未来予想図~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~(日本映画・2007年) |
<梅田ピカデリー>
2007年11月9日鑑賞
2007年11月13日記
今、なぜドリカムの名曲をモチーフとした映画が・・・?バルセロナのサグラダ・ファミリアの観光映画ならまだしも、恋愛ドラマにしては生活感がまるでなく、あまりに薄っぺら・・・。ウエディングシーンを2度も演じられるのは役得かもしれないが、松下奈緒ももう少しいい役で、と思うのは私だけ・・・?
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監督:蝶野博
宮本さやか(雑誌編集者)/松下奈緒
福島慶太(建築事務所勤務)/竹財輝之助
井上拓己(花火職人)/原田泰造
井上苑(拓己の妻)/西田尚美
井上光平(拓己の息子)/澁谷武尊
中島良郎(スペインに住む彫刻家)/加藤雅也
後藤大介(雑誌『TICKLE』の編集長)/石黒賢
宮本陽子(さやかの母)/松坂慶子
宮本あすか(さやかの妹)/藤井美菜
村本美樹(さやかの親友)/関めぐみ
平尾稔(慶太の親友)/弓削智久
2007年・日本映画・115分
配給/松竹
<悪くはないが、薄っぺら・・・?>
11月9日金曜日は、思いっきり対照的な作品を3本観ることになった。1本目は、「天才的な馬鹿になれ!馬鹿の天才になれ!」と説いた旧制高校の若者たちの姿を描いた『北辰斜(ほくしんななめ)にさすところ』(07年)。2本目は、脱北者の若い男女の別れを描いた韓国映画『約束』(07年)。そして3本目が、この悪くはないがいかにも薄っぺらな『未来予想図~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』。
私の中学・高校時代は「歌謡映画」が大はやりで、『いつでも夢を』(63年)、『高校三年生』(63年)、『美しい十代』(64年)など、あの時代のヒット曲が次々と映画化され、今ドキのテレビドラマのようなちょっとしたストーリーつきの歌謡映画を大いに楽しんだもの。もっとも最近は、伊勢正三と大久保一久のデュオである「風」の『22才の別れ』をテーマにした『22歳の別れ~Lycoris 葉見ず花見ず物語』(06年)や、かぐや姫の『なごり雪』をテーマとした『なごり雪』(02年)など、懐かしの名曲をテーマとした映画が次々とつくられているが、それは一体ナゼ・・・?
そんな中、今回ドリカムことDREAMS COME TRUEの名曲中の名曲で、今なお結婚式で歌われている『未来予想図』『未来予想図Ⅱ』が映画化されるとともに、それに続く3匹目のどじょうを狙った『ア・イ・シ・テ・ルのサイン ~わたしたちの未来予想図~』がこの映画の主題歌として登場!
<バルセロナ、ガウディ、サグラダ・ファミリアが「売り」だが・・・>
私は全然知らなかったが、すべての建築関係の人たちが憧れるのが、スペインのバルセロナにある天才建築家アントニ・ガウディが残した、未完の世界遺産「サグラダ・ファミリア」。これは1882年に着工し、一時は完成までに200年はかかると言われていたが、現在は2020年を目標に急ピッチで工事が進められているとのこと。
慶太とさやかは卒業旅行で2人一緒にここを訪れ、そして10年後には再び・・・?サグラダ・ファミリアを1本の映画で2度観られるのはうれしいことかもしれないが、この映画の売りがそれだけだとしたら、これは一種のバルセロナ観光のPR映画・・・?
<薄っぺらさ その1>
プラズマも液晶もテレビは薄っぺらなほど価値があるが、ドラマはやっぱり薄っぺらなものはダメ。冒頭にこの映画は薄っぺらと書いたため、まずはその視点から論証を。
その第1は、福島慶太(竹財輝之助)と宮本さやか(松下奈緒)の恋には、生活感が全くないこと。その原因はハッキリしている。つまり、若い男女につきものの、セックスが全然描かれていないことだ。今ドキ、夢をもった女性が大学卒業後、仕事をしたいと願うのは当然。しかし、就職してから何年も経った2人が別々の道に進み、時々会って食事だけ。そしてキスもしないで、おやすみと別れる。そんな馬鹿な恋人同士ってホントにいる・・・?
1年目、2年目はともかく、3年目、4年目、5年目ともなれば同棲しようという話が出てもおかしくないし、そうでなくても男が女の部屋に泊まっていくことがあるのは当然。したがって、さやかの部屋には慶太のパジャマや歯ブラシを置いてあるのがあたり前の生活感というもの。ところが、この映画にはそんな恋人同士の生活感がゼロ。お前たち2人はセックスしたことがないのか?そして結婚について話し合ったことがないのか?思わず途中でそう怒鳴りたくなってしまった。
さらに驚くべきことに、スペインへの長期出張が決まった慶太に対して、本心ではないにしても、「あなた、まさか私と結婚しようと思っていたわけじゃないでしょうね」とバカげたセリフが・・・。いくら決められた筋書きどおりにストーリーをつくらなけばならないとはいえ、こりゃあまりにも無茶苦茶・・・?
<薄っぺらさ その2>
スペイン行きの話を断り、さやかと一緒にいたい(「結婚したい」と言わないところがミソ・・・?)と決断した慶太が、それなりに悩んだことは明らか。しかし、さやかからの「あなた、まさか私と結婚しようと考えていたわけではないでしょうね」の言葉を真に受けて、1人傷心のままスペインへ旅立ち、その後5年間スペインでどんな女ともつき合わずひたすら仕事に熱中していたという話も、男の生理や心理をバカにしたもので、現実味ゼロの設定。
パンフレットによれば、蝶野博監督はこの映画が長編映画デビュー作だが、過去数多くの有名監督の助監督をつとめてきたとのこと。そんな人間の心理、男の本性を知り尽くしているはずの監督が、なぜこんな薄っぺらな男の設定を・・・?
<薄っぺらさ その3ー5年は長い、10年はもっと長い・・・>
11月4日に観た徐静蕾(シュー・ジンレイ)が主演・監督・脚本・製作した『見知らぬ女からの手紙』(04年)はすばらしい映画だった。この映画では、少女時代は別として、1937年の大学時代の徐静蕾と、それから8年後1945年の徐静蕾が登場し、同じ男と逢瀬を重ねるが、結局男は同じ女だと気づかないという設定。
それも少し無理があるかもしれないが、逆にこの映画では①1997年の学生時代にひょんなことでウエディングドレスを着て結婚式の真似事をしたさやかと慶太、②2002年に別の道に進み、別れることになったさやかと慶太、そして③2007年に日本で再会してホントの結婚式を挙げるさやかと慶太、という3つの時代のさやかと慶太の雰囲気が全く同じで、どこにも5年、10年の年輪を感じることができない。しかし、そりゃちょっとひどすぎるのでは・・・?大学を卒業して10年も経てば、男も女も大きく変わっているはず。少しはそういう点にも配慮してもらわなければ、映画としてあまりにも薄っぺらいのでは・・・?
<後半は「恋の叶う花火」が焦点だが・・・>
慶太との恋を棒に振ってまで慶太の夢を叶えさせようとしたさやかは今、雑誌『TICKLE』の編集長後藤大介(石黒賢)の指導(しごき)の下に奮闘中。目下の取材のターゲットは、「恋の叶う花火」の作り手として注目されている花火職人の井上拓己(原田泰造)だが、これが職人気質で無口で頑固。そして一切の取材お断り、ときたから大変。そこで、「将を射んとすれば、まず馬を射よ」のことわざどおり(?)、さやかが一人息子の光平(澁谷武尊)と接触し(?)、また妻の苑(西田尚美)に注目したのが大正解。
現実問題としては、ここまで徹底的な取材をして記事を書くことはありえず、あくまで映画の中だけの話だろうが、それでもさやかの頑張りはお見事。さらに、そんなさやかの努力によって、冷えきっていた井上の夫婦関係が元に戻ることになったのはケガの功名・・・?もっとも、「恋の叶う花火」という発想はいかにもミーハー的で、軽薄な女性週刊誌のネタとしてはピッタリだが、この映画の薄っぺらさにさらに一役買うことに・・・。
<10年後のどんでん返しは・・・?>
井上拓己の取材の成功によって「恋の叶う花火」は自分の力でつかみとらなければならないと覚ったさやかは、はじめて長期休暇の申し出をして一人バルセロナへ。それがどんな決意を胸に秘めた旅だったかは明らかだが、さやかが目の前にしたのは、慶太がかわいい子供を抱きながらスペイン人の女性とやさしく話し合っている姿。これにショックを受けたさやかは・・・?
この女性と子供は、慶太とさやかが卒業旅行の際に訪れたサグラダ・ファミリアで働いている唯一人の日本人彫刻家中島良郎(加藤雅也)の妻子だったのだが・・・。傷心のまま日本に戻ったさやかは、今日は横浜ベイクォーターでの花火大会に。花火職人井上拓己の一世一代の晴れ舞台だ。それを苑、光平と共に見守るさやかだが、そこにバルセロナから駆けつけてきたのは・・・?
さあ、いよいよこの映画が最初から想定していたハッピーエンドのシーンが登場!
<この曲にはやはりウエディングのシーンが・・・>
ドリカムの『未来予想図』『未来予想図Ⅱ』が結婚式の歌として今なお歌い継がれているのは、その歌詞のすばらしさ。したがって、この曲をモチーフとして映画をつくるのならやはりウエディングのシーンがピッタリ。
そこでこの映画では、冒頭の予行演習的結婚式(?)のシーンに始まり、ラストにはホンモノのウエディングのシーンが・・・。つまり、そういう映像で売ることが映画製作の最初から要請されているわけだ。するとそこに至る物語は・・・?その脚本は・・・?
これでは、私が最近よく言っている「映画は脚本がすべて」という考え方と逆行するつくり方にならざるをえなかったのは、ある意味当然かも・・・?
2007(平成19)年11月13日記