暗殺・リトビネンコ事件(ロシア映画・2007年) |
<東映試写室>
2007年12月18日鑑賞
2007年12月19日記
元ロシア連邦保安局(FSB)のアレクサンドル・リトビネンコが亡命先のロンドンで死亡したのは2006年11月23日。その1年後、「プーチン院政」が現実化しようとしている今、すごいドキュメンタリー映画が登場!モスクワのアパート爆破はチェチェン人の犯行。そんなデマのうえに「テロリスト掃討」作戦が始まったが、さてその実態は・・・?「無関心」が大きな罪であることを自覚し、少しでもこんな映画から学ばなければ・・・。
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監督:アンドレイ・ネクラーソフ
字幕監修:田原総一朗
アレクサンドル・リトビネンコ(サーシャ)(元FSB(ロシア連邦保安局)中佐)
ウラジーミル・プーチン(ロシア連邦大統領)
ボリス・ベレゾフスキー(政治家、メディア有力者)
アンナ・ポリトコフスカヤ(ジャーナリスト)
アンドレイ・ルゴボイ(実業家、リトビネンコ殺害の容疑者)
ミハイル・トレパシキン(弁護士)
マリーナ・リトビネンコ(リトビネンコの妻)
2007年・ロシア映画・110分
配給/スローラーナー 宣伝/おふぃす風まかせ
<あれから1年、すごいドキュメンタリー映画が・・・>
「リトビネンコ事件」。といっても、それを知っている日本人は少ないはず。この映画の試写の案内を受けとった時そう思った私は、タイミングよく2007年12月5日付産経新聞朝刊に「リトビネンコ事件『大統領は知っていた』」という見出しの記事を発見してビックリ。
この記事によると、リトビネンコ事件は次のように要約されている。「プーチン政権を批判していたFSB元幹部、リトビネンコ氏が昨年11月、亡命先のロンドンで急に体調を崩して死亡。体内からポロニウム210が検出された。英検察当局は今年5月、ロンドンで氏と接触したKGB元職員ルゴボイ容疑者の犯行と断定。英政府が求めてきた身柄の引き渡しを、ロシア政府は拒否。両国とも7月に、相互に外交官4人を追放した」。
この記事は、冷戦期、英情報局秘密情報部(MI6)の二重スパイとなり、1985年に英国に亡命した元ソ連国家保安委員会(KGB)のロンドン支局長、ゴルジエフスキー氏とロンドン郊外の自宅で産経新聞の木村正人氏が会見しインタビューした結果をまとめたもの。ちなみに、映画にも登場する、英国が容疑者と断定したKGB出身のルゴボイ氏は、2007年12月2日の下院選挙で当選したとのこと。そんな生々しいすごい映画が、今登場!
<5年間にわたるインタビューだが・・・>
1958年生まれのアンドレイ・ネクラーソフ監督はドキュメンタリー映画づくりで有名で、この『暗殺・リトビネンコ事件』も第60回カンヌ国際映画祭に出品されたとのこと。映画の中で語られる監督自身のサンクトペテルブルクの州立演劇・映画研究院時代の様子は興味深いが、やはり若い時から個性と問題意識が際立っていたようで、体制ベッタリとはなれない性分だったようだ。
そんなネクラーソフ監督がリトビネンコと接触を試みたのは、チェチェン戦争の裏側にあるプーチン大統領とFSB(ロシア連邦保安局)の暗躍、政権の腐敗を告発したリトビネンコに強い興味と関心を抱いたため。やっとリトビネンコと接触することができたネクラーソフ監督は早速インタビューを開始したが、5年間にわたるインタビューが2006年11月23日のリトビネンコの死亡によって終了することになろうとは・・・。
<あの女性ジャーナリストも・・・>
アンドレイ・ネクラーソフ監督はアンナ・ポリトコフスカヤにもインタビューしている。彼女はチェチェンの戦争犯罪を告発し、報道してきた女性ジャーナリスト。彼女の発言は、「劇場占拠事件の犯人の1人が/今プーチン政権で働いているの」「世間は無関心/あの悲惨なテロがヤラセだったのに・・・」と明確だし、「こう思ってる“好きに書くがいい”“必要なら消すが今は生かしといてやる”」などと過激なものだった。
そのポリトコフスカヤは2006年10月7日、自宅のアパートで何者かに銃殺されることに・・・。
<プーチン「首相」をどう評価・・・?>
大統領の任期が2期8年で切れるプーチン大統領は、次期大統領として腹心のメドベージェフ第1副首相を指名し、メドベージェフはプーチンを首相に任命する方針を明らかにした。これによってプーチン政権は形の上ではメドベージェフ政権に変わるわけだが、「プーチン独裁」の実態は何ら変わりがないようだ。12月19日付産経新聞朝刊には「プーチン院政」「ロシア版『鄧小平』目指すのか」との記事が一面を躍ったほどだ。
プーチン政権の支持が高かったのは、豊かなロシア、強いロシアを掲げたプーチンの政策が国民、とりわけ若者たちに受け入れられたため。ロシアの経済成長は目ざましく、日本からの投資熱もさかんだが、さてその裏側は・・・?
この映画に描かれていることをどこまで真実と考えるか、またそれを操っているFSBや政権のトップにあるプーチン大統領をどう評価するのかは、きちんと勉強しなければならないテーマ。日本人にとって話題になりにくいそんなテーマについて、この映画が教えてくれることは大きいから、しっかり勉強しなければ・・・。
<アンドレイ・ネクラーソフ監督は大丈夫・・・?>
ソ連邦の解体を目前にひかえた1991年11月、チェチェン共和国が独立を宣言したため、エリツィン大統領が連邦軍をチェチェンに侵攻させたのが第1次チェチェン戦争。1996年に休戦が成立したが、1999年にモスクワで続発したアパート爆発事件について、ロシア政府はこれがチェチェン人の犯行と断定し、「テロリスト掃討」のためソ連軍は再びチェチェンに侵攻し、戦争は泥沼化している。
こんなチェチェン戦争をテーマとして、ネクラーソフ監督は女性ジャーナリストのポリトコフスカヤやFSBの犯罪を内部告発したリトビネンコに直接インタビュー取材をすることによって衝撃的なドキュメンタリー映画を完成させたわけだ。しかし、FSBやプーチン政権にとって、こんな映画が公開されることがマイナスポイントになるのは当然。「たいした影響力はないから放っておけ」となれば大丈夫だが、「この監督はけしからん!」とにらまれることになり、ブラックリスト(暗殺リスト?)にネクラーソフ監督の名前が載ることになれば大変・・・。
ノー天気で平和な国ニッポンでは到底考えられないことが現実に起こるロシアのこと。ネクラーソフ監督はホントに大丈夫・・・?近い将来、ネクラーソフ監督拘束とか、ネクラーソフ監督死亡とかの記事は絶対見たくないが・・・。
2007(平成19)年12月19日記