茶々─天涯の貴妃(おんな)(日本映画・2007年) |
<試写会・梅田ブルク7>
2007年12月14日鑑賞
2007年12月18日記
今年の東映の時代劇大作は、井上靖の名作『淀どの日記』から・・・。注目点は、元宝塚の男役トップスター和央ようかが、「信長の血を継ぎ、秀吉に深く愛され、家康に最も怖れられた女」茶々を演じたこと。宝塚調のセリフ回しと、アッと驚くカッコいい甲冑姿にはビックリだが、そこには奇妙な新鮮さも・・・。年末年始は、お馴染みの戦国絵巻を女の視点からじっくりと見直してみては・・・?
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監督:橋本一
原作:井上靖『淀どの日記』(角川文庫刊)
茶々/和央ようか
小督/寺島しのぶ
はつ/富田靖子
大蔵卿の局/高島礼子
北政所/余貴美子
お市/原田美枝子
徳川家康/中村獅童
豊臣秀吉/渡部篤郎
織田信長/松方弘樹(特別出演)
千姫(茶々の姪)/谷村美月
豊臣秀頼/中林大樹
2007年・日本映画・128分
配給/東映 宣伝/東映
<ラジオで聴いた『淀どの日記』>
森繁久彌と加藤道子の『日曜名作座』は、1957年から放送されてきたNHKラジオ第1放送の超長寿番組で、放送開始50年を迎えている。私は中学生の頃、これをよく聴いていたが、今でもよく覚えているのが井上靖の『淀どの日記』。尾張から近江の国の浅井長政に嫁いだ織田信長の妹お市の方は絶世の美女だし、浅井長政もとびきりの美男子。したがって、その2人の間に生まれた茶々、小督、はつの三姉妹が美女であったことはまちがいないうえ、とりわけ、長女の茶々は才気煥発な女性だったらしい。
「富を愛した靄齢」「国を愛した慶齢」「権力を愛した美齢」という『宋家の三姉妹』(97年)は、それぞれ近代中国の建国に大きな役割を果たしたが、浅井家の三姉妹、とくに茶々と小督は豊臣と徳川に分かれて、あの激動の時代の準主役を演じたわけだ。ラジオから聞こえてくる森繁久彌と加藤道子の語りに興奮しながら聴きいっていたあの時代を思い出しながら、私は試写会に向かうことに・・・。
<最大の注目は、和央ようか!>
『大奥』(06年)は仲間由紀恵という無難な主役だった(?)が、今回のあっと驚くキャストは、元宝塚歌劇団宙組の男役トップスター和央ようかが、初主演となる映画デビュー作で初の女性役に挑戦したこと。といっても、最近の宝塚歌劇団はわりと短期間でトップが交代するので、私には誰がトップと言われてもあまりピンとこない。また、和央ようかの名前は知っていても、顔と全然一致しなかった。
もともと時代劇では、化粧法と髪型が画一的である(?)ため、現代的美女は少し損をする面があるが、さてそんな和央ようかが演ずる茶々の魅力は・・・?
『武士の一分(いちぶん)』(06年)では、宝塚歌劇団の娘役であった檀れいがスクリーンデビューし、その後順調に育っているようだが、さて、初主演で初の女性役に挑戦した和央ようかの出来は・・・?宝塚調のセリフ回しには少し違和感もあるが、それがかえって新鮮な感じも・・・。
<和央ようかの甲冑姿にうっとり・・・?>
身長174センチメートルの男役トップスターの和央ようかに、凛々しい甲冑姿が似合うのは当然。したがって、橋本一監督は初の女性役として登場させながらも、そんな和央ようかの魅力を引き出さないのは宝のもちぐされと思ったのか、大坂城最後の戦いとなった「大坂夏の陣」では、真田幸村や後藤又兵衛らと作戦の打ち合わせをし、さらに城内の将兵を鼓舞、激励する、何ともカッコいい和央ようか演ずる甲冑姿の茶々が登場する。
ネット情報によれば、大坂の陣の際、茶々が秀頼を表に出さず、自ら兵士のところに赴き督戦したことに対する批判もあったと書かれていたから、この映像は必ずしも荒唐無稽なものではないらしい。しかし、これについては、映画は何でもありだから大賛成という人と、こりゃマンガか!と怒る人に賛否が極端に分かれるはず。私は本来からいえば反対派だが、さすが男役のトップスター!と感心するほどその姿がカッコいいから、「まあ、いいやん」といい加減な採点で賛成派・・・?
しばし現実を離れて、ありえない茶々のスクリーン上の甲冑姿にうっとりしてもいいのでは・・・?
<信長の血を継ぎ、秀吉に深く愛され、家康に最も怖れられた女>
この映画で展開されるストーリーはお馴染みの戦国絵巻と英雄伝説だが、その多くは男の視点から描かれてきたもの。ところが、この映画のユニークなところは、そんなお馴染みのストーリーを女の視点から描いているところ。
母お市の方(原田美枝子)は、浅井長政の妻としてのみならず、柴田勝家の妻としても落城の憂き目に遭う中、三姉妹に対して「あなたたちだけが、私の誇りなのです。生きるのです」と言い残して息絶えた後、天下人豊臣秀吉の考え方1つによって三姉妹の運命が分かれることになったのは当然。そこから展開される女のドラマがこの映画のテーマ。そして、その中心はもちろん茶々。
秀吉からどうしても世継ぎを産んでほしいと頼まれて側室となった茶々の誇り高き生きザマがこの映画のテーマ。「信長の血を継ぎ、秀吉に深く愛され、家康に最も怖れられた女」茶々は、これまでどちらかというと、知恵のないわがままな女として描かれ、そのため豊臣家をそして大坂城を滅ぼしてしまったというイメージが強いが、さてこの映画では・・・?
<女のドラマ その1─鶴松の死をめぐって・・・>
淀城に住んだため淀君と呼ばれた茶々と秀吉の正室北政所(余貴美子)との間の確執(対立?)は有名。また、この映画にみる茶々と秀吉の他の側室との確執ぶりも面白い。しかし、私はまず女のドラマその1として、鶴松をめぐる人間ドラマを紹介しておきたい。
鶴松は秀吉と茶々との間に生まれた待望の世継ぎだが、2歳の時突然死去。問題はそれが茶々が秀吉の陣中見舞いに来ていた時だったこと。すなわち、子煩悩な秀吉は茶々に対して、「子供を母親の手から離して大丈夫なのか?」と心配したのに対して、「大丈夫ですヨ」と答えていたところの訃報だったから大変。茶々は自分の母親としての自覚のなさを責め、一人寺にこもってしまったが、秀吉は「お前のせいだ」とひどく茶々を叱責し、2人の仲は最悪となっていた。
そこに登場したのが妹の小督(寺島しのぶ)。単身秀吉に面会を求めた小督は必死で姉の許しを乞い、仮に秀吉が欲するならば、姉の代わりに自分が世継ぎを産むとまでタンカを切って秀吉の前に身を投げ出したから、これにはさすがの秀吉もビックリ。これによって、やっと秀吉は茶々を許したため、その後第二子秀頼(中林大樹)を授かることになったのだから、秀吉は小督に感謝しなければ・・・。こんな悩ましい女のドラマを寺島しのぶがさすが熱演!
<女のドラマ その2─千姫脱出をめぐって>
千姫(谷村美月)は7歳の時に11歳の秀頼の妻となった小督の娘。この政略結婚は秀吉の意思だったが、それを強引に小督に納得させたのは茶々。その理想形は豊臣と徳川が主従の関係で仲良くやっていくことだったが、「もし豊臣と徳川が戦になったとしても、どちらかが生き残れば私たちの勝ち戦」というのが茶々の戦略。
しかし、関ヶ原の戦いを経て今は1615年の大坂夏の陣。豊臣と徳川の最後の決戦だが、大坂城の落城は目の前に。そんな時またも動いたのが小督。つまり、大坂城からの千姫脱出計画だ。これも歴史上有名な話だが、この映画のクライマックスである天守閣炎上のドラマと共に千姫の脱出をめぐる女のドラマが展開されるから、それに十分注目をしたい。後藤又兵衛も真田幸村も登場するが、この映画ではそれはあくまで茶々をひきたてる役割としてと割り切り、あくまで女の視点でこの映画の女のドラマを楽しみたいものだ。
2007(平成19)年12月18日記