』(06年9月上旬号)は、ウディ・アレン監督の全36本を特集したが、これは『マッチポイント』の公開に合わせたもの。『タロットカード殺人事件』で、ウディ・アレンはアメリカ人のくせに(?)ロンドンの下町の劇場のマジックショーに出演している三流マジシャン、スプレンディーニの役で出演している。70歳を超えた彼がチョイ役ではなく、約90%を、スカーレット・ヨハンソン扮するジャーナリスト志望の女子学生サンドラと行動を共にする重要な役として登場しているから、その元気さには恐れいるばかり。そのうえ、アメリカ人のしゃべりは身振り手振りを交えた全人格的な表現(?)だから、おしゃべりな三流マジシャンのスプレンディーニが、サンドラとのコンビで展開していく素人探偵の活躍ぶりがこの映画の見モノ。
9月17日に観たダイアン・キートン主演の『恋とスフレと娘と私』(07年)では、女4人がしゃべるセリフの量の多さに圧倒されたが、『タロットカード殺人事件』でも、スプレンディーニのしゃべるセリフの量は膨大なもの。そんな、カード芸や手品も達者なら、口も達者なマジシャン、スプレンディーニの人生とそのラストは・・・?
<情報源が幽霊では・・・?>
ストロンベルがいくら敏腕記者であっても、それは3日前までの話。今は死んでしまったのだから、いくら連続殺人事件の犯人のスクープに執念を燃やしても、自分でそれをやるのはムリ。そこで、ストロンベルがその特ダネを提供して取材させようと三途の川から舞い戻ったのは、ちょうどサンドラがスプレンディーニの手品で“チャイニーズ・ボックス”の中に入った時だった。チャイニーズ・ボックスの中でストロンベルからそんな情報を聞いたサンドラは、半信半疑でスプレンディーニにも相談したが、スプレンディーニがそんな話をまともに受けつけなかったのは当然。そりゃ情報源が幽霊というのでは・・・?
しかし、そこは多少おっちょこちょいの面はありながらも、ジャーナリストへの願望が根強いサンドラのこと。それなら私1人でも、と取材に立ち向かうことにしたが・・・。
<凸凹コンビの素人探偵誕生!>
シェイクスピアの三大悲劇の代表である『ハムレット』では、父の亡霊は夜な夜な城壁に現れていたが、ストロンベルが幽霊としていつ、どこに登場してくるかについて、ウディ・アレン監督は何の法則性ももたせていない。したがって、サンドラからそんなバカげた話を聞かされている時、突如ストロンベルが幽霊として登場すれば、効果は抜群で、スプレンディーニも興味津々状態に・・・。さあ、ここに素人探偵の凸凹コンビが誕生することに!
まず何よりも先にやるべきことは2人がピーターに接触することだが、高名な貴族ライモン卿(ジュリアン・グローヴァー)の息子であり、新進政治家として注目を浴びるピーターに近づくことは容易でないのは当然。そこで2人が編み出した計画は、ピーターの通う会員制のプールに潜入し、プレイボーイで知られる彼の関心を引くため、サンドラが溺れたふりをしようというもの。普通、こんな計画がまんまと成功することはありえないが、そこは美人でキュートなサンドラとプレイボーイで女に弱いピーターの特性がマッチし、まんまと成功・・・。
ピーターはサンドラを女優の卵ジェイド・スペンスだと信じ込んだばかりか、何と一目惚れ。サンドラは早速、週末に父ライモン卿が主催する別荘でのガーデンパーティーに招待されることに・・・。
<取材のためなら火の中へ、ベッドの中へ・・・?>
今年の夏、人気の高かったテレビドラマが加藤ローサが主演した『女帝』。これは、金と権力を振りかざす男たちによって人生を踏みにじられ母親まで失った主人公彩香が、クラブホステスになり、その復讐のために女の武器をふんだんに活用しながらのし上がっていくというドラマだった。血統が良く、実力があり、しかも大手新聞社や有力者の後ろ楯があるという新聞記者なら別だが、ジャーナリスト志望の女子学生というだけでは、いくらターゲットに突撃取材をしても大きな限界があるのは当然。そこで、サンドラが使ったのが、この彩香と同じ女の武器・・・。
といっても、彩香の場合は目的のためやむなくその美しい肉体を投げ出すというスリリングなものだったが、サンドラの場合はピーターとすぐに相思相愛状態になったから、ベッドインは容易。ところが、そんな場合難しいのは、取材という公の目的と愛情という私的な感情の折り合いをどこでつけるかということ。また、愛する者同士となれば名前はもちろん氏素性について真っ赤なウソをつき通すことができないのは当然。
そんなジレンマにサンドラは大いに悩み、遂にある日それを打ち明けようとしたのだが、実はピーターもサンドラに言えない重大なウソがあったらしい・・・?そこらあたりが、2人の恋愛模様のミソ・・・?
<探偵としてはやっぱりスプレンディーニの方が・・・?>
女は感情的になって困る。今ドキ、そんなことを職場で大きな声で言おうものなら大変な反撃を食らうことになるが、せっかく素人探偵コンビを結成し、ターゲットへの接触に成功したのに、恋の道におちてメロメロになり、探偵の目的を忘れてしまっているサンドラの姿を見ると、やっぱり女に探偵はムリ、ジャーナリストもムリと烙印を押してしまいそうになるのはやむをえないところ。しかしその点、百戦錬磨のスプレンディーニは別荘での楽器室への忍び込み調査や独自の聞き取り調査を重ねる中、やはり幽霊のストロンベルの「お告げ」どおり、ピーターが1人の娼婦殺しの犯人であるという確信をもつに至ったからさすが・・・。
ところが、自分のウソをすべてを打ち明けた結果、ピーターとの関係が解消されるのではなく、逆に新たな段階に入ったことを単純に喜んでいるサンドラは、今ピーターの田舎の別荘で2人きり。こりゃヤバイ。そう直感したスプレンディーニは直ちに電話を入れ、サンドラの身に危険が迫っていることを伝えたが・・・?
こんな展開を見ていると、「恋は盲目」とはよく言ったもので、ドップリと恋に浸かってしまったサンドラの目は節穴同然になっていることがよくわかり、探偵としてはやっぱりスプレンディーニの方がずっと上・・・?
<さて、どんなエンディングが・・・?>
スプレンディーニからの危機の知らせを信用しないばかりか、「いい加減にしてよ!」と怒って電話を切ってしまったサンドラには、さてこの後どんな運命が・・・?そして、70歳を超えたウディ・アレン扮するスプレンディーニは、馴れない車を飛ばして、サンドラを救出するべく別荘へ向かったが・・・?
95分に要領よくまとめられたこの映画のエンディングは、シンプルながらよくできたもの。そして、映画の冒頭に登場した三途の川を渡る舟が、エピローグにも再び登場してくるのは一体なぜ・・・?そして、その舟に乗っているのは一体ダレ・・・?そんなことをいろいろ想像しながら、おしゃれなエンディングを十分楽しもう。
<あと20年は現役で・・・>
2007年9月20日付朝日新聞夕刊は、今年95歳となる新藤兼人監督が現在48作目となる『石内尋常高等小学校 花は散れども』の撮影に入っていることを伝えた。ここで彼の功績を書きつらねるつもりはないが、彼の映画に対する執念、そして広島で原爆投下後の「黒い雨」を体験したことによる原爆へのこだわりと、あの戦争へのこだわりには頭が下がるばかり。
それに比べれば、ウディ・アレン監督は70歳を超えたとはいえ、『タロットカード殺人事件』でのしゃべりや熱演を観ていると、全く年齢を感じさせないうえ、新しいミューズとの仲がうまくいけばさらに若返るかも・・・?『タロットカード殺人事件』が37作目となるウディ・アレン監督にはあと20年は現役で頑張ってもらい、次々とおしゃれで面白い映画をつくってもらいたいものだ。
2007(平成19)年9月21日記