キングダムー見えざる敵ー(アメリカ映画・2007年) |
<敷島シネポップ>
2007年10月14日鑑賞
2007年10月27日記
サウジアラビアの外国人居住区で大規模な自爆テロが発生!そんな現実の事件を題材に、サウジに飛んだ4人のFBI捜査官が大活躍。政治的にニュートラルであることを心がけたらしいが、私の目には、アメリカン・ヒーロー色が強すぎる感も・・・?しかし、日本人の苦手な中東問題の理解には格好の素材。こんな映画を観て、しっかり勉強しなければ・・・。
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監督:ピーター・バーグ
ロナルド・フルーリー(FBI捜査官、リーダー)/ジェイミー・フォックス
ジャネット・メイズ(FBI捜査官、法医学調査官)/ジェ二ファー・ガーナー
グラント・サイクス(FBI捜査官、爆発物専門家)/クリス・クーパー
アダム・レビット(FBI捜査官、情報分析官)/ジェイソン・ベイトマン
デーモン・シュミット(アメリカ大使館首席公使)/ジェレミー・ピヴェン
ギデオン・ヤング(司法長官)/ダニー・ヒューストン
ロバート・グレース(FBI長官)/リチャード・ジェンキンス
アル・ガージー大佐(サウジアラビア国家警察官)/アシュラフ・バルフム
UIP配給・2007年・アメリカ映画・110分
<9・11テロから6年・・・>
2001年の9・11同時多発テロから6年。アメリカは、そしてハリウッドは『ユナイテッド93』(06年)(『シネマルーム12』29頁参照)、『ワールド・トレード・センター』(06年)(『シネマルーム12』35頁参照)によって、9・11を直接描く映画を完成させたうえ、やっとテロそのものを真正面から描く映画を目指せるようになった。
来る11月公開のアンジェリーナ・ジョリー主演の『マイティ・ハート/愛と絆』は、パキスタンのテロリストによってジャーナリストの夫を誘拐された妻の苦悩を描く期待作だが、『キングダム-見えざる敵-』はサウジアラビアを舞台にした爆破テロの調査のため、4人のFBI捜査官がサウジアラビアへ乗り込んでいく物語。
CIA誕生の秘話と家族の物語を描いた『グッド・シェパード』(06年)はマット・デイモンのクールな演技が印象的で、徹底的な知能戦がテーマだったが、『キングダム-見えざる敵-』は知能戦よりもアクションが売り。その意味では、私には『エネミー・ライン』(01年)におけるアメリカ讃歌のスーパーヒーローアクション映画と「同じような不自然さも・・・」。(『シネマルーム1』73頁参照)
しかし、パンフレットに「政治的にニュートラルであることを心掛けたストーリー作り」とあるように、爆破テロをどのような立場からどのような視点で見るのかについて極めて慎重なところがこの作品の良さ。テロとの戦いを戦争と位置づけたのは、ブッシュ大統領だが、この映画においては、テロと対決するのはあくまで警察。その意味では、FBIの4人の捜査官以上に、サウジアラビア国家警察官のアル・ガージー大佐(アシュラフ・バルフム)が重要なポイントに・・・。
<映画から学ぶ中東問題に、格好の素材が・・・>
10月15日から中国共産党の第17回党大会が開催され、胡錦濤体制が2期目を迎えることになるが、2002年11月から始まった胡錦濤体制1期目の活動で顕著だったのが、中東や南アフリカでの石油外交。つまり、莫大な経済援助をエサに大量の石油利権を確保しようという戦略だ。ところで考えてみれば、これは第2次世界大戦後最大の石油消費国となったアメリカが軍事的な援助をエサに中東の石油利権を確保してきた戦略と基本的に同じ・・・。
アフガン戦争とそれに続くイラク戦争が起こり、さらに今イランをめぐって難しい駆け引きが展開されていく中、島国ニッポン人も少しは中東情勢を知るようになったが、基本的には知識ゼロに近いもの。しかるところこの映画は、冒頭アメリカとサウジアラビアの関係についての動きが年代を追って示されるうえ、パンフレットにはアメリカとサウジアラビアの特殊な関係についての略年表がある。また、ストーリー展開の中でも、さまざまにうごめく各種勢力たちの政治的立場がかなり客観的に描写されている。
したがって、この映画は中東問題を学ぶのに格好の素材。面倒くさがらず、わからないところはパンフやネットで調べ、この映画鑑賞を機会に中東問題とくにサウジアラビア問題の勉強を深めてみれば・・・。
<サウジ最大の自爆テロを再現・・・>
ピーター・バーグ監督がこの映画のアイデアを思いついたのは、1996年6月25日にサウジアラビアのホバル・タワーで起こったテロ事件のニュースを見た時とのこと。すなわち、イスラム過激派武装グループが燃料輸送車を爆発させ、19人のアメリカ人、1人のサウジ人を殺害し、372人のさまざまな国籍の人たちに重軽傷を負わせたこの事件は、サウジで起こったもっとも大規模な反米テロだったとのこと。
映画の冒頭、そんな大規模な自爆テロのシーンが再現される。警察官の制服を着た2人の男が乗った車が銃を乱射しながら走ってきたのは、サウジアラビアにある石油会社の外国人居住区で、人々が野球を楽しんでいた時。乱射される銃弾によって次々と人々がなぎ倒されていったが、やっとこれを制圧。混乱を極める中、被害者や救助陣そして捜査陣らが集結したところで、さらに爆発したのが高性能の爆弾だったから大変。これによる被害の方が一層大きなものになったのは大きな悲劇。
こんな手口をみれば当然のことながら、この自爆テロは緻密に計画されたものであることは明らか・・・。さて、ここまで大規模で計画的な自爆テロの首謀者は一体誰・・・?
<これは、明らかな見込み捜査だが・・・>
大規模な自爆テロの報告を受けて、今FBIワシントン事務所では爆破事件の分析に大わらわ。その詳細を説明しているのは、チームのリーダーであるフルーリー(ジェイミー・フォックス)。FBI捜査官のレックスが死亡したと聞き、思わず法医学調査官のジャネット(ジェニファー・ガーナー)は涙ぐんだが、それはレックスが彼女の恋人だったから・・・?
そして、爆発物専門家のサイクス(クリス・クーパー)が爆発の規模を説明し、軍が使用する高性能爆弾が使われたと推測。さらに、情報分析官のレビット(ジェイソン・ベイトマン)は、FBIが現地に行くべきだと主張した。このように爆破が巧妙かつ周到に計画されていたという分析のうえに、フルーリーはこの爆破事件はサウジのアルカイダ・メンバーであるアブ・ハムザの仕業だと推察。そこでフルーリーは、司法長官ヤング(ダニー・ヒューストン)に対して、ハムザを捕らえるべきだと直訴したが・・・。
しかし考えてみれば、ハムザの仕業だというのはあくまでフルーリーたちの推測にすぎないもの。したがって、そんな推測にもとづく捜査は、明らかな見込み捜査だが・・・?
<なぜFBIが・・・?>
サウジアラビアにある外国人居住区つまり、アメリカ人が居住している地区で大規模な自爆テロが決行された場合、アメリカはどう対応するの・・・?
今回の自爆テロがいくらサウジの外国人居住地区で起きたとしても、それはあくまでサウジ国内の問題だから、サウジの警察が捜査して犯人を逮捕すべきが筋。したがって、このテロで友人のレックスとフランが死亡したと聞いたフルーリーたちが直接犯人逮捕のため現地に行きたいと言っても、それはムリな話。サウジだって、アメリカが介入してくれば自国の統治能力や犯罪捜査能力が疑われることになるから、それは避けたいのは当然。したがって、フルーリーの直訴をヤング司法長官が却下したのは当たり前のこと・・・?
ところが、こういう建前論にもいろいろと抜け道はあるらしい・・・?フルーリーはある狡猾な手段を使って駐米サウジ大使から、捜査期間を5日間、また常にサウジ警察が同行すること、という条件付きながら、フルーリーたち4人のFBI捜査官の現地派遣の許可をとることに成功したから、私はビックリ。だって、これってFBIの組織を完全に無視した、フルーリーら4人の単独行動では・・・?ホントにこんなことが許されるの・・・?
<当初は奇妙な捜査風景だったが・・・>
フルーリーたち4人を迎えたのはサウジ国家警察のアル・ガージー大佐だが、共同捜査にあたっては「証拠に触らない」「サウジ警察の立会いなしに聞き込みをしない」「イスラム教徒の遺体に触れない」「自分の目の届く場所にいる」等の条件が言い渡された。これはアル・ガージー大佐にとっても不本意なことだったが、上層部からの命令は絶対・・・。
こんな形だけの捜査への参加では何の成果も得られないうえ、与えられた期間はたった5日間だけ。もっとも、こんな奇妙な捜査風景の中でも、フルーリーたちは少しずつヒントとなる資料を見つけ出していたが、イライラは募るばかり・・・。
それが一変したのは、サウジアラビア王国の王子の宮殿で開かれた宴会の席で、フルーリーが直接王子に対してストレートに捜査の必要性をアピールしたため。それまで何かと制限を受けていたアル・ガージー大佐だったが、ここでやっと捜査の指揮権を握ったため、以降フルーリーたちとの共同捜査もスムーズに。たった4人の捜査ながら、さすがプロ中のプロのやることは違う。誰しもそう感心するような、鋭い目のつけどころと科学的かつスピーディな捜査の結果、遂に・・・。
<カーアクションは・・・?銃撃戦は・・・?>
前述のように、『グッド・シェパード』は徹底した知能戦だったが、『キングダム─見えざる敵─』は知能戦の他、2つのアクションシーンが売り・・・?
その1つが、ハイウエイでのカーチェイス。今やカーチェイスはハリウッド映画に不可欠の要素だが、この映画における特徴は、そこに自爆テロという要素が加わること。自爆テロを狙うドラーバーの狙いどおり、いいタイミングで爆弾が爆発したため、フルーリーたちの乗った車は、あわや・・・というところまで。
もう1つは、誘い込まれるように入っていったテロリストたちのアジトとなっているまちの中での銃撃戦。こんな場所での銃撃戦がフルーリーたちにとって決定的に不利なことは、「地の利」がないことから明らか。まして、4人の命を狙う多数のテロリストたちは、銃の他さまざまな爆弾類をもっているのだから、そんな迷路のようなところに誘い込まれたフルーリーたちは、袋のねずみ状態・・・?本来は当然そうなのだが、そこを何とか奇跡的に脱出させるのがハリウッド映画であり、ハリウッドアクションの見せどころ・・・?もっとも、ここでレビット1人はテロリストたちに拉致されてしまったから、残された3人は、首謀者逮捕の他、レビット救出という新たな課題も背負い込むことに・・・。
<次第に緊迫感と緊張感が・・・>
拉致されたレビットをフルーリーたちがどう追っていくのか・・・?そして、テロの首謀者をどうやって見つけ出し逮捕するのか・・・?いよいよクライマックスが近づいてきていることは明らかなところ。
頭から袋をかぶせられた状態でテロリストたちに引きずられていくレビットが、要所要所に自分の血をこすりつけることによってフルーリーらの救出を期待したのは、冷静で立派な判断。なぜなら、これによって最終的にレビットが監禁されている場所を特定することができたのだから・・・。もっとも、いつ首を掻っきられるかわからないレビットの恐怖心は相当なものだったはず。フルーリーたちは敵の襲撃を警戒しつつ建物の中に入り、やっと今レビットが監禁されている部屋の前まで到着したが・・・?
他方、建物の中には、銃声におびえながら膝を抱えて部屋の片すみに座り込んでいる老人や女、子供たちもたくさんいた。さて、こんな建物の中にホントにあの自爆テロの首謀者がいるのだろうか・・・?さあ、次第に緊迫感と緊張感が高まる中・・・。
<悲しみと憎しみの連鎖は永遠に・・・?>
ブッシュ大統領によるイラク戦争の開始については、当初の圧倒的支持の世論は今や完全に転換し、批判色一辺倒になっている。しかし、ベトナム戦争からの撤退が難しかったように、イラク戦争からの撤退が難しいのは当然。しかも問題は、9・11テロの首謀者だと目されている、オサマ・ビンラディンをいつまでたっても逮捕もしくは殺害できないため、9・11テロを誰が計画し、誰が実行を命じたのかについて、何ら客観的に明らかにできないこと。そんな中、「進むも地獄、退くも地獄」という状態に陥っているのが、現在のアメリカ合衆国・・・?
この映画では、フルーリーをリーダーとする4人のFBI捜査官たちは、わずか5日間と限定された捜査期間内にきっちりと捜査劇と逮捕(射殺?)劇を実現させるが、それは、これがハリウッド映画だからにすぎない。現実には、こんなスーパーマンみたいなFBI捜査官がいるはずはなく、彼らはすべてアメリカン・ヒーロー・・・?そしてこの映画が描く彼らの活躍はすべて絵空ゴト・・・?
しかし、自爆テロとその報復から生まれる悲しみと憎しみの連鎖は絵空ゴトではなく、現実の姿。そして残念ながら、私にはそれは永遠に続くものに思えてしまう。フルーリーたちがFBIの組織原則を無視し、4人だけの捜査に情熱を燃やしたのは一体ナゼ、その大きな動機は、自爆テロによって同僚や恋人を殺されたということだから、それは基本的にブッシュが始めた対テロ戦争と同じようなもの・・・。
他方、クライマックスのシーンにみる、テロリストたちのアジトの中でおびえて座っていた子供たちの悲しそうな表情は、一体ナニを物語るのだろうか・・・?それを考えれば、なおさら「悲しみと憎しみの連鎖は永遠に・・・」と思わざるをえない。
クライマックスの結末をここにズバリと書くことができないので、かなり抽象的な「まとめ」になってしまったが、あなたがこの映画を最後まで観た時の「まとめ」はどのように・・・?
2007(平成19)年10月27日記